「Dr.パルナサスの鏡 」 (THE IMAGINARIUM OF DOCTOR PARNASSUS)

~Dr.ギリアムの幻想館~
2009年 英/カナダ テリー・ギリアム監督



殊更にヒース・レジャーの遺作だからという思い入れがあったわけではなかったのだけど、ちらっと見かけたトレーラーに何となく引っ張られるものを感じたので、あちこちで上映しているけれど、一番行き易い六本木ヒルズTOHOシネマズにて観賞。

こういう映画は理屈じゃないので、映画館のシートに座ってスクリーンに展開されるテリー・ギリアムのイマジナリウムをそのまま楽しむ作品、という感じだと思う。
いつからどうしてだか分からないが、この手の映画でこういう爺さんを演じる事が多くなった気がするクリストファー・プラマーがタイトルロールのDr.パルナサス。最初は誰だか分らなかったが、その巨大な鼻を観ているうちに、もしやプラマーさんかしら?と思ったらやはりプラマーさんであった。随分爺さんになったもんである。

ロンドンの夜の路上に忽然と現れる馬に挽かれた見世物小屋。ギリアムさん、自分の好きな世界を思うさま展開しているといった感じである。(「バロン」や「モンティ・パイソン」に通じるニオイもあちこちに感じられる)そのいかにもな妖しい見世物小屋のフゼイや、舞台装置や登場してくる前説や踊り子などをみていると、何となく2年前にシネマライズで見た「非現実の王国で ヘンリー・ダーガーの謎」を思い出した。Dr.パルナサスの見世物小屋の舞台や舞台上に現れる人物が、ヘンリー・ダーガーの描く物語世界と近いニオイがぷんぷんする。


非現実の王国で

梗概は、2007年、ロンドン。パルナサス博士率いる旅芸人一座がやって来る。出し物は、心の中の欲望を鏡の向こうの世界に創り出す摩訶不思議な装置“イマジナリウム”。しかし、怪しげな装置に誰も興味を示さない。そんな中、何かに怯えているパルナサス博士。彼は、かつて悪魔のMr.ニックと契約を交わし、不死と若さを得る代わりに生まれてくる娘が16歳になったらMr.ニックに差し出すと約束してしまったのだ。そして、その期限である娘ヴァレンティナの16歳の誕生日が目前に迫っていた。一方、何も知らないヴァレンティナは、偶然救い出した記憶喪失の男トニーに心奪われる。トニーは一座に加わり、彼の魅力で女性客が増え始めるが…。(all cinema onlineより)

いやいやながらオヤジの見世物小屋を手伝っている博士の娘ヴァレンティーナにリリー・コール。
最初に観たときはデヴォン青木かと思った。
そして、橋の下で首を吊られた男トニーとしてヒース・レジャー登場。うーむ、吊られた男としての登場であるか…。月並みな感慨ではあるけれど、こうして彼の姿をスクリーンで観ると、もうこの世にない人だという気がしない。けっこう肉付きもいいし元気そうなのにねぇ…。映画というのはまさにイマジナリウムだ。既にこの世にない人の新作をこうして見ることができる。それこそがDr.パルナサスからの観客への最大の贈り物かもしれない。



彼の生前にどの程度まで撮影が済んでいたのか分からないけれど、完成した作品をみると鏡の向こうのイマジネーションの世界に入ったトニーをジョニー・デップジュード・ロウコリン・ファレルが演じわけ、鏡のこちらの現実世界のトニーは一貫してヒースが演じている。一応、現実世界でのシーンは撮りおえてあったのか、彼で撮ったシーンを元に脚本を再構成したのかわからないが、とにかく、それなりにちゃんと繋がっていて、約束事として違和感なくイマジナリウムに入るたびに顔の変わるトニーと、現実世界のトニーの整合性がとれている。


金持ちのおばちゃんをたらし込むジョニデのトニー

そして意外だったのはジョニー・デップを中にして、ヒースのピンチヒッターを務めた3人の俳優が妙に似ているように見えた事である。ジュード・ロウコリン・ファレルは似ていないが、間にジョニデを置くと印象が均一化する。それまでは一度も似ていると思ったことのないジョニデとジュードが、同じ衣装で同じヘアスタイル、同じようなメイクをすると意外に似て見えるのに驚いた。そしてジョニデとコリン・ファレルはちらっとラテン系のニオイのするところが似ていなくもない。そんなわけで何の脈絡もなさそうな三人はうっすらと印象が繋がるのである。鏡の外にいるトニー=ヒース・レジャーだけは誰にも似ていない。截然として、一人独自性を保っている。それもまた、ありようとして正しいという気がする。鏡の外のヒースは誰にも似ていなくていいのだ。
ヒースはヒースであればいいのである。


案外ジョニデと似ている印象だったジュード・ロウのトニー


他の二人とは似ていないが、ジョニデとは微かに似て蝶な気配のあるコリン・ファレル

ワタシはCGを多用した作品が余り好きではない。殊に全編CGなんていう作品はどうしても好きになれない。「カール爺さんの空飛ぶ家」というピクサー映画も割に評判が良かったので一応昨年末に観たのだけど、観おわった後「ふぅん」という他に何も感想が浮かんでこなかった。どうもCGで作り上げた画面の質感というものに違和感を感じてしまうタチらしい。でも、この「Dr.パルナサスの鏡」に関してはCGで構築した世界に特に違和感を感じなかった。CGを使わなければイマジナリウムの世界など表現しようもないでしょうしねぇ。
それゆえ、どちらかというと今回はCG世界を微笑ましく観賞した。

悪魔であるMr.ニック(トム・ウェイツ)とDr.パルナサスとの関係性も微笑ましかった。Dr.パルナサスに友情に近いものを感じているMr.ニックは、彼にこの世を去ってほしくない。こづきまわしたり、からかったりしつつ、彼を構い、ずっとまつわりついていきたいのである。だから勝負だの賭けだのとふっかけつつもDr.パルナサスをけして離さない。何があっても彼を生きながらえさせてしまうのである。



ヒースが最後までちゃんと撮り終えられた場合と、現在こうして完成した作品とはどこがどういう風に違うのか、さして違わないのか、今となっては知りようもないけれど、とにもかくにもヒースの為に、誰よりテリー・ギリアムのために、作品が完成して公開に漕ぎつけた事は何よりだったなぁとしみじみ思った。
そして、生き生きと元気に動いて表情豊かにセリフをしゃべっているヒース・レジャーの姿を目の当たりにして、その時焼き付けられた映像は何年たとうと、何があろうと、そのままに再現される映画こそ、まさに生死の境を越えて各人各様のイマジネーションを抱ける究極のイマジナリウムだなぁ、と改めて再認識したことだった。

コメント

  • 2010/02/10 (Wed) 12:57
    同感!

    あはは! 私もkikiさんと全く同じこと書いてました。
    デヴォン・青木って(笑)。デヴォンは半分日本人だから
    もっと薄味だけど、このリリー・コールは濃かったな~。
    ジャガイモのような顔にあの体型!なんかこう日本では
    絶対現れない規格外のスケールというかバランスというか・・・。
    私、けっこう彼女気に入りました。演技も上手かったし。
    それから、ヒースと鏡の中の3人、不思議とちゃんとつながってましたよね~。
    でも、kikiさんが書いてる通り、ヒースだけは似てない・・・って当ってると思う。
    しかし、ショッキングな登場シーンでした。私もCGは苦手だけど、
    こういう使い方ならいいかな・・・と。

  • 2010/02/11 (Thu) 09:08

    acineさんもデヴォン・青木と思った?なんか似てるよね、あのウチワみたいな丸い顔とスレンダーな体つき。で、気に入ったのね~リリー・コール。確かにacineさんが気に入りそうな感じもあるかも。そして、ほんと不思議に繋がってたよね、ヒースと3人の代役。というか、どうにかそこを繋げて公開に漕ぎ着けなきゃ!ってところだけに焦点が合っちゃってて、それ以上でもそれ以下でもない作品になっちゃったというキライもあるかも。まぁ、お蔵入りにならずに済んだだけ頑張った甲斐はあったのかも、よね~。

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