「レス・ザン・ゼロ」 (LESS THAN ZERO)

~弱さという泥沼~
1987年 米 マレク・カニエフスカ監督



タイトルだけは知っていたが、つい最近まで一度も観た事はなかった作品。
80年代の青春スターというのは、ワタシにとっては魅力に乏しい俳優ばかりでいずれにもあまり興味が湧かなかった。アンドリュー・マッカーシーってどんな顔をしてたんだっけ?という感じで漠然と眺めていたら、若い若いロバート・ダウニーJrだの、若い頃から毒ダミのような役をやらすと存在感の光るジェームズ・スペイダーらがわらわらと登場して、ほほぉ、とちゃんと観る気になった。よくあるブラットパック物だろうと思っていたのだけど、次第にロバート・ダウニーJrの痛々しさから目が離せなくなった。
…そうか、こういう映画だったのね。

ロバート・ダウニー・Jrというのは、ワタシにとっては興味の対象外の俳優で、昔の出演作品で覚えているのはチャップリンの伝記映画「チャーリー」ぐらいだったのだが、何かクスリにハマってゴタゴタしていたというのは聞いた事があった。それでスッタモンダしていた割には、数年前にクスリを抜いてからやたら売れっ子になり、続々と話題作に引っ張りダコ状態なれども、何がそんなに良いのかしらん、よく使われるわね?、とかなり距離をおいて眺めていた。
けれどもこの作品を観て、初めてロバート・ダウニーJrの良さが少し分った気がした。目立つ儲け役には違いないが、誰がやってもここまで痛々しい感じが出るとは思われない。彼を凌駕する痛々しさや、甘さや、絶望感を出せるのは、多分ジェイク・ギレンホールぐらいに違いない。



お話の舞台は西海岸。それぞれリッチな家に生まれた高校の仲良し三人組クレイ(マッカーシー)、ジュリアン(ダウニーJr)、ブレア(ジェイミー・ガーツ)だが、富裕に育っても家庭には大なり小なり問題がある環境だ。高校を卒業し、ジュリアンを除く二人は大学に進学を決めるが、ブレアは入学までの間にモデル業を始めて大学に行く気がなくなる。そうこうするうちクレイの留守にジュリアンとブレアは懇ろになってしまう。一人東部に旅立ったクレイだが、クリスマス休暇で久々に戻ると、西海岸に残った二人はジャンキーになっており、殊に何をやってもうまく行かないジュリアンの荒廃は目を覆うばかりだった。家を叩き出された上に多額の借金に追われるジュリアンに手を差し伸べるクレイだが…。


アンドリュー・マッカーシー そういえば「マネキン」とかにも出ていたっけ

というわけで、お勉強も出来る優等生のおぼっちまという感じのクレイを演じるアンドリュー・マッカーシーもハマリ役だし、金持ちの悪ボンという感じのリップを演じるジェームズ・スペイダーがこれまたハマリ役。何をやってもダメなジュリアン(ダウニーJr)と違って非合法な事業に才覚のある男で、まだ若いのにワイルド・パーティを主催し、ドラッグを手がけ、売春斡旋などのヤバイ事に手を染めてそれなりに儲けている。高校時代の級友を借金で縛って遣り手婆のように客を取らせる蛇のような男である。まだお若いのにシタタカ者ね、あなたったら。
このジェームズ・スペイダーのケチな魔王っぷりもなかなか印象深い。妙に整った顔にひんやりとした感情のない目つきと、ブロンドのオールバックが役柄に合っている。


ケチな魔王っぷりが非常に板についていたジェームズ・スペイダー

ロバート・ダウニーJrの大活躍に比べると、最近はジェームズ・スペイダーアンドリュー・マッカーシーもとんとお噂を耳にしないが、ドラマにはコンスタントに出演しているらしい。映画に出ないからといって仕事をしていないわけではないのだ。映画で見かけない人はドラマに出て健在なのだと思っていれば間違いないかもしれない。

男優たちがそれぞれにハマリ役なのに比べると、紅一点で二人の男の間を揺れ動くブレアを演じるジェイミー・ガーツは甚だ魅力に乏しい。モデル役を振られるだけあってプロポーションはいいのだが、ただそれだけである。まぁ、この映画ではそれだけでいいような役でもあるので、邪魔にならない程度に存在していればいいのだが、こんな女優が居た事すら、とんと記憶になかった。彼女に魅力がないために、ジュリアンのせいでヒビの入っていたブレアとクレイがヨリを戻すというサイドストーリーや、二人のラブシーンなどはまるごと無くても差し支えないほどにどうでもいい感じだった。
ただ、ズタボロになったジュリアンとの対比で、同じくクスリにハマっていても、ブレアは「やめようと思えばやめられる」状態であり、やめようと思ってもどうにもならないジュリアンとは、泥沼の程度が違い、それがより一層、若い身空で無為に人生を費消してしまうジュリアンの無残さを際立たせてもいる。(花の都に身を拗ねて 若い命を散らすやら…)ブレアの泥沼が浅いのは、モデルとしてそれなりに仕事が軌道に乗っているからだろう。歯車が少しズレたら彼女とても板子一枚下は地獄であることに変りはない。


80年代は、こんなビッグショルダーの服が流行った 80年代の服って妙にダサい

それにしても、クスリの禁断症状に苦しむジュリアンを演じるダウニーJrは真に迫っている。素でしょ、素!と言いたくなるほど、その凄愴っぷりは板についていた。実体験を元にしたメソッド演技というやつだろうか。
幼くして母に死に別れ、寂しい子供時代を送ったジュリアン。勉強も嫌いだし、事業を始めて父になんとか自分を認めてもらおうとするのだが、気持ちばかりで能力や才覚がついていかない。失敗した挙句にクスリにハマり、家を追い出され、借金に追い詰められて、助けてくれとすがりに来る息子に金持ちの父は非常に冷たいが、この父が最初からそういう風ではなかった事も描かれている。意志が弱く、巧くいかない事や、何をやってもダメな自分を忘れるために麻薬に逃げる息子ゆえ、甘やかすと余計ロクな事にはなるまいと父親が思うのも仕方が無いかもしれない。まぁ、それだけ、それまでのジュリアンのジャンキーぶりが甚だしかった、という事なんでしょうけれど、お金だけ腐るほどあっても幸せとは縁遠くなるばかりだな、と毎度こういう映画を観るたびに思う。金があればあるほど親子の間でも人間関係は希薄になる。そして、人間を内側から蝕む“弱さ”。ジュリアンは人として弱い。似たような環境に生まれ育っても、誰もが彼のようにグダグダになるわけではない。
問題は麻薬ではない。内なる弱さが彼から全てを奪っていくのである。


クスリをむさぼるジュリアン 鬼気迫るダウニーJr

しかし、ジュリアンは何と言うあっという間の転落と荒廃だろうか。高校を出てから何年後の話なのかハッキリしないが、多分1?2年程度しか経ってはいないだろう。父親との約束で、クスリを断ち、厚生施設に入る事を決意するジュリアンだが、無論メフィスト・リップ(スペイダー)がそれを許す筈もない。金とクスリで縛ったかつての級友に男娼の真似をさせるヤサ男の魔王リップ。惨めな獲物はとことん追い込んで骨までしゃぶるのだ。


憐れな獲物をいたぶるリップ イヨっ!魔王

男相手に売春させられているジュリアンをジャーンと助け出しに行くクレイ。半裸で助け出される徹頭徹尾情けないジュリアン。徹頭徹尾情けない奴だけれど、放っておけないという感じをロバート・ダウニーJrがよく出している。このテの、人としての脆弱性が致命傷となってしまう自己破滅型の若者像では、「欲望の翼」のレスリー・チャンの次にインパクトがあった。

1時間半程度の短い映画だが、キャストもそれぞれはまっており、唐突で悲劇的なラストまで気分が滞らずに観られる。音楽に衣装、帰郷したクレイの目にちらっと映るハードロック・カフェなど、全編にまぶされている80年代の空気も脇役のようにストーリーを彩っている。

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