愁わしの一族



どういうものか、ワタシは昔から目元や雰囲気に哀愁の漂っている男が好きだ。
20代の頃、どういうタイプが好きなの?などと聞かれて、「肩先や目元に哀愁の漂う人かな」と答えたら「エエ!なに?その哀愁って!」などとのけぞられた事があった。「哀愁」について、「元気がない」だの「ウシロムキ」だのとしか捉えない人種というものが、世間にはけっこう多いのだなと認識した。それ以来、ニュアンスが伝わらなさそうな相手にはその場限り適当に口からでまかせなタイプを言い続けてきているが、昔から、ワタシの基本的な好みは殆ど変わっていない。それは大別して哀愁系と男くさ系とに分れる。
今回はそのうちの哀愁系の核を構成する「愁わしの一族」について。

ワタシは、好みの哀愁系の男たちを「愁わしの一族」と名づけて特に珍重している。
何度も書いて恐縮だけれど、哀愁系を好むワタシの琴線に最初に触れてきた俳優といえば佐田啓二である。憂わし系元祖とも言える。初めて彼を観たのがいつだったのかとつらつら思い出すに、多分小学校の頃(不思議だけれど、後々までずっとコアに好きであり続けるものの大半は小学校5年生位までに出会っている)、誰に示唆されたわけでもないのになぜか懐メロ好きな奇妙な子供だったワタシは、盆と暮れに今も放送している東京12チャンネルの「日本の歌」という懐メロ番組が大好きで必ず見ていた。そこに織井茂子が登場して「君の名は」を歌った時、間奏の部分に映画のシーンが短く編集されてフラッシュのように流れた。そこでワタシは、どこかの雪降る駅頭で涙ながらに汽車で去っていく真知子を、コートの襟を立てて一人寂しく見送る春樹=佐田啓二の姿を見てしまったのだった。


真知子さん…

佐田啓二はハンサムであるが、ハンサムであること以上にワタシが強く反応したのは彼をすっぽりと覆っている愁いの翳だった。これがもしも、ニコニコ笑ってテニスなんかしているシーンだったら記憶に残ったかどうか分からないのだが、北風の吹きすさぶ中、前髪を風に乱して、ホームを出ていく汽車を世にも切なそうに見送るその姿や眼差しにぐわっしと掴まれ、「あの人は誰~」と母に聞いた。10歳か11歳あたりの頃だと思う。

その後、哀愁系は佐田啓二に継ぐ人材も出ないままに十数年の歳月が過ぎた頃、突如激しくビビビ!と来た哀愁系の後継者がトニー・レオンだった。「恋する惑星」ではさして来なかったのだけど(なに~あのダサイ白いパンツは、と思っていた)、「ブエノスアイレス」で、それこそズッガーンと来た。この映画でのトニーは遣る瀬なさが服を着て歩いているといった風情で、どのシーンでもワタシの哀愁系のツボを直撃してきた。トニーには「ブエノスアイレス」ですっかり落とされてしまった。続く「花様年華」も哀愁系としてはナカナカのありようだったのだけど、映画の出来としては「ブエノスアイレス」の方が良いし、トニーの、見ているだけでこっちが切なくなってしまうような風情も、やはり「ブエノスアイレス」の方が上回っていたように思う。この映画での彼は、いつも薄青いトーンがかかったように哀しげで、地球の裏側まで来て不毛な愛に疲れ果て、やりきれなさを抱えたまま彷徨っている姿が何とも言えなかった。
他にも哀愁をびゅうびゅうと放っている作品があるのかもしれないけれど、トニーについてはウォン・カーウァイ作品がメインで、その他の香港製の作品をあまり観ていないのでそちらについては語れないワタシ。
あまり食指が動かないというのも事実なのだけど、一応「インファナル・アフェア」は観ている。


いつ見ても寂しげで切なそうだったトニー

その後、更にまた十年近い歳月が流れたあとで、突如ワタシの心を鷲掴んだ哀愁系の新星がジェイク・ギレンホールである。あの「ブロークバック・マウンテン」で、彼はワタシの哀愁系のツボをこれでもかと連打した。相棒のヒース・レジャーもぶっきらぼうな哀しみを湛えていて良かったのだけれど、とにもかくにも、俯き加減の、濃い睫を伏せたジェイク・ギレンホールにはやられた。「ブロークバック・マウンテン」に限らず、普段は陽気で笑顔の似合う彼が折々放つ、あの愁わしい眼差しは何であろうか。ゆえなき愁いというやつであろうか。
どことなく物言いたげに、そこはかとなく愁いのにじんだ青い瞳がワタシを強く惹きつけるのである。


ゆえなくして哀愁の漂う青い瞳 生得の持ち味なのだろう


なにげない瞬間にもふっと目元にきざす愁いの翳

この愁わしい青い瞳の甘いマスク(ちょっと濃いけど)にかてて加えて、彼にはマッスルなボディという強力な武器がある。間断なく鍛えているのか、年々歳々厚みを増しているその筋肉は重層的でかなりの量感がある。ワタシの中の筋肉番付においては、ジェリー・バトラーやダニエル・クレイグらの筋肉アニキたちを抜いて、いまや堂々のマッスルNo.1、筋肉王子と言ってもいい見応えのある体を造り上げている点でもポイントが高い。(お腹ブルブルさせてる場合じゃないわよ、Mr.G!)脱がなくても勝負できるが、脱いだら脱いだでまたスゴい、というのは最強である。今年は久々に彼の新作が2本は観られそうなので、昨年は潜行せざるを得なかったワタシのギレンホリック(ジレンホリック)度も、また勢いを増している。今年もワタシのハートを存分に鷲掴んでいただけるであろう、ととても楽しみである。


鍛えてるねぇ… イヨっ!筋肉王子!!

哀愁が漂うといえば、ガブリエル・バーンなどもその系統。この人には「ミラーズ・クロッシング」でハマッた。持ち味の哀愁を覆うセクシーさという点で特筆ものの「シエスタ」も再見してみたいと思っているのだけど、昨今なかなか見当たらないのが残念。自分が特訓して殺人マシンに仕立てた不良少女をじっと見守る「アサシン」も良かった。愁わしいキャラではなかったけれど「ユージュアル・サスペクツ」も忘れ難い。最初にロンドン旅行に行った時、ちょうど「ユージュアル・サスペクツ」が公開中で、観ようかどうしようかと思ったのだけど、きっと半分もセリフが聞き取れないだろうので、先走って観るのを断念したのも懐かしい思い出だ。



その他、そこはかとなく哀愁を漂わせる俳優としてはマシュー・マクファーディンもいる。ワタシは特に彼のファンというわけでもないのだけど、のそーっとした大きな体に童顔とも言える顔立ち、そして青い瞳のなんとはない愁いもなかなか味わいがある。この人は低い落ち着いた声と、綺麗なイギリス発音の英語が特徴。当ブログにはあまり彼の記事はないのだけど、それでも「マシュー・マクファーディン」で検索して来られる方もわりにいらっしゃるので、そのうち、彼の出演作でよさげなものを見たらレビューを書こうとは思っている。


この人もそこはかとなく哀愁をまとっているタイプ

こう見てくると、海の向こうではけっこう哀愁系は排出されているが、日本では佐田啓二以降、これという人が出てきていない気がする。(居るのかもしれないけれど、ワタシが気づいていないだけ~う~ん、でも見当たらないわ…西島秀俊あたりはちらっと哀愁系ではあるが、微妙に違う気もするし…)というわけで、哀愁系っていうのはそんじょそこらにワンサカとはいない稀少な種族である。稀少性ゆえにますます愛着が増してしまうのも「愁わしの一族」の特性なのである。

コメント

  • 2010/02/03 (Wed) 00:19

    「目元や雰囲気に哀愁」と言って真っ先に思い出すのはトニー・レオンでした。私は最初に観たトニー・レオンの作品が「恋する惑星」で、ブリーフ姿で自分から去っていた彼女のことを思ってウツウツとしている姿にキューンと来たのですが、kikiさんはブリーフNGだったのですね。
    あと哀愁系といえば森雅之でしょうか(と、いいつつまだまだ観ねばいけない作品を放置してますが・・・)。トニー・レオンと森雅之はどことなく雰囲気が似てる(どちらもさほど背が高くなく、ポマードをつけたオールバックが似合い、アジア人には珍しくタキシードもイケる)なあ、だから2人とも好きなのかなあ、なんて思います。

  • 2010/02/03 (Wed) 21:23

    あらまあ!!(すいません、近所のおばさんみたいになってる?)こんなところにマシューが出現するとは思いもせず最後まで読んでよかったですわ。うれしいなあ。マシューの哀愁ねえ、確かにありますね。私のツボはそこにはなさそうな気はするが。
    佐田啓二とトニー・レオンって少しかぶりますよね、やっぱりこれも哀愁なのかしら。それにしても昔の日本人男優って今の男優と比べ物にならないハンサムぶり(と思うのは私だけ?)。洋服、身のこなし、顔、とどれをとっても随分昔に比べたら今はカジュアル全盛になってしまっているから致し方ないのかな。

  • 2010/02/03 (Wed) 22:37

    yukazoさん。森雅之お好きですのねん。ワタシも嫌いじゃないけど、ワタシの中では彼は“哀愁系”とは別のカテゴリに入ってるんですのよね。「哀愁」というより「デカダン」なムードかな。でも、言われてみると確かに彼も目元や雰囲気に愁いの漂う男、でもありまするね。
    で、トニー。ワタシも多分「恋する惑星」がちゃんとトニーを観た最初だと思います。でも、その時は目元にちょろっと哀愁があるのねん、と思ったけど、ぐぐっと来るほどの雰囲気は感じなかったんですわね。あのグンゼみたいなBVDみたいな古典的な下着が災いしたか(笑)yukazoさんは、トニーと森雅之が似ている感じがするんですのね。ワタシは、トニーと佐田啓二が似ている気がしてるんです。森雅之は、体格は別としてジェレミー・アイアンズあたりと近いニオイを感じます。人によって感じ方はそれぞれ違って面白いもんですわね。ふほ。

  • 2010/02/03 (Wed) 22:45

    Sophieさんのツボは違うところなのねん。勝手に哀愁系にカテゴライズして申し訳なし~。ワタシは、特にファンというわけではないマシューについて好ましいと思うところは、あの低い声と話し方と目元にいつも漠然と漂っている哀愁なんですのよね。(笑)あなたのツボってどのへんにあるのかすぃらんらん。
    トニーと佐田啓二が被るのは目元の哀愁じゃないかしらん。鼻の三角錐っぽい感じも似てるかも。口元も似てる気がする。で、結局なんとなく似てるのねん。(笑)佐田啓二もただ甘いだけの二枚目じゃないですからな。昔の俳優はみんな、有名になっている人はそれだけ普通の人とは全然違うオーラをバリバリ出してますわね。今に比べたら背は低いけど、みんなそれぞれ雰囲気があっていい男っぷりよね。

  • 2010/02/04 (Thu) 13:09
    初コメントです

    お邪魔します。トニー・レオン、佐田啓ニ、森雅之、の話題と来たら、お邪魔せずにいられなくなりました。ジェイクも好きなのですが、哀愁系とはあまり思わなくて。哀愁系にレイフ・ファインズが並ばないのは、もしかして、デカダン寄りだからでしょうか?kikiさんのレイフの位置づけがお聞きしたくて。

  • 2010/02/04 (Thu) 19:47

    哀愁と言えばトニー、トニーと言えば哀愁です!!私も10代の頃から哀愁漂う人にハートを鷲摑みされ続けて今に至ってます。更に10代の頃は「退廃」というのも重要な要素でした。テレビやスクリーンの中には「退廃」を感じさせる人は見当たらなかったけど、居たんですよ、近所の喫茶店に!退廃の匂いをプンプンさせながらコーヒー淹れていたんです。高校生だった私はもう、メロメロ。でも当然お子ちゃまは相手にされず・・・懐かしいなあ。話が思わず逸れましたが、kikiさんと違ってトニー以降、哀愁系の好ましい人は現れていません。「インファナルアフェア」は駄目ですか?私、好きなんですが・・・
    それにしても、「脱がなくても勝負できるが、脱いだら脱いだでまた凄い」って良い表現ですね。まさしく同感です。

  • 2010/02/05 (Fri) 01:43

    mizuさん、初コメント、ありがとうございます。レイフ・ファインズ、確かに哀愁系のカテゴリに入れてもおかしくはないんですが、ひと口に哀愁というよりも、この人には(誤解を恐れずに言うならば)上品な隠微さとでもいうムードが強くまつわっていて、「かすかに隠微な空気をにじませる翳りのある男」というイメージですね。このタイプにはダニエル・デイ=ルイスなんかも分類されております。この人たちの翳りは必ずしも哀愁とは限らない、という感じなんですね。それで、「哀愁系」というとパっと脳裏に浮かぶワタシの“一族”とはちょっと別になっているという感じでしょうか。大枠で哀愁系に分類してもOKなんですけれど、なんとなく。ふほ。

  • 2010/02/05 (Fri) 01:44

    Rikoさん、哀愁系お好きですのねん。やったぁ~、ナ・カ・マ! 「頽廃」もお好きだなんて、なかなかキテますね。ふふふ。なんかこう、あんまりどっぷり沈んでいるのもどうかと思うけれど、そこはかとない愁いの影、というのは惹きつけられますわねぇ、グイグイと。現在において、哀愁系の最右翼はといえばやはりトニーでしょうね。「インファナル・アフェア」は嫌いじゃないんですが世間で絶賛されているほどには作品自体もトニーもそう良いと思えなくて…(単に好みの問題ですわ、申し訳なし)。今はまだ若いけど、ジェイキーもきっとグイグイきますわよ。彼に愁いの影がなかったら、ワタシが彼に関心を持つことはなかったでしょう。Rikoさん、ジェイキーにもいまに来ますよ。何しろ脱いでもスゴイんですから。ふほふほ。

  • 2010/02/05 (Fri) 21:02
    納得

    「かすかに隠微な空気をにじませる翳りのある男」というコメント、すっきり納得です!ダニエル・クレイグも「氷の家」というTVドラマ(たまたま観て、惹きつけられました!)では、この範疇でしたよ。いまのダニエルも大好きですけれど。

  • 2010/02/06 (Sat) 00:23

    mizuさん、すっきり納得していただけて何よりです。そういえば「氷の家」のダニエルは家庭不和を抱えてちょっとフテた感じの若い刑事でしたっけね。確かにダニエルも時折ちょろっと哀愁系にまたがってますわね。

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