ますらをの一族



さてさて、そこはかとなく哀愁を漂わせる「愁わしの一族」と並んで、ワタシが愛好するのは男くさい魅力を振りまく「ますらおの一族」である。ただ男臭いだけではなく、彼らはギラギラとした野性味と同時に繊細な内面性をふとした拍子にちらっと覗かせるのが真骨頂。「愁わし」と「ますらを」のいずれにも属さないけれど好ましい俳優というのももちろんけっこう居るが、ワタシがどうしても惹きつけられてしまう男は、概ねどちらかに属しているように思う。というわけで今回は「ますらをの一族」について。

ワタシが愛する「ますらをの一族」は、まず、敏ちゃんこと三船敏郎をもって嚆矢とする。
これも何度も書いているけれど、彼の映画を観たのは「用心棒」が最初だった。子供の頃にNHKで放映されたものを観たのだと思う。その後、80年代に黒澤明がルーカスやスピルバーグ、コッポラの支援で復活し、更に89年に米アカデミー賞名誉賞を貰ったことで、2段階に黒澤ブームが到来し、BSあたりで続々黒澤作品が放映された。ワタシはその80年代に「用心棒」以外の黒澤作品における敏ちゃんを殆ど観たのだった。特に印象に残ったのが焼け跡の東京を手負いでさすらう若い獣のような、結核のヤクザを演じた「酔いどれ天使」で、その前髪をパラリと垂らした苦みばしった男前っぷりと、戦後すぐの日本人とは思われない厚い胸板に、筋肉のついた太い腕、ストライプの入った白いスーツを着こなし、ナイトクラブでジルバを踊る姿に驚愕し、粋がっていた時期を経て病に侵された挙句に抗争の中でボロ雑巾のように死んでいく姿に鷲掴まれた。


「酔いどれ天使」の敏ちゃん …ふぅぅ


その時からワタシの「敏ちゃんLOVE」状態は本格的に始まり、続く「羅生門」観賞で決定的になった。この映画の敏ちゃんはとにかくセクシーである。豹とかピューマといった系統の獣のフェロモンを振り捲いている。ちなみに「七人の侍」の菊千代はよく吼える中型犬といった感じ。羅生門の多襄丸は、愛嬌のある点は菊千代と同じでも、もっと不敵でふてぶてしく、性格に裏がありそうな面も直情径行の菊千代より陰影があってワタシ的には好ましかった。それより何より、冒頭、木陰で昼寝をしていて、片目をふと開ける彼や、森の中を一散に走りぬけていく姿は、まさに若い獣の倨傲と、しなやかさとセクシーさに満ち満ちており、名手・宮川一夫のカメラが産み出す、夏の光線が木の間を洩れてくる悩ましい光と影の中で、その存在はギラギラと不敵な輝き ~危険なまでの動物電気~を放っていた。


しなやかな野性

今も昔も、日本映画界に彼以外に彼のような俳優は登場していない。ふてぶてしそうで、どこかしらに繊細な内面を窺わせる部分が仄見えるのも胸キュンだわ…と感じるようになったのも敏ちゃんを知ってからだ。敏ちゃんについてあまり長々と書いているとキリがないのでそろそろ他の人に移ろうと思うけれど、時代劇が多い彼だが、30代後半から40代の男盛りにもっと現代劇に出ていてくれたら、もっと敏ちゃんに浸れたのになぁ、と少し残念に思う。男盛りの敏ちゃんの男前っぷりと来たら、本当にもう天下無敵。最高のステキングだった。岡本喜八のコメディタッチの刑事ものなんかじゃなく(おちゃらけ映画だけれど、それでも敏ちゃんは苦みばしって実にいい男振りだ)、もっと普通の映画で彼の男前ぶりをしみじみ堪能したかったなぁ、と思う。
まぁ、「妻の心」を残してくれたので、とりあえずはよしとしますかね。

この敏ちゃんの「酔いどれ天使」における、やけっぱちで傷つきやすい若い獣と同じニオイを放っていたのが、「カジノ・ロワイヤル」におけるダニエル・クレイグだった。突っ張ってはいるが、根っこのところに誰かに理解されたいという心を抱きつつ、肩を怒らせて暴れている手負いの若い獣の破れかぶれなありようが、とても似ていた。今振り返ると、だからワタシはあんなにも「カジノ・ロワイヤル」のダニエルにハマったのだと思う。



オス臭いルックスで、人懐こい面もあり、さらに繊細な内面も持ち併せているという点で、敏ちゃんの衣鉢を継ぐ男がもう一人居る。それはジェラルド・バトラーである。彼もまだまだこれからキャリアを重ねていく俳優なので、この先どんなキャラを見せてくれるのかとても楽しみだけど、ハリウッド系の娯楽映画はちょっとやめにして、久々に英国に戻って18世紀的、または19世紀的な世界で貴族の役などを寡黙に演じてみてはどうかしら、などとも思ったりするわけである。何はともあれこの人は、くれぐれも肉の付け過ぎに要注意だ。



さて、男臭いといえば、チャウチャウ犬のような顔で案外フランス映画などにも出演する侮れない男、チャールズ・ブロンソンもけっこう好きな俳優である。この人もあれこれと代表作はあるが、何度も書いている「狼の挽歌」も良かったし、ドロンと共演の「さらば友よ」(イェー!)も良かった。「バラキ」や「狼よさらば」もあるが、ワタシが一番好きなのは「雨の訪問者」(ラブラブ)。そばかすでショートカットの人妻マルレーヌ・ジョベール(エヴァちゃんのママ)の前に突如現れる謎の男を演じる彼は、ふてぶてしさと落ち着きと愛嬌に加えて、ちらりと繊細さも覗かせる部分があって、実に魅力的だった。吹替えなしでフランス語のセリフをしゃべっていたのもポイントが高い。
う~ん、ブロンソン、侮りがたし!



気づけば海の向こうの人ばかり、おっと、さんの出番ですよ。敏ちゃん以降で、あぁいい感じに男臭い、と思った日本の俳優は緒形 だ。この人が一番良かったのは70年代なんだろうと思うのだけど、熟年のオジサンになってもいい味もあり、色気もあって、大好きだった。この前久々に彼が梅安を演じた「春雪仕掛針」を観たのだけど、さんの梅安は、少~し軽い雰囲気なのだが、男盛りの色気がほとばしっている。精気の塊という感じがする。そしてもちろん凄みと愛嬌を兼ね備えている。坊主頭に着流しで紗の羽織などをはおっているのが、またナイス。この作品は共演がお志麻さんなのもGood。前にも書いたが善良な小市民から、気弱な片隅の男から、極悪の連続殺人鬼までリアリティをもってこなせる幅の広さはさすがの演技派。おまけにこの人は、物の食べ方の綺麗さが男らしかった。変に構えるわけでなく、崩れるわけでもなく、自然に振舞っていて、箸使いや、口に食物を入れた時の雰囲気などが男としてサラリと様子が良かった。おまけに書画にも才能があった。
爺さんになってから、いよよ良い俳優になる人だった。71歳での旅立ちは惜しんで余りある早世だった。


梅安を演じるさん

そして、忘れちゃいけないロバート・ミッチャム。な~んか好きなんですね、この人も。若い頃はけっこう問題児で、俳優として名も売れていながらマリファナ問題でぶちこまれたりもしているが(冤罪だったともいう)、塀の中から出てきても悪びれない態度に却って人気が湧いちゃったらしい。なんといっても初老になったタフガイ・マーロウを演じた「さらば愛しき女よ」が一押しだが、それ以外にも「ライアンの娘」、「恐怖の岬」、「狩人の夜」など、代表作は色々ある。タフガイもいいが、悪役をやっても存在感を放つところがまたよろしくって、有名な「恐怖の岬」もいいが、「狩人の夜」なども、牧師になりすました殺人鬼の不気味さがよく出ていた。体格の良さと、無造作に額に垂れた髪と、眠そうな目がセクシーでよい。



そしてそして、薄毛でも、というか薄毛だからこそ魅力爆発のシブいオヤジ、エド・ハリスも好きだ。あの角ばったアゴと唇のライン、そげた頬…堪りませんなぁ。内に何かを秘めつつも黙って黙々と日常に耐える男などを演じさせるとピカ一なエド。「スターリングラード」などでも、主役のジュードに対する好敵手の役なので、いずれは決着がつくにしても、心の底で「勝ってね…」などとエドにもエールを送ってしまったりするわけである。
爺さんになっても(もう爺さん街道に片足を突っ込んでいる気配もするけど)きっとシブイに違いない。



というわけで、思いつくままに挙げた、ますらおの一族でした。
ワタシが好ましいと思うますらおたちを挙げているので、洩れていると思われる俳優も沢山いると思いますが、あしからず。

コメント

  • 2010/02/05 (Fri) 16:26
    良い男の話題なので・・・

    待ってました!ダニエルの登場ですね。哀愁系のトニーと並んでこれぞ男!のダニエルは私の中で好きな人の東西両横綱です。不動の横綱です。ここ数年全く揺らぎません。ジェラルド・バトラーも好きですが、大関止まりかなぁ・・・日本人は私の番付の中には一人もいないんです。どうしてだろう?
    そうそう、薄毛で思い出しましたが(爆)トランスポーターシリーズに限ってですが、ジェイソン・ステイサムも好きです。意味もなく脱ぐのが好き♪やはり脱いでも凄い!って言うのが凄~く大切です♪(髪が寂しくても素敵な人は素敵です)

  • 2010/02/06 (Sat) 00:21

    Rikoさんにとってダニエルは不動の横綱なんですねぇ。ふふふ。ワタシにとってダニエルは好きな俳優の中の一人、という感じで横綱ではないかな。(何しろ気が多いもんで)それにしてもRikoさん、香港のトニーはOKなのに日本人でこれという人がいないというのは意外ですが、まぁそれも好き好きですものね。で、薄毛系。「トランスポーター」(それも2まで)限定で、よく脱ぐセクシー・ハゲ、ステイサムも悪くないですが、ちょっと存在感が軽いというか、心に留まらずにスーっと抜けていっちゃうという感じも…。そういえば薄毛でもイケてる人っていうのが日本には一人もいないですね。海の向こうにはけっこう居るけど、その種族は日本には皆無。この先現れてくるのかどうか。

  • 2010/02/06 (Sat) 23:22

    kikiさん、こんにちは!
    「ますらおの一族」、楽しく拝見いたしました。どうしたってニッポンのますらおは敏ちゃんで決まりですよね!わたしも「羅生門」のこの木漏れ日うたたねシーンの敏ちゃん大好きです。フランスでの論評では ''sauvagerie erotique(「エロティックな野性」とでも訳しましょうか)''などと書かれていたようですよ。
    今日たまたま「宮本武蔵 完結編 決闘巌流島」を見たのですが、上半身をあらわにし、太もも筋肉隆々で野良仕事をする敏ちゃんを拝むことができました。お通さん(八千草薫)が来たことを知ると弟子の城太郎に「着物持ってこい!このままではいかん!」と焦る敏ちゃん、おかしくって可愛くて「ププっ」て感じでした。そうなんですよね、ただ男くさいだけではなくて、どこかしら女心をくすぐるところがあるというのはめちゃめちゃポイント高いですよね!
    わたしは敏ちゃんを知ってからというもの、男優の良し悪しを測るハードルがとんでもなく上がってしまったため(国内外問わず)、今後敏ちゃんを上回るステキングに出会う確率はかなり低いように思えます・・・チ~ン。
    わたし、スティーブ・マックィーンなんかも好きですが(「大脱走」「パピヨン」くらいしか見ておりませんが)、これは「ますらお」系ですかね?「悪ガキ」入ってますね。ちょと違うかな。

  • 2010/02/07 (Sun) 09:18

    ミナリコさん、こんにちは。そうそう。ニッポンのますらをは敏ちゃんワン・アンド・オンリーと言ってもいいかもですね。「羅生門」は豹系の若い獣のフェロモンが出ていて実にステキング。最近デジタルリマスターの綺麗な映像で観たので、あの森の木陰のシーンもひとしお印象的でした。なんだかんだ言っても黒澤×三船コンビ作品で、海外ではこれが一番評価が高いんじゃないかという気がしてるんですが、いかがでしょ?やはり「七人の侍」かな?「エロティックな野性」というのは確かにその通りですね。向こうの人の方が敏ちゃんのSexyさに敏感に反応しますわね。「酔いどれ天使」はとにかく中盤までは実にいい男ぶりなのが、病勢が進んだ後半は例の黒澤の大袈裟病が出て、物凄いゲッソリメイクになって(ちょっとやりすぎよ…)と思わないでもないんですが、でも敏ちゃんも作品も強烈なインパクトでした。森雅之も良かったしね。
    で、スティーブ・マックィーンも良い俳優で、「パピヨン」など好きですが、「ますらを」的インパクトをワタシがあまり彼に感じないのでリストアップしていないかな、という感じです。こういうのは結局、自分の中でどのぐらいその方向でビリビリきているか、という事が左右しちゃうので(笑)例えばイーストウッドも好きな俳優ですが、爺さんになってからの監督としてのイメージが強くなって、ますらを系とはまた微妙に違うかなぁ、という感じがするので入れてないんですね。まぁ、全てはワタシの勝手な主観なんでございます。ふほ。

  • 2010/02/07 (Sun) 18:35

    そうですね、「羅生門」はフランスでも人気があるようです(余談ですが、黒澤作品でフランスで一番人気なのは「乱」かもしれません)。黒澤回顧展での上映以外でもこれはクラシックな作品として、「市民ケーン」「スカーフェイス(ハワード・ホークス)」「アスファルトジャングル」などとともに、古典的作品の扱いで上映されていました。三十郎の二作も人気のようですよ。
    それにしても「羅生門」の敏ちゃん、森さん、京マチ子、なんて美しいお三方でしょうね。
    「酔いどれ天使」の頬こけすぎメークは興醒めもしてしまいますが、どうにもこうにも救われないあのヤクザの敏ちゃんのやつれぶりに毎回、滅びの美学のようなもの、を感じ、母性本能をくすぐられております。見ると辛くなってしまうので、もっぱら「椿三十郎」などの痛快系をよく鑑賞しております。

  • 2010/02/07 (Sun) 22:59

    ミナリコさん。フランスでは「乱」が一番人気ですか。「影武者」以降の作品というのは殆ど観てないですが、「乱」は確か植木さんが出てる作品だったな、というのだけはうっすらと(笑) 三十郎ものは娯楽性抜群だし、面白いから当然でしょうね。「羅生門」は確かにクラシックスの定番になっているという感じがしますわ。
    「酔いどれ天使」に滅びの美学を感じちゃいます?ふふふ。ミナリコさん、本当に気持ちよく敏ちゃんにハマっておられますね。でも、敏ちゃんが亡くなった当時や、翌年黒澤監督が亡くなった頃よりも、敏ちゃんの存在感と素晴らしさについて、最近「黒澤フィルター」抜きで評価が高まってきているような気配を感じます。それはそれとして、黒澤明の敏ちゃんへの弔辞は短いけどさすがにいい文章でしたね。
    「君は本当によくやったと思う 三船君 どうもありがとう。 
    僕はもう一度、酒でも飲みながら そんな話がしたかった。
    さようなら三船君 また会おう」
    という締めくくりのあたりで、葬儀の中継を観ていてつい涙しちゃった事を、今ふいに思い出しました。

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