「インビクタス/負けざる者たち」 (INVICTUS)

~イーストウッドの直球勝負~
2009年 米 クリント・イーストウッド監督




2月の封切り作品はほとんど食指の動かないものばかりなので、2月は旧作月間と参りましょう、などと思っていたのだけど、友に付き合って観る予定のなかった本作を観賞することに…。

ワタシは「ストレートにいい話」というのがどうも苦手で、そういう話を観ているとお尻がモゾモゾしてしまう。語られ方にもよるのだけど、今回はあまりにも直球なので、絵に描いたように展開する話に映画とは距離をおいて淡々とスクリーンを眺めていた。クリント・イーストウッド。このたびは超・直球勝負である、猛烈にノー・スクイーズだ。

国民の心をひとつに集中させ、あるお題目に振り向けるにはスポーツ・イベントは最も効果的な手段であるというのは、ベルリン・オリンピックを骨までしゃぶるほどに有効活用し尽くしたヒットラーの例をひくまでもなく、よく知られた事である。だからイデオロギーに頼る国家はスポーツおよびスポーツ・イベントに尋常ならざる予算と熱意を注ぐわけなのだが、白人と黒人が骨絡みでいがみ合う国の大統領に就任したマンデラさんとても、政治家として自国で開催されるスポーツのビッグ・イベントを活用しようと思わないわけはないのである。

が、マンデラさん、他にも問題は山積みなのに、そんなにラグビーにばかりかまけていていいの~と、補佐官でもないワタシが首を捻ってしまうほどに仕事そっちのけでラグビーばかり気にしている。日本との通商会議などほっぽらかして、ラグビーのナショナル・チームのために奔走する。



そうやってさりげに日本を踏みつけにしたエクスキュースか、ラグビー・ワールドカップのメイン・スタジアムにおける日本企業のロゴの目立ち方は尋常じゃなかった。T社だの、X社(これは日本のじゃなく米国のだけれど)のロゴが試合シーンの背後にこれでもかと映っていた。そればかりではなく時計はセイコー、オーロラビジョンはソニーと、実際にもこれらの企業は1995年のラグビー・ワールドカップに協賛していたのには違いないだろうけれど、この映画のスポンサードもしてるのね~と思わせるぐらいに猛烈な目立ちようだった。とまぁ、本筋よりもそんなところに目がいってしまうぐらいに、ワタシはこの映画と距離があった、ということなのだけれど。ただ、試合のシーンでは、最強の敵・ニュージーランドのマオリ族のラガーマンを演じている俳優の面構えがなかなかよろしくって、黒いユニフォームがよく似合い、なかなかのますらを振りだった。

とにかくマンデラさん、他の事は等閑にして、ラグビーにばかりかまけすぎである。いいの~そんなんで!~と思えて仕方がない。そして、実話とはいえ、展開が万事、ご都合主義に流れすぎな感じが気になった。たとえば、あれだけ白人と黒人がいがみあって一触即発なムードだったのに、大統領のシークレットサービスの黒人と白人混成チームは「大統領の望みだから」と言う錦の御旗のもとに、もっと揉めるかと思いきや、わりにすんなりと共存してしまうし、あんなにヘチョヘチョでいざという時に全く勝てないダメダメチームだった「ボカ」が、主将のピナールがマンデラさんに会って柔らか~く鼓舞されてからというもの、急に粘り強くなり、負けなくなって、ヒノキ舞台で究極の大活躍するまでになるなんて、あんまりスルスル行き過ぎじゃないのぉ~きょうび、スポ根漫画だってもっとヒネリがあるわよ、と興ざめしてしまう。が、ここが「実話がベース」という作品の強いところで、何を言われても「だって、これは実話なんだも~ん」という一言で免罪符になってしまう。
ま、実際そうだったわけだからぐぅの音も出ぬわけである。ぐぅ。
ただ、実話がベースとしても、もう少し描き方の工夫で「急にアッサリと勝てるようになった」感がなくなったかもしれない気がする。そのへんが今回のイーストウッドは妙にサラーっと展開していくのだ。

そんなわけで、なんとなく引き気味に眺めていたワタシだけれど、ワールドカップが始まる直前に、飛行場に着陸態勢に入りかけた旅客機が「機長の一存」でスタジアム上空を超低空飛行したシーンは良かった。テロを警戒していたシークレットサービス達の頭上を、機の下腹に大きく書かれた「頑張れ!ボカ」のメッセージが通過していくこのシーンには、鮮やかなカタルシスがあった。

モーガン・フリーマンはいつものモーガン・フリーマンでいかにも余裕がある感じがした。
マンデラさんを演じるのは大変だったらしいけれど、ワタシにはいつも通りのモーガン・フリーマンに見えた。
南アのラグビーチーム・キャプテンを演じるマット・ディモンは少し体重が増え(増やし~)、実在の人物に従って髪を明るいブロンドにしているためか、妙にフィリップ・シーモア・ホフマンに似ている気がした。おっと、こんなところにもホフマン族が。肉付きのよくなったデカプー(レオナルド・ディカプリオ)がF・シーモア・ホフマンに似てきたと思う、と前に書いたけれど、シーモア・ホフマンを中にして、デカプーとマット・ディモンは微かに共通点があるともいえるだろうか。ワタシはとりあえず彼らをホフマン族、と名づけておこうと思う。



「ホフマン族」だった事が判明したマット・ディモン

実話の映画化の場合、エンドタイトルに、モデルになった実際の人物の写真があしらわれるのは最近よくある傾向で、ピナールを始めとする実際の選手たちが次々に登場するが、最後に登場したマンデラさん本人の、緑と黄のユニフォームを着て柔らかい笑顔で歩いている写真が一番印象的だった。その本人の写真を観て、初めて、反アパルトヘイトで闘って30年も狭い独房に投獄されていながら、出所して権力を握っても復讐鬼にならないという事の「凄さ」が伝わってきた。モーガン・フリーマンが「神様を演じるより難しかった」というのも、最後の写真を観て納得がいった。確かに、これは難しいでしょうね。ネルソン・マンデラと同じ精神史を辿らずして、あのような“ある境地に到達した人”のありようを醸し出すのは至難の技だ。極端な話、何も言わずにただ立っているだけでも、そこにあの特別な空気が漂っていなくてはならないのだ。これは難しいと思う。

イーストウッドがこの題材を取り挙げたのは、折りしも多民族がひしめく国家を黒人の大統領が統べるようになったアメリカという国に住む表現者として、ここにヒントがある、と伝えたかったのかもしれない。それと同時に、これまで観るも辛い、重苦しい内容の作品を多く撮ってきたイーストウッドは、最近「人間讃歌」の方向にシフトし始めている気がする。その方が観客受けもいいだろうし、撮っていて気持ちいいだろうし。
でも間違いなく、近いうちにまた揺り戻しが来るに違いなかろうとは思うのだけれど(笑)

コメント

  • 2010/02/12 (Fri) 22:13

    ははは、シークレットコメントさん、そうですね。これはイーストウッドがモーガン・フリーマンの持ち込み企画を受けたという形での監督作品らしいので、あれこれ捻らずに、プレーンにストレートに撮ってるんでしょうね。それにしても、全てが何かとても表層的で通り一遍だな、という感じがしましたわ。観る前に、違うタッチの作品を想定していたというわけでもないんですけれどね。

  • 2010/02/13 (Sat) 00:14

    kikiさん この映画、まだ観てないので映画自体へのコメントのしようがないのですが、
    ホフマン族に受けてしまいました。愁わしの一族、ますらおの一族ときてホフマン族、
    もう最高です!あ、いつ終わるともしれなくなったkingdom of stekingもず~っと訪問中
    ですので。これからも楽しみにしてますのでご執筆よろしくお願いします。

  • 2010/02/13 (Sat) 12:40

    ふうさん。ホフマン族に反応されましたか。ふほほ。マットが登場した瞬間に、「アラ、ここにも居るわ」なんて案外と潜在しているのに受けちゃって。結局、鼻が短くて目が離れてる顔だちの人がぶわっと肉付きがよくなるとホフマン化するんでしょうね。今回のマット・ディモンについてはデカプーより似てるかも、と思いました。
    で、王国の方にいらしていただいてることはちゃんと分かっておりましてよん。もちろん書き次いで参りまする。でも、王国の事は王国の方によろしくでございます。ふほ。

  • 2010/02/16 (Tue) 18:54

    kikiさん
    またまた来ました。ホフマン族にうけたのは私だけでなく、娘にしゃべったら、もう受けまくりでした。娘はインビクタスを観にいって、マットディモンが初めてかっこよくみえたというので、ホフマン族に仕分けされてるみたいよ、なにそれ?説明したら爆笑。こちらにいっしょにお邪魔しました。kikiさんってすごいと感心しきりでしたよ。あ、レオナルド君をデカプーっていってるねと、これも受けてました。

  • 2010/02/16 (Tue) 22:12

    ふうさん。どうもどうも。何度でもどうぞ。Welcomeですわ(笑)
    ホフマン族、お嬢さんにも受けちゃいましたか。ははは。「インビクタス」のマット・ディモンが一番カッコよく見えたんだ。「ボーン」シリーズじゃなく。ユニークなお嬢さんですね。よろしくおっしゃってくださいまし。(ちなみにディカプリオをデカプーというのはワタシが考えたネーミングじゃなくて前からある呼び方です。ジョニー・デップをジョニデというのと同じ位前からですわ)デカプーも昨今じゃすっかり貫禄を増して「ロミオとジュリエット」の頃の面影は薄らぐ一方ですが、キャリアは安定してきましたね。人相は悪くなったけど。マット・ディモンと共に、10年後にどっちがよりホフマン族真打ちとなっているか、今後のオッサン化にも注目です。

  • 2010/03/06 (Sat) 12:34

    kikiさん、こんにちは。
    私は直球勝負作品は好きなので、この作品は満足しました。なんていうか・・・クラシック映画ってこういうの多くありません?観終わった後に「ああ、良かったなあ」と思えるような。私って基本的にそういう映画が大好きなんですよね。
    ところで、マット・デイモンのホフマン族(笑)。あははは。確かに。言われりゃ似てる・・・。
    そうそう、イーストウッドの次回作ってホラーって噂がありますよ。ホラーって一体・・・。

  • 2010/03/07 (Sun) 08:24

    確かにmayumiさんはお好きそうなノリの映画かもしれませんね。そして善良なテイストのクラシック映画ってこういう感じありますよね。ワタシも、観終えてあぁ良かったなと思えるような映画はキライじゃないけれども、これは何と言うか悪くはないんだけれど、どうしたことか何も引っ掛かって来なくて(笑)
    フィリップ・シーモア・ホフマン、意外なところにちらほら眷属を持ってますね。ふほほほ。
    イーストウッドの次回作はホラーかも、なんですか。ふぅん。とりあえず色々撮ってみようって境地なのかな。

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