「フィリップ、きみを愛してる!」 (I LOVE YOU PHILLIP MORRIS)

~それは愛か、究極の自己満足か~
2009年 仏 グレン・フィカーラ監督


ジム・キャリーユアン・マクレガーという異色の顔合わせでゲイ・カップルの話だなんて、しかも犯罪絡みだなんて、おまけに実話だなんて、これは観に行かないでいるという方がムリ。というわけで、封切りを今か今かと待っていた作品。2月は殆ど(というか全く)観たい新作がなかったのに引き変えて、3月はどしどし封切られるから忙しいんですわ。時間やりくりして観たい映画には行かなくっちゃ!
ということで今回は、「I LOVE YOU PHILLIP MORRIS」。

ユアンは昔から好きな俳優だが、ジム・キャリーは長らく特に好きでも嫌いでもない俳優だったのだけど、昨年観た「イエスマン」で、“何となく好き”な俳優の一人になった。今回は、ちょっと老けた印象で画面に登場。実在の人物を演じるとあってご本人の印象に近づけるためなのかどうか、生え際の毛を抜くか剃るかして額を広くしている模様。生え際が後退すると、人ってけっこう老けた印象になるんだなぁと実感。でもキャラ自体はいつものジム・キャリーらしいキャラだった。ただひとつ、ゲイという設定を除けば。

頭脳明晰=IQ169、警官から詐欺師へと華麗な転身を遂げ、クレジットカード詐欺から高級腕時計の窃盗&転売、さらには弁護士を語った末に、口八丁で財務最高責任者として大手企業に潜り込んで億単位の巨額を横領! 結局は逮捕されて投獄されるも、見事な手口で脱獄するのはなんと4回、そしてその目的はただひとつ、愛するあの人に「きみを愛してる!」と伝えるため!(eiga.comより)

このスティーヴン。実の母に、3人兄弟のうち真ん中の自分だけがなぜ養子に出されてしまったのだろうという永遠の懐疑を抱えつつ成人している。子供の時に、養子であることを養父母から伝えられた彼は、よき人として正しく生きねば、と本来の自分を押し殺し、人生のある時期まで懸命によき社会人として努力をしてきた。そうやってムリをしてきたせいで、一度タガが外れてしまったら、どんどん軌道を遠ざかるばかりとなる。自分を騙しちゃいけないのだ。
妻に嘘をついてゲイ的アバンチュールにふけった帰り道に自動車事故に遭って人生観の変わった彼は、こそこそ隠れずに堂々とゲイとして人生を生きようと決める。そして妻子と別れ、マイアミへ行き、ハンサムなボーイフレンドを見つけ、ウキウキのゲイライフに突入する。


猛烈にゲイゲイした雰囲気のジム・キャリー(右)とロドリゴ・サントロ(左)

だが、彼の理想とするゲイ・ライフにはやたらとお金がかかるのだった。そこで、高い知能をちょちょいと使って詐欺行為に走り、手軽に金を手に入れるという第2のキャリアもスタートさせてしまった。…というわけなのだけど、なんでスティーヴンはそんなにお金お金と思ったのだろう~と観ていて首を捻った。彼の恋人はいつもお金や贅沢生活などを求めていない相手ばかりである。(スティーヴンの恋人役はロドリゴ・サントロにユアンと、タイプは異なるがハンサムマンばかり。一人でおいしすぎである)彼一人が求められてもいないのに暴走して余分な金が必要になり、ご法度の裏街道へと足を踏み入れてしまうのだ。それは相手を心地よくさせようという事もあるだろうけれど、スティーヴンの自己満足の部分が大きい気がする。因果なサガである。彼自身の欲求に従うと普通に働いて得る収入だけでは賄いきれないのだ。かくしてスティーヴンは自分に正直に生きる為に、嘘ばかりついていなくてはならないという矛盾の周回軌道を爆走することとなる。

どんな有り得ない展開でも実話だというんだからほほぉ、と観ているしか無いが、スティーヴンという人は頭の回転が人の3倍(もっと~)ぐらいに高速なんでしょね。やたらめったら度胸もいい。普通、弁護士資格もないのに、民事とはいえ法廷でいきなり弁護をするハメになったらアワを喰うとかアガるとかするだろうけど、思いつきで発言し、思わせぶりな様子をしているだけで訴訟に勝っちゃうなんてステキだわ。ステキ過ぎるわ。でもそれはフロックなどではない証拠に、とある企業に財務責任者として潜り込んだスティーヴン、いきなり幹部会議に出席させられ、社内用語か専門用語が飛び交う中、唐突に見解を求められる。あらら、どうするの~適当にごまかすとかいう展開~と思いつつ観ていたら、スティーヴン、立派なプレゼンボードを準備し、誰も思い付かなかった斬新なアイデアを繰り出して見事に周囲をケムに巻く。お見事。真面目にやればもちろん有能なのである。むにゃむにゃ言って誤魔化しそうな気配を装いつつ、鮮やかにそれを翻すジム・キャリーの自在な演技が冴えている。

高速回転の頭脳を持つスティーヴンからすると周囲のニブイ連中は芋か大根のようにしか思えない。何かやったってわかりゃしない、と思うとまたぞろ悪い虫が頭をもたげてくる。そのへんの感じもよく分るんだけど、その能力をもっと他の事に振り向けたら何事かなし得たかもしれないのに、全て他愛もない詐欺とゲームのような脱獄の方に流れていってしまうというのも何の因果でございましょうか。人間、高い能力を持って生まれても、それを何に向かって集中させるかという「意志」によって、行く道は様々に分れてくるんですわね。

どんなに調子よくやっているつもりでも、誰にもバレていないと思っても、そのうち悪事は露見する。詐欺罪でぶちこまれたスティーヴンの前に、ある日、ブロンドで青い目の“運命の人”が現れる。その名もフィリップ・モリス。(同じ名前の煙草がありましたっけね)フィリップを演じるユアン、その保護欲をそそる風情がお見事。ジム・キャリーはいつもの彼のノリにゲイという設定が加わっただけのような感じだが、ユアンは完全にフィリップ・モリスという人物像を作り上げている、という感じがした。通り一遍のナヨっちいゲイ青年という人物造形ではなかったと思う。観ているとユアンが消えてフィリップ・モリスという青年として見ている自分に気づいた。久々に演技派としてのユアンの力を見せてもらったような。口八丁手八丁、八面六臂で大活躍するジム・キャリーに較べると、ユアンの演じるフィリップは、ただかわいらしく微笑んで、外であれこれとやらかしてくるスティーヴンを家で待っているだけの役のようだが、それだけに演じる側としては難しい役どころだと思う。ピュアピュアな青年というのはユアンの得意分野ではあるけれど、今回は久々にユアンが自分と全く離れた役になりきっている、という感じがした。刑務所内で初めて出会って、会話を交わすシーンの物静かでおとなしげで、ズイズイと押しまくってくるスティーヴンに些か引きつつもはにかんだような笑顔を浮かべる様子から、一転、スティーヴンの想いが伝わって相思相愛になると、かわいらしくも激しく迫ったりして、ヤルなぁ、ユアン、という感じである。
ユアンのかわゆさがいい方向に発揮されてるな、という感じがした。




一緒の房から引き離されるスティーヴンに懸命に呼びかけるフィリップ …けなげ

かなり激しいゲイのラブシーンがあると洩れ聞いていたのだけど、それらしいシーンはあったものの、ある程度カットされた後だし、ユアンとのシーンではなかったので格別どうという事もなかった。ジムとユアンは抱き合ったりキスしたりはするものの、割にロマンティックに撮られているので、ウゲゲゲ、という感じではない。ユアンは金髪をぽわぽわと風に煽られつつ、無垢な感じで微笑んでいるイメージが残った。が、その分、ジム・キャリーが色んな意味で体を張って頑張ったなぁという印象が強い。制作費が足りなければお金を出してもやりたい!と言って臨んだ役だけに、まさに口達者な詐欺師という部分ではいつもの彼にうってつけだし、ゲイの純愛という部分では新生面を出すことができる役なので、ジム・キャリーが演じたがったのも分る気がする。

相手が望んでもいないのにセレブ生活を送ろうと一人勝手に暴走した挙句に、悪気はなかったもののフィリップを共犯者にすることになってしまったスティーヴン。彼のフィリップへの強い想いは果たして愛と呼べるのか、ただの自己満足なのか。フィリップの方もとんだ相手に想いつかれたものだけど、あんなにまでして一目会いたいとやって来られたら、怒りはあってもほだされないわけにはいかないでしょうね。

ただ、終盤の何度も脱獄するあたりの演出がちょっとハッキリしない感じで、もうちょっとメリハリがついていると分り易かったのにね、という気がした。また、幼くして兄弟の中で自分だけが養子に出された(実母に捨てられた)という事が、彼の人格形成にどういう影響を及ぼしたのか、という事に対する考察が一切欠けていたのも些か残念な気がする。におわせるだけでも何かあると良かったと思う。

それにしても最終的に喰らってしまった167年の刑期…。(私見だが、日本の無期懲役というのもこのぐらいな長さであるべきだと思う)スティーヴンとフィリップは塀の中と外でいまだに文通を続けているそうだが、この先、二人が再会できる日は来るのだろうか。スティーヴンの事だから、また、どうにかして抜け出しそうな気もしなくもないけれど、それがある程度お爺さんになってからのことだったら、もう見逃してやってほしいと思う。

***
この映画の公式サイトに記者会見映像があった。ジム・キャリーが「ユアンのお尻はカワイイ」とリップ・サービスして、ユアンが顔を赤らめるなどのキュートな場面もありつつ、色々の質疑応答の果てに「もし男性を恋人に選ぶとしたら誰が理想ですか~」という質問に、ユアンが「F・シーモア・ホフマンがいいな。ちょっと奇妙なカップルだし、二人で面白いパーティに行ったりして注目されそうだし」と答えて爆笑をとっていたが、自分の名前をお義理にも出してもらえなかったジム・キャリーが「じゃ僕はブラピにする!」と言ったのが個人的に受けた。
それにしても、思いがけないところでまたホフマンの名が。フィリップ・シーモア・ホフマン、いよよ侮りがたし。

コメント

  • 2010/03/16 (Tue) 09:17

    私もこの作品は予告編を観た時から凄く楽しみにしていて初日に観てきました。なのですが、どこか物足りなさを感じてしまいまして。序盤、スティーヴンが刑務所にブチこまれ、フィリップと出会ったあたりまではとてもテンポが良く楽しめたのですが、その後書類の偽造をしたり弁護士であると偽ったりしだしたところから、???と。IQ169という設定を知らなかったので、いくら詐欺師でもそんなありえない!(実話だそうですが、おそらくそこそこ誇張はされているだろうと)と思ってしまったのが原因かなあと。あと、kikiさんも指摘されている通り、自分が捨て子であると知ったスティーヴンのトラウマがどのように彼の行動に影響しているのかがもうちょっと描かれていればおそらくもっとノれたと思います。

    でも、相変わらずのジム・キャリーの過剰演技は楽しかったですし、ユアン・マクレガーの乙女系ゲイ演技のレベルの高さにもびっくりしました(ショックを受けて座り込むだけのシーンで、決してやりすぎ感なく、女性っぽさをちゃんと動きに反映させているところなど、凄いなと)。また、スティーヴンが出所してからの舞台がテキサスということで、(アメリカ人にとってはおそらくある種ステレオタイプな感覚で)「テキサスだからねえ~あるかもなあ~」という要素を盛り込んであるところも楽しめました。スティーヴンに終身刑を言い渡したのが、ブッシュ州知事(当時)だったというのもなかなか味わい深いな、と。

  • 2010/03/16 (Tue) 22:02

    yukazoさん。そうですね。制作サイドがスティーヴンのトリッキーな才能の方にばかり気を取られて、映画が深みに欠けてしまったというか、結局観終ってみるといつものジム・キャリー映画になってしまったのね、とでもいいましょうかね。素材が面白すぎたのかも。部分的にはとても良いところがあったのに残念な感じですよね。あんなに調子よく物事が運ぶもんだろうか、という感じもあるけれど、田舎だからねっていうのもあるのかな、と。勢いとなりきりで相手を呑んでかかると、あるいはそういう事も可能かもしれないけどねぇ…などと思って見てました。yukazoさんは物事の整合性がとても気になるタイプでらっしゃるから、理屈が通らないような展開というのに引いてしまうという感じですよね。(笑)確かに詐欺師エピソードの部分では映画的な脚色や誇張もありそうでしたね。ワタシは実母の話を出しておいて、あれが何にも生かされていないというのがとても気になりましたね。ただ出しただけじゃねぇ。だから、それでどうなんだ?って事だものね。
    ジム・キャリーはやりたくてやった役だからとても頑張ってたし、ユアンはほんと、さすがに上手い、久々に演技者としてのユアンの凄いところを見せてもらったなという感じで、その点では満足でした。役者もあのクラスになると、ほんと自在になり切るなぁ、なんて感心しつつユアンのさりげないおねえ座りを眺めました。かわいかったなぁユアン。ふふふ。
    ブッシュ州知事だったんですか、167年。道理でべらぼうな。(笑)あの裁判のシーンでご本人のフィリップ・モリスが傍聴人席にさりげなく座ってカメオ出演していたらしいんですが、観終ってからその情報を得たので結局どの人か分らず終いです。残念。

  • 2010/04/11 (Sun) 02:33

    kikiさん、こんばんは。
    いやあ、ユアン、可愛すぎましたよ。スティーブンじゃなくたって惚れます。私も惚れなおしました(笑)。30代も半ばなのに、なんであんなに可愛いのぉ~。
    で、スティーブンの前の恋人役はロドリゴ・サントロでしたか!どこかで観たことあるなあ、と思っていたんですが。スティーブン、羨ましいわ・・・(笑)。

  • 2010/04/12 (Mon) 00:20

    mayumiさん、ほんとほんと。ユアン、超かわゆかったですね。特殊な作品の中で彼の可愛さがいい具合に活かされたというか。ワタシは毒にも薬にもならない良い人をやっているユアンというのは見たくないので、今回は題材が特殊な中でいい具合だったなぁと思います。ジム・キャリーのスティーヴン、ロドリゴ・サントロの次がユアンとは、ほ~んと、一人で調子いいですよね(笑)

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