「007カジノ・ロワイヤル」裏切りは女のアクセサリー、か!?



ネタバレありありですので、未見の方はスルーしてください。


それにしても、ヴェスパーはいつから敵の罠に落ちていたんだろう?ゴージャス列車の食堂車に「I'm The Money.」と言って現れたときから既に?
でも、ボンドの方はこの時にまさに恋に落ちたんだと分かる。最初に、一目見たときから落ちてしまったのだ。その後お互いを探り合う会話をして、なかなか手強いのを知って、さらに一段階、気に入ってしまった。
駄目押しはカジノに現れた紫のドレスの彼女を見たとき。
彼女は深紫の感嘆詞のように賭博場をよぎって来る。



ボンドは彼女から目を離せない。その動きを二つの青い目が追って動く。
グッドラックのキスのゼスチャーをして、カウンターに戻っていく彼女を、まだ目が追ってしまう。ディーラーに促されてやっとゲームに意識を戻す。…完全にイカれている。



まあ、冷静に考えたら諜報員でもなし、なんの訓練も受けていない一介の役人である素人の彼女が、こんな一触即発の現場にお付き合いするなんてことはあり得ないし、ありえないといえば、そもそもテロリストの資金源をたつために、巨額の掛け金が動く賭博で一切の仕掛けや仕込みもなしに勝って来い、なんていうのもあり得なさの極地のミッションだと思うけど、原作がそうなんだからしょうがない。まあ、Q的ギミックなどが登場しなくても、すでに筋立てがありえなさ満載なのが007の007的世界たるゆえんであろう。(あの拷問シーンだって原作にあるわけだし)原作からして冒険小説的な色合いの方が濃いのだ。だからいつものようにケレンミのてんこ盛りじゃなくても、これはまさしく007映画なのである。…話がそれた。

ボンド的には既に気持ちが傾いているところに、非常階段の死闘があり、殺人に手を貸したショックでヴェスパーがマクベス夫人状態になってしまう例のシャワールームのシーンでは、もう既にボンドは彼女を愛していると言ってもいい状態。クソ生意気な女がふと弱いところを見せると、虚を衝かれてさらに深みにハマってしまうというパターン。
甘いな、ボンド君。
更にジギタリスで危機一髪の際にも、ほどよきところで現れて救ってくれた彼女に対し、運命を感じてしまうのは、ボンド君的には致し方もなしか。



そしてあわやの窮地を脱し、二人はついに心の鎧を取り去ってラブラブモードに一挙突入。
湖畔の療養所を出てベネチアにヨットで向かい、(この間にあっさりとMに辞表をメールで送る)ホテルで蜜月。二人で手を繋ぎ、ホテルの階段を降りていくシーンが微笑ましくてとってもいい感じである。でも、実質的に二人の幸せタイムはそこで終焉を迎えてしまうのだ。 ヴェスパーはホテルを出て銀行に向かう。



彼女のことをまっしぐらに好きだ、という感じをダニエル・ボンドは本当に切実に表現している。「そおか、そんなにも好きなんだね」と見ていて目を細めたくなってしまうぐらいに、一途で健気だ。ホテルのシーンで、出かけなくちゃ、と服を着る彼女を背後から抱きしめる時、ふと遠い目をするダニエル・ボンド。昇格したばかりの"00"の職を投げ打ってもいいと思ったのは、カジノ勝負で勝ったあと、祝杯を挙げているときに、「他の仕事に就こうと思ったことはないの?」とヴェスパーに聞かれた事が尾を引いている。その時は「この世界に一度足を踏み入れたら抜けることはできない」とキッパリと言うのだが、ヴェスパーが殺人に立ち会っていかに取り乱したかを見ているので、彼女を脅えさせたくない為にヤバい裏稼業から足抜きしたくなる。早死にする気でいたけれど、惚れた女ができて長生きしたくなってしまったのだ。ボンドだって男の子。それは無理もありません。
ともあれ、ダニエルとエヴァのシーンはいい。特別なマジックがある。
しかし、二人で幸せに酔っているように見えつつも、彼女の目を時折よぎる複雑な翳り。
このへんはエヴァ・グリーンがとてもうまく表現したと思う。

そんなフランス男の為などでなく、そもそも最終的に大金をせしめてやれ、ぐらいな感じの掛け値なしの悪女の方がよかったんじゃないか、というご意見をどこかで見たが、うーん、そこまでモロ悪女だといかがなものか。それこそ「狼の挽歌」のブロンソンのごとく、愛憎極まる裏切り女を最終的に自らの手でぶち殺さなければならなくなろう。
愛しているから裏切らなくてはならなくなった、だから自分を罰するために自ら死を選んだ、という方が、やはりヴェスパーらしいような気がする。謎と儚さ。
ヴェスパーは謎の女であるが、実はだめんずウォーカーであったために身を滅ぼした不運な女でもある。男選びは死命を制する一大事だ。まことに教訓的である。肝に銘じなきゃ。

それにしても、本心をなかなか見せない裏切り女というのは、冒険男児にとっては魅惑の存在に違いない。冒険小説的要素に裏切り女は欠かせない。三銃士のミラディや、峰不二子の例をひくまでもなく。「裏切りは女のアクセサリーさ」とルパン三世。
それもごもっとも。裏切りは美しい女をより美しくする。
ちょっと付け加えさせてもらうなら「裏切り女は冒険小説のアクセサリー」だと思う。
ヴェスパーがエヴァ・グリーンで良かったなぁ。アンジー・ジョリーじゃ、謎じゃないもん。

●当ブログのダニエル・クレイグ関連記事(「カジノ・ロワイヤル」関連含む)一覧

      >>この記事へのコメント