「三船」で食す



久々に飲もうかねーという話になり、Sophieさんと互いに店をピックアップしたものの、1つは満員で予約取れず、もう1つは今年に入ってからいつの間にか閉店していて、新たな候補をピックアップする必要に迫られた。そこで飲食店サーチのページから偶然Sophieさんが発見したのが「三船」。なんとそこは我らが敏ちゃんの、主に時代劇におけるイメージをフィーチュアしたコンセプト居酒屋とでも申すべき店なのだった。
もしや、敏ちゃんの跡を継いで三船プロダクション社長になったご長男の史郎さんが経営を?と思ったが、経営は東京レストランツファクトリーという会社で、そこにサッポロビールも1枚噛んでいるとい事らしい。三船プロダクション的にはイメージや家紋(三船家の家紋は三船プロダクションのロゴでもある)の使用許可を出しただけということのようだった。ともあれ、場所も六本木とあればお互いに行き易いし、料理もおいしそうなのでどんなものだかちょいと覗いてみましょうかねという事で、いざ麻布龍土町なる「三船」へ。



六本木交差点を越えて、明治屋の先を横に折れて暫く行くとその店はあった。
開店してほぼ1年あまりだそうな。
バックにサッポロが入っているというのもうふん、いいじゃない、という感じ。サッポロビールと敏ちゃんと言えばなんと言っても「男は黙ってサッポロビール」である。お店で出されるビールのグラス(グラスと言うよりコップと言いたい感じ)にも、赤文字でデカデカとこの超有名コピーが大書されてあった。外さないねぇ。
店内の内装は武家屋敷風。ワタシとしては、敏ちゃんはけして時代劇だけの人ではないのでそういう面だけをフィーチュアされてもねぇ、という気持ちもあるのだが、コンセプトとして持ってくるにはやはり「サムライ」としての三船が最適なのには違いない。玄関を入るといきなり三十郎の敏ちゃんのスチールを元にしたイラストが出迎えてくれる。いいねぇ、さすが絵になる男である。縄のれんを潜ってカウンターへ。おもわず肩をゆすって歩きたくなる。「オヤジ、酒だ。オレは酒を飲むと頭の働きが良くなるんだぜ」と懐手をして言いたいところだけれど、ワタクシは女性ですので物静かにカウンターに座ってサッポロ生を注文した。


絵になる男
 来ました。サッポロ生

言葉は要らない 男は黙ってサッポロビール である

いつもはSophieさんの方が先に店にいるのだけど、今回はワタシの方が早く着いて早速サッポロ生をやっているところにSophieさんも到着。乾杯してからあれこれとメニューの物色。ワタシはどこに行っても居酒屋にいけば、そのシーズンであればホタルイカの沖漬けは絶対にオーダーする定番メニュー。ここ「三船」にもホタルイカの沖漬けはあった。更にぐーんとイメージアップである。メニューは黒澤時代劇にちなんだ命名のものなどコンセプト居酒屋としてきちんと考えられている上に、何を頼んでも美味しくてこれまたポイントアップ。


サワーも七人の侍にちなんでいる

「三船のサムライ大串」なども、豪快にして美味。他に蒸篭蒸しの野菜を西京味噌または酒盗をつけて食べる一品など、目にも鮮やかでしかも予想外に美味で結構でござんした。温野菜に酒盗が合うなんて初めて知ったけれどオツなもんですわね。メニューもそれなりに工夫されてあって、どれもこれも美味しかったのが何よりだった。きっと敏ちゃんも草葉の陰でお喜びのことであろうと拝察した。

 


豪快なホタテの串刺し 見た目は豪快で味は美味しい 「三船」だもの、そうこなくちゃね

料理を運んできた店員さんに、店についてちょこっと“取材”していたら、Sophieさんが「この人、敏ちゃんの大ファンなんですよ」と店員さんにワタシを示した。店員さんはポカンとしていた。これこれSophieさん、あなたったら部外者に「敏ちゃん」と言ったって話は通じなくってよ。三船敏郎を勝手に敏ちゃんと呼んでいるのはワタシだけ(笑)それを知っているのはうちのブログに来ている人だけなのよ~ん。店員さんは「トシちゃん」と言われて田原俊彦のことかと思ったらしい。ま、ムリもないですね。そういえばあっちのトシちゃん、消えちゃって久しいけど今はいずこへ…~ま、それはさておき、このお店には長男の史郎さんもその奥方も時折いらっしゃるらしい。
史郎さんもきっと静かにお喜びなのねん、と拝察申し上げつかまつり。

ちなみに敏ちゃんのご長男、史郎さんがどんな感じの人かご興味ある方は、小泉堯史監督作品「雨あがる」をどうぞ。寺尾聰演じる浪人を召抱えようとする、ある藩のご領主の役で史郎さんが出演している。あまり似てない親子だと思っていたけれど、せっかちな殿様の役でどことなくセリフ廻しなどに敏ちゃんを彷彿させるものがあり、遠目には顔の輪郭など、若い頃の敏ちゃんにちょっと似ている雰囲気もあって、やっぱり血だねぇ…と思ってしみじみします。

もし三船プロが経営しているんだったら、長持ちするかしら~経営大丈夫かしら~と気を揉んでしまうところだったが、専門のフードチェーンが経営しているならそういう心配なしに気軽に楽しむことができる。東京レストランツファクトリー株式会社は、六本木「御曹司きよやす邸」、銀座「銀熊茶寮」などを展開している会社で、手堅くも昇り調子。「きよやす邸」には時折ランチに行ったりもしているので、尚更あそこがやっているなら大丈夫でしょうね、とよそながら安堵したワタクシ。素人が手を出すと飲食店ほど痛い目をみる業種もないでしょうからねぇ…。
ちなみに、敏ちゃんは三船プロの全盛期にミュンヘンに日本食レストラン「ミフネ」を出していた事があるらしく、大学を出たばかりの頃の史郎さんは一時期その店を手伝ったりもしたようだ。

「隠し砦の長寿鍋」や「用心棒の塩むすび」などにも心惹かれたのだけど、あれこれと食べているうちにお腹に余地がなくなってしまい、またの機会に致すことに。ともあれ、目の前で板さんが料理を作っているので調理にも味にも自信アリなんでしょうね。かりそめにも敏ちゃんの名を冠している以上、彼の顔が潰れるような事は避けていただきたいもの。そういう意味でもこのお店、なかなかよろしかったでございます。「三船の玉子焼き」「三船のあんみつ」など、部分的に「三船の」が付くメニューはやはり気になって、どちらもオーダー。むろんのこと、美味でございましてよ。店はなかなかの繁盛で、オーダーした玉子焼きもなかなか出てこなかったのだけど、遅くなってしまったからと大きめな玉子焼きをサービスしていただきました。店長さん、かたじけなし。


甘味系もなかなかの美味だった 右が「三船のあんみつ」 三船家家紋入りの箸置きもポイント高し

奮発していただいた大判の「三船の玉子焼き」 大判だが大味でないのがミソである

店内には特にあざとく写真などは飾られていないが、トイレに行くとそこには個室狭しと飾られた敏ちゃんのスチールが出迎えてくれる。店の壁にあちこちとポスターなどが飾られていると何か安い感じになってゲンナリするとおもうのだけど、武家屋敷をイメージした内装の店からトイレに入ると、そこに大小さまざまの敏ちゃんのスチール写真が掛かっているというのは悪くない演出だった。



カウンターと平土間と個室に分れた店内。個室と平土間の境の長押の上に敏ちゃん直筆の額「勇猛精進」がかけられていた。平土間や個室内で飲んでおられる方々もいたので、あまりフラッシュを焚いても、と遠慮した結果、ちょろっとブレてしまったのだけどまぁこれも記念ですからね。敏ちゃんは達筆な人だったのだけど、この書には彼の生真面目さがよく出ているような気がした。


敏ちゃんの直筆による扁額 真面目な人柄のにじみでた筆さばき
この額の下の板ふすまに描かれていたのは椿三十郎にちなんだ紅椿と白椿だったのだが
写真にはうまく写らなかった


キメのモチーフとして使われているのは三船家の家紋「丸に木瓜」 三船敏郎は敏ちゃんの本名である

壮年~晩年に女性問題で晩節を汚した結果、敏ちゃんの評価は一時期、映画界にあれだけ貢献した功績のわりには随分低いものになり、やっぱり黒澤作品だけだよね~などという言われ方が大勢を占めたりもして、敏ちゃんラブのワタシとしては片腹痛いような、敏ちゃんを軽んじる風潮などがマスコミなどにあった気がするのだけど、(何せ昭和50年代初頭までの敏ちゃんは輝かしい世界のミフネ以外のナニモノでもなかっただけに)、離婚訴訟や愛人問題をめぐるゴタゴタですっかり男を下げた後では、輝かしかったイメージの反動も影響して、甚だしいイメージダウンに繋がったのだろうとも思われる。
けれど、没後10年以上を経て、そういった私生活のくさぐさが風化してくると、彼が映画界に残した揺ぎない功績の方が再びクローズアップされてきているような気がするのはワタシだけだろうか。レストラン会社がコンセプトに三船敏郎を使いたいと考えた事も、そういう流れの現れのような気がする。彼が残した作品が永遠なように、彼の稀有な映画人としてのイメージも永遠に語り伝えられていって欲しい。そういう意味では、草の根的に居酒屋のコンセプトとしても生き続ける「侍・三船」のイメージというのも侮れない効果があるかもしれない。



日本映画専門チャンネルでは5月から12ヶ月にわたって黒澤生誕100年を記念して、その作品が続々とハイビジョンで放映されるらしい。黒澤の前半の作品の殆どは、敏ちゃんの代表作でもあるのはやはり疑いもない事実。それらの作品をクリアな映像でじっくりと楽しむ事ができるのも待ち遠しい限り。今回は、これまであまりきちんとは観なかった「蜘蛛巣城」や「どん底」などもちゃんと観てみようと思うし、「隠し砦の三悪人」や「悪い奴ほどよく眠る」「天国と地獄」などを高画質で録画できるチャンスなのでそれも嬉しいことである。
というわけでワタシたちも、思いがけず敏ちゃんの時代劇が醸し出すムードに包まれて、気分よく梅酒を何杯もお代わりし、映画について、俳優について、またその他の事について、一夜楽しく歓談つかまつりました。

なお、「三船」は六本木以外にも人形町に姉妹店がある模様で、お店の人はそちらもかなりプッシュしていた。いずれにしても味はよし、居心地も悪くないので、お近い方、ご興味のある方は是非どうぞ。

コメント

  • 2010/03/20 (Sat) 06:32

    うほっ、これはこれは海を渡ってでも行ってみたいですな。
    Sophieさんの「敏ちゃん」、目に浮かびます。笑
    でも、そこで分かってくれないと!んーーー。
    お店の面構えもいい感じだし、場所柄ガイコクジンも多そうですね。
    キミたちは「サッポロ」を堪能したのだろうとお察しするが、
    拙者は是非とも食べ部で楽しみたいものじゃ。
    それにしても、首都は色んなジャンルがあって良いですねー。

  • 2010/03/21 (Sun) 02:13

    七人の侍サワーがめちゃくちゃ気になります・・・。やっぱり勘兵衛と菊千代かしら。頼むなら。
    そういや、もうすぐシャンテシネで黒澤明生誕100周年記念として、全作一挙上映が始まりますね。時間的にちょうど良かったら「用心棒」あたりを観てみたいです。

  • 2010/03/22 (Mon) 00:01

    吾さん。この店はまだ東京にも2店舗しかないから、もし蝦夷地に出店するとしても随分先の事になるだろうね。この日は残念ながら、キミの目当てのガイジン達は居なかったよ。ワタシ達は無論ビールばかり飲んでたわけじゃなく、バッチリと食べる方も食べたけど、けっこう食べでがあるんだな、ここの料理。酒がダメなキミでも肉料理や甘味類もあるから、機会があれば一度覗いてごらんあれ。

  • 2010/03/22 (Mon) 00:04

    mayumiさん。ワタシはサワーはオーダーしなかったけど、勘兵衛サワーはなかなか美味しそうでしたわよ。
    シャンテシネで黒澤作品リバイバル上映するんですね。一応劇場で観てみてみたいと思うものは、ワタシは「酔いどれ天使」ですかしら。頑張って「白痴」というのもオツかもですね。

  • 2010/03/25 (Thu) 18:22

    kikiさん、「三船」という居酒屋があるということ、聞いてはいましたが、写真やkikiさんの文章を拝見して、安っぽい感じでなくて、きちんとコンセプトに沿った、雰囲気のあるお店のようですね。
    また上京の機会があったらぜひ立ち寄ってみたいです。

    晩年の女性問題で敏ちゃんはかなり叩かれたんでしょうかね?
    その昔、上原謙が同じく女性関係で連日ワイドショーを賑わしていたのをうっすらと覚えていますが、とてもえげつなくて(相手の女性もイケてなかったですもんね)。
    そんな感じで敏ちゃんも報道されていたのかしらん、と思うと悲しくなってしまいますね。それまでの功績なんぞ一切無視されているようで。
    しかし「世界のミフネ」としての経歴が素晴らしかったからこそ、マスコミもここぞとばかりに騒ぎ立てたんでしょうね・・・

    今年は敏ちゃん生誕90周年ですね。黒澤監督も100周年とかで、首都圏での作品上映や、テレビでの上映などありますようで、これを機に敏ちゃんの魅力をもっともっと知らしめてほしいですね。
    敏ちゃんを知らずに死ぬなんて、ニッポン人じゃあないですね。勿体ない!(とわたしは思うんですが・・)

    「どん底」、評価や人気はいまひとつのようですが、わたくし的にはべらんめえ口調の敏ちゃんにシビレる作品でひそかに気にいっています。

  • 2010/03/25 (Thu) 22:40

    ミナリコさんは「三船」をご存知でしたのねん。ワタシは知りませぬでしたが、ワタシ的には行き易いところにあることが分ったので、これからも折に触れて行ってみようかと思っています。居酒屋ですので、そこそこ気軽な感じはありますが、雰囲気は悪くないです。上京された折には是非。

    女性問題の件はワタシも実際に自分の記憶にはっきりあるわけではないのですが、親の話などを聞くと「三船もねぇ、あんなスキャンダルがなければねぇ…」とよく言うので、かなりの騒ぎになったのだと思われますね。奥さんと別れようとしてスッタモンダあったのが逐一報道されちゃってたような感じですかね。離婚調停の法廷闘争も泥沼だったようですし。それまでとにかく、男といえば三船敏郎、みたいな颯爽としたイメージしか無かったから、そのダメージはけっこう大きかったと思います。ここで敏ちゃんファンであるワタシがそんな事を蒸し返しても本末転倒なのでこのへんにしますが、あれさえ無ければねぇ…という感じではありましょうね。いずれにしても、海外での方がずっと敬意をもって扱われているような感じがするんですけどね。そろそろ輝かしい部分をもっとクローズアップさせて日本でも完全復権してもらいたいもんですわね。でも、黒澤作品をもうじきリバイバルするシャンテシネでは、その告知に「用心棒」の予告編が流れたんですが、後ろの中年女子二人組が声を潜めて「やだー、今日の映画が白黒なのかと思っちゃった」「これ、けっこう長いんですよね~」と迷惑そうにひそひそ話をしているのが聞こえてきて、今の一般的な女性の感想はそんな感じなんだろうな、と苦笑しました。黒澤についても、敏ちゃんについても、ね。別にムリに変えようとも思わないですが、今回の特集では何本か観に行って観客席の様子などもチェックしたいと思っています。予告編を久々に観たら、やはり「用心棒」も劇場で観ておこうかな、という気になってきましたわ。それとやっぱり「酔いどれ天使」もね!

  • 2010/03/27 (Sat) 00:33

    私がシャンテで観た予告は「悪い奴ほどよく眠る」でした。スクリーンによって予告違うんですね。
    ちなみに黒澤映画のチケット、結構売れてるみたいですよ。事前に席は予約しておいたほうがよさそうですね。私は観たい映画がことごとくスケジュールと合わない・・・(涙)。「用心棒」とか「天国と地獄」とか「赤ひげ」とか「生きる」とか。これは会社を午後休んで観に行くしかなさそうです・・・。

  • 2010/03/27 (Sat) 01:10

    mayumiさん、ほんとだ。けっこう埋まってますね。トークショーのある回は大盛況の気配だな…。「用心棒」は是が否でも押えなければ。mayumiさん、なかなか都合あいませぬの?まぁ、確かにね~。「七人の侍」もこのチャンスに劇場で見るかなとも思ったけど、なんせ長いし、上映スケジュールが都合と合わないしで見送るハメになりそうです。他の観たい作品については頑張らなくっちゃ。ふ~~~。地の利を生かして休日の初回を狙おうかな。

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