「マイレージ、マイライフ」 (UP IN THE AIR)

~そして僕は途方に暮れる~
2009年 米 ジェイソン・ライトマン監督



「サンキュー・スモーキング」以来、ジェイソン・ライトマンはワタシの中で次回作が楽しみな監督の筆頭にポジショニングされている。「JUNO」もなかなかいい味わいだったけれど、今回は特にキャストとストーリーがとてもハマっていそうなので封切りを首を長?くして待っていた。3月公開の映画の中で、実はこれが一番楽しみでした。アカデミー監督賞も、ひそかにジェイソン・ライトマンが取れるといいな、とも思っていたけれど、今年はビグロー女史の一人勝ち。元亭主も吹っ飛んだ超ド級のパワーゆえワタクシもそれは異議なし。
まぁライトマン監督には、また機会もありましょうしね。
ともあれ「マイレージ、マイライフ」、超満員の日比谷シャンテシネにて観賞して参りました。

予告編を観てイメージしていたテーマ曲は、明るいアップテンポなノリのスイングジャズだった。ズバリ言うと「Come Fly with me」みたいな曲。ところが明るいノリとは無縁なブルース調で、ん~~~という感じ。何かちょっとクタビレている。ほぉ~お。

が、始まるとクタビレなどどこへやら、旅から旅へとなれた手つきで旅支度をし、どこでもカードをシャシャッと通してまかり通り、キャリーバッグの取っ手をシャカシャカ出して畳んで、昨日は東、今日は西、明日は南かそれとも北か、という年柄年中旅がらすの機上の人であるライアン(ジョージ・クルーニー)の動きを、切れのいい編集でテキパキ見せる。

梗概:ライアンは企業のリストラ対象者に解雇を通告する引導渡し屋である。広いアメリカを股にかけ、移動に次ぐ移動でいつも旅の空。移動が彼の人生だったが、彼はそんな生き方を楽しんでもいた。が、そんなある日、出張先で一人の女に出会ったことから、少しづつ考えが変わり始めるのだが…。


空港でもホテルでもレンタカーデスクでも、各々のカードを出してささっと通る

本作にはオトナと小娘と二人の女優が登場する。「シャーロック・ホームズ」の二人の女優は魅力薄だったが、「マイレージ、マイライフ」 の女優たちは二人とも強力に持ち味を出していた。特にオトナの女性アレックスを演じたヴェラ・ファーミガ、なかなか魅力的でしたねぇ。アカデミーの授賞式では、なんだか地味なおばさんという感じであまりイケてなかったヴェラだが、プロポーションも良いし、本作の中ではとても魅力的だった。ワタシはこの作品が彼女との初おめもじ。いい女の雰囲気が自然によく出ていて好感が持てた。程がよくてさらりとしていて、ワケ知りで、引き時を知っていて…。お互い出張ばかりのライアンとアレックスは似たもの同志。あっという間に惹かれ合うのだが、彼女は何より彼が精神的に同類であるところを気に入っていた、という気配。



一方、会社が将来を担う逸材として期待をかける新人ナタリー(アナ・ケンドリック)は、嵩むばかりの出張費を削減するため、PCによるネットを通じた通告システムに切り替える案を出して社長に気に入られるが、“出張こそ人生”のライアンにはトンでもハップンな制度変更。が、あろうことか、この新人を実地に研修させるため通告行脚の旅に同行させるハメにまでなっちゃって、オジサンはウンザリ、ゲンナリだ。

小娘ナタリーが飛行機の中でノートPCを出して、親の敵みたいな勢いでキーを叩きまくる様子をライアンがやんわり咎めるシーンに笑った。この、親の敵みたいに凄い勢いでキーを叩く人、けっこう多いですね。シメのEnterキーを叩く音がひときわパッチィーンと激しいというタイプ。ワタシの日頃の観察結果によると、こういう人は引き出しの開け閉めなども必ずガーンと音をたてる傾向がありますねぇ。ともあれ、こういうのは世界共通だな、となんだか可笑しかった。このナタリーのキャラも小賢しいのと若気の至りでカワイイのとがない交ぜになってうまく作られている。観客に嫌われないキャラがちゃんと出来ている。しっかし、23歳で結婚して子供を作って云々とナタリーがまくしたてるシーンで、そんな価値観の子もいまどき存在するのかしらん、しかもアメリカに~~~なんて思ったけれど、案外、長引く不況の今だからこそ、そういう価値観の若い子も増えているのかもしれないなと思ったりもした。


トム・クルーズを女にしたような顔のアナ・ケンドリック

この小娘ナタリーの考えだす浅薄なネット通告システムがすぐに問題を生じる事も予測はつくし、ビジネスライクな旅がらすのライアンの“目標”がせっせとマイルを貯めて航空会社の特別会員用プラチナ・カードを貰うこと、そしてフィンチ機長(サム・エリオット)と直接話をすること、などという唖然とするほど他愛もないものだったりするのに拍子抜けもするが、そんなライアンが、それまで快適だと思い、不都合などつゆさら感じなかった人生に、ふと「これでいいのか~」と思うに至る流れは、あざとくなく、笑いを交えつつ、自然に語られていたと思う。
出張を終えたライアンが戻る、オマハの賃貸アパートの無味乾燥さ…。



ゆきずりの軽い楽しみのつもりが、いつしか、かけがえないものになっていた。
もうこれ以上人生の“大事な時間”を失えないと行動に出たライアンを待ち受けていた皮肉な結末とは…。
ある程度のネタバレはありでも、肝心なところは書かないというルールは当ブログにもありますゆえ、これは観てのお楽しみ。 いやいやいや。愕然と佇むライアンを観ながら、こちらも途方に暮れた気分になった。
…そう来たか。

ラストシーン、空港ロビーで飛行機の出発便がずらりと並ぶ黒いボードが壁のようにそそり立つ。ライアンを取り囲む、お馴染みの無味乾燥な世界だが、今の彼はその無味乾燥に気づいてしまったのだ。彼はこの先、どうなるのか。こうして300日以上を旅で費やし続けて、ある日、正真正銘の爺さんになっている自分に気づくのか…。空港でボードを見上げるジョージ・クルーニーの口元がどことなく老人のそれに近く見える。絶え間ない移動の中に消滅しかかっているかりそめの人生から、彼が抜け出せる時は来るのだろうか…。

というわけで、ジェイソン・ライトマンはシニカルでアイロニカルな視点を持ちつつ、それをセンスのいいユーモアと、あざとくないほのかな暖かさで包む語り口がうまい。そこに彼ならではの味があってとても好きなのだ。今回も、彼のそんな持ち味がよく活かされた作品だった。


ジェイソン・ライトマン監督 ルックスも何となく好ましい若手監督

ジョジクルはまさにハマり役。この人を最初に観たのはご他聞に洩れず「ER」の第1シーズンだったが、あの時は若白髪でモッサリした男だなぁと思っていた。肉付きも良かったし、どこかモッタリとした印象だった。が、売れ出して化けましたねぇ。年々歳々男振りがよくなっている気がする。男は年を取れば取るほど良くなる。女はその逆だ、とココ・シャネルも言っている。まさにその通り。ケイリー・グラントの衣鉢を継げるのはこの人だけのような気もするので、ロマンチック・サスペンスなどにも出て欲しいと思う次第。またジェイソン・ライトマン作品にはお馴染みのJ・K・シモンズもちょろりと友情出演的に登場していて、ニヤリとさせられた。「マイレージ・マイライフ」という邦題も、相変わらずイマイチなものが多い中、うまい邦題だなと思った。

コメント

  • 2010/04/01 (Thu) 01:22
    なるほど

    こんにちは。
    アナ・ケンドリック嬢、なぜか馴染みのある顔だと思いましたが、なるほどトム・クルーズに似てますね!納得です。

  • 2010/04/01 (Thu) 07:12

    ナドレックさん。でしょ?アナ・ケンドリックの異様に吊り上がった眉毛や、やたら張り切ったあの感じ。彼を思い出しますよね。

  • 2010/04/01 (Thu) 08:18
    ねたばれコメントです

    たびたびすみません。

    >ネット通告システムがすぐに問題を生じる事

    劇中でシステムには問題は生じていなかったのでは?
    システムを中止したきっかけは、ナタリーに通告された元従業員が自殺したために、システムの推進者たるナタリーが辞めてしまったからですが、あれは対面で通告した相手でしたね。ライアンも一緒にいたときの。
    しかも、ナタリーは通告時の自殺予告を重く受け止めていたのに、ライアンは「ああいうことを云う奴もいるんだ。気にするな。」と受け流してしまった。ライアンは、自殺したことを聞いても、生前に自殺をほのめかされていたことを思い出せず、「そんな兆候はなかった」と言い切ってしまいます。
    ライアンは自分の流儀に自信を持っていたはずですが、このエピソードは、客観的に見てもライアンのやり方はちゃんと機能しなくなっている、ということを示しているのではないでしょうか。

    私生活の面ではアレックスの件があっても、ビジネス面はとりあえずいままで通り、と見えるものの、実はすでにビジネスでも行き詰りはじめている。
    そんな風に私は見ました。

  • 2010/04/02 (Fri) 00:16

    ナドレックさん。再びありがとうございます。
    おっしゃる通り、ナタリーの提唱したシステムそのものが映画の中で頓挫したわけではないですが、あれは早晩頓挫するんじゃなかろうかというワタシの主観が入りました。というのも人間相手の仕事なわけだから、相手の心理を読んだテクニックと年季がやはり必要不可欠だろうな、というのが観ていて伝わってきましたよね。人間対人間の仕事だな、と。自殺した女性を面談したのはナタリーの方でした。ライアンがやっていたら、きっとああいう事にはならなかったんじゃないかと思います。なんでもシステマティックに割り切って通告すればいいというナタリーの姿勢がああいう結果を招いたという風にも取れる気がするんですね。そういうナタリーが合理性だけで考え出したネット通告システムはいずれこういう問題をほうぼうで引き起こすだろう、という伏せ線じゃないかとワタシは思いました。ナタリーが自分の未熟さを痛感して会社を去ること=システムが頓挫すること、じゃないかと。ただ、あの女性が自殺しそうだという気配を読み取れなかったのはライアンの直感にも曇りが出てきた証左と言えなくもないですし、それが、彼の天職だったはずのあの仕事も徐々に危うくなってきているという暗示だというお説は、確かにそういうニュアンスもこめられているのかも、と思います。でも、もしそうだとするとライアンはお先真っ暗ですねぇ。

  • 2010/04/11 (Sun) 23:01

    脚本が前半は飛ばしてて大爆笑で見ていたのですが、後半ちょっと思わぬ展開とエンディング。何となくすごくいいアイディアで書き始めたもののどう終息させるかが今ひとつクリアにならぬままに書き進んでしまったような、そんな気が。それにしてもウィスコンシンでの二人、まるで周りから浮いていて面白かったです。女優陣二人ともぴったりでしたねえ、Alexは私ディパーティッドで見ていたことにimdbで見て気付きました。もちろん例のごとく見ている最中ずっと「この人どこで見たっけ」状態。Natalieも笑えるキャラでしたよね。青い感じがよく出ていてぴったりでした。

  • 2010/04/12 (Mon) 00:27

    Sophieさん、ご覧になったのねん。これはオリジナル脚本じゃなくて一応原作があるのよねん。だからアイデアを思いついて書き始めたが…という事ではないと思うざますわ。
    それにしても、アレックスの独身ぶりっこはちょっと行き過ぎな感じも致さない?観終ってみると。でも旅先で独身を装う既婚男性は当たり前のように多いけど、女性でそういうのが板についた人を描いたものは少なかったので印象が際立ったという事もあるかな(笑)あの小娘ナタリーもなかなかいい味を出していたわよね。ああいうキャラで憎めない感じを出すのって、女優によるところ大だものね。
    テンポが良くて笑いもあってちょっとホロニガ…やはりジェイソン・ライトマン作品には今後も注目ですわ。

  • 2011/02/06 (Sun) 11:26

    ちょっと古いところから失礼します。
    軽~い気持ちで見始めたのに、あまりにダークというかビターな結末でビックリしました。
    ライアンは一体これからどうすりゃいいんでしょうね。
    やっと気づいた“かけがえのない存在”は幻に終わり、仕事は仕事で、人一人を死に追いやるほどの影響力を持ったものだ、ということを改めて思い知らされ…。(あの女性が死ぬまで、ライアンはやっぱり本質的には自分のことしか考えていなかったんだと思います)
    映画の始まりでは“生きがい”の象徴のように思えた離発着の掲示板が、ラストではもはや無味乾燥の極みにしか見えないというところで、監督の手腕に唸りました。

    J.K.ジモンズは常連さんなんですね。私はキーラ・セジウィックが出ているドラマ「クローサー」のイメージが強いんですが、どこで見ても結構好きな役者さんです。(でも髪がある頃の姿を想像できない…)
    ヴェラ・ファーミガも魅力的で(ライアンと山ほどのメンバーズカードを出し合うシーンには笑った)、「Source Code」がますます楽しみになりましたよ。
    次は「JUNO」見てみます~。

  • 2011/02/06 (Sun) 19:09

    xiangさん。古い記事だなんて気にせずに、どんどんどうぞ。コメントは大歓迎です。
    そうなんですよね、これ。もっと軽いノリで、ちょっとシニカルなコメディかな、と思ってたんですが、かなりのホロニガ度でラストがドーンと来ますよね。発着板の前で途方に暮れるライアンの姿がなんともいえず…。人生をナメて生きてると、どこかでツケは払わされるってことでもありましょうか。同じ生活、同じ眺めでも精神風土が変ると全く別なものに変容してしまう。限りなく自由だった筈なのに、どこにもいけない先も見えない希望のない現実に囲まれていた事に気付くライアン。まぁ、気づくのがもっと遅くなくて良かったと思うのか、いっそリタイアするまで気づかずに調子こいて飛び回っていられた方が良かったと思うのか…。
    そして確かに、死ぬと言ってアッサリと死んでしまう人に出くわしたのは長い経験をもってしても、彼にとってもあの時が初めてだったんでしょうね。
    J.K.シモンズは「サンキュー・スモーキング」から毎回ジェイソン・ライトマン作品に出てます。「JUNO」ご覧になるんですね。「JUNO」ではパパ役ですわよん。そして「サンキュー・スモーキング」もお勧めです。
    「マイレージ~」でのヴェラ・ファーミガ、なかなか魅力的でしたよね。大人と呼ばれる年齢になったらこういう具合にいきたいもんだ、というムードを出してて好感度高かったです。「Source Code」楽しみですね。ちゃんと封切られるといいんだけど…。

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