「暗黒街の対決」

~白いトレンチの伊達男~
1960年 東宝 岡本喜八監督


岡本喜八的リズムと遊びに溢れたアクション映画。原作が大藪春彦だというのは今回久々に観て初めて気づいた。乾いたコメディタッチながら、和製ハードボイルドなわけなんですね。この作品での敏ちゃんは男盛りのしびれるような男っぷりで、苦みばしってカラっと凄腕な刑事を演じている。油をつけた黒髪の艶や、広い肩幅で着こなす背広、背広を脱いだ時の拳銃ホルダーをつけたYシャツ姿、バーのカウンターで煙草をくゆらせる様子など、敏ちゃんファンには堪えられないお宝ショット満載。極めつけはオフホワイトのトレンチコートを羽織った姿。あまりの男前っぷりにこちらは始終、顔がゆるみっぱなし。
鶴田浩二との共演で、敏ちゃんとしては数少ない現代劇の娯楽アクション作品だ。

東宝暗黒街シリーズとしては、これに先立つ作品として山本嘉次郎監督の「暗黒街」を皮きりとして、岡本喜八監督で「暗黒街の顔役」(1959年)というのがある。いずれもワタシは未見なのだけど、前者は敏ちゃんが警察官、鶴田がやくざ、後者は敏ちゃんは自動車修理工場のオヤジか何かの役で、主演は鶴田浩二
この「暗黒街の対決」は暗黒街シリーズの代表作というところだろうか。映画としてはB級アクションというノリで、悪くはないが、さほどの出来でもない、という感じ。好きな人は好き、という類の映画だろう。ところどころに喜八流のオフビートなコメディセンスが展開されるのだが、天本英世がキャバレーのステージで披露するなんちゃってなコーラスにはドン引き。黒ずくめの殺し屋スタイルながら、ギャグのような軽いノリで登場するミッキー・カーティスは、どことなく日活無国籍アクションのフィーリングだ。そんな中、敏ちゃんの目にもとまらぬ倍速往復ビンタなどはマンガみたいで楽しい。敏ちゃん自身も肩の力を抜いて楽しそうに演じているのが伝わってくる。


ちょろちょろした殺し屋のミッキー・カーティスと

岡本喜八のファンにとっては喜八イズムを楽しむ作品だろうし、ワタシのような敏ちゃんファンにとっては、娯楽アクションの中で男盛りの敏ちゃんの苦みばしった男っぷりを楽しく観賞する作品という事になる。そういう意味では惚れ惚れするようなショットが満載で、あらちょっと、今のシーンすごくいい表情だったわ、もう一度じっくり見なくちゃ、なんて小返しに何度も戻ったりしつつの観賞なので、なかなか話が先に進まない。
それにしても、今も昔も日本映画の世界で、こんな風に絵になる男は彼の他には存在しないと思う。



一応、お話はというと、
暴力団の抗争の舞台になってしまった荒神市。そこに札付きの汚職刑事・藤岡(三船敏郎)が東京から左遷されてくる。鶴田浩二は抗争のまきぞえになって妻が殺され、ヤクザの足を洗ってバーのマスターになっている男、村田鉄雄。汚職刑事という触れ込みの藤岡は対立する双方の暴力団に抱き込まれるとみせかけて…というなにやら「用心棒」のような話だが、パロディかと思いきや本作はなんと「用心棒」の前年に作られた作品なのだった。

対立する2つの組織、小塚組と大岡組。小塚組長を田崎潤、大岡組長を河津清三郎が演じているが、なんだかこの二人の顔が似ているので、暫くすると、あれ~どっちがどっちだったっけ~なんて混乱してしまったりして。だが、大岡組長はハイカラ系の組長で悪玉、小塚組長は昔ながらの浪花節系着流しの組長で善玉という色合いの違いはある。ドライなアクションの中に、一人しがらんだ任侠映画のフィーリングでウェットな鶴田浩二は当然、この小塚組のいい顔だったという設定。「ひ」と「し」が逆になるという彼独特の台詞廻しも、なんだか東映の映画でも観ているような感じがして一人浮いている気配もあるが、鶴田浩二はまぁそんなもんでしょうね。平田明彦が冷静な悪徳弁護士役でなかなかいい味を出していた。



鶴田の妻を殺した男の妹であるナイトクラブのホステス役に司葉子。ホステスというにはこぎれいなOLさんのアルバイトみたいでアマチュアっぽい感じだけれど、若くて綺麗なので観ている分には楽しい。
彼女が煙草をくわえると、すっとマッチを擦って差し出す敏ちゃんの仕草がいい感じ。
また、「俺のところで油売ってるとオヤジに妬かれるぞ」という敏ちゃんに「あなたのは口先だけよ。…だったら私に今ここでキスしてみてよ」と言われて微かに煙草の煙がけむたいような、困ったような表情を浮かべるところなどもいい。が、なによりいいのは、いつもどことなく余裕があり、総体にからっとした敏ちゃん刑事のキャラだろう。ドライで爽快、ちらっと含羞があって愛嬌もある。そして強い。とにかく強い。



カラリとした敏ちゃんと、ウェットな鶴田の間に流れる奇妙な友情とその結末も悪くない。
B級アクションだが、95分と短いしテンポもいいのでそれなりに楽しめるし、何よりワタシ的にはダンディな敏ちゃんを観賞できる作品として捨て難い1本になっている。


どうですか、この日本人離れのした男っぷり





この時期の敏ちゃんの現代劇アクションとしては谷口千吉監督の「男対男」というのもある。


中期の谷口千吉作品なので、出来はどういう具合なのだか分からないのだが、共演が池部良なので一度観てみたいような気もしている。けれど、これまで一度もお目にかかった事がない。日本映画専門チャンネルなら、そのうち流してくれるだろうとは思っているのだけど…どうでしょうか。

コメント

  • 2010/04/05 (Mon) 22:54

    kikiさん、まさに今月は敏ちゃん月間となっておりますね!毎回楽しく拝見させていただいてます。
    いつもkikiさんの的確なコメントに「うん、そうそう!」とひとりごちています。自分で言いたくても表現できないことをkikiさんがキッチリまとめてくださっていて、「そう、これが言いたかったんだよね~」とかゆいところに手が届く(?)kikiさんに脱帽です。

    この作品はamazonでDVDを購入して一度見たきりなのですが、今回kikiさんのレビューを読んで、目からうろこでした。というのも、わたしは田崎潤と河津清三郎の区別がついておらず、一人二役をしているんだとばかり思ってました。呆れますね~。なので、筋も理解できてなかった・・。
    でも敏ちゃんの雄姿さえ見れたら満足でしたので、筋なんぞ分からずとも満足してたように思います(笑)。

    ほんとうに敏ちゃんていい男ですよね。自分がファンだからひいき目で見てしまうのかしらん、とも思ったりしてましたが、kikiさんももちろん敏ちゃんLOVEでいらっしゃると思いますが、kikiさんがきっぱり「いい男」と断言されるのを読むにつけ、やっぱりこれは一ファンのひいき目ではなく、まぎれもない事実なんだ、と思うようになりました(笑)!

    話はそれますが、昨日本棚を整理していたら、「向田邦子の青春」(向田和子著・文藝春秋刊)というエッセイ集が出てきました。写真も豊富に掲載されているのですが、なにげにパラパラめくっていると、なんと向田氏と敏ちゃん(その他数名)が東宝撮影所で記念撮影したものが載っており、狂喜乱舞してしまいました。
    恐らく2002年当時買った文庫だと思われますが、当然その頃は敏ちゃんの存在など名前しか知らなかったワタクシです。しかしわたしの本棚の中にはその頃から敏ちゃんがひっそりと御座していたのかと思うと思わずじ~ん、としたのでした。
    お顔の様子を拝見するに、恐らく60年くらいのものではないかなと思います。口を真一文字にひきしめて、白いシャツ、白いズボン、白い靴で仁王立ちの敏ちゃん、かっこよすぎてクラクラします(笑)。

    わたしは最近、鶴田浩二も気になるのです。好きという訳ではないのですけど・・・。
    読売新聞朝刊に約ひと月にわたって、脚本家の山田太一氏の人生を辿る記事が連載されていまして、NHKで「男たちの旅路」というドラマの脚本を書かれたとの記述がありました。
    主演が鶴田浩二で、何作か作られたようで、その中の一本に「シルバーシート」という作品があるそうです。笠智衆、志村喬、殿山泰司、加藤嘉、藤原釜足が出演しているそうです。この出演陣を見ただけでとっても気になる作品ではありませんか??

    「男対男」、わたしもとっても気になります!
    タイトルとこの写真からしてもう敏ちゃんは強い男を熱演していそうですね。

    つい長くなってしまいました。スミマセン・・
    またkikiさんの敏ちゃん評、首を長くして楽しみに待っています!!


  • 2010/04/06 (Tue) 00:22

    ミナリコさん。今月は黒澤映画の回顧上映をしている事もあり、この際だからと敏ちゃんものの連打になってます。で、黒澤作品ばかりじゃヘビーなので、こんな珍品も引っ張り出してみました。敏ちゃんは黒澤とのコンビが真骨頂だけど、稲垣浩とも岡本喜八ともよく組んでいるので、喜八ものも一度書いておこうかな、と。でも「日本のいちばん長い日」はあまりに重いので「暗黒街の対決」で軽く、ね。(笑)ミナリコさんは、これのDVD買われたんですね。ワタシはけっこう前にVHSに録画したのを持ってます。もう画質がきつくなっちゃって…。田崎潤と河津清三郎、顔が似すぎですよね。どっちがどっちだかって感じですわね、やっぱり。全然違う系統の俳優を選べばいいのにね。まぁ、この映画は筋なんかどうでもいい系の映画ではありますが。

    敏ちゃんは誰が見たっていい男ですわよ。それも滅多なことではお目にかかれないようなすこぶるつきの男前ですことよん。太鼓判。

    「向田邦子の青春」の中に彼女が敏ちゃんと写った写真があるんですか。今度チェックしてみようっと。向田邦子は若い頃10年ぐらい映画雑誌の記者をしてたから、取材の時の写真なんでしょうね。60年代の敏ちゃんにじかに会えたなんて羨ましいなぁ。そういえば向田邦子も一時期愛読してましたわ。マーロン・ブランドや、ジャン・マレーも間近に見る機会があったと書いてますね。それはともかく彼女の真骨頂はやはりエッセイでしょうね。小説はさほどとも思わないけれどエッセイはやはり巧いなぁと思います。ただ、彼女の八方美人っぷりが時折文章にも窺えたりするところが、ワタシは段々と鼻につくようになっちゃったんですけれど(笑)

    鶴田浩二が気になりますか。ふ~ん。鶴田は持ち味がウェットだし、若い頃のスポイルされた感じも、年取ってからの説教臭い感じもワタシはどうも好きじゃないんですが、鶴田と山田太一というとやはりNHKの「男たちの旅路」になるんでしょうね。ワタシはもっと後年の「シャツの店」の方が好きなんですが…。でもその「シルバーシート」の回はうっすらと覚えています。なんか老人たちが主張を抱えて都電の車両にたてこもる、というような話だったような気がするんですが、違うかな。

    「男対男」、気になるでしょう?池部と共演というのがミソですよね。(ワタシ、池部良も好きなので)ついでに言うと、これは加山雄三のデビュー作でもあるらしいです。それってワタシ的にはどうでもいい事なのだけど(笑)

    長文コメント、歓迎ですことよん。ワタシの記事も毎度長いですしね。ふほ。書きたい事がありすぎて、なかなか短くできないんですのよね。

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