「ロード・オブ・ザ・リング」 (THE LORD OF THE RINGS)三部作

~よく出来てるけど、やたらに長い!~
2001/2002/2003年 米/ニュージーランド ピーター・ジャクソン監督



先日、何だかいかにもなファンタジーが観たいという、ワタシにしてはかなり珍しい気持ちになったので、指輪三部作を観賞。1作目だけは劇場に観に行ったのだが2作目以降はなんだかあまり興味を引かれなくなり、劇場へも行かなかったし、映画チャンネルなどで放映されても斜め見とかチラ見ぐらいでほぼスルーしてきたので、ちゃんと観るのは今回が初めてである。1作目が封切られてほぼ10年が経過したわけだが、3Dじゃなくても見応えのある映像はさすがファンタジー映画の金字塔であるなぁと今更に感心した。

前にも書いたかもしれないけれど、16年ほど前に初めてパリに行ったとき、ワタシはパリの本屋で挿絵のきれいな絵本を何冊か買って帰る事もひそかに目的としていたので、いろんな通りを歩いては本屋があると冷やかして廻った。どこかの裏通りにあった本屋で素敵な挿絵の沢山入った挿絵集をみつけ、これはまさに探していたような本だわと、大喜びで買って帰った。
その本のタイトルは「LE MONDE DE TOLKIEN(トールキンの世界)」といった。巻頭にJ.R.R.トールキンについての紹介や、見開きで右ページに挿絵、左ページにどのシーンを描いたものかについての解説があったが、フランス語の読めないワタシには、それはトールキンという作家の書いた物語の世界を、幾人かの画家がシーンを選んで描いた絵を収めている本なのだという事しか分からなかったが、どれもこれもイマジネーションを刺激されるような絵で、ワタシは子供の頃に母が買ってくれた、岩波から出ていた海外物の翻訳絵本の美しい挿絵を思いだし、時折取り出してはページをめくって楽しんでいた。



その後、随分たってから「ロード・オブ・ザ・リング」1作目が封切られ、何となく興味が湧いて劇場に見に行った。とんがり帽子の爺さん(ガンダルフ)が出て来たあたりで、あれ~なんだかあの本の世界に似てるなぁ、と思ったりしていたのだが、川を渡ったエルフの姫を、敵方が追って川に入ろうとした時に、どーっと上流から激しい流れが襲ってきて、その波頭が何頭もの馬の群れの形になった時に、「あ!やっぱりあれだ」と遂に分ったのだった。「指輪物語」というのは漠然とタイトルだけは知っていたが、知っているのはそれだけだったので、パリで以前買ってきた挿絵集が、その物語のものだとは映画を観るまで気づかなかった。映画が封切られてから、書店にはワタシがパリで買ったあの挿絵集の日本語版が並ぶようになった。自分だけのひそかな楽しみのつもりでいたら、公けなものになってしまったようで、なぁんだ詰まらないな、というような気分になったのを思い出す。
この本は1992年にイギリスのハーパー・コリンズ社から出版されたもので元は英語版なのだろう。
ワタシが旅先で買ったのはそのフランス語版だったというわけである。



今回、1作目は久々に、2作目、3作目は通して観るのは初めて、というような状況なので、その挿絵集を手元に置いて、時折ページを繰りながら該当するシーンを観ていたのだが、あの挿絵の世界をほぼそのまま映像化しているのは実にお見事。でも逆に言えば、そういう挿絵があったのでイメージを構築し易かったという事もあるのかもしれない。ふんどし一丁で生魚をむしゃむしゃと食べるゴラムのキャラクター・デザインなど、殆ど Inger Edelfeld の絵そのままであるし、イアン・マッケランのガンダルフはJohn Howeの描くガンダルフそのまま、クリストファー・リーが演じていたサルマンも、Tony Galuidi の描くサルマンそのまま、という感じがする。





なかんずく、川の水が馬の姿になって敵の兵士をどーっと押し流すシーンは、Ted Nasmithの挿絵で観たままのイメージが映像化されていて、CGの時代になってイマジネーションの世界の具現化というのが易々と可能になったのだなぁ、としみじみ思うわけである。ただ、可能になったからといって全てのファンタジー映画の映像が素晴らしいかというとそんな事はなく、それはクリエイターやディレクターのセンスによる。
この作品の成功は、Alan Lee や John Howeなどトールキンの世界をイラストで描いた気鋭のアーティスト達のイマジネーションが造り出した世界観によるところ大である。映画のコンセプチュアル・デザインには彼らが名を連ねている。映画化された作品は、忠実に彼らのイメージを再現した、という感じ。だが、いくらCGを使っているからといっても生身の俳優がキャラクターを演じているのだから、物語にふさわしい容姿と演技力のある俳優が居なければ映画は出来ない。そういう点で欧米はそういう人材に事欠かないというのも日本とは違うところ。日本映画はそもそもファンタジーというのが難しい。ふさわしい俳優も殆ど居ない。せいぜいで「陰陽師」ぐらいなところが関の山なのである。



リヴ・タイラーや、ケイト・ブランシェットら、エルフの雅びな女性が登場するシーンはすべからく夢幻的に美しく撮られていて、いかにも本の挿絵からそのまま抜け出してきたかのよう。リヴ・タイラーを随分久々に観るなぁ、と思いつつ、今この作品を撮ったらリヴ・タイラーの役はアン・ハサウェイあたりが演じるのだろうかな、と思ったりした。リヴ・タイラー、昨今お見かけしないような気がするのだけど、子育て休業中だろうか。ワタシが観ていないだけなのかしらん。ケイト・ブランシェットの森の奥方様もリヴ・タイラーのエルフの王女様もAlan Leeの描く挿絵のムードそのまま。映画では、3作目の大団円に彼女たちが着けている金色の糸のような金属で作られた繊細な髪飾りが殊のほか美しかった。





またエルフの王女アルウェンと北のさすらい人で実は王位の継承者であるアラゴルンとのロマンスも、非常にロマンティックに撮られており、闘いばかりでは繋ぎきれない観客の興味を繋ぐ大きな要素になっているわけですね。アラゴルン(ワタシはなぜかアラルゴンと覚えてしまってなかなかそれが抜けないんざます)といえば、ヴィゴ・モーテンセン。この時も眉毛は薄いのだが、ちょっと存在感は軽めながら、いい感じのヒーローを演じてますね。1作目を観た時には、あら、ちょっといいじゃない、と思ったのに、その後あっという間に忘れてしまっていたヴィゴなのだが、ここ2年ほどの間にあれこれと観て、ヴィゴってやはりいい俳優だな、と改めて思ったりしている昨今。でも、あれこれと観ると、ヴィゴは「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズよりも「インディアン・ランナー」「イースタン・プロミス」あたりの方がワタシには印象深い。


ロマンスなくしてファンタジーなし

また、長い髪の弓矢の名手で、これぞまさしく萩尾望都がファンタジックなSF作品で描きそうなキャラであるレゴラスのオーランド・ブルーム。ほんと、少女漫画のキャラみたい。彼に限らずエルフの不老のロンゲ美青年たちは(ヒューゴ・ウィーヴィングを除き)萩尾望都臭がぷんぷんするのが妙に受けてしまった。


「マージナル」などに登場しそうなオーランド・ブルームのレゴラス

今回、ちゃんと3作目を観て、ショーン・ビーンが演じていたボロミアの弟ファラミア(デヴィッド・ウェンハム)がとことん実の父に疎まれる様子が気の毒なのと、弟役とはいえ、うまいぐあいにショーン・ビーンと面差しの似た俳優を持ってきたなぁ、と感心したのでちょっと印象に残った。そんなに勇猛な戦士だったイメージでもないボロミアだが、父と弟には英雄として美化されており、1作目であっという間に姿を消したかと思った豆さまことビーンも3作目にもちょろんと登場していて、まぁしぶとい、と思った。また、イライジャ・ウッドを筆頭に、子供サイズのホビットが画面の中でいつも違和感なく子供サイズであり、サイズばかりでなく、イライジャ・ウッド以外のホビットを演じた俳優たちも、みなオトナ子供のような人物を違和感なく演じているのもふぅん、と思った。それにしてもフロドって、指輪の誘惑に絶えず負けそうになり、常に弱っちく襲われて、そのつど誰かに助けてもらっているのねぇ、当然の事ながら彼一人だったらこのクェストは全然ムリだったのねぇ、などとも今更に思ったりして。



1作目の最後に登場する湖の渓谷の左右の岩に彫られた巨大な古代の王の一対の像を観ていて、大昔に観た「ネバー・エンディング・ストーリー」で、砂漠の真ん中に向き合って座っている妙にセクシーな一対のスフィンクス像を思い出した。共通点は巨大な像の間を登場人物たちが通り抜ける、というところだけなのだけど…。

夢幻的で美しいシーンや、いかにもファンタジックな登場人物、森や湖、山などの背景の自然描写、また城や要塞、塔などの建造物など、CGならではのイマジネーションの世界が展開し、その映像のクォリティは10年経っても些かも衰えず、映画の映像表現というのは2Dで十分なのだな、と改めて感じさせてくれる作品。ただ、100%CGで作り上げたものも、俳優が特殊メイクをしているものも、登場する容貌魁偉な怪物達が、全て他のCGアドベンチャー物に登場するのと大差ないような、グロテスクで、ありがちなシロモノであるのにはちょっとガックリした。歯並びの悪いグロテスクな怪物が首を捻りながらぐわ~ぉと吼えるようなのってお約束みたいに色んな映画で見かけるけれど、それはもしかして、この作品が最初だったりするのだろうか…。


こういう手合いですね ばばっちいなぁ…

それにしても、1本だけでも長いのに、それを3本観るとなると、かなりエネルギーを必要としますわね。(途中、あまり興味のないところは3倍速でピュルピュルとはしょって観賞。だって全部通常速度で観てたら大変なんだもの)でも、原作はもっと長いんだとか。…うへぇ。
書く方も読む方も、そして映像化するのも、それを観るのにも、心身共にかなり体力が要りますね。
ファンタジーってつくづくと力技の所産なのである。

コメント

  • 2010/05/02 (Sun) 23:56

    kikiさん、ついに3部作全部ご覧になられましたのねん。でも3倍速もありかあ。確かに長いもんね。私は夫と付き合いだした頃、是非読んで欲しいと全9巻本を買われちゃってしぶしぶ読みましたのよ。でも読み始めたら意外におもしろかったけどさ、だからうちではロードオブザリングはDVDスペシャル版みたいなのですごくたくさんあります。本作以外のメイキングも本作以上に長くって。もちろん私は見ちゃいませんが。出ていた俳優さんみんな良かったけど、やっぱピータージャクソンの指輪物語に対する思い入れの強さが一番功を奏してるって感じがします。

  • 2010/05/03 (Mon) 02:40

    3部作、ご覧になったのですね~。私はこの作品のヴィゴが一番好きですわ。「アラゴルン、素敵~♪」と思いながら観ていた記憶が・・・(笑)。
    で、kikiさんが仰られてるボロミア。本当はもっといい人らしいんですよ。原作では。原作ファンの人たちが「あまりにも扱いが酷い」と抗議したらしいです。日本語訳も悪かったみたいですねえ。
    オーランド・ブルームはこの作品で一気に人気が出ましたね。確かに少女漫画に出てきそうなキャラですよねえ(笑)。

  • 2010/05/03 (Mon) 09:12

    Sophieさん。2作目、3作目も遂に観ましたわ。1作目は通常速度でじっくりと観たのだけど、2、3作目はスペシャル・エディションなんかチョイスしちゃったもんで余計に長くなっちゃったゆえ、移動シーンとかモブの戦闘シーンなどを3倍速でちゅるちゅるっと失礼してしまいましたのよ。そういえば旦那さん、これお好きだと言ってらしたわね。そして、ピーター・ジャクソン。おっしゃる通り、確かに彼の強い思い入れと監督としての力量が無ければこんな長い話をテンションを落さずに撮り切る事は出来なかったですわね。「乙女の祈り」の時からストーリーテリングとファンタジックな映像処理に才能の片鱗が見えていたけど、これで爆発したものね。凡庸な監督が撮ってたら冗長になって目もあてられないことになったでしょうからねぇ。

  • 2010/05/03 (Mon) 09:19

    mayumiさん。遂に全部通して観ましたよ。(時折飛ばしつつも…)ヴィゴもオーリーもこの作品でブレイクしたようなものだから、やはりいい感じに光ってますよね。ボロミアは原作ではもっといい人なんですか。なんか豆さまが演じていると、何もしなくても何か企んでる人みたいに見えちゃうものねぇ。3作目で急に人格者みたいにフォローされてたのは、その原作ファンの抗議ゆえなのかしらん(笑)強力な原作ファンのいる作品を映画化するというのは、ほんと、何かと大変ですわよね。それぞれにイメージがあるしね。ワタシは王家の末裔であるアラゴルンが何故、北のさすらい人になっていたのかをちょっと知りたくなりましたわ。

  • 2010/05/03 (Mon) 23:10

    kikiさん同様、わたしも一作目は劇場に意気込んで観に行ったものの、さほどの感想も持たず、第二、三作は観ておりません・・・。
    わたしが一作目を観たあとの最大の関心事は、フロドの友人役のサム、どっかで見たことある~!ってことでした。
    で、「グーニーズ」で主役を演じていたショーン・アスティンだったということが判明。「グーニーズ」大好き少女だったわたしはビデオをレンタルして、当時かなり観ていたのでした。
    あんなに可愛かったのに、本作ではなんだか小太りなおじちゃんみたいな青年みたいなどっちつかずな感じになっていて、時代の流れをひしと感じたのでした。

  • 2010/05/04 (Tue) 00:02

    ミナリコさん。イライジャ・ウッド以外のホビットを演じている面々はけっこういい年なんですわね、みんな。ワタシはイライジャとイアン・ホルム以外は他の映画で観たことがある人はいないんですが、あのサムは「グーニーズ」の主役だったわけですか。「グーニーズ」は観てないんですわ。で、指輪物語ですが、2作目は微妙だけど、3作目は割に面白かったですよ。

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