「グリーン・ゾーン」 (GREEN ZONE)

~かくて全ては闇の中?~
2010年 米 ポール・グリーングラス監督



ボーン・シリーズでお馴染みのグリーングラス監督とマット・ディモンが再びコンビを組んだ怒涛のノンストップ・社会派サスペンスアクション。「ボーン・アルティメイタム」が面白かったので、何となく食指が動いて観てみる事に。冒頭20分ばかりは例によって臨場感いっぱいの手持ちカメラで画面が揺れっぱなし。グリーングラス監督、相変わらずやっております。

多くの血が流れたイラク戦争において、その大義とされた“大量破壊兵器”を巡る情報そのものへの疑問を抱いた一人の米軍兵士が、アメリカ政府の激しい内部抗争に巻き込まれながら繰り広げる真実追求への孤独な戦いの行方を、極限のテンションと臨場感でスリリングに綴ってゆく。(all cinema onlineより)

というこの作品。とにかく、のっけからテンポよくダダダーっと話に入っていく。
マット・ディモンも、こういう役はハマリ役であるから違和感もなく、ここを掘れ、あそこを探れ、と極秘情報によって指令された場所に苦労して赴くのに、毎度「大量破壊兵器」は影も形も無く、空振りの連続なので強い疑念が湧き、どうしても真相を突き止めたくなる陸軍の将校をタイプキャストの安定感で演じている。なんかもう、マット・ディモンという俳優じゃなくて、そういう将校さんという感じ。

イラク戦争のお題目だった「大量破壊兵器」だが、そういう旗印を掲げて無理矢理に米軍がバグダッドに攻め込んだニュースを見ていた時、「あ~あ、そんなものどうせ無いのに…」という空気が報道する側にも見る側にも漂っていた気がするのだけど、記憶違いだろうか。とにかく言いがかりをつけたブッシュが強行した、という雰囲気だったのを覚えている。その戦争の裏には、こういう事もあったんじゃないか、というお話。
グリーン・ゾーンというのはフセインの大統領宮殿だった建物を中心に米軍が拠点とした『安全地帯』の事らしい。

戦争映画、ことにベトナム以降の戦争映画を観ていると、戦場の兵士はどんなに理不尽な命令でも、それを遂行しなくてはならないわけなので、大変だなぁとつくづく思う。ガセネタに何度も振り回され、情報源も明かされず、命令にそむくわけにも行かず、異議を唱えても頭ごなしにただ「やれ」と言われて、延々と苦労して目的地に着いた挙句、やっぱり何も出ないとあっては本当にイヤになるだろうとマット・ディモン演じるMET隊隊長ミラーを見ていて思う。そりゃいい加減にしろよって思うわねぇ。
今回も無いに決まっている「大量破壊兵器」を探しに行く途中で偶然得た情報で、イラクの将軍がその近所で腹心の部下と会合を開いていたという事実を知り、不毛な穴掘り作業を放り出してそちらを探索に行き、2冊の手帳を手にするが…。



公開時期がさほど離れていないので「ハートロッカー」に雰囲気が似ているという意見もあるようだけど、ワタシはこれを見ている間、「ブラックホーク・ダウン」を思いだしていた。そこに共通するのは「いい気な思惑でよその国を勝手に統制しようなんておこがましい」というメッセージである。殊に、難癖をつけて仕掛けた戦争で首都を荒廃させておきながら、30年も亡命していた男を傀儡として担ぎ出し、「戦後のイラクの安定」を図ろうとする米政府およびペンタゴンのいい気な世界警察ヅラに現地の人は虫唾の走るような思いをしただろうということ。

「イラクの事はこの国の人間が決める」

情報をもたらした事から、ミラー隊長と行動を共にするイラク人フレディのこの言葉が全てだろう。

ラスト、どこまでも強行に最初のシナリオを押し通したペンタゴンが、平和会談を開くが、アメリカの立てた「アメリカの犬」の言う事など誰も耳を貸さず、スンニ派だのシーア派だのが各々勝手な主張をぶつけ合うシーンは、「アラビアのロレンス」のクライマックスを想起させる。アラブの民に、よそ者が思惑を押し付ける事など出来ないのだ。

今回、主人公の敵は外部にはいない。ペンタゴンとCIAが現地でぶつかり、そこに自分達に課せられた極秘任務に懐疑的になったMET隊隊長が真相を暴こうと絡まってくる。「上」からの密命で横槍を押し通すペンタゴンを代表する人物として情報局のパウンドストーン(グレッグ・キニア)が登場する。グレッグ・キニアって目立たないけどなんとなく、いつもその役に自然になっているな、という感じ。今回も、情報を操作する小頭のいい官僚気質の男をそれらしく演じていた。



アラブ通のCIA局員マーティン・ブラウンを演じるブレンダン・グリーソンも存在感が妙にリアル。
これに、追跡に次ぐ追跡で謎の核心を突き止める男ミラーにマット・ディモンが加わって、とにかく息もつかせない展開だ。
常に銃弾の音や爆音がしていて画面が揺れている、という印象があり(そうでもないシーンもあるのだけど)臨場感は抜群だが目が疲れるため、早くあまり動かない画面になってほしい、と無意識に思いながら見ていたりもした。



ともあれ、一応、戦争は終結した後で、誰にも知られないところでこんな暗闘が行われ、身内同志で血を流し合うというのがなんともやりきれない。
絵空事ではなく、実際にこんな事はおおいにありそうな事である。こういう映画を見るたびに、アメリカに生まれなくて良かった、と思うワタシだが、そういう陰謀が渦巻いている一方で、それらへの疑惑を映画化して公開できるのも、またアメリカならではだとは思う。
9.11のテロも自作自演だとか、古くは真珠湾攻撃だって事前に知っていながら(全国民的な戦意高揚に繋げる為)黙ってやらせたのだ、とか後ろ暗い謀略説には事欠かず、また、いずれもよしなしごとでもなさそうなアメリカだけれども、自国の恥ずべき行為を映画にしてなにがしかのメッセージを伝える事を許している、という点で、少しの救いはあるのかもしれない。

コメント

  • 2010/05/24 (Mon) 00:21

    そうですね。真珠湾攻撃も事前に知っていた説は強いですよね~。(ちなみに「トラ!トラ!トラ!」を観たら、あの日は休日で、アメリカ兵は皆重要な場所にいなかった・・・みたいなことになっていて、戦争の緊張が高まってるのに、そんなバカな、と思いました)
    アメリカって国はどこまで裏があるんだろう、と思う時があります。
    なんか、いろいろと画策してるイメージが強すぎるんですよね。もしかしたら映画の影響かもしれませんけど。
    ところで、このポール・グリーンダラス監督はあの「ユナイテッド93」の監督でもあり、こういうリアルな描写はうまいなあ、と感心させられました。でもやっぱりあのカメラのブレは観づらいわ~。

  • 2010/05/24 (Mon) 07:20

    mayumiさん。アメリカの表と裏というのは、落差の激しい光と影かもしれませんね。(最近、表の光が弱まったのでそうでもないかしら…)「自由の国」なんて看板に国民もよその国の人間も随分騙されてきた、というか。アメリカにはアメリカのいいところもあるとは思うけれども、どうにもこうにも引っ掛かる部分が多すぎてね…。大国というのはアメリカによらず、いずこも腹で何をたくらみ、何を裏で仕掛けているやら分かったもんじゃない、という印象はもはや固定観念になりつつあるかも。
    グリーングラス監督、張りきってたんだろうけど、ちょっと画面が揺れすぎだし、二度同じ手を使うと陳腐化するのでご用心ですね。なんかあんまり揺れるとみているのがイヤになるものね。(笑)

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