「リベリオン」 (EQUILIBRIUM)

~What a wonderful world~
2002年 米 カート・ウィマー監督



以前に垣間見た事のある作品を、大画面、高画質で再見すると印象が変わることがある。これも、ブラウン管TVの時に地上波放送で放映されたものをちらっと見たのだが、あちこちカットされた吹替え版だった事もあり、あまり印象に残らなかった。が、先日の夜遅く、寝る前に映画チャンネルでたまたま始まったのをなにげに観ていたら、映像の美しさにほぉぉ、と惹き込まれた。シンメトリーな近未来都市のひんやりとした無機質な美しさ。そして青いフィルターのかかった画面の沈静なトーンは深夜という状況にしっくりと馴染んでいたせいか、とても印象的だった。無機質な背景の中、ハイカラーの黒い衣装を着て無表情に現れるクリスチャン・ベイル、そしてショーン・ビーン
…そうか、こんなに映像にこだわっていた映画だったのね。
話としても、籠められたメッセージも、特に珍しくはない近未来の管理国家モノではある。色々な映画からアイデアを貰ってきていると言えば言えるが、それは特に気にはならない。なんといってもそういう事を補って余りあるほど映像に魅力があるからだ。

投与を義務付けられた薬によって、感情を持つことを極度に抑制された人民が暮す核戦争後の近未来社会。徹底した管理体制のもと、人々は人間的な感情を薬で押さえ込まれ、黙々とロボットのように決められたルーティンをこなしている。何故、感情を抑制するのかというと、人間的な感情は戦争を引き起こす要因でもあるからだ。だが同時に物事に感動する事もなくなってしまうのであり、薬を打たずに感情に目覚める「反乱者」は後を断たない。「平和」のためにそれらを摘発し、彼らの身柄を拘束して処刑室に送り、証拠品を焼き払うのがクラリックと呼ばれる、いわゆる特高警察である。



クリスチャン・ベイル演じるプレストンはこの特高警察クラリックの凄腕捜査員。筋がね入りで眉一筋動かさずに名画を焼き払い、違反者を処刑室に送り込む。静かな無表情が効いている。これまで数本見た中で、このキャラが一番ベイル氏の風貌に合っているような気がした。彼は端正なマスクだが、ともすると表情や雰囲気が生真面目過ぎてやや暗く、ちょっと表情が深刻すぎるわ…とワタシには感じられたりもするのだけど(ベイルマニアの方、すみませぬ)、この作品では彼のそんな持ち味が、他のどの役よりもしっくりとハマっていたと思う。

そして、同僚として同じくハイカラーの黒いコスチュームで登場するショーン・ビーン。登場シーンは少なめで、あっという間にお亡くなりになってしまうのだけど、彼の存在感は少ない登場シーンにも関わらず非常に大きく、プレストン(クリスチャン・ベイル)のありようにも変化を齎すほどに重要なのである。そして、ベイルとビーンが一緒のシーンは、どれも妙に構図が絵になっている。薬をちゃんちゃん打ち続け、些かの疑いももたず、無表情で任務を遂行しまくるプレストンの背後に立ち、焼かれていく絵画や書籍をいたましげな目で見守るパートリッジ(ショーン・ビーン)。任務を遂行した帰りの車内での会話や、自分の任務に意義があると信じ切っている相棒を憐れむように見やるパートリッジのまなざし…。ショーン・ビーン、少ない出番でかなりの儲け役。



彼が違反をしている現場にプレストンが乗り込み、二人は静かに対峙する。廃墟の中でイェーツの詩集を読むパートリッジ。違反者になった同僚に銃を向けるプレストン(ベイル)。廃屋に差し込む一条の光が、ショーン・ビーンの顔に青白い光を投げる。パートリッジが相手の目をじっと見ながら、徐々に顔の前にイェーツの詩集を持ち上げる。
さえざえとした青い目が本の向こうにゆっくりと隠れていく。 


君も夢を見るだろう~ プレストン

与えられた任務に意義と責任感を抱くプレストンは、自分の妻さえ違反者として処刑した男。いわんやパートナーにおいておや、である。だが、そんな筋がね入りの男が、ある日ふとした手違いから時間に薬を打てないまま仕事を続けていくうちに、人間的な感情を取り戻していく。違反者グループの一員である女(エミリー・ワトソン)に心揺れ動き、処刑された妻を思い出し、日々、相棒を撃ってしまった事への自責の念が深くなる。



感情に目覚めたプレストンが、外で雨が降っている気配を感じて、窓ガラスに手を触れるシーンも効果的だ。窓ガラスは半透明なシールが貼られ、曇りガラスのようで何も見えない。外を観たいと思ったプレストンが爪を突きたてるとシールが破れて、夕陽に虹の浮かんだ雨の街が夢のように現れる。その光景を感嘆して眺めるプレストン。
…世界はこんなにも美しかったというのに、何年気付かずに過ごしてきたことか…。



ひとたび感受性が甦ってくると、もう薬を打つ気にはなれなくなろうというもの。周囲のロボットのような人間に懐疑の視線を向け、趣味嗜好がついつい表に表れそうになる。基本的な佇まいは変えぬままで、目覚める前と目覚めた後とを演じ分けるクリスチャン・ベイル。徐々に人間性を取り戻していくシーンが良い。エミリー・ワトソンと、わなわなしながら指先を触れ合わせるシーンも、久々の激流のような心の震えを抑えようとしても抑え切れない表情がよく出ていた。指先から一瞬にほとばしる二人の想い。


端正な表情が役に合っているクリスチャン・ベイル 
感情に目覚めてからは演技力のみせどころ




ただ、違反者の「証拠品」であるベートーヴェンを聴いてウットリ、というのと、冒頭で焼かれるモナリザなどは何だか、かなりベタだなぁと思ったけれど…。

感情や感受性を取り戻したプレストンがとる行動はひとつしかないわけだが、それまでを印象的な映像で繋いできて、し~んと網膜に残るシーンが多いな、と思っていたのだけど、ラストの殴りこみでワタシは一挙にトーンダウン。こういうアクションが好きな人には大アリなんでしょうけれども、ワタシはあの「ガン=カタ」というのに乗れませんで。まぁ、確かにポーズは決まっていたけど、あんなに至近距離で敵はマシンガンを撃っているのに、それはプレストンに流れ弾すら一発もあたらず、プレストンが踊りながら(というか型をキメつつ)撃つ弾は、バスッバスッと全部命中して屍累々となるのである。ええ~!そんなバカな…。しかも、けっこうアッサリと白黒ついちゃうし。それまで割にいい感じで来てたのに、あららら、勿体無いわねぇと思った。こういうノリが好きな人には、このアクションなしには成り立たないのかもしれないし、事実この映画はきっとこのアクションが売りなのだろうけれど、ワタシには却ってあのアクションで作品が安くなってしまったように思えて残念だった。

ただ、プレストンが「ガン=カタ」の稽古をするシーンはある種の様式美みたいなものも感じた。稽古相手が剣道の面や稽古着をモチーフにした装束で登場。剣道の装束はフェンシングのそれにも少し被って、向こうの人が見て美しいと感じる装束なのかもしれない。


どのシーンも抑えられた色調と撮影が美しく、重厚感のある建物の中のインテリアも無機的なだけではない美しさを湛えていた。禁欲的な衣装も含めて監督の強いコダワリを感じる。殊に、ベルリンなどで撮影したという印象的で重厚な建物は、ナチ時代の残り香もなにがなし漂わせて効果満点。
自分の父親を名前で呼ぶ、プレストンの無表情な息子とかわいい娘のコンビも画面にハマっていた。


プレストンの息子 父親を凌ぐ無表情でやたらに存在感がある


非常に印象的なカットの数々


とにもかくにも映像がモノを言っている。一度観たら忘れないようなカットが多く、これは今までのところ、大画面、高画質で観たことで、「アラビアのロレンス」の次にその映像美を再認識した作品になった。

コメント

  • 2010/06/05 (Sat) 23:03

    クリスチャン・ベールマニア(笑)としては、この記事には食らいつきますわ!「リべリオン」、大好きなんです~!トリュフォーの「華氏451」に似た雰囲気といい(オマージュ作品かな)、kikiさんは乗れなかったそうですが、「ガン=カタ」といい、私のツボにはまる作品んでした。
    なんといっても、この作品のクリスチャンは素敵!この作品で彼にハマったと言っても過言ではありません。
    で、出番は少ないですけどショーン・ビーンもいいんですよねえ。あんなに出番少ないのに、彼の存在感が後々効いてくるわけですよね。
    あー、もう一度観たくなってきた。DVD持ってるので観ようかしら。

  • 2010/06/06 (Sun) 00:15

    いや~。画質によって映画の印象はかなり変わる、というのは昨年から折々実感していることですが、これは久々にストライキングでしたねぇ。予期せぬ深夜の邂逅って感じで。(笑)あの都市の映像があれこれ映る冒頭のシーンで「おぉ!」と思って、見るつもりはなかったのにずっと見てしまいました。以前斜め見した時の印象とは大きく変わりましたわ。シブイ色合いのシックな画面の中で、黒い衣装で無表情の禁欲的なベイル氏はやたらにハマってましたね。カルトっぽい作品てことになるんだろうけれど、これは好きな人は猛烈に好きな映画だろうし、ベイル氏にもハマるんだろうねぇと思いました。黒い衣装と、白い海軍さんの軍服みたいなのも似合ってましたね。ガン=カタ、ワタシはう~むって感じだったのだけど(ガンじゃなくてむしろ刀で斬り合う事にしちゃえばよかったのに)mayumiさんはこの手のアクションもお好きだものね。文句なしですわね。DVDでまたじっくりと観賞なさって(笑) ワタシも思わぬ再発見で拾い物をした気分でしたわ。

  • 2010/06/07 (Mon) 01:23

    おっと、出遅れました、ベイルマニア2号です(笑)
    とうとうkikiさんも「リベリオン」堕ちですか? ムフフ♪
    突っ込みどころ満載なれど、B級映画と侮るなかれ、でしたでしょう? それにショーン・ビーン目当てで観に行ったけれど、クリスチャンにハートを持ってかれた人、結構多かったみたいですよん。

    無機質で静謐な空気感がいいですよねえ。
    映像の美しさを挙げてますが、私も最後のカットは気に入ってます。
    プレストンが感情にめざめていく所から俄然面白くなってきますね。
    指摘されてる雨の街を見て泣くシーンの他に、地下鉄のような階段を歩いている時に、一人手袋をはずして手すりを愛おしく撫で感触を確かめるあのシーンも印象に残ってます。
    こういう抑えた演技が、クリスチャンが、好きなんですよね、私。
    生真面目、暗い、深刻すぎる・・・いーんです。全部誉め言葉と受けておきますから(笑) 
    実際彼のそういう部分が好きなんですよね。それが彼の魅力なんですもん。
    で、もちろん彼はビジュアル的にも「リベリオン」が一等美しいです。ほんとガクランが似合っちゃって。
    メアリー(エミリー・ワトソン)とのラブシーン(と云えるのかどうか)がまたドキドキ致します!
     まるで初恋にめざめた少年のようだわ、プレストン(笑)
    稽古のシーンでのクリスチャン、ストイックで侍な雰囲気で一番カッコいいかも。私も好きなシーンです。犬を助けた時のドンパチも最後バッチリ決めて、こういうアクションは、mayumiさんと同じく嫌いじゃないですね~へへ。まぁ確かに「ありえなぁ~い」アクションシーン沢山ありましたけどね。まぁご愛嬌。

    それから、ちょっと気になった地下組織のリーダー(ユルゲン)。
    「ダークナイト」で銀行強盗にショットガンをぶっ放してたあの支店長なんですよ。「ブラックホークダウン」にも出てました。名前は・・・出て来ない・・・。

    語ると長い私・・・そろそろこの辺で。





    • ジョディ #mYpMW8u.
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  • 2010/06/08 (Tue) 00:22

    ジョディさん。ちょっとタメがありましたねぇ。ふほほほ。
    リベリオン堕ち、とまでは行かないけれど、画面のトーンや世界感は一見の価値ありだなぁと思いました。全体の色調や、照明、古い建物を印象的かつ効果的に使うあたりがちょっと好みのテイストでした。その映像にインパクトを感じてついつい観てしまったので、ベイル氏についてベタ褒めしてなくてすみませぬが、別にけなしているわけでもありませぬよ。ま、好みの問題ですかね(笑) ともあれ、この作品における彼のハマリっぷりはバッチリだと思ってます。そういえばジョディさんはジョン・ローンもお好きだったですわね。真面目で無表情なありようがちょっと似ている気がしますわ(ジョン・ローンは30代の頃限定で)。
    それにしても、豆さま目当てにこの映画を観に行ったらかなり唖然とするでしょうね。あんなに冒頭に近いところですぐにお亡くなりになってしもうて…。
    その、階段のところで手袋を外すシーンは意識をすり抜けておりましたが、さすがマニア、細かいところまで舐めるようにチェックされてますねぇ。エミリー・ワトソンとの究極のプラトニック・ラブも良かったですよね。すぐに抱き合っちゃうよりも、数倍想いが深いという感じがよく出てました。結局はあの世とこの世に別れていく二人。けして一緒にはなれないさだめゆえに盛り上がっちゃうわけですわね。エミリー・ワトソンもまだ可愛かったですね。
    そうそう、あの地下組織の人は、ヨーロッパ顔、という感じですね。確かに「ブラックホーク・ダウン」にも出てたし、「ダークナイト」にも出てましたわ。覚えてますよ。けっこう印象的な顔ですよね。骸骨系というのか。ウィリアム・フィクトナーという俳優さんですわね。

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