「イヤー・オブ・ザ・ドラゴン」 (YEAR OF THE DRAGON)

~移民の国~
1985年 米 マイケル・チミノ監督



以前「エンゼルハート」も放映されたので、これもそのうちやるだろうと思っていたら、やはり映画チャンネルで流れたので捕獲。劣化した3倍速録画のVHSしか手元になかったのでずっと観ていなかったが、はっきりくっきりの高画質で久しぶりに観賞。 
ミッキー・ロークは無論二枚目時代でベトナム帰りのポーランド系はみだしデカを演じ、中国マフィアの若き頭領役でジョン・ローンが薄いけどダンディに登場する。和太鼓を使ったテーマ曲も耳に残っている。あぁ懐かしい。何年振りに観ることか。134分もあったのね。ちょっと長いけど、まぁいいか。
冒頭、チャイナタウンの獅子舞からスタート。香港の映画を観ているような画面。爆竹が鳴って、画面に中国人しか映ってないとどこの映画を観ているのか分からなくなる。確か、危うくてNYのチャイナタウンではロケ撮影できず、セットを作ったか、他のチャイナタウンで撮影したのだと何かで読んだ記憶がある。


チャイナタウンでの葬式に始まり、チャイナタウンでの葬式に終わる

ミッキー・ローク演じる中年のポーランド系の警部スタンリーはベトナム帰りの男である。彼がNYのチャイナタウンを根城にヘロイン取引で巨利をむさぼるチャイニーズ・マフィアの根絶に尋常ならざる執念を燃やしているのは、ベトナムで散々痛い目に遭わされた中国人(ベトナム人だけど)への根深い恨みと恐怖からであろうし、その一方でTVの女性レポーター、トレーシーに強く惹かれたのは、彼女が中国人であるという事が抜き難い理由でもあるだろう。憎みつつも興味深い、永遠に理解できない東洋人。理解できないから抱く畏怖と軽侮、憧れと憐憫…スタンリーの内面はなかなかに複雑である。ミッキー・ロークは実年齢より上の役を演じるために鬢を白髪に染めているが、何せ顔や姿が若いので一体何歳の設定なんだ~という感じ。夫婦仲の冷えた妻がいるが、この妻がとても老けたおばちゃんなので、つまり中年なのだなと分るのだけど。


ミッキー・ローク 二枚目時代

対するチャイニーズ・マフィアのニュー・リーダー、ジョーイ・タイを演じるジョン・ローンは、正しい発音の英語でクールに話し、常にビシっとスーツを着て髪はオールバック。キザでキメキメ。頂点を極めるために妻の父である前ボスのワンを手にかけて実質的なTOPの座を手に入れる。野心家で計算高いが、「ゴッドファーザー」シリーズにおけるマイケルのような凄みや貫禄はない。なんというか、かなりの悪党なんだけれども、どうかすると目つきや表情などがビクビクしていて小物感が漂う。小頭のいい、うすっぺらい悪党という感じ。80年代は本作や「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」などを観るにつけ、どうしても「ゴッドファーザー」及び「ゴッドファーザー Part2」と比較してしまい、つくづくと「ゴッドファーザー」は凄い映画だとそのたびに思っていた。若きマフィアのドンはマイケルのような凄みと哀愁をもって描かれていないと浅く感じられて物足りなかった。「ゴッドファーザー」及び「ゴッドファーザー Part2」(あらゆる方面から見て、まさに完全映画である)を素晴らしいと思う気持ちは今でも変わらないが、いささか冗長でも「イヤー・オブ・ザ・ドラゴン」にはそれなりの良さがある。


いつもビシっとキメているジョン・ローン

人々が漠然とその存在を知りつつ畏怖するチャイニーズ・マフィア及び怪しいチャイナタウンの地下や裏側と(ビルの地下にある薄汚いもやし工場のおぞましさ)、アジアのヘロイン地帯(いわゆるゴールデン・トライアングル)との繋がり。また虐げられた最下層の移民だった中国人がNYやサンフランシスコで生きるために団結し、秘密結社の伝統を持ち込み、地下茎を張って隠然と勢力を持つに至った流れも窺い知れる。無難に根付いて生きていかれれば誰も好んで裏街道を歩きはしない。イタリア人もアイルランド人も中国人も、異国の大陸で虐げられ、差別されながら、生き延びる為に仕方なく裏街道を行く人間が出てきたのだ。表の大通りであまりに端っこに押し付けられて呼吸が出来なかったからである。そんな中国系移民の子孫の極端な例として、マフィアのボスを狙うジョーイ・タイとTVレポーターのトレーシー・ズーが登場するのである。

香港から身ひとつで渡米してボスの娘と結婚した小才の利く若造が、強引に野望の頂点に駆け上がろうとする分に過ぎた悪足掻きな感じを、ジョン・ローンは上手く出していると思う。野心いっぱいで器以上に背伸びをしつつも、どこかでビクビクしているようなジョーイ・タイはそういうキャラなのだからそもそもマイケル・コルレオーネとは違って当然だ。虫けらのように人を殺し、眉一筋動かさずどんな相手も道具としか思わないジョーイが、何故かタイでの麻薬取引の席でかつての取引相手だった老将軍が殺されようとするのを押し止め、その命を金で買う場面がある。多分、若い駆け出しの頃に老将軍に恩があったのだろう。次の世代に取って代わられ、権力の座を追われて虫けらのように殺されようとしている老将軍を見捨てられないジョーイだが、一方で自分は義父を殺してボスの座を乗っ取ろうとしている。自らも下克上に生きる男が何故、昔の知合いに情けをかけるのか~ジョーイ・タイというのは、このへんの内面の複雑さがなかなか興味深いキャラである。ジョン・ローン、今更に上手い俳優だなと感じた。けれど、彼のように容姿と演技力が揃っていても、結局はB級映画の悪役でしか使われない現在を思うと何だか残念な気がするのだが、「ラスト・エンペラー」で脚光を浴びる事が出来たのでよしとするしかないかもしれない。ジョン・ローンは舞台などでいい味を出せる俳優じゃないかと思う。案外、舞台で活躍していたりはしないだろうか。



一方のトレーシー・ズーを演じるのはこの作品でしか観たことがないアリアーヌという女性で、多分中国系のモデルだろうと思う。プロポーションがもろにモデルのそれで、ほっそりとした体に長い手足で贅肉は1ミリもなし。マネキンのモデルとかになれそうな体型だ。顔は100%オリエンタルな東洋人の顔なのだが、細い目に不思議な色気があり、ベリーショートのヘアスタイルがよく似合っている。欧米人はこういうタイプの東洋人女性が好きそうだ。ちなみに、吉田秋生の「バナナ・フィッシュ」にも、このアリアーヌのルックスをモデルにしたらしい中国人女性が登場する。



アリアーヌ演じるトレーシーは中国と日本の混血でシスコの生まれという設定。父は成功したビジネスマンで非常にリッチである(裏街道を歩まずに事業で成功している中国人だってもちろん居る)。TVのニュース番組のレポーターとして活躍するトレーシーは、父の財力も背景に、港を望むリッチなマンションに一人で住んでいる。
このトレーシーの部屋というのがとても印象的で、何は忘れてもこの部屋の映像だけは網膜に残っているぐらいだ。非常に広いワンルームで、1フロアがまるまるワンルームの広さであり、ロフトもある。オフホワイトを貴重とした内装。低い段差を幾つも造って、ゾーン分けがなされてあり、小高いベッドのあるところから何段か下がると、ガラスの仕切りの向こうにつくりつけの広いバスタブがある。半円系の窓が等間隔で三方に切ってあり、その窓からマンハッタンの夜景やブルックリン橋が見える。ライトアップされたブルックリン橋と夜明けの空を背景に、アリアーヌのほっそりとしたシルエットが窓辺に座るシーンがあるが、部屋と彼女の体型がベストマッチで、今見てもこのシーンは印象的だし、この部屋は斬新だと思う。


窓からマンハッタンの夜景が一望できる

住戸ごとに個別のエレベーターで下から上がってきて、エレベーターが開くと、もうその家の内部(玄関)になるという構造の高級マンションもこの映画で初めて観た気がする。余談だが、「カジノ・ロワイヤル」で垣間見た007のMの住まいもこの手のマンションだった。



スタンリーは仕事上でも、私的な感情面でも、このトレーシーに多大に依存する。(勝手に特別捜査本部を彼女のゴージャスマンションに設置しちゃったり、女房と喧嘩した夜には、トレーシーのマンションに押しかけたり、オヤジのクセに甘ったれ過ぎってもんである)





*****
執念の捜査で急迫してくるスタンリーの存在や、並み居る老練な長老たちの間で頭角を現そうと躍起になったジョーイは焦りから無謀な行動に出て、結果ますます自らの立場を危うくしていく。ラスト、ブルックリン橋での麻薬取引の情報を聞きつけたスタンリーに追われたジョーイ。二人は近くの列車用の細い橋の上で深夜の一騎打ちとなる。脇に逃げる道のない橋の上での一騎打ちは、なんとなく任侠映画か香港ノワール的なフィーリング。線路の上を走って、逃げようと思えば逃げおおせたかもしれないジョーイだが、スタンリーの執念に根負けしたか、立ち止まり、一騎打ちを選ぶのである。
互いに絶叫しながら走り寄り、銃をぶっぱなす二人だが…。



追う側のスタンリーも、追われるジョーイもアメリカではマイナーな移民である。これは、ある意味WASP(白人・アングロサクソン・プロテスタント)でない種族がアメリカで生きる事の困難さと屈託を描いた作品でもあるだろう。そして、それでもなおかつ、そんなアメリカを目指す移民が後を断たないのは、アメリカが標榜するところの、いわゆるチャンスの国であるからなのか。…チャンスの国。そんな国で屈折した思いを抱きつつあがいている同志として、スタンリーはどこかでジョーイにかすかなシンパシーを感じてもいたのだろう。憎みつつも、憎みきれない。彼が最後に武士の情けとしてジョーイの願いを聞き入れるのは、そんなベースがあったからのように思った。

最後にどうでもいい事をひとつ。この作品が作られた1985年は昭和60年で丑年。辰年(イヤー・オブ・ザ・ドラゴン)はその3年後の1988年(昭和63年)である。

コメント

  • 2010/07/04 (Sun) 15:07

    kikiさん。わたしは未見なのですが、こういう映画あったなあ、と懐かしくなりました。
    わたしはミッキー・ロークがとにかく苦手です。「ナインハーフ」しか観たことなくて、もうこの一本だけで拒絶反応です。そして近年の失敗整形顔を目にするにつけ、かっこよかった顔立ちだけになんとも言われぬ哀れを感じてしまって・・・。
    「ディアハンター」をちらっと見たことがあるので、本作も気にはなるものの「ミッキーロークか・・」と食指が動かないままで。J・ローンの小悪党ぶりは見たい気もしますが。
    そしてなにより、kikiさん評にある「チャイナタウンの地下と裏側、アジアのヘロイン地帯」なる映像描写は見てみたい気がします。昔、香港の九龍地区の近くをバスで通ったことがあり、見たことのないような乱雑極まりない、一歩足を踏み入れたら二度と出てこれそうにないような身震いするようなその様を見て、怖いんだけれどもどうしても忘れられなくて、その後に確か篠山紀信が九龍島の中に入ってその猥雑な集合住宅の様子をカメラに収めたものを見たことがあり、さらに記憶に残るものとなりました。アジアのこういう地区って独特の暗さ・秩序の無さなどなどにあふれ、前向きな要素がまるでなくて、でも怖いもの見たさでちょっと中を覗いてみたくなるんです。その九龍島もいまはきれいに整備されて公園になったと聞きました。あれはあれで残しておいて欲しかったなあと、よそ者のわたしは思います。
    なので、ちらとでも本作でそういう様子の地区が見れるのならば、と少~しだけ興味を持ちました。

  • 2010/07/04 (Sun) 21:38

    これが封切られた頃は、ワタシもミッキー・ロークはかなり×でしたよ。「ナイン・ハーフ」になるともう見てもいないというか。ミッキー・ロークが主演級で出ている物では後にも先にも「エンゼル・ハート」とこれしか見てないって感じです。これはジョン・ローンが話題になってて、彼を見るために行きましたわ。小悪党っぷりがなかなかキマってますよ。ミッキーについては長らくどうでもいいというか、あまり好きでない俳優だったのだけど、昨今ケーシー高峰顔になって頑張っている姿を見て、漸くちょっと応援してあげたいって気分になってきたかな、という感じ(笑)
    そして、ミナリコさんもああいうアジア的迷宮にご興味ありですのね。なんかね、おぞましくてオソロシイのだけど怖いもの見たさというかねぇ。ワタシも昔、香港に一度だけ旅行に行ったのはまだ返還前だったので、九龍島も健在でしたよ。でも入るってわけにもいかぬしね。外から眺めてこれかぁ、と。そういうチャイナタウン的迷宮という意味では改革開放前の上海に勝るところはないと思ってます。魔都としては実質1940年代に終焉を迎えてるんだけど、80年代末までは魔都時代そのままの街並みでしたからね。レトロな建物が全部残ってて。88年頃に行っておけばよかったと後悔しきり。今のやたら開けて新しいビルがにょきにょき建った上海にはどうも行く気がしなくて。タイムスリップできるなら是非とも1930年代の上海に行ってみたいんですわ。同じような意味合いで九龍島が取り壊されて公園になった香港にはカオスが無くなった感じで興味索然。だから香港にも、もう行く事もないだろうと思いますが。で、本作において描かれているチャイナタウンは、ミナリコさんが満足するような迷宮っぷりではないですわ。タイのシーンではチャオプラヤー河の船の上で商談するシーンがあり、ワット・アルンが見えていて、バンコクに行った事があると、あぁ、以前見た景色だな、とデジャビューのように感じます。あとは奥地の山岳地帯ですね。いずれにしても、ミッキー・アレルギーをおしてまで観る程ではないかな、という感じですわ(笑)

  • 2010/07/06 (Tue) 22:37

    初めてジョン・ローンを見たとき、「こんなに素敵な東洋人がいたんだ」と思ったことを思い出します。それまでは東洋人だというコンプレックスがあったんですよね。やっぱりカッコイイのは西洋人だ、西洋人には敵わないってずっと思っていたし、事実素敵な東洋人なんていなかった(私の目には)小学生の時から好きだったのはブルーグレーの瞳のアラン・ドロンだったし・・・なぜかホッとしました。
    だから「ラスト・エンペラー」後のジョン・ローンはちょっと悲しい・・・

  • 2010/07/06 (Tue) 22:59

    Rikoさん。ジョン・ローン。登場したての頃はおお!と思いましたよねぇ。香港出身で孤児で云々というプロフィールもなんだか翳があって気になりました。あの「ラスト・エンペラー」以降、役に恵まれなかったのは、どうしてだったんでしょうねぇ…。あそこで運を使い果たしちゃったのかしらん。結局、東洋人の俳優がハリウッドの映画に定着して出るようになると大体、悪玉ってことになっちゃいそうですわね。渡辺謙もなにやらそういう街道を一直線のようだしねぇ…。ほんと、皇帝以降のジョン・ローンについて考えると物悲しい限りですね。

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