「スパルタカス」 (SPARTACUS)

~R.オリヴィエの怪演~
1960年 米 スタンリー・キューブリック監督



前から時折思いだしては観たいなと思っていたのだけど、そんな際に、旧作100円とかの割引デーに行くと、同じ事を考える人が多いのか、「スパルタカス」DVDは出払っていて、あら…と思ったりしていたら、最近、映画チャンネルで完全復元版が放映されたので、すかさずゲットし、久々に観賞。それにしてもキューブリック作品としては、かなり異色な「スパルタカス」。これはカーク・ダグラスの映画であって、キューブリックは雇われて仕事をこなしただけであり、最後まで自分のフィルモグラフィにこの作品を加えなかったというが、二人の確執が目に見えるようだ。どう考えたって合わなそうだもの(笑)
でも本作の映画として面白い部分は、ひたすらヒロイックなスパルタカスよりも、ローレンス・オリヴィエを筆頭とする敵方ローマの面々のクセの強いキャラだったりする。ワタシ的にはオリヴィエ最高!って感じだ。あの顔(特に横顔)からして、既に古代ローマの胸像そのままだもの。


大理石の彫刻が部分的に映し出されるタイトルバックが良い。思えば彫刻ってセクシーなのね、と初めて思ったのはこのタイトルバックを見た時だったのかもしれない。タイトルデザインはソウル・バス。やはりというか何というか、さすがの仕事っぷりである。



この映画はスパルタカス(スパルタクス)のカーク・ダグラスが思いをこめて熱く演じているシーンはハリウッド的なのだが、ローマの元老院の政治闘争や互いに褒め殺しやあてこすりを皮肉な調子で言い合う議員たちのシーンはイギリスっぽくて、その雰囲気の分かれ方が作品としてもハマっていた。熾烈に対立するローマの元老院議員を演じているのがイギリスを代表する俳優ローレンス・オリヴィエとチャールズ・ロートンであるという事がもちろんその大きな要素。この二人がとにかく良い。見ててニヤニヤする。特にオリヴィエが思うさまクラサス(クラッスス)を演じている様子は小気味がいい程で、楽しそうにやってるなぁ、と思う。


この面構えからして既に出来上がっているR.オリヴィエ

チャールズ・ロートンは、内心では独裁を企むクラサスを潰すためなら手段を選ばない老獪なグラッカスを皮肉たっぷりに好演している。他に奴隷商人で剣闘士養成所のオーナーでもあるバタイアタスを演じているピーター・ユスティノフも小物キャラが立っていて生き生きしていた。また、若きジュリアス・シーザーを演じているジョン・ギャヴィンが190cm超はありそうな長身の見事な肉体美でおりおり目の保養になるし、美青年時代のトニー・カーティスがお稚児さん用の奴隷としてクラサスに召抱えられるシーンも、お稚児さん専用以外のなに~という感じが容姿からぷんぷん漂ってくるのが二重丸。


目の保養系人材 シーザー役のジョン・ギャヴィン 闘わないけど一番の肉体美

オリヴィエの横顔(左端)とギャビンの肉体美 右端に肉団子が一名


ここでは稚児さん顔のトニー・カーティス

この映画のトニー・カーティスを見ていると、S.マックィーンの「パピヨン」で、刑務所で看守のセクハラを受けていたゲイの囚人を思い出す。黒髪で目元に妖しい色気があるタイプだ。そんなトニー・カーティス演じるアントナイナス(アントニヌス)を舐めるように品定めするR.オリヴィエのクラサス。なんでも思いのままの権力者。この少し後に登場する風呂場のシーンは、前に「セルロイド・クローゼット」記事でも書いたけれど、ホモセクシュアル臭が漂うので最初の公開では検閲で切られたシーンだが、リバイバルではちゃんと復元された。ここで有名なカキとカタツムリの比喩が出てくるのだが、このシーンはオリヴィエによるオリジナルの音源が失われていたので、アンソニー・ホプキンスが吹き替えたらしい。そう思って聞くと確かにアンソニー・ホプキンスの声だが、知らなければ分らないに違いない。「カキ(♀)もいいが、カタツムリ(♂)も好きだ」とアントナイナスに背中を流させながらクラサスは言う。


お背中を流すだけでは到底解放されそうもないアントナイナス

「彼は予期せぬ務めを予感する。僕はアントナイナスが好きだ。いきなり寝ようなんてあんまりだってところが、ね」とトニー・カーティスは「セルロイド・クローゼット」で語っている。自分(クラサス)に逆らう事は強大なローマに逆らう事だ。誰にもそんなマネはできない。ましてや若造などには、な。とローマの眺めを背景に権力をカサに着るクラサス。予期せぬ務めを嫌って逃げ出すアントナイナスだが、そんなに簡単に逃げられるなら苦労はないじゃないの、とちらと思ってしまった。が、何はともあれ、実際に生々しいシーンが入るよりも、風呂場で背中を流しつつ暗喩に満ちた会話をする、という方が表現としてハイレベルなのは間違いない。


予期せぬ務めから逃げ出すアントナイナス

スパルタカスというと、剣闘士のイメージが強いのだけど、本作では剣闘士としてのスパルタカスは前半にわりにサクっと描かれているという印象だ。でも、剣闘士養成所での訓練シーンなどはとても興味深いし、剣闘士がなんちゃって侍みたいな髷を結うというのも面白く感じた。剣闘士としてのスパルタカスは、気まぐれに女連れで(この女どもの小憎たらしさは本作中随一かも)立ち寄ったクラサスの前で1対1の死闘を行った際に、相手の黒人ドラバ(ウディ・ストロード)には敗れている。



剣闘士仲間のドラバは味わい深いキャラで、スパルタカスと初対面の折には、どうせ闘技場で殺し合う事になるんだから、と名前を教えなかったり、死闘を制したもののスパルタカスを刺さずに観覧席に向かって三つ又の矛を投げつけるなど気骨のある男だ。(矛が女に命中すればよかったのに)ドラバは壁をよじ登ってクラサスの膝に手をかけるが、クラサスに冷静にとどめを刺される。クラサスはこの時のドラバの印象があまりに強かったので、対戦相手のスパルタカスの顔などさっぱり覚えていなかったりする。剣闘士仲間に印象的な黒人を配する、というこの図式はR.スコットの「グラディエイター」でも忠実に踏襲されていた。


印象的なエチオピアの剣闘士ドラバ

この剣闘士養成所でスパルタカスはジーン・シモンズ演じる女奴隷バリニアと出会う。どんな地獄の底にいても恋の花咲くこともある。人生、捨てたもんじゃない。スパルタカスが、食事時に給仕をするバリニアの姿をじっと見つめ、日々視線を交わしつつ無言で二人の気持ちが寄り添っていくシーンはかなりじっくりと描写されるが、そういう部分に時間を割いているのも「スパルタカス」のいいところかもしれない。ワタシはジーン・シモンズっていうと50年代のシネスコサイズの史劇モノ専門女優というイメージしかなく、頬骨の張った顔というのがあまり好きじゃないので、どうでもいい女優ではあったのだが、久々に再見してみると、この作品のバリニアにはとても合っていたと思う。この人はイギリス出身。ハリウッドはヴィヴィアン・リー以来、ブルネットの英国美女にコンプレックスを抱くようになった。少女期~美女時代のE.テイラーに人気があったのは、英国美女風のルックスにアメリカ人が弱かった事も大きな理由だろう。



バリニアを見染めるのはスパルタカスばかりでなく、あのクラサスも一目で大いに気に入るのだが、それほどの美女でもないんでは~と思いつつ、クラサスが見染めた相手はカキにしろ、カタツムリにしろ、みんなスパルタカスの元へ走ってしまうのねぇ、と少しクラサスが気の毒になった。ふとしたキッカケで反乱を起こした剣闘士たちが自由の身になり、あちこちで奴隷を解放しながら港へと向かう途中、クラサスに買われてローマに連れていかれる途中で逃げ出したバリニアと再会するシーンもしみじみして良い。互いに二度と会えないと思っていた二人だったのだけど…。キューブリック、イヤイヤながらもちゃんと演出してるじゃないの。



それにしてもカーク・ダグラス。トレードマークの凄い顎も絶好調で、割れているというより、鑿でえぐったようにガツーンとくぼんでいるという感じだが、悪役でも不思議はない面魂でヒーローを演じるというのは、なかなか力強い事だなと改めて思う。まぁ、制作の総責任者で主演もやり、自分で思い入れが沢山あって実現させた企画だろうので、気合が入っているのは間違いないが、作品が彼の一人よがりに終わらなかったのは、ピンチヒッターとして呼ばれ、お雇い監督として仕事をしたキューブリックの手腕が折々、冷静に作品を引き締めているからであり、また、ローマ側のキャストに名優が居並んで、彼らの丁々発止のクールかつアクの強い芝居が強い印象で映画を盛り上げ、カークの一人舞台になるのを防いだ事もあるだろう。
元老院でクラサスと権力争いをしているグラッカスを演じるチャールズ・ロートンと、奴隷商人バタイアタス役のP.ユスティノフがでぶっちょ二人で飲み食いしながら語り合うシーンはユーモラスでいながら適度な毒があって楽しい。


「お前も私も太りやすい体質だ」とでぶっちょ同志で談笑するC.ロートン(右)とP.ユスティノフ

最後の闘いの大スペクタクルは、CGなんかない時代ゆえ、大量のエキストラを使っての右往左往の戦闘シーンに続く、遠くの丘まで延々と続く屍累々のありさまに迫力がある。生き残った反乱軍残党は再び奴隷として生かす、とふれるクラサス。ただ、それにはスパルタカスがどの男かを指し示す事が条件だ、という告知に、名乗ろうと動きかけたスパルタカスを制してまずアントナイナスが叫ぶ。「I'm Spartacus !」これに呼応して奴隷たちがあちこちで立ち上がって叫ぶ。「I'm Spartacus !」「I'm Spartacus !」
クラサスと思わず涙するスパルタカスのアップの切り返しが入り、戦には勝ったのはクラサスでも、人物として勝ったのは~という投げかけがある。闘いに臨む前のスパルタカスの演説はいかにもな一人よがりの大見得切りでハイハイそうね、という感じだが、この「I'm Spartacus !」はハイライトだけに、やはりいいシーンだと思う。

ローマに至る沿道に延々と続く反乱軍兵士をはりつけた十字架。ほこりっぽいカラカラの炎天下に人をぶら下げて並ぶ十字架の絵面には、やはり有無を言わせない迫力がある。そんな十字架が両脇に並ぶ街道を一台の馬車が行く。父の闘いは敗れても、希望は息子に託される。はりつけにされたスパルタカスの前を、自由を得た彼の希望が旅立っていく…。
原作はスパルタクスの反乱をテーマにしたハワード・ファストの小説。それを赤狩りで一時期ハリウッドを追放され、偽名で脚本を書いてきたダルトン・トランボが脚色した。追放以降、長く偽名を使ってきたトランボが再びクレジットにダルトン・トランボという名前を出した作品でもある。



代役としてイヤイヤながら監督を引き受け、ことごとにカーク・ダグラスとぶつかって、全てを思い通りには撮れずに随分苛立っただろうスタンリー・キューブリックだが、それでもやっつけ仕事はせず、きっちりと大作を演出し、その後のキャリアに本作の成功を繋げたのはエライなと思う。よく辛抱しました。でも、まだキャリアの最初で若かったから出来たんだろうな、とも思う。
3時間を越える長い作品なのだが、「アラビアのロレンス」同様、観始めるとずっと観てしまうパワーがある。そしてやっぱり、本作はローレンス・オリヴィエの存在が大きいなぁと改めて感じる。最高の敵役と言ってもいいその貫禄と臭み。
名優というより、怪優という気配も漂う。


ポーズもいちいちキマっている

政敵グラッカスを葬り去り、スパルタカスの乱を鎮圧し、勝ってばかりのようなクラサスだが、執心する相手には揃って見向きもされないありさまで情愛戦線では惨敗を喫する。クラサスをローレンス・オリヴィエがやっていなかったら、作品の魅力は確実に半減したに違いない。そして観終えた感想は、カーク・ダグラスには悪いけど、やはりオリヴィエ最高!ってことで締めくくられてしまうのである。

コメント

  • 2010/08/02 (Mon) 01:53

    この作品でジョン・ギャビンを知りました。彼、カッコイイですよね~。「サイコ」とかにも出てましたけど、イマイチブレイクしなかったんですよね。ジェームズ・ボンドの候補だったこともこの間知りました。決まっていれば、彼の俳優人生も少しは変わったでしょうに・・・惜しい・・・。

    で、この作品。カーク・ダグラスも強烈な面構えですが、やはりなんといってもサー・ローレンス・オリヴィエですよね。なんて悪そうなクラッスス・・・。視線のひとつひとつがねちっこく、妖しいことこの上ない(笑)。でもやっぱり、こういう史劇ものはこの人はバッチリ決まりますね。いや、本当にオリヴィエ最高!ですね(笑)。

  • 2010/08/02 (Mon) 07:56

    ジョン・ギャビンいいですよね。スタイルも良いし声もいいのに、ブレイクしなかったのも何となく分る気もしたり。彼一人で映画を1本もたせる事はできないって感じですね。何かが足りない。何か大事なものが…。主要キャストの中に入っていると目立ちはするんだけど…。ボンド候補だったんですか。でもコネリーと争ったらやっぱりオーラで負けますわね。残念。でも「スパルタカス」では光ってるからまぁいいか。
    この映画のオリヴィエの目つきは片岡千恵蔵っぽかったりしますわね。得意分野で思う存分楽しんで演じてて良いです。サウナのシーンではアポロンのようなジョン・ギャビンの横で意外に露出の多い姿で張り合って出てきたりね。腰巻のタオルも短めで。もっと長い方がいいんじゃない?とか思うんだけど。最終決戦の前にそれぞれ自分の兵や民の前で演説するんだけど、カークの声はあまり通らないのに、オリヴィエの声は口跡も鮮やかにくっきりと響いてね。舞台で鍛えた発声はやっぱり違うわ、という感じ。全てにおいて貫禄勝ち。やっぱりオリヴィエ最高!です。

  • 2010/08/03 (Tue) 23:56

    kikiさん、これ面白そうですね。キューブリック監督って「難解」ってイメージ先行で、「2001年~」しか見たことないんですけど、本作は雇われ監督としての作品ということでキューブリック色が薄く、逆にそれがより大衆的なというか見易い作品になっているのでは、と想像しました。そしてkikiさん評でわたしのツボを押す要素がいくつかあって、いつか見てみたいと思いました。まずはソウル・バスの手掛けたオープニング。これ相当かっこいい!ですね。彫刻好きとしてはこの黒バックに彫刻を配したアイデア、素晴らしい!のひとことです。先日「北北西に進路をとれ」を「午前10時の映画祭」で見たんですよ。これもソウル・バスでしたね。kikiさん記事にもお書きになってましたね。かっこよすぎです。そしてチャールズ・ロートンも好きなんですよ。ワイルダーの「情婦」の弁護士役しか知らないんですけどね、愛嬌たっぷりの肉団子ぶりで(笑)。それとトニー・カーティスもセクシーさを感じます。こちらも「お熱いのがお好き」の一本しか見てないんですけど、でも嫌らしくないほどほどのセクシーさがツボでした。そしてローレンス・オリヴィエって作品を恐らく見たことないんです。名前だけはずっと知ってて、有名作品がたくさんあると思うんですけどね、見る機会をずっと持たなかったですね、なんでかな。なのでどういう演技をする人なのか非常に興味ありです。そしてやはりローマ好きとしては押さえておかないといけない一本でしょうね!いつか見ます!!

  • 2010/08/04 (Wed) 23:40

    ミナリコさん。確かにこれはキューブリック色が薄いので見易い映画になっているというのはその通りかもしれませんね。キューブリック作品は「スパルタカス」以降の作品は一応全部観ていますが、どれもそれぞれ面白いと思いまするよ。好き嫌いはありそうですが(笑)
    ソウル・バスのタイトルデザインはやはり何かはっとさせるものを持ってますよね。今見ても一向に古びないセンスが光ってます。
    チャールズ・ロートンは愛嬌があってさらに皮肉もたっぷりって感じなのが持ち味でいいですねぇ。ふふふ。トニー・カーティスはルックスだけの俳優みたいに思ってたけど、演技派でありたいと思ってあれこれ考えながら演じてた人かな、と途中で印象が変りました。「成功の甘き香り」なんかでも野心家のハイエナみたいな男を楽しそうに演じてたりしてふぅん、と思いましたわ。で、R.オリヴィエですが、ワタシも数本しか観た事がないけれど、やっぱりサーと呼ばれるだけあって巧さと臭みとパワーが図抜けてますね。骨太の二枚目だった若い頃の作品には「嵐が丘」などありますが(若い頃のオリヴィエは男臭い二枚目でセクシーですよ)、怪優としてのオリヴィエは爺さんになってからの「マラソンマン」なんか真骨頂かも。徹頭徹尾怪演です。でも中期の「スパルタカス」でもやっぱり光ってるんですね。主演のカーク・ダグラスを押しのけて目立ってます。顔からしてもう、立派なローマ顔なんだもの。特に好きな俳優というわけでもないのに、本作ではオリヴィエばっかり観ちゃうんですわ。やっぱり大したもんです。

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