「ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女」 (MAN SOM HATAR KVINNOR)

~その暗くおぞましき欲望はどこから湧くのか~
2009年 スウェーデン/デンマーク/ドイツ ニールス・アルデン・オプレヴ監督



これが封切られた頃、劇場で時折トレーラーをみかけたのだが食指が動かずにスルーしたワタシ。タイトルにそそられなかったという事が大きかったと思う。「ドラゴン・タトゥーの女」とか言われてもねぇ。凄くBなテイストを想像しますわね。ミステリー小説を欠かさずチェックしているというタチでもないのでつい最近までさっぱり興味が湧かなかった本作なれど、最近、潜在的なスウェーデン映画への興味が顕在化してきた事とあいまって、ダニエル・クレイグが本作のハリウッドリメイク版に出るというニュースが入ってきて、ふぅん、と思っていたら、加入しているビデオ・オンデマンド・サービスでタイムリーに配信が始まった。これは観ろということなんだろうなぁ、と感じたので153分の長尺を観賞してみた。
主人公ミカエルは「ミレニアム」という社会派雑誌を主宰するジャーナリストで、大物実業家の不正を暴露した記事で逆に名誉毀損と証拠捏造で訴えられ有罪判決を喰らってしまう。そんな彼のジャーナリストとしての気骨に目をつけたのは孤島に住むリタイアした大財閥の総帥だった。彼はミカエルを孤島の館に招く。40年前に16歳で突如失踪した最愛の姪を想い続ける老いた財閥の前会長ヘンリック・ヴァンゲル。彼は、姪は一族の誰かに殺されたと推察しているが、老い先短い事とてどうしても真相を知りたいとミカエルに真相解明を依頼するのだった。刑に服するまでの半年間、調査に当る契約をしたミカエルだが、ハリエットの失踪を調査するうちに、数々の未解決の女性殺害事件が浮かび上がってくるのだった…。



というわけで、冒頭から陰翳の深い映像が物語への興味をそそる。失踪した少女ハリエットのモノクロ写真が非常に印象的だ。大富豪の一族、澱んだ血、孤島、大昔の失踪事件など、お膳立ては古典的ミステリーのそれと大差ないのだが、そこに黒トカゲのような若い女調査員リスヴェット(=ドラゴン・タトゥーの女)を投入することによって物語に新鮮な魅力と勢いが加わっている。このリスヴェットは複雑な過去を持ちつつも、調査員として優秀で、しかもハッカーとしても相当な腕前を持っている、という設定。真っ黒な髪に鼻ピアス、化粧も服装もパンクな黒トカゲ風味で、好悪は脇において、とにかく非常にインパクトのあるルックスとキャラクターであるのは間違いない。



ショートヘアでやせっぽち、胸も薄い少年のような体型だが、その肉体は極めて若い時から女性としての災難を幾重にも受けてきている。リスヴェットの何が良いのかというと、傷つきながらもけして潰れず、肉を斬らせて骨を断つ式のオトシマエのつけ方に代表される、完全に自立した、何から何まで自分の事は自分でキッチリと始末をつけられる女であるという、その完全自立の生き様だろう。宿命的に被害者になりやすいタイプだが、被害者のままでは終わらないその強靭さ。そして、リスヴェットの受ける性的な迫害は、40年前のハリエットの受けた迫害に収斂していく。何十年を経ても変らない、男の病んだ欲望に曝される若い女の悲劇…。禍々しい欲望に衝き動かされる人間の衝動というのは限りも果てしもないものなのかもしれないが、こういう性質は遺伝的傾向のものなのか、それとは特に関係ないのか。狂信しやすいタイプに多いのか、そうでもないのか、人種的にそういう傾向の強い人種とそうでない人種というのものがあるのかどうか、など観ていて気になった。(たとえばシリアル・キラーというのは圧倒的に白人男性に多いという統計があるようだ)そのおぞましいばかりの残忍な欲望はどこから湧いて来るのか。そういう人間もいるだろうさ、では片付け切れないものを感じた。


クセモノ揃いのヴァンゲル一族

16歳のブロンドの美少女ハリエットは殆どモノクロの写真として、しかもぼやけた昔の記録写真の中で現れる事が多いのだが、ぼやけた写真の中で視線を一箇所に据えているその表情にはインパクトがある。こういう写真の使い方は新鮮で迫力があるなと思った。ミカエルが幼い頃にヴァンゲル一族の島に行った事があり、失踪したハリエットに幼い頃に会っているという設定が物語にいささかの叙情的な雰囲気を加えていたし、また、ラストへの伏線として生かすなど、センチメンタリズムのみで終わらないのも無駄がない。

リスヴェットを演じるノオミ・ラパスは美人でないだけにリアルな迫力があった。これをハリウッドがリメイクする場合にも、リスヴェットを誰が演じるかで作品の成否が左右されることになるだろう。(何でもちょっと当るとすぐにハリウッドがリメイクするのもどうかとは思うのだけど、「マイ・ブラザー」におけるジェイキーや、今回のダニエルのようにリメイク版に贔屓俳優が出る場合には一応観ておこうか、という気分になってしまったりもする)ミカエルはダニエルが演じる事が決まっているが、本作はリスヴェットの存在が核ゆえ、そのままリメイクするとなればダニエルはややサポート的な役廻りであって、期待するほど演じどころはないかもしれない。(ワタシの感じでは「アークエンジェル」のケルソーさんのバリエーションみたいな役柄になるのではないかと思う)能動的に活躍するのはリスヴェットの方で、ミカエルってPCはリスヴェットにハッキングされて情報を抜かれ放題だし、調査面でも何かと彼女に助けられてばかりいるという印象だ。が、しかし彼には粘り強さとまっとうなメンタリティと、とことんエキセントリックなリスヴェットという女をやわらかく受容できる懐があるのだ。 そこが、肝心。
折々慈しみをこめた眼差しでリスヴェットや病床のヘンリックをみつめるミカエル役のミカエル・ニクヴィストの目が良かった。 


ひたすら受身のキャラクターに見えるミカエル

当初は、ヘンリックがミカエルを雇う前の人物調査で、調査員として雇われてミカエルの身辺を見張り、PCに潜入して情報を盗ったリスヴェットだが、仕事は終わっても何故か彼のPCへのハッキングをやめない。そして自分から彼が行き詰っている調査へのヒントを送るのだが、彼女がそもそも彼のどこに興味を持ったのか映画を観ただけではつかめないし、彼女の過去についても断片的な描写から想像はできるが、それ以外のファクターもあるかもしれず、それはシリーズの2作目、3作目で明らかになって行くのかもしれない。



姪の失踪事件の調査を依頼する老いたヘンリック・ヴァンゲルを演じるスヴェン=ベルティル・タウベの面差しや雰囲気が良かった。アクの強い人物の多いヴァンゲル一族の唯一の良心ともいえる人物を演じて説得力があり、陰惨な孤島の風景や、おぞましい一族の話の中で彼が映るとどことはなしにホっとした。たださえ寒いスウェーデンなのに、ストックホルムから更に北の凍りついた孤島に住むヴァンゲル一族。なんだってこんな寒々しく禍々しいところに館を建てたものか…。そしてヘンリックは、兄弟がみなナチかぶれになった一族の中で、よくぞ己を保って来られたものだと思ったりする。(そういえばスウェーデンはバルト海を挟んでドイツとは近いのだ。よりドイツに近いのはデンマークの方だけど…)
老いた彼の気懸かりは姪の失踪の真相のみ。そして、彼の居室を彩る、あの40年間の押し花に籠められた想い…。



2時間30分もある映画なのだが、ダレも中弛みもせず、集中して最後まで観賞した。
そして、人間のおぞましい欲望のよって来るところについて、しばし考えさせられた。

シリーズ1作目の原作本は図書館に予約を入れても当分順番が廻ってきそうもないので映画から先に見てしまったが、2作目は借りられたので読んでみようかと思う。これは当初5部作構想だったらしいが、原作者スティーグ・ラーソンが3作目まで書きあげたところで2004年に他界したため3部作となったとか。ミレニアムの2作目、3作目の映画化作品はこの9月からギャガの配給で連続公開されるらしい。シネマライズらしい作品だと思うが、うーん、渋谷か…。

コメント

  • 2010/08/05 (Thu) 10:36

    kikiさん、鑑賞されたんですのねん。私も先日この映画を「見たいなあ」と思ったら数日後にWOWOWにて発見したので、運良く見る事ができました。原作は長大なお話なので割愛されている部分も大きく、一足飛びにどんどん話が進んで行く様は、ちょっと拙速な感じもしたんですが、それでも2時間半だからやはりあのスピードじゃないと話がまとまらないんでしょうね。いろいろ割愛した割にはがっかり感が少なく、映画も良くできていたと思います。この映画放送の次の番組でこの話のドキュメンタリーをやっていたのでそれも録画しておいてみたのだけど、この本はスウェーデンでは空前絶後の凄まじい売れ行きだったので、映画にかける期待も高く、前売りもすごく売れたんだそうですよ。制作側もそういう期待を一心に引き受けたみたいなところあるんでしょうね。
    ダニエルがミカエルの役を引き受けたというのは私も読みましたが、悪くないですよね。リメイクしても見てみたいかな、ダニエルなら。
    あと知り合いのスウェーデン人に聞いた事がありますが、一昔前はスウェーデンでは外国と言うとドイツだったそうですよ。ドイツ語を学び勉強もドイツに出かけていたらしく、いつ頃までなのかは忘れましたがドイツが仰ぎ見る国だったそうです。特に戦前ならそういう影響もあってナチズムも入り込んでいたんでしょうね。
    久々にスウェーデンの寒々とした風景を見て、暑い夏にしばし涼しくなりました。

  • 2010/08/05 (Thu) 23:32

    Sophieさん、観ましたわよ。なにやらキッチリお膳立てされて目の前に差し出されたって感じだったのだもの(笑)そうか、WOWOWでも放映されたのねん。Sophieさんも居ながらにして観られてなによりざんした。原作は長いお話なんでしょね。原作読んでる人は映画の展開が先を急ぎすぎっていう印象になるみたいね。原作未読だと別にどうも思わないんだけどね。映像も陰翳が深くて印象的だったし、ミステリーとしてはさして新しくもない話にインパクトのある登場人物をうまく絡めたなって感じでしたね。1にも2にもリスヴェットというキャラクターありきの「ミレニアム」ですわね。スウェーデンじゃ猛烈に売れたというのは何かで読みましたわ。知らないなんてあり得ないってぐらいな大ベストセラーだとかで、それを映画化するというのは、ほんと、かなりのプレッシャーだったでしょうね。で、リメイク版ですが、ダニエルのミカエルはけっこうハマっていそうだけど、割に静かな受身の役だからキャラクターはハリウッド的書き換えがなされたりする事もなきにしもあらずではなかろうか、と推察。そのへんはリスヴェットのキャスティングにも拠るかもしれぬですわね。そして、スウェーデンにおけるドイツの影響力というのはけっこう大きなものがあったざますのね。ふぅん。特に第二次大戦前まで色濃い影響を受けたんでしょね、きっと。で、原作ですが、図書館で2作目の上下巻がすぐに借りられたので読み始めましたわ。確かにぐいぐい引っ張るものありますね。なんかどんどん読んでしまうわね、これ。

  • 2010/08/06 (Fri) 12:29

    これは劇場で観ました。面白かったですよね。
    最初、ミカエルを観た時、「結構おっさんだ・・・」と思ったんですが(爆)、観ていくうちに親しみが持てるキャラクターになりました。応援したくなるというか。そうですか。このミカエルをダニエルが演じるんですか。これはまた違ったイメージになりそうですね。
    リスヴェット役の女優さん、ハリウッドで見つかるかなあ?と思うぐらいに、本作の女優さんは強烈でしたね。この役は難しいでしょうね。
    ところで、この映画が公開時に話題になったのが、スウェーデンでは女性に対する性的虐待が多いということでした。スウェーデンって大人の国で、女性の社会進出も進んでいるというイメージだったので、これはちょっと意外でしたね。
    2作目、3作目も楽しみですね。シネマライズはタイムテーブル的に合わない時間帯が多いのがちょっと難なんですけどね・・・。

  • 2010/08/07 (Sat) 00:15

    mayumiさんは封切り時にご覧になったんですね。予想外に、というか、面白かったですわ。ミステリーとしてはそう目新しい展開じゃないのだけど、北欧の風景とキャラクター造形が新鮮でしたね。ミカエルは原作ではけっこう女性にモテるという設定らしいので、北欧版映画のおじさんよりはダニエルの方がハマってるかもしれませんわね。ダニエルが演じる事で、ハリウッド版はもう少しミカエルのキャラや行動に振幅が出るかもですね。リスヴェット役は誰がやるんでしょうね。いっそ名前のある人より全くの新人でインパクトのある女優を起用するとか、ね。
    で、スウェーデンて女性への暴力が多い国なんですか。ふぅん。まぁそういう背景があるので、この小説も大反響だったのかもしれませんが、確かにちと意外ですわね。しんと寒くて人は物静かで穏やかってイメージですが、ドイツに近くてネオナチも多かったり、女性に対するDVが激しかったり、イメージと違う部分もあるお国柄でもあるようですね。
    シネマライズはけっこういいチョイスで作品を上映する劇場ではあるのだけど、割引デーは混みそうだし、ワタシの場合、渋谷というだけで行く気が3割はそがれてしまうんですのよね。道が狭いのに人が多すぎて…。有楽町界隈でも公開せぬものかしらん。

  • 2010/08/10 (Tue) 23:26

    面白いと評判の注目してた映画なので、Sohpieさんと同じくwowowで撮っといて、でもなかなか見れず・・・が、ここに来てkikiさんの記事、やっと観ましたよ。いや~もう面白かったわ!
    話を変にこねくり回してなくて、分りやすい筋立てがいいです。(「インセプション」、私がダメだったのはその辺り?笑)。
    ミステリーとはいえ物凄くダークな眉をひそめる内容。そんな中でミカエルとリスヴェットの関係に、そして同じく当主のヘンリックの存在に、ほっとしますね。
    リスヴェットが何とも強烈で惹かれますねぇ。後見人に復讐するあの強さ。ミカエルの優しさにふれた時の可愛さも。これをエレン・ペイジが演じるかも?(まだ候補)とのことだったんですね~なるほど(あの雰囲気を出せるのは並大抵じゃないと思うけれど)。
    私もダニエルのミカエル役はOK。楽しみです♪
    2作目・3作目も、首を長くしてWOWOW待ちかな。
    その前に待ちきれずに原作読んでしまうかも?

     
    ↑の記事に「おっ! あんなドラマもこんなドラマも♪」と反応しましたよ。また今度寄らせてもらいますね~。 


  • 2010/08/11 (Wed) 00:15

    ジョディさん、ご覧になりましたのねん。ワタシはあまり期待してなかったんですが、面白かったですね。このシリーズはとにもかくにもリスヴェットありき、ですわね。1作目は映画で見たので、2作目はいま原作を読んでいますが、面白いです。1作目より面白いかも。リスヴェットの過去が明らかになるって感じなんですわ。これが映像化されているなら、やはり観ないわけにはいかないなぁ、という感じ。封切りが楽しみです。で、ミカエルもスウェーデン版のオジサンよりも、原作のイメージはダニエルの方に近いような感じがします。なんだか女好きのする男、という設定で、とにかくモテるので女性関係が輻輳してるんですよ。本作のオッサンじゃそういうイメージじゃないけれどダニエルならアリですね(笑)で、ハリウッド版のリスヴェットですが、エレン・ペイジじゃちょっと弱いんじゃないかという気がしますね。イメージ的には若い頃のジョーン・ジェットみたいな感じの女子(細身で小柄で黒髪に黒い眼で鋭い気合の入った顔つき)が理想的かな、と思うんですが…いま居ないなぁ、あのテは。
    原作はかなり面白いのでジョディさんも読まれてみてください。読んでも映画への興味は増すけど減退はしないと思いますわ。

    ふほふほ。ドラマ記事の方にも、お待ちしてましてよん。

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