「地下室のメロディー」 (LA MELODIE EN SOUS-SOL)

~すべて水の泡~
1963年 仏 アンリ・ヴェルヌイユ監督



先日BSで放映されたので留守録して、これもやや久々の観賞。まぁ、「地下室のメロディ」といえば、何といってもあのテーマ曲ですわね。いまだになんだかんだと使われるあのメロディ。そしてジャン・ギャバンアラン・ドロンはどうしてこうも相性がいいのか。太った爺さんと黒髪の若造。抜群のコンビネーション。若くてギラギラしたドロンを観ているだけでも飽きないが、その上あのラストだものねぇ。実に、ニクい限り。
かなりデブっちょの爺さんになっても、どうしてジャン・ギャバンってカッチョいいなと感じるのだろう。存在感がたまらない。あのジャガイモみたいな鼻。染み出す貫禄。ギャバン演じる初老の男シャルルは何年刑務所に喰らいこもうと、一向に価値観を変えない人間だ。その、ささやかな金や小市民的な小さな幸せなどにはけして満足できない性格(月賦でバカンス~戻ってきたら当分絶食か~)は、タイトルバックの最中に、もう分るようになっている。出所して、昔買った自分の家を探し探したどり着くまでをタイトルバックの間に見せる。



古女房は呆れて迎えにも行かないが、亭主に愛想を尽かしているわけではない。二人で静かに生きて行く計画を彼女なりには立てていたのだが、シャルルはそれを一蹴する。彼にはずっと温めてきた計画があったのだ。人生最後の大勝負。その生涯の総仕上げになる大仕事の計画を。
だが、かなり太って老いたシャルルは計画を一人ではまっとうできない。そこで爺さんには困難な部分をこなせる若い男を計画に引き込む。刑務所で知合った若いチンピラ、フランシス(アラン・ドロン)だ。



と、いうわけでドロン登場。いや~、若くて男前盛り。おまけに貧乏で野心が渦巻き、若くてギラギラしている男というキャラなので、まさに打ってつけというか何というか、こういう役はドロンの為の役だろう。そして、黒髪で男前の小悪党と、体はこまめに動かないが大貫禄で有無を言わせない爺さんというギャバンとドロンの組み合わせは、まさに絶品のコンビネーションだ。なんでこの二人ってこんなに相性がいいのだろう。互いに互いの存在を引き立てあってどちらも輝いている。ルックスも個性も対象的なので、最も効果的に補い合う関係なのかもしれない。


コンビネーションのいい二人

ドロンは役のフランシスと同じく27,8歳ごろ。貧乏やこうるさい母親がウンザリで、一発当てたいぜ、と思っている若造の雰囲気は殆ど地~という感じで活き活きしている。
ドロンはあのマスクに加えて、けっこう骨格ががっしりしていてそこそこ筋肉もついている。肩幅が広いので背広が似合う。そうかと思えば無造作なセーターにジーンズなども惚れ惚れするほどよく似合う。二枚目なだけではなく芝居も上手い。ワタシは男女ともに煙草のサマになる人が好きだが、ドロンももちろん煙草が似合う。一本取り出し、一度香りを嗅いでから咥えて火をつける仕草がキマっている。



ドロン演じるフランシスは男前なので年増女などにすぐに言い寄られるのだが、興味がない相手に対しては冷たいこと冷たいこと。惚れ惚れするばかりのつれなさは若い頃のドロンならでは、だ。冒頭近くで「面倒見るわよ」とスリ寄ってくる年増をニベもなく払い除ける様子や、リビエラのカジノで伯爵夫人を名乗る年増の娼婦を「お里は知れてるぜ」とばかりに一蹴するシーンなどはその真骨頂。


この、暗い野心で充満した感じがえもいわれない

フランシスの義兄を運転手役で計画に引きこみ、いざ、リビエラへ。
狙うはカジノの大金庫に眠る十億フランだ。
金持ちの坊ちゃんに成りすますフランシス。サングラスにスポーツカーで南仏をぶっ飛ばす。風になびく黒髪。キマリすぎである。ホテルに着いたら金持ちぼっちゃんとして不自然でないように、こういうところに気をつけろ、ああいうところにケチをつけろ、などのシャルルのアドバイスをその通りに実行するフランシス。このアドバイス、欧州の一流リゾートホテルでニホンジンがナメられない為にも有効かもしれない(笑)


つけいるスキもないカッコよさ やはり若いドロンは別格だ

ホテルのプールサイドでバーテン相手に女の品定めをするシーンはいかにも若いドロンらしさが溢れていてニヤニヤする。カジノのダンサーをたらし込む事も計画の一部だが、プールサイドでは撃沈かと思われたフランシス、ちゃんと本命とお近づきになるのはサスガの一言。ドロンがちょこっと惚れるダンサー役でヴィヴィアーヌ・ロマンスが顔を見せている。かなり大柄な女優で、ハイヒールを履くとドロンよりノッポになりそうなのでローヒールで歩いていた。ヴィヴィアーヌ・ロマンス演じる踊り子との本気とも方便ともつかない絡みは、若いドロンの華を引き立たせるため以外にあまり意味がないようにも思われるのだが、もちろんそんな事はなく、最後にちゃんと新聞に載るフランシスの写真という形で計画に影響を与える伏線になっている。まぁ、何の伏線にもなってなければただの無駄ってことになるのだけど。



先乗りしたフランシスがあれこれ下準備を整えたあたりで爺さんがリビエラに乗り込む。
話はシンプルだが、どのシーンも説明不足という事がなく、爺さんの気持ちも分るし、若造の気持ちも分る、という感じできちんと描かれているし、若造フランシスの義兄のキャラクターも、演じる俳優の顔立ちや雰囲気と合っていて、犯罪に染まりきれない小市民気質の男とそうでない小悪党の二人、という対比も効いていた。いざ計画を実行に移した時も、かなりじっくりと(だけど時折なんとなく間が抜けた感じで)はしごを上って天井裏に上るドロンや、カジノの屋根の上で懐中電灯を点滅させるドロン、ダクトの中をタキシードで這っていくドロン、エレベーターの上に降り立つドロンなどを追っていく。中でもダクトがカジノの上で一部覆いがなく金網になっている部分を、わりにのんびりとしたスピードでドロンが腹ばって進んで行くシーンは、動きがノンビリしているので余計にサスペンスフルに感じた。



金網の下にはさんざめくカジノの客たちが見える。ドロンのシルエットがその上を這って行く。若いドロンは身も軽く、カジノの屋根のかざりをくるりくるりと乗り越えて道路から見える端の方まで移動したり、ダクトの中を這い進むのだが、身軽そうで時折動作が間抜けた感じもほの見えるところが昔のおフランス映画だなぁ、と思う。たとえば、ダクトを這うシーンなど、マット・ディモンのボーンだったら、この映画のドロンの3倍速のスピードでシャシャシャーっと進むんじゃないかしらと思われた。

そして、あのラストのプールサイド。
あれだけ用心深いシャルルが、そもそもプールサイドで受け渡しなどと考えたのが失敗だったのではあるまいか。
かばんの特徴を覚えているとカジノのオーナーがさんざん警察に言うのを聞いて、若いフランシスは大きなカバンを2つも身近に置いておく事に耐えられなくなってしまった。しかし、警察一行は桟橋の方に遠ざかっていきかけていたし、フランシスは何事もなかったようにカバンをプールサイドに置いて、ただ立ち去ればよかったようにも思われる。何事も用意周到で用心深い爺さんも、予定外の事態に慌てて、咄嗟にとっぴな行動に走る人間の心理にまでは思いが至らなかったのか。


対角線の構図が緊迫感を生むプールサイドのシーン

ここぞとばかりにBGMで盛り上げるあの大徒労のラストシーン。BGMはメインテーマをアレンジしたものだが、ドビュッシーの「沈める鐘」のようにも聞こえる。ここはいささか冗長で、やりすぎかな、というぐらいに時間をたっぷりと取っているが、このシーンの為に全編を積み重ねてきたんだろうから、思いきりやってもらいましょう。朝刊の向うから首を捻って未練げに水面をみやるギャバンのシャルル。への字の口元がさらに未練げだ。でもこの爺さん、諦めなさそう。全てが水の泡になった事をじっくりと認識しおえたら、また何か企み始めそうな気がする。そしてその相棒はまたフランシスだったりして~あぁ塀の外の懲りない面々。


鏡への映りこみを好んでシーンに取り込んでいるヴェルヌイユ監督

本作を観ていて、ジャン・ギャバンは若い頃から活躍し、老人になっても味のある役で代表作を生み出した巨大な俳優だったけど、ドロンは爺さんになってからの代表作って無いなぁ、とふと思い至った。なまじ若い時に美貌で鳴らすと中年あたりまではいいが、老境に入ってくるとさすがにギャバンのようなわけにはいかぬものだろうか。


この時期のドロンは観ているだけで楽しい 実に実に実にハンサムだ

既に一世を風靡したんだからいいようなものだけど、老境のドロンも味のある年配の役でギャバンのように代表作を生み出して欲しいなぁ、などと思ったりもする。まぁ、これまでに散々作品には恵まれたんだから、もういいといえばいいようなものだけれど、折角現役で頑張ってるからにはもう一花パッと咲かせて、ドロンらしい有終の美を飾ってほしいな、というような気分になった。

コメント

  • 2010/08/18 (Wed) 01:23

    大大大好きな作品です~。
    冒頭のあの音楽から惹きつけられますよね。
    そして、仰るとおり、ドロンの美しいことったら!若い頃のドロンって、本当にいい男ですよね~。で、確かにギャバンとの共演多いですね。3,4本ありますかね?「シシリアン」は観ました。「暗黒街のふたり」は未見です。
    そして、何といっても印象的なのはラストシーンですよね。うわぁぁ~あの苦労がぁ~って思いながら観てました(笑)。
    ドロンは舞台はまだやってるみたいですけどね。映画は引退しちゃいましたよね。でも最後の映画があんなちゃちい映画ってのも寂しすぎる・・・。kikiさんの仰るとおり、あと1本、これまでの集大成のような作品を撮ってほしいですよね。

  • 2010/08/18 (Wed) 07:03

    音楽からドロンからモノクロの映像からこだわりの窺える構図から、とにかくキマリすぎてて冗談のようにも見えてしまうぐらいに、カッチョいいですよね。これ、カラーじゃないから良かった気がします。モノクロだからこその良さが煌いてますね。ギャバンとの共演はあれこれあるけど、これが一番見てて楽しい感じ。「暗黒街のふたり」になるとちっと暗いので。ドロンは本当にハンサムですわね。ワタシは彼の体つきも好きなんですわ。やはり男は肩幅です。そしてさらさらと風にゆれる黒髪。たまりませんねぇ。ドロンの近作はTVの刑事ものをちょこっと観ましたけど、ドロンのまま老いた、という感じですね。いい企画がくれば、まだ映画にもきっと出るでしょう。誰か老いたドロンを上手く使ってこれぞという作品の撮れる監督いないかな。アラン・ドロンの映画のキャリアがあれで終わっちゃねぇ…。ドロンたるもの、老境に入ったところでもビシっと一発キメたいものですよね。

  • 2010/08/23 (Mon) 23:55

    わたしもBS放送を録画してたのを見てみました!
    あの音楽はこの作品のそれだったとは露知らず。面白かったですねえ。J・ギャバンの作品てそれほど見たことないんですけど、作品そのものがイケてなくてもJ・ギャバンが出てるから許す!って感じでやっぱり別格ですね。フランス人の先生と話す機会があって、この作品の話しをしたら、やっぱりJ・ギャバンは素晴らしい(この作品に限らず)とベタ褒めで、この時代のフランス映画はよかった、今は・・・と憂いの表情を。
    わたしはこの作品を見ながら途中から志村喬と敏ちゃんコンビが思い浮かんで仕方ありませんでした(笑)。「酔いどれ天使」あたりの頃のふたりだったらこういうコンビもありだなあって。しかし敏ちゃんだったら狭いダクトを這って進むのに「狭いな、畜生!」ってガツンと頭でも打ってヘマを犯してしまいそうですが・・・。志村・三船コンビのサスペンスものも一興だったのではと思ったのでした(笑)。

  • 2010/08/24 (Tue) 07:28

    ミナリコさん。ご覧になりましたのねん。そうそう、あの有名なテーマ曲はもはやそれだけが独立して命を持ってますね。スタイリッシュでインパクトがあって、CMのBGMとかに打ってつけなんですね。サンプルでリンク張ったこのホンダのCM、好きだったんですわ。
    で、ギャバンはなにがなし味がありますね。味系オヤジにはスペンサー・トレイシーとかも居るけど、ワタシはギャバンが好きかな。哀愁もあるし、貫禄もあるし、なんか良いですね。フランス人が昔の映画は良かった、と思うように、日本人も昔の映画の良さを知る人は、昔の日本映画は良かったけど今はねぇ…って事になりそう。特に今年は、まるきり新作の日本映画に引っ張られません。で、本作でのドロンとギャバンのコンビは、「天使」の時期の敏ちゃんと志村のおっちゃんで置き換えも可能って感じですね。でも、日本であの時代にサスペンスっていうのはまだ時期尚早というか…。黒澤脚本の「銀嶺の果て」だってあのユルさだしねぇ。(敏ちゃんは魅力あるけどユルかったでしょ?あれ)まぁ、「地下室の~」も昔のおフランス物なんでユルいといえばユルユルでもありますが、最近のめまぐるしいサスペンスとは異なる味わいがあります。それが楽しめない人はリュック・ベッソン物でも観てればいいのでね。で、敏ちゃんが本作のドロンの役廻りをやったら、アクション部分はあの脅威の身体能力で、ドロンなんかよりずっとスピーディで身軽だったと思うけど、色男ぶりっこみたいな部分はまるごと割愛かも。そういうの苦手だもの、敏ちゃん。ふほ。

  • 2010/08/29 (Sun) 13:57
    麗しい

    ブログの全文に頷いております。この頃のドロンは最高ですね。ほほの傷繋がりですが…「黒いチューリップ」をまた見たいと思いました。

  • 2010/08/29 (Sun) 22:42

    nekotanuさん。コメントありがとうございます。ほんと、この頃のドロンはいいですよね。若さの輝きに飢えたギラギラ感がいい味付けになっています。「黒いチューリップ」は随分昔に観たきりであまりハッキリと覚えていないんですが、そのうち映画チャンネルで放映されたらチェックしようと思います。

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