「オーシャン・オブ・ファイヤー」 (HIDALGO)

~ヴィゴと砂漠とけなげな馬と~
2004年 米 ジョー・ジョンストン監督



19世紀末、全長4800キロに及ぶアラブの灼熱の砂漠を駆けるサバイバルの長距離レースに参加した一人のカウボーイと彼の愛馬の活躍を通して語られる「民族の誇り」とアイデンティティに目覚める男の物語。実話がベースだというからオソレ入る。「カウボーイ」と呼ばれる男にヴィゴ・モーテンセン。いや?、魅力爆発のハマリ役。ヴィゴってこういう役をやらせると、ほんとに良い。バッチリのピッタンコである。アラブの老シーク役でお約束のオマー・シャリフが登場。出てくるだけでも嬉しいが、ちゃんといい味を出していた。そして、あの雄大かつ過酷な砂漠。その陽炎の立つ砂漠をひたすらに駆けて行くけなげな馬たち…。どうも砂漠の登場する映画に弱くってねぇ、ワタクシ。
邦題の「オーシャン・オブ・ファイヤー」は砂漠の過酷な長距離レースの名前だが、原題の「HIDALGO」はカウボーイの愛馬の名前。今回はいずれのタイトルでも可、という感じだろうか。

ヴィゴ演じるカウボーイはフランク・ホプキンスという英語名で通しているが、母はスー族で、先住民族と白人との混血児である。”青き子”を意味するスー語の名前(ホクシラト)も持っているが、白人に追いたてられ、迫害されて、どんどん狭いところに押し込められていくだけの先住民として生きるわけにはいかず、白人に見えるのを幸い、西部で「白人の速達便の配達夫」として生きていた。だが、心の奥底で母のルーツである先住民の血は騒いでいる。虐げられる同胞に対して、血の涙を流している。しかし、彼には金もなく力もない。大きな流れを食い止めるにはあまりにも無力過ぎる。そんな折、白人たちの専横は先住民だけではなく、彼らの固有の馬であるマスタング種にまで及ぼうとしていた。種の絶滅である。救うには今いるマスタング種の馬を全て買い取る他はないが、それには途方もない金がかかる。時折そのマスタング種の馬で長距離レースに出て優勝しているだけの速達便の配達夫に何ができようか。



数年後、愛馬ヒダルゴと大西部ショーに出て各地を廻っている折、長距離レースで不敗の馬は自分の持ち馬以外にはありえない。しかるに世界一を名乗るとは何事か。1000年の歴史のあるアラブの長距離レースに出場して、我が愛馬に挑戦してみよ、というアラブのシークの招待を、フランクはその巨額の優勝賞金ゆえに受ける事にする。

この大西部ショーの座長役でJ.K.シモンズ登場。いつもに較べるとアクの少ない、気のいいおっちゃんの役で愛嬌があった。印象的なのはスー族の長老で大西部ショーで敵役として見世物に甘んじ、物を投げつけられながら生きるためにスポットライトの中へ出て行く族長イーグル・ホーンを演じていたフロイド・レッド・クロウ・ウエスターマン。アメリカ先住民族って東洋人と面差しが似ているので、静かな諦念を浮かべて敵役として出て行く姿には胸がしんとした。そして、その背中を舞台化粧の崩れた顔で涙ながらに見送るしかないフランクの辛さ…。


見世物に甘んじる族長

フランクは族長の強い意志を受け、白人と先住民の間で揺らぐアイデンティティを抱えたまま、砂漠の大レースに参加するため、愛馬ヒダルゴとNYから船に乗る。
彼の背中には滅び行く種族の誇りと最後の希望がずっしりと乗っていた…。
というわけで、NYからの船出にはお約束の自由の女神像も登場。あれは入国する際に目にしても出国する際に目にしても、印象的で感慨深い彫像だ。



アラブに着いたフランクを待っていたのはシーク・リヤド。オマー・シャリフ登場である。この役はオマー・シャリフ以外の一体誰に~というぐらいに打って付けな役。オマー・シャリフならではの役で老いた彼の姿を観られるのも映画ファンには嬉しいところだ。シーク・リヤドがワイルド・ウエストにひそかな憧れを持っている、という設定が可愛い。また、半月刀を振るって敵対部族を撃退するシーンなどもあって、ちゃんと見せ場も拵えてある。このシーク・リヤドが主催するのは1000年も続いてきたというアラブ伝統の馬による長距離レース。純血のアラブ馬と王の血族しか出場できないこの由緒正しいレースに、シークの招待とはいえ異教徒のアメリカ人が参加するなど有り得ない、と各参加者は色めきたつ。ベドウィン族などが登場する映画をみていると、その非常な誇り高さと名誉を重んじるありよう、他に類を見ない固有の装束と風習、一刀のもとに首を切り落とす様子など、ニッポンのサムライとの共通点をなんとなく見出すわけだが、サムライを縛るのが武士の掟ならば、アラブの男たちはアラーの神に全てを捧げ、また全てを握られている。外国人には理解しにくい観念や不文律で動いている部分なども、どこか似ていると思う。



ライバルたちの中でひときわ印象的なのは、鷹を肩に乗せたサカルという男。演じるのはアドニ・マロピスという人で、アメリカの俳優なのだけど、ワタシは本作で初めて観た。顔がキリっとしていてアラブの衣装がよく似合い、鷹を使う様子がクールで良かった。このサカルとフランクが互いに武士の情けをかけあう「友情のようなもの」も過酷な命がけのレースの中でさらりと描かれていて良い。



シークの娘とのほのかな交流(この娘役がもうちっと綺麗でも良かったと思うのだが)や、シークの名馬との交配権をかけてレースに臨む、なかなかの策謀家のレディ・アン(ルイーズ・ロンバード)の存在なども、お話に上手く絡まって、いい味付けになっている。ちなみに、このレディ・アンの夫役で、アラブへの船旅シーンにだけチラっとマルコム・マクダウェルが顔を見せていた。時計じかけのアンファン・テリブルもすっかり爺さんになってるなぁ。年上のオマー・シャリフよりずっと爺さんに見えた。


ちょこっと顔を見せるマルコム・マクダウェル

レースの裏で様々に絡む思惑や人間模様と、砂漠での過酷な自然との闘いのバランスも良い。砂嵐や、砂の底ナシ沼、蠍などもガッチリと登場。美しい朝焼けや夕焼け、オアシスでの夜営、そして、どこまでも続く、ぬめらかに起伏する妖しいまでの砂の堆積…。それに砂漠をイナゴの群れが通過するというのも初めて知った。イナゴの大群というと、パール・バックの「大地」をどうしても思い出す。


策謀家のレディ・アン(背後)と


あぁ、砂漠

とにもかくにも砂漠である



民族の誇りを異様に重んじるアラブ人に混ざって炎天下の砂漠で過酷なレースに参加するうちに、フランクは自らのルーツ、その血の誇りの拠って来るところをはっきりと自覚するに至る。アラブ人と同じく”馬の民”としての自分のアイデンティティである。彼の民族の旗印として掲げられるのはスー族の印であり、絶対絶命の状況に追い込まれた彼が口ずさむのはスー族の歌であり、祖先への祈りであり、SOSなのである。彼の祈りに呼応して、砂漠のじりじりと焼けつく干割れた土地の上に、スー族の祖先たち、そして母と幼い自分の姿が蜃気楼のように現れるシーンは、さりげなく、厳しく、美しい。
このシーンはブルーのフィルターがかかり、神秘的でひとしお印象的だった。

ヴィゴは痩せすぎてもいず、わりにガッチリとした体つきなのも役に合っていたし、まぁとにかく適役といって、これ以上の適役もあまり無いかもしれない。アラゴルン以外では、この作品のヴィゴはかなりポイントが高いと思う。あぁ、でも「イースタン・プロミス」も良かったな。なんだかんだ言ってもヴィゴってやっぱりいい俳優だ。なんとはなしに好ましい。そして、馬。フランクの馬ヒダルゴは鼻先が桃色で模様はブチで、体も小さいし、ちっとも耐久力がありそうにも脚が早そうにも見えないのだけど、いざとなると文字通りの馬力を出して鼻血を出しつつも疾走する。この馬が動物タレント的に表情などで小芝居をするように演出されているのだけど、あまり動物に小芝居をさせるのが好きではないワタシは、馬の小芝居だけはちょっと邪魔に感じたけれども、馬という生き物のけなげさや賢さはよ~く出ていた。そしてアラブ人が女よりも馬を大事にし、時には自分よりもまず馬、という習性であるのにもちょっと驚いた。

アラブ人とネイティヴ・アメリカンとモンゴル人で“馬の民”による長距離レースをやったら、どこの民族、どこの馬が勝つのか、映画を見ていてふと興味が湧いてしまった。



あまり期待せずに観たのだけど、映画の面白さを至るところに湛え、また、しみじみと考えさせられもするという、良い作品だった。
野生の馬が柵から出て思いきり草原を駆けていく、ラストの爽やかな余韻も忘れ難い。

コメント

  • 2010/09/06 (Mon) 23:07

    kikiさん、これ観られたんですね。羨ましいなぁ。
    たしか今年(何月かは忘れました)BS2でやってたんですよね。
    ヴィゴの名前は確認してたのに、どういう映画か知らなくて大した事ないだろうとタカをくくって、録画しなかったんです(あぁ~)
    でもちょっと気になって後半もだいぶ過ぎてから見てみると、素晴らしくロケーションの綺麗な砂漠が映ってるじゃありませんか! 
    そして何とも過酷なレース。すごい映画ですよね。ヴィゴの顔がパリパリに乾いて、過酷な撮影だったんでしょうね。ラスト30分くらいしか見れなかったんですけど、圧倒されました。馬も良かったですね。レースを邪魔した男の串刺しのシーンはちと残酷でしたけど。
    ストーリーはkikiさんの記事で詳しい所は掴めました。ふーん、そういうことでしたか。
    オマー・シャリフ、マクドウェル、今度見る機会があったら、しっかりとチェックしてみます。
    ヴィゴは男の中の男という役なんですね。ほんといい俳優ですよね、ていうか好きだ~~~(笑)
    「イースタンプロミス」はDVD買いました。ふふ。
    ところで今回はレンタルですか? CS放送とか?

  • 2010/09/07 (Tue) 07:15

    ジョディさん。確かにね。「オーシャン・オブ・ファイヤー」って言われたって何のこっちゃ?という感じですわね。何だかピンと来ないしね。面白そうでもないしね。でも梗概を読んでアラブの砂漠のレースにカウボーイが出場する話だという事で、一応録画しておいたんです。CS放送ですね。最近はあまりレンタルで映画観てないので。撮影がとても綺麗な映画だったし、冒険活劇的な部分も含みつつ、芯に通ったテーマは揺るがないものがあり、意外に良かったです。前半、フランクが迫害されるスー族を辛い気持ちで眺めつつ、方便として白人の人生を選び、大西部ショーに出ながらも気分がささくれて遣り切れなさに酒に逃げるあたりも良かったですわよ。今度放映があったらすかさず録画で。ヴィゴが良かったのは勿論ですが、久々のオマー・シャリフ登場がなんだか嬉しかったですね。アラブの衣装がよくお似合いで。あのレースを邪魔する男はシークの甥なんですが、性根が悪くてレースへの出場を許されないのでオジサンの愛馬をかっぱらおうとする小悪党なんですね。でも、演じている俳優がなかなかハンサムで、それなりに目の保養でした。
    「イースタン・プロミス」DVD買われたんですね。気合が入ってますね、ジョディさん。ふふふ。そういえば「オーシャン・オブ~」は6年前ですが、ヴィゴは肉付きがしっかりしているせいか、ブロンドだったせいか、結構若く見えました。役者だけに役によっていろんな年齢に自然に見えるようにコントロールしてるのかな。だとしたら余計に端倪すべからざるもんですね。

  • 2010/09/10 (Fri) 01:01

    この作品って、「ロード・オブ・ザ・リング」のすぐ後に公開された作品で、アラゴルンのイメージの強かった私としては、金髪のヴィゴに「イメージが違う・・・」と思ったもんです・・・。
    kikiさんは「ロード・オブ・ザ・リング」はご覧になってるんでしたっけ?やっぱりヴィゴはアラゴルンが一番だったなあ・・・と思うんですよねえ・・・。
    で、この「オーシャン・オブ・ファイヤー」は砂漠の馬レースっていうことしか覚えてません・・・(汗)。ちなみに写真のマルコム・マクダウェル、ちょっと晩年のオリヴィエに似てますね。

  • 2010/09/10 (Fri) 07:53

    mayumiさん。きっとあまりにもアラゴルンのイメージに捉われすぎていたからでは?
    ワタシはアラゴルンでヴィゴを知ったのですが、「ロード・オブ~」は1作目だけは劇場で観たものの、2作目以降は興味がなくなり、通しでようよう観たのはつい最近です。ま、それだけ「指輪」には思い入れが薄いって事なのだけど(笑)この作品については全く知らなかったんですが、意外な掘り出シネマだと思いましたね。ヴィゴも映画そのものも良かったと思います。mayumiさんもアラゴルンはひとまず脇へ置いといて再見されてみては?それにヴィゴって顔立ちからするとブロンドの方が似合うような気がしますわ。そしてマルコム、なかなか可愛い爺さんになってましたよ。威厳のないオリヴィエって感じかも。

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