その鼻濁的低音を堪能せよ

ダニエル・クレイグの声は低く落ち着いていて、しかも滑らかだ。そして少し鼻にかかっている。セリフを言う時の滑らかな発声と微妙な抑揚が最後に鼻にかかって柔らかくなる。ちょっと鼻濁音気味になる。それが、独特のセクシーな耳触りを生む。

Mの部屋で話している時も、列車の中でヴェスパーとしゃべる時も、そういう耳触りのいい声音で、非常にソフトな語り口。「I'm "the money"」と言って目の前に座った彼女を、おや?…ふぅん という感じで眺め、微笑みながら「 Every penny of it」と返す時の、あのえも言われぬ洒落た抑揚。



低音で耳触りのいい声に弱いワタシは、まず、この「声」に惹かれて「ダニエルの小道」に迷いこんでしまったわけである。

そのキッカケはこれ。


Yes. Considerably. (と言ってるんだと思うけど、違ったらペコリ)

トレーラーで散々観た、例の「It takes 2」の下りであるが、ズドンと一発、軽々と2重スパイを始末して、チャッ!と銃をリセットする前の、Yesの一言のさりげなさ。そして、そのあとの小気味のいいセリフの溜め具合にグっと来た。
イケてる…とそこですでに陥ちてしまった。  声の威力は絶大だ。
これで、ダニエルがもし甲高い声の持ち主だったらと考えると、なんだか物悲しい気持ちになる。ナガシマシゲオのような声など出されては、それこそ一巻の終り。それだけは待ってくださいという気持ちだ。顔だけ見ていると、もう少し高めの声を出しそうにも見えるのだが、脳天から出るような軽い、薄い声など出された日には、声フェチのワタシは百年の恋も一瞬に醒めるかもしれない。少なくとも、ここまでハマる事はなかったと思う。低いけれども、ガラガラとしゃがれてもいず、低過ぎもせず、頃合いの低音で、しかも耳触りが柔らかいのである。よく、いい声のことをベルベット・ボイスというけれど、ダニエルの声はフランネルのような肌触りだ。こんな声で、耳元で囁かれたらひとたまりも無い。

そして、みんなお気に入りのあのシーン。
ホテルに向かうタクシーの中で、ヴェスパーと軽くやりあう場面で、「恋愛に宗教を持ち込まないでくれ。ドアに鍵をかけたきゃかけろ。君は俺のタイプじゃない」と言ってプイッと窓の方を向くシーンだ。



この時は声はあまり低くはないが、なんか大人の男とスネた子供が一緒になっている感じで、観ていると胸がキュッとする。Smart?と訊くヴェスパーに、まだ向こうを向いたままでふっと投げ出すように Single と返すところに、その場限りの遊びで男女関係をやっつけてきたこれまでの生き方が立ちのぼってくる。その裏には幼少時に両親を事故で亡くし、長じては明日をも知れない稼業についている俺、という拭いがたい虚無感が漂っているのだ。まあ、そんなことまで感じなくても、このぽつりと出たひとことにこもるニヒリズムは万人に間違いなく伝わってくる。こんな芝居の出来るボンド役者なんて、まったく前代未聞というべきだろう。

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