明治の日本人 これからの日本人

~「坂の上の雲」を見て思うこと 2~


最近、なんだかんだと忙しい上に、季節がら忘年会のシーズンが始まって飲み会や食事会の予定もあれこれ入り、さして観たい封切り映画もないので映画館にも行ってないワタクシなれど、本日は休養デーなので、先週予約録画しておいたBShで放映された「坂の上の雲」第七回の「子規、逝く」を、ようよう観た次第。(去年の師走に第一部を見てからもう1年経ったのか…早い)特に好きでも嫌いでもないし、他の作品ではさほど印象にも残っていないけれど、このドラマの軍人役はやたらにハマっている本木雅弘。暫くぶりに観たら、いや?、一段といい男になってきてますね。なんだか若い頃の敏ちゃんとかに近い雰囲気もありやなしや。そして、香川照之のなりきり子規ぶりはお見事の一言だった。

いやもう、そっくりじゃありませんこと?香川子規

子規役の香川照之。若い時期を演じている時は似てるんだか似てないんだか、若いんだかオッサンなんだかよく分からない感じだったのだけど、根岸の家で寝付いて「病床六尺」状態になってからの子規は、まさにイメージ通り。僅かな写真で見た事のある子規の姿そのままで入魂のなりきりぶりだった。結核の持病の上に脊椎カリエスになって寝たきりの子規を表現するために大減量をして撮影に臨んだというけれど、どこから見ても死期が近い病人ながら、精神力で目に力がある子規を乗り移ったように演じていた。NHKが力瘤を入れて作った子規庵のセットも素晴らしい。狭いけれども様々な草花の咲いていた小さな子規の庭が再現されていた。そこに陽がさしたり翳ったりする様子が照明で如実に表現されていたし、日々うんうんと苦しみながら寝たきりになりつつも、ウジウジしないで最後までひょうひょうとした俳句を読み続けた子規の精神力にあらためて敬服したワタクシ。



そういえば、晩年の病床の子規について初めて細かく知ったのも何年か前のNHK特集(「病床六尺」をメインに晩年の子規を特集していた)でだった。母と妹が最後まで懸命に面倒を看た事も、その特集で見て知ったのだった。病人その人も大変だけれど、病人を抱えた家族の労苦だって並大抵ではない。原作ではあまり登場しないという律だけど、このドラマではかなり大きくフィーチュアされているし、菅野美穂が演じているので、何か可哀想だけどキリっとしている、キリっとしているけど可哀想な律がとても気になるドラマになっている。



ワタシはこの可哀想な律と、秋山弟がなぜ一緒にならなかったのかにとても興味があったのだけど、それはドラマでそういう事もなくもなさげな雰囲気に作っちゃってるから気になるのであって、実際はそういう感じではなかったんでしょうね。でも実際はどうあれ、根津神社の前で抱き合ったりしている秋山弟と律を見ていると、一緒になっちゃえばいいのに、と思ってしまうわけである。友達の妹を貰うなんていうのは明治時代によくあった事のようだし。ドラマも完全にフィクションだったらそっちの方向に盛り上げていくんだろうけど、いかんせん実在の人物のお話で、現実に結婚していないわけだからそっちには進ませられない。そのへんをどういう風に収めるのかな、と思っていたのだけど、「子規、逝く」の回ではドラマとしてどう収めるかの方向性が出た気がした。



秋山弟の身辺に良いとこのお嬢さんの気配がし始めたので、苦労人の律は微かな儚い想いを胸の奥底にしまって、自分は学問をして新しく人生を生き直すのだ、という姿勢を秋山弟にアピールする。秋山弟の方は、看護人兼秘書としてずっと子規の面倒を看てきた律に対してある種の尊敬の念もあり、共に大事な人を失ったというシンパシーを抱いているところだから、もし律の方がもっと弱さやスキを見せていれば自然のなりゆきで律は彼の嫁になったかもしれない、ような雰囲気をドラマでは出していたようにワタシは感じたのだけど、実際の二人は何の関係もないわけなので、見合い相手のお嬢さんが出てきて、律も性格的に図々しく押して出るというたちではないから引いてしまい、積極的なお嬢さんの方に流れが向かってしまった、という筋道がなんとなく辿れる感じになっていた。桃の籠だけ残して去ってしまうか、律。あなたったら押さないのね。



しかし、根津権現は明治の物語の背景としては実にぴったりなところで、いろんなドラマによく使われている。NHKのスペシャルドラマで森 鷗外について描いた「玉と砕けず」というのがあったけれど、そのドラマの中でも根津神社は非常に印象的に使われていた。大体、文京区界隈は明治の残り香がそこはかとなく漂っているところだけれど、根津神社は風情があってなおかつインパクトがあるので、その前で立っているだけでもなんとなくそれらしい雰囲気が出てしまう、おいしいロケ地なのだ。


根津神社前を歩く秋山弟と律


「玉と砕けず」でも使われた根津神社

映像といえば、毎回このドラマを見て感心するのは特殊効果映像の自然さ。たとえば横須賀の鎮守府の建物なんて、一体どこのレトロ建築をもってきて合成しているのか分からないが、横須賀に現実にあんな場所は現在は無いと思うので、幾つか合成してああいう景観を造り上げているのだろう。でもとても自然で、ああいう場所があるように錯覚を起こしちゃったりもしますわね。NHKは本当に高い技術を持ってるなぁと感心する次第。



その他、海軍大学校のシーンなど、どこでロケしてんのかしらん、と気になる建物がいろいろ出てくるので、そういうのも楽しみのひとつですね。また、そういう壮大な眺めばかりじゃなしに、子規が住む根岸の町の、道の狭い、家の軒先が迫っているような町の姿も、明治っぽい雰囲気が良く出ているセットを組んでいて、子規庵ともども美術がお見事。国内だけではなく、海外ロケもお金をかけてがっちりと撮っているし、半端じゃない制作費をかけてますわね。



そしてそれより何より毎回思うのは、このドラマなどは明治の軍人や政治家のオールスター総出演みたいな作品なので殊更だけれど、昔の日本人は人としても大した人が多く、その上に容姿も立派で彫りの深い面立ちの軍人や政治家が、世界を相手にシャキっとやってたんだなぁ、とつくづく思うわけである。児玉源太郎だって、東郷平八郎だって、みんな本当にグレートだったし、また、いい顔をしていた。少し前の白洲次郎のブームなどもそうだし、いま「坂の上の雲」がドラマとしては破格の期間と制作費をかけてこの時代に制作されているのも、今の国のありようと政治家の不甲斐なさに国民がしんそこゲンナリし、何か新しい動きを期待しているからだろうと思う。昔の人はなぜあんなに気骨があったのか、殊に明治人はなぜ、あんなにも気概を持っていたのか、そして今の日本人にはどうしてそれが無いのか。そして、それはもう甦らないのか。もう未曾有の国難は始まっているというに…。今こそしっかりとした指導者が現れて、戦争という手段でなしにこの国を守る政治的なタクティクスをもたなければ、21世紀の間に日本はどうなってしまうやら分からない。そんな危機感がみな漠然とあるのだろうと思う。ワタシにはとても強くある。だから今の情けないナマクラな政治家ではなく、もっとシャキっとしたホンモノに出てきて欲しいわけですね。そんな国民の希求が、こういうドラマを作らせるのだと思うし、世論をそっちに持っていこうという放送局の意図もあるかもしれない。

ドラマを見て「いや?、明治の日本人は大したモンだったねぇ、凄いすごい」で終わってしまっては意味がない。戦後の長い平和ボケから目を覚まして、戦争はしないという基本は貫いたまま今の時代の流れに適した国の体制を再構築しなおさないといけない時期に来ている日本。明治から100年の間に失った気骨を取り戻せるのか。本当のホンモノは遠からぬ未来に出現するのか。ほんとにもうそろそろ救世主が出て来てくれないとマズイと思うんだけれど、あぁ、まだどこにも見えないなぁ…。

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コメント

  • 2010/12/12 (Sun) 12:30

    こんにちは。

    このドラマ、キャストもセット(ロケ)も本当に豪華でびっくりしますよね。今どき、民放のドラマ担当者あるいは貧乏な映画プロデューサーが眩暈を起こしそうな制作費ではないかと。でも、それを無駄遣いに思わせない脚本と演技があるので、楽しんで見ていられますね。

    阿部&本木兄弟は、それぞれの若かりし頃(某ファッション誌の専属モデルだったり、寿司ネタを連呼しながら踊る3人組だったり…)を知っている世代としては、しみじみ感慨深いものが(笑)2人とも本当にいい役者さんになりましたねぇ。

    「日本国のために」が、かけ声倒れでなく、文字通り人々の命を懸けて実行されていた時代。少し前のTBSのドラマ「官僚たちの夏」(佐藤浩市、堺雅人、etc)を見ていても思いましたが、国難に立ち向かおうとするあの熱と知恵はどこへ行ってしまったのか。
    真に国のため、人々のためを思うなら戦争なんていう手段は論外なわけで、そこを見誤らず、純粋に国の立て直しに尽力できる人物が出てこないものかと思いますし、もし本当にそういう芽が出てきた時は、それを乱暴に踏み潰さない良識が庶民にも求められているのになぁ、と思ったりします。

    それにしても子規の「君を送りて思ふことあり蚊帳に泣く」の一句はねぇ……きっと病で小さくなった握りこぶしを固め、声を殺して涙を流したであろう子規の姿を思うと泣けましたわ……

  • 2010/12/12 (Sun) 19:57

    xiangさん、本当にね~。NHKが現在もっている技術とパワーと財力の全てを結集して制作している、という感じですね。ここまでVFX技術が進まなければ映像化は不可能な作品でもあったでしょうしね。

    そうそう。秋本兄弟を演じる二人は、昔を知っていると随分出世したし、しっかりした俳優になったなぁと思いますよね。

    やっぱり、国難が深刻になって、本当に身に沁みてこないと真剣に立ち向かってどうにかしなくちゃ、という空気が生まれてこないんでしょうね。今だって結構エライ事になりつつあるような気がするんだけど、すぐに困るってわけじゃないから、曖昧に推移していっちゃうんでしょうね。でも今の政府や政治家じゃ絶対にダメだわ。ニヤニヤしてボケボケと譲歩している間に、日本そのものがなくなりそう。

    >もし本当にそういう芽が出てきた時は、それを乱暴に踏み潰さない良識が庶民にも求められているのに

    本当にそうですね。でも、まずはそういう人が出てきてくれないとねぇ。もっと困らないと出て来ないのかしらん。あまり後になってからだと手遅れになりかねない気がするんだけど…。

    「君を送りて思ふことあり蚊帳に泣く」 そうですねぇ。言うに言われない想いがこもってますね。志半ばで、やりたい事も沢山あるのに、体がついてこない、命がもう無い、というのは無念だったでしょうね。命はあってもやりたい事が全くない人が多いのが今の時代なのかな。子規は漱石の友達、という認識しかなかったんですけれどね。病床六尺の特集を見て、このドラマを見て、認識が変りました。子規の後を受けた虚子が大正~昭和にホトトギスを仕切って俳壇の帝王になっていく事を思うと、子規に世間並みの寿命があったら虚子のその後も少し違ったのかな、と思ったりもします。

  • 2010/12/30 (Thu) 00:21

    こんばんは~

    今まで好きでもなく気にもしなかった役者さんを凄いと思ってしまう、そんな感情解ります。私も、もっくん&菅野ちゃん&香川さんの芝居には鳥肌が立ちました。

    私は松山に住んだことがあるんですが、愛媛は四国の中では1番おとなしい県民性ですが、プライドはとても高い。松山で武士の家柄となると、貧しくとも半端ない気位の高さを持っています。主要な役者さん達は皆、愛媛県人の気質も研究していると思いますね。
    NHKの力の入れよう、製作スタッフの意気込みは相当なものだなと、こういう雰囲気からも伝わってきますね。

    • mogomogo #/qAnB.XI
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  • 2010/12/30 (Thu) 01:07

    mogomogoさん、この回は何かみんな魂が入ってましたね。思い入れが強かったんだろうけれど。香川照之に引っ張られたというか、引きずり込まれる感じでああいう演技になったんでしょうね。子規庵のセット(特に庭)が本当によく出来ていたし、そういう些細なところにもとても神経を使ってますよね。そうですか。愛媛県人はプライドが高いんですね。武士となれば下級武士でもプライド高かったんでしょうね。
    それはさておき、子規はとにかく寝たきりになってもよく食べたそうで、嵐山光三郎は「食魔」状態だったと書いています。美味しいものは全部自分が食べ、母や妹が粗末な食べ物をしのんでいても委細構わず、自分が食べたいものを食べることに貪欲だったとか。食べる事が生きる事だったんでしょうね。このドラマではそんな面はあまり描かれなかったけれども、子規の別な面はよく描かれていた感じがします。 それにしてもNHKはお金持ってますね。気合も入ってるけどお金も相当かかってますよね。今更に企業として体力があるなぁと妙なところにも感心しましたわ。

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