再訪 2011 横浜



かつて横浜に数年住んでいたワタクシ。東京に戻ってから6年以上になるが、その間、さして思い出しもしなかった横浜だのに、最近何故とはなしに漠然と横浜が懐かしくなり、暫くぶりに横浜散歩に行こうかな、という気分になった。


横浜には平日に行くに限る。普段は閑散としているのに、週末はやたらに混むからだ。わけても山手の丘の上などは平日の昼下がりの、観光客やバカップルなどが出盛らない時にぷらりと散策するのがベストである。

昨年の秋は長崎に旅をしてオランダ坂や山手の洋館などを見物し、おぉ、長崎も悪くないなぁと思いつつ、そのへんからふと、横浜の山手にも久々に行ってみようかな、という気分が兆しはじめた。そんなわけでリフレッシュ休暇を取ったある日の午後、山手の丘の洋館巡りをメインに横浜を再訪することにした。暢気な専業主婦の友と連れだって、石川町駅から歩いてすぐのイタリア山公園は「ブラフ18番館」と「外交官の家」から散策&見物スタート。


ブラフ18番館

見た目は古い明治の洋館だが、内装や屋内に入った時の印象が、「ブラフ18番館」の方が「外交官の家」より明るくてナイスだった。より小高い場所にあるのに、午前中の曇天がまだ尾を引いていたせいか、「外交官の家」は採光が悪く、些か暗く感じた。重厚感はあり、シックな内装はステキングではあったが、「ブラフ18番館」の明るいサンルームの印象は強力で、家というのはつくづくと中に入ってみないとその真価は分からないものだと実感した。


ブラフ18番館
横浜家具で再現された当時の居間とその奥の光差し込むサンルーム ナイス



ダイニングルームもそれらしく再現されている 採光のいい素敵な家だ

「ブラフ18番館」のサンルームで優雅に午後ティーできたら最高だねぇ、と言いつつ、雨が強くなってきたので「外交官の家」に付随した喫茶室でしばし雨宿り。昨今ハマで観光名物にしようと目論んでいるらしい「馬車道あいす」を食した。味は特に変哲もない普通のカップアイスだった。(抹茶、バニラなど4種類の味がある)


建物の外観は非常に素敵な「外交官の家」
日本人外交官の私邸を米国人建築家が設計したもので元は渋谷区南平台にあった


外見は素敵だが、内装は重厚で採光が悪くちょっと暗い印象だった


港から内陸に向かって雨雲が移動している気配で突如かなり大粒の雨が…

雨宿りに馬車道あいす

暫し談笑している間に雨もあがって…

雨が去って行き、アイスも食べ終ったので、「外交官の家」を出て、山手本通りをぷらぷらと歩いてカトリック山手教会の前の道を折れ、テニス発祥記念館と山手公園へ。テニス発祥記念館では、明治時代の洋装の婦人が長いスカートの裾が絡まないように裾をつまみあげた道具「スカート吊りあげ器」がひときわ目を引いた。立派に装飾品または工芸品としてなりたつぐらいに細工の凝ったものが多く、時代の流れで無用の品にはなってしまったが、そういう優雅な器具でスカートの裾をからげてテニスをしていたご婦人方のありようというのが、なかなか悠長でいい。


カトリック山手教会

静かな山手公園

テニス発祥記念館

オシャレなスカート吊りあげ器

記念館裏手の山手公園には桜の古木が沢山あり、花の季節にはかなり壮観だろうと思われた。桜の時期になったら、また平日にリフレッシュ休暇を取って山手公園に桜を見物にこなくちゃだわ、と思いつつ、元街小学校の横を通って代官坂を上り、ベーリック・ホールへ。


このあずまやから満開になった桜の古木を眺めたらさぞかし壮観だろう


ベーリック・ホールはイギリス人貿易商のべリックさんの旧宅でスパニッシュ・スタイルの洋館。戦前の洋館としては最大級だとか。敷地も広いし、実にステキングなお屋敷だった。スパニッシュ・スタイルといえば、今はもう無い熱海の蜂須賀侯爵の別邸がスパニッシュ・スタイルでパティオと塔を持つオシャレな建物だったのだが、写真で見ただけのその外見を何となく思い浮かべたりもした。港の見える丘公園内にある山手111番館も同じ建築家の手になるスパニッシュ・スタイルの洋館。住み心地が良さそうで、ややリゾートっぽいスパニッシュ・スタイルには何か心惹かれる。そういえばロスの高級住宅地もスパニッシュ・スタイルの屋敷が多いイメージだ。



横浜山手洋館の華 ベーリック・ホール


ガラスとアイアンの扉が実にシック


ベーリック・ホールのサンルーム ライオンの泉水が付いた優雅な空間

白と黒のタイルが市松模様になった廊下の床も、扉や階段の手すりに鉄をあしらっているのも実にオシャレ。一般公開するためには古くなって傷んだ部分を綺麗に修復しなくてはならないわけだが、実に素晴らしい修復がなされていて、丁寧に維持されているという事がよく分る。現在の内装を手がけた人も実にセンスのある人だなと感心した。2階の家族の寝室はそれぞれの部屋の壁が実に美しいパステルカラーで装飾され、それらしい家具がきちんと配置され、夫妻の寝室や、息子さんの部屋、客用寝室などに付いているバスルームは、それぞれに異なる色のタイルが壁面に貼られ、バスタブが置かれていた。


ご子息の部屋を再現 ブルーグリーンの壁の色が目に心地よい


客用寝室のバスルーム 青いタイルの鮮やかさを見よ


夫人の寝室に付随した居間 夫人寝室はこの屋敷の中でもっとも素晴らしい部屋で
壁のサーモンピンクの絶妙な色合いに唸った

べリック氏とその夫人の寝室の間にあるバスルームはモスグリーンのバスタブに合わせてカーテンも淡いグリーン、バスルーム内に置かれた鉢植えの植物も、実にいい雰囲気を醸しだしている。まるでインテリア雑誌のグラビアでも見ているような気分になった。このバスルームで雑誌や本を読んだり、窓から外を眺めて寛いだりしつつ(目の前はフェリス女学院)、半日以上はくつろげるなぁと思えるような、実にcomfortableなバスルームだった。ベーリック・ホールの中でも素敵空間No.1という印象。ワタクシ、このバスルームに住みたくてよ。


安らぎNo.1の主人と夫人のバスルーム モスグリーンのバスタブとあちこちに適度に
配置された鉢植えが快適空間を形作っている 


ここでしばらく憩いたい

ベーリック・ホールに感嘆しつつも別れを告げてすぐ近くのエリスマン邸へ。ここは外見的には地味なのだが、中に入ると居心地のいい家で、屋内からの眺めが非常によかった。元町公園の中に建っているので、背後には緑が広がり、公園に面した窓辺に喫茶室があり、エリスマン邸に一歩足を踏み入れると、鼻腔を刺激する珈琲の香りがえもいわれない。どうしても窓辺で憩いつつ珈琲を飲みたくなってしまう。商売上手である。あの香りには逆らえない。喫茶室の窓辺からは緑の向こうにマリンタワーが見える。あぁ、珈琲の香り漂う午後三時。横浜はやはり山手に限る。


エリスマン邸の2階テラスから周辺を眺める


珈琲の香り漂うエリスマン邸の喫茶室 午後のひととき、ここで珈琲タイム


ケーキセット800円 チョイスしたケーキはその名も“ミセス・エリスマン”


喫茶室から公園の緑越しにマリンタワーを眺める

山手234番館は外見は素敵な建物だが、中は殆ど家具もなく、その時々の催し物の展示物が目一杯に並べられているという感じだった。元は外国人向けの集合住宅だったらしい。さくっと一渡り見て234番館を出て歩き出すと、もう横は外人墓地。お馴染みの横浜である。この外人墓地や港の見える丘公園内の山手111番館あたりまでは子供の頃も、横浜に住んでいた頃もたまに来たのだが、石川町エリアの洋館を巡ったのは今回が初だった。石川町というと、いつも元町商店街に行ってしまって洋館巡りはお留守になっていた。ともあれ、横浜の対外的なイメージの良さと素敵さは、山手の丘の上が頂点だろう。


山手234番館 外見は素敵だが中はイマイチ


外人墓地の門


この電話ボックスをみると、「あぁ横浜の山手だわ」と毎度思う

丘の上からは横浜のランドマークというべき建造物があれこれと一望に見渡せる。横浜の良い所がギュっと凝縮された場所だ。港の見える丘公園は何度も来ているので、その横を通って暫く道なりに行くと、韓国領事館の少し先に、建物で遮られずに埠頭と海とベイ・ブリッジの見張らせるエリアがある。ここは横浜に住んでいた頃、折々来た眺めのいいポイントで、山手に来たらここから埠頭を眺めずには帰れない。


谷戸坂のカーブから眺める埠頭とベイ・ブリッジ 壮観だ


風に吹かれつつ、雨雲が去って陽がさしている港の景色を眺め、ベイ・ブリッジを眺めたのち、再び港の見える丘公園に引き返し、フランス山を通って山下公園方面へ。山手から降りたところには、中華街とニュー・グランドが待っているのだ。


フランス山を下りつつ、マリンタワーを真正面に見る


中華街の中で何かを食べるには、エリスマン邸でしたためたケーキと珈琲のセットがまだお腹に残っていて余地がないので、中華街は山下公園に最も近い朝陽門から程近い、とある気になる建物が健在かどうかをチェックするだけにした。気になる建物とは、旅館オリエンタルである。まだ残っているだろうか、とドキドキしつつ行くと…



あった。



2011年の今日、旅館オリエンタルはまだ健在で、正面ドアの脇に「営業中」という札が出ていた。どういう人が泊まるのか、内部はどういう感じなのか、とても知りたいが、用もないのにドアを開けるのはかなり憚られる。でも、建物が在ってくれればそれでいい。
健在でなによりだった。




旅館オリエンタルが健在な事が分かったので、安心してニュー・グランド本館の2階ロビーで暫し寛いだ。なにせ、夕方になって陽が落ち始めたら急激に気温も下がり、かなりの強風も吹きすさんで山下町界隈は非常に寒くなったので、ニュー・グランドの暖かいロビーで一息入れてほっとした。いつ来てもクラシカルでオリエンタルでシックで渋ゴージャスなニュー・グランド本館。横浜家具がクラシカルな雰囲気を守り続けている。ビバ!ニュー・グランド本館。変わらずにいてくれることが最高のサービスなのだ。
この状態をキープして、幾久しく優雅に存在していてほしいと心底願う。







ニュー・グランドで一休みしてから、山下公園に沿って歩き、赤レンガに続く遊歩道を久々に散策。もっと寒いかと思ったら案外、この遊歩道は風を感じず、MM21の夜景が前方にどーっと広がるのを堪能しつつ港の散歩を楽しんだ。相変わらず平日は人が居なくて、本当に穴場の遊歩道。横浜は平日に行くに限る。
さぁて、少しお腹も空いてきたから、何かおいしいものでも食べましょかね、という事で、この日の散策は終了。


山下公園からMM21方面へ向かってぷらりぷらりと歩ける遊歩道


この夜は満月でベイ・ブリッジの上に大きな月が出て絶好の景色だったが、いかんせん
チビのデジカメに三脚もなしでは強風に煽られてこんな夜景しか撮れないのだった…


***
久々の横浜は、これまでに足を向けなかったエリアに新鮮な発見があり、ひとしお楽しく、また懐かしかった。山手の洋館はあとうかぎり当時の生活の様子を窺わせるべく家具が配置されていて、ガランとした部屋だけを見物するという味気なさはなく、歴史的な建造物を上手く見せているなぁと改めて思った。横浜は住んでみるとあまり行政も行き届かないし、さほど住み心地のいい都市ではないという印象なのだが、それは山手や中華街や関内やMM21などの、人の集まるエリアの整備にかなりの税収を投資してしまって(山手の洋館も全て無料で見学できるのはその賜物だろう)、住民サービスの方はイマイチになりがちだからではなかろうかと思う。(東京に較べると図書館などもかなり少ない)東京から横浜に行って数年住んでみて、東京がいかに住み易く、便利な都市であるかがよく分ったワタクシ。生まれてからずっと東京に住んでいたので、その快適さを当り前だと思っていた。横浜に住んだ事で、ワタシは初めて東京の良さに気づいた。そして、いかに自分が生まれ故郷の東京を愛していたのかも改めて知った。東京は物が豊富にあることや便利さだけがその良さではない。昔からある住宅街のたたずまいや、城東、城西、城南、城北それぞれのエリアの特色なども、東京に戻ってみて、ひとしお懐かしく、慕わしく感じるようになった。と同時に、横浜は「遠きに在りて思う街」であるとワタシの中で定義づけられた。たまに懐かしくなった時に横浜を散策し、その美味しいところだけを享受するのがベストだと思う。たまに散歩に行くのであれば、横浜の最も好ましいところ、イメージ通りの場所を好きにピックアップして楽しむ事ができる。(それは必ずしも山手や関内や本牧ばかりではなく、伊勢佐木町や桜木町のダークサイドの探訪をも含む)住民としては不満があれこれあったが、観光客としては楽しくサービスも受けられる。そして、「やっぱり横浜は山手だよねぇ」なんて遠い目をしてウットリと太平楽な感想をもらすこともできる。ワタシにとって、東京はその中にいて楽しむ街だが、横浜は外からたまに訪ねて楽しむ街だ。離れて数年たった今、ワタシは再び横浜が好きになった。 離れた方が横浜愛は深くなる。
横浜はワタシの中で「遠きに在りて思う街」なのである。

コメント

  • 2011/02/20 (Sun) 20:26

    kikiさん懐かしの横浜で洋館巡りですか。こんな洋館がたくさんあったのね。山手には友達が昔住んでいて、遊びに行ったりしたけど洋館はもちろん素通りでした。そのお友達のお宅も洋館だったように記憶しているけど、なんせ建築に素養のない私なので、どんな建物だったかなんて全然覚えてないんですわ。
    今kikiさんが家を建てられるとしたらどんなおうちにするのかしら、私は読んでいてふとそちらの方に興味を覚えました。

  • 2011/02/21 (Mon) 00:15

    Sophieさん。横浜山手の洋館探訪はナカナカ楽しかったですわよ。山手は丘の上だし、住むには不便な事もありそうだけど、たまに散策に行くには実によいところなり。あのへんは新旧とりまぜてそれなりに景観に合った家が多いですわね。去年から今年と、港町の山手の洋館見物にけっこう巡ったので、久々に神戸にも行ってみたくなってきたりしてる今日この頃。
    そうね~。金に糸目をつけず建てたい家を建てられるとしたら、庭はイングリッシュ・ガーデン。建物はアール・ヌーボー様式でいきたいかな。何はともあれ間違いなく南側に快適なサンルームを作ると思うわ。強く念じていると実現するっていうから、強くそういう家をイメージしていようかしらん(笑)

  • 2011/02/21 (Mon) 10:05

    こんにちは。
    ベーリック・ホールいいですね!私はサンルームに住まわせていただきたいっ。
    外国の映画を見ていると、「あの壁紙の色は日本人じゃ選べないなぁ~」と思うことがよくあります。赤だの緑だの、素敵!とは思っても自分ではなかなか勇気が…。そのあたりはベルサイユ系のDNAを持っているのか、それとも銀閣寺系DNAなのかの違いなんでしょうかね。

    kikiさんの洋館訪問を読んで、模様替えしたくなりました(笑)

  • 2011/02/21 (Mon) 22:08

    xiangさん、ベーリック・ホールはかなりの好感度でしたわ。サンルームも相当に素敵さなんですが、実際に観ると主人用のバスルームは、その快適な気配に思わず「おぉ~!」と声が出てしまうほどでしたわよん。
    ははは。ベルサイユ系のDNAか、銀閣寺系DNAかって面白いですね。ワタシ、建築様式はあちら式が好きなのだけど、家具はアジアンテイストが好きでしてね。でも、ベーリック・ホールの壁の色は本当に綺麗でした。あんな家に住んでたら一歩も外に出ないわ、ワタシ。 
    そして、どこか一部分、気分転換に模様替えしてみるのも一興かもですよ。ぜひ。

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