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「イリュージョニスト」 (L'ILLUSIONNISTE)

~さよなら 魔法使い~
2010年 英/仏  シルヴァン・ショメ監督



これはトレーラーを観た時から、是非とも行こうと思っていた作品だった。アニメーションに食指が動く事はあまり無いのだけど、ヨーロッパ製なら話は別。これは絵柄も色彩も魅力的で、ヨーロッパな空気感に満ち溢れていたし、気が塞ぐニュースばかりの昨今、あまり悲劇的な映画も、殺伐とした映画も、またやけに元気な映画も観たくない。こういう時は、イリュージョニストに一瞬の幻を見せて貰うに限る、というわけで劇場へ。
節電体制の影響で、シネコンもレイトショーはなくなっている昨今。チケットはネットも窓口も当日にしか買えない。けれども、本来ならこの手の作品はひっそりとミニシアターで公開されるのがお決まりだったところを、今回はTOHOシネマズ六本木ヒルズなど、シネコン系での公開。ジブリが興行に1枚噛んでいるからという事もありそうだ。ともあれ、席も取り易く行き易いので助かった。

これは「ぼくの伯父さん」で知られるジャック・タチの幻の脚本を、アニメーション作家のシルヴァン・ショメが脚色し、アニメ化したもので、主人公のノッポの老手品師タチシェフはジャック・タチをイメージして描かれたものらしい。



ストーリーは淡々としたスケッチ風の流れで、台詞は少なめ。その分、登場人物の表情や体の動きで感情や状況を表現する、「動き」にこだわった、折々パントマイムのような趣きのあるアニメーションだった。歩き方や動き方でその人物の雰囲気をよく表現している。

なかんずく、このアニメーションで素晴らしいのはその背景画で、これにトレーラーを観た時から強く引っ張られていたワタクシ。そのタッチ、その色彩、その構図、全てが美しく、詩情が漂い、背景が物語るアニメーションだった。言い換えればシーンごとに背景だけを観ていても全く飽きない。自然の風景も、スコットランドの町の風景も、汽車のコンパートメントも、汽船のデッキも、全てが味わい深く、えもいわれぬタッチで描かれていて、シーンごとに画面を隅々まで堪能した。





こういう絵はやはりヨーロッパの感性だと思う。アメリカや日本では、こういう絵は生まれない。この手のアニメーションが好きなので、ワタシはどうしてもカッチリとCGで作り込まれたピクサーのアニメーションは好きになれない。作品の内容や完成度とは別に、絵の質感が好きになれないのだ。

物語は至ってシンプル。1950年代、ロックとTVの流行りはじめた世の中に、旧態依然としたステージ・マジックが持ち芸の手品師タチシェフは完全に取り残され、活躍の場をどんどん場末の劇場やバーに移してさすらっていた。彼はパリからロンドンに行き、更にスコットランドに流れていく。離島まで渡し船で渡って小さなホテルのバーで手品を披露する。田舎の離島では、まだ彼の芸は受ける。そして手品師は、そのホテルで下働きをしていた少女アリスと出会う。

というわけで、パリから仕事を求めてロンドンに渡り、ロンドンでもさっぱり受けずに都落ちしてスコットランドへ行き、更にその離島に行く、という流れを殆ど台詞なしに、音楽と人物の動きと移り変わる背景で見せる。横を車が通る道を歩いて国境を通過する手品師の姿や、靄のかかった離れ小島に小さなボートで向かう手品師など、印象的なシーンが数々あった。また、道行く車はフォルクスワーゲン・ビートルにシトロエン2CVやフィアットなど、ヨーロッパの小型車といえばこれだ!という車がふんだんに登場して50年代の雰囲気を醸し出していた。



スコットランドの離島で、バーに集う男たち。爺さんまでがキルトを履いて酒を飲んでご機嫌だ。脇のその他大勢のような人物も、独特のタッチであれこれと描かれている。
ボロ靴を履いて下働きをする貧しい無口な少女アリスのおずおずとした動きもよく描かれている。この少女は離島のホテルで働いている時が一番魅力的に見えた。手品師の手品に感動し、それを「魔法」だと思ってしまうアリス。彼女がよく働く事と、あまりにも貧しいので、つい赤い靴を買ってやる手品師。それを手品師らしく、何もない空間から突如取り出したので、アリスはすっかり彼を魔法使いだと思ってしまい、契約が終わって島を去る手品師に勝手についてきてしまう。黙々と働いていた時は謙虚だったアリスだが。田舎の無知蒙昧の娘にしては物欲旺盛で遠慮というものを知らない。エディンバラに落ち着いた手品師と共に暮らすようになるアリスは、老骨に鞭打って受けない芸を披露して稼いでいるタチシェフをよそに、働きもせず、ショーウインドウを見ては、あれが欲しい、これが欲しいと願ってばかりの日々となる。乏しい財布の中からやりくり算段して彼女に服や靴を買ってやる手品師だが、すぐに本業だけでは追いつかなくなり、早朝や深夜にバイトをせざるをえなくなる…というわけで、ひょんな事からエディンバラで同居するようになった老手品師と小娘アリスの交流を綴ったアニメ。



この手品師がアリスの面倒を見てやることにしたのは、彼女に生き別れた娘の面影を見ようとしたからだ、というのだが、本編ではどこにもそういう背景を匂わせるシーンは無かった気がする。だから、どうしてそんなにしてやるのかなぁ、少しは働けって言いなさいよ、と思ったりする。
また、アリスが手元不如意な手品師に、控えめながらもあれこれねだって恥じないのは、彼が手品師ではなく魔法使いだと思っているからなわけだが、そのへんの説明がやや不足しているので、まぁ、なんてあつかましい娘なの?と、どうしても思ってしまう。着飾って田舎町をブラブラする事ばかり考えてないで働きなさいよ、と。離島で女中をしていた小娘のささやかな変貌ぶりに、下手に恵んでやりすぎても相手のためにならないのだね…と改めて思ったりした。垂涎の白いハイヒールを見るや、最初に貰った赤い靴をさっさとぬいでそこらに置き放って、新しい靴をはいてヨロヨロと出て行くシーンに、彼女のささやかな変貌が集約されているような気がする。

このエディンバラのシーンでは、坂の多い町の景観がとにかく魅力的に描かれている。特に岬からくるりと目線が旋回しながら俯瞰で町の姿を捉えるシーンなど、とても美しく印象的だ。そういう部分に非常に控えめにCGが使われている。
芸人ばかりが泊まっているキッチン付きの安宿の情景もそれなりに風情があった。別の部屋に住む他の芸人たちの描写も、それぞれ個性が出ていて、アル中になり、自殺しかけていたのが立ち直ってよそに旅だっていく芸人もいれば、宿代も払えなくなり、ついに道端でホームレスになってしまう芸人もいたりして、美しい背景の向こうに、うっすらと寂寥と哀愁がしみているのも本作の捨てがたいところである。



80分と短いし、内容もあれどもなきがごとき淡いものだが、老手品師についてワタシが予想していたようなラストにならなかったので、少しほっとしたり、物足りなく感じたりもした。ただ、これはストーリーよりも観るべきものが他にあるアニメーションなので、登場人物の身のこなしや、シーンを物語る背景画とピッタリとマッチした音楽などを、小味な料理をじっくりと味わうように、すみずみまで静かに堪能する映画だと思う。見終るともわりと美しい印象が残る作品。大人が僅かの間、別世界にほっこりと浸るための映画である。

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