「グラン・プリ」 (GRAND PRIX)

1966年 米 ジョン・フランケンハイマー監督
~レースシーンと敏ちゃんと~



敏ちゃんこと三船敏郎の出た海外作品の中で、ちょっと観たいなぁと思っていながら、これまで観る機会がなかったのが、この「グラン・プリ」。かなり前にビデオはリリースされたようだがさっぱり見かけなかったのだが、昨今ブルーレイとDVDがリリースされたようなので早速レンタルしてみた。背後の人間ドラマはレースとレースの間の繋ぎのようなものだけれど、F1での勝利を目指す敏ちゃん社長の実業家っぷりはなかなかカッチョ良かった。そしてレーサー役でイヴ・モンタンまで出ていたとはビックリだった。
この映画、予想外に180分もある長尺で、OVERTUREとINTERMISSIONが入る大作仕様。タイトルはあのソウル・バスが担当している。ジェームズ・ガーナー、エヴァ・マリー・セイント、イヴ・モンタンに次いで敏ちゃんのビリングは四番目。レースシーンには当時の名だたるF1レーサーが協力している事も分る。

主役のスピード狂のレーサー役ピートにはジェームズ・ガーナー
ジェームズ・ガーナーは、「ロックフォード氏の事件メモ」という探偵モノのTVシリーズに出ていた。そのドラマではお気楽そうな中年のオッサンだったので、ガーナー=オッサンというイメージだったのだが、本作では妙に若く、ふぅん、誰にでも若い時があるのだね…などと思ってしまった。



1966年のF1のマシンは、モロにあのマッハGoGoのような形のレーシングカーだ。ちょっとクラシカルな感じだけれどそこが味。車体から張り出したタイヤを支える部分がけっこう華奢で、あれじゃ、ちょっとした衝撃でタイヤがポーンと外れていきそうだわ、と思ったりする。



ジェームズ・ガーナー演じるピートはここのところ勝てないF1レーサー。所属するのはBRM(BMWをイメージしているチームか)ライバルは同僚のスコットで、あるレースでピートの車のブレーキが故障した事で、後ろから来たスコットの車とぶつかり、スコットは脚を負傷する。このスコットの妻でいわゆるレース・クイーン(1966年なのでもちろんハイレグなどではなく、車の前でポーズを取ったりするモデル)の走りのようなものをしている女と、ピートとの間にちょっとした恋愛模様がある。ピートとスコットはレーサーとしても、一人の女を巡っても対決するハメになる、という因縁の関係なのだけど、そのわりにスコットの描かれ方やキャラのインパクトが弱いのでどうでもいい話にしかなっていない。妻を演じる女優も魅力的ではないので、余計にどうでもいい感じである。

ライバルの中で少し年嵩のフランス人レーサー、ジャン・ピエールにイヴ・モンタン。モンタンはフェラーリの所属という設定だ。彼と愛し合う雑誌記者にエヴァ・マリー・セイント。イヴ・モンタン演じるレーサーは妻がいるのだが、ビジネスだけの関係になって醒めている。また年齢的にも精神的にも体力的にもレース生活に対する疲れが蓄積して、そろそろ限界を迎えようとしており、いつ引退するか、いつ女房と離婚して愛人と一緒になるか、などの決断をしなくてはならない時期に来ている。


そろそろ引退の2文字がチラつくべテラン・レーサー役のモンタン

とまぁ、レーサー達のウジャウジャとした恋愛模様だの心理状態だのはあまり出来も良くないし、かなりどうでもいい感じである。けれど、レースシーンの繋ぎのようなものだと思えばさして邪魔にもならない。そういうものが何も入らないで、ただひたすらに転戦を続けるレースだけを延々と映されてもちょっと困るし、まぁ、いいんじゃないの?繋ぎならこんなもんで、という感じでもある。冗長気味ではあるけれど。



この映画の生命線は誰しも言う通り、迫力のレースシーンにある。モナコ、ベルギー、イギリス、イタリアと転戦しながらしのぎを削るレーサー達の姿を描きつつ、彼らのありきたりな(しかもベタにメロドラマチックな)苦悩なんぞより、とにかく主題はレースの迫力、そのエキゾーストノート、そして運転する人の目線で捉えられた、道路を駆け抜けていく疾走感のある映像だ。ワタシは運転者目線で撮られた映像(いわゆるドライブ・シミュレーションの画面みたいな映像ですね)が大好きなので、観ていて気持ちよく、車が走るシーンにはえもいわれぬ爽快感があり、とにもかくにもレースシーンは評判通りさすがだわ、と満足して眺めた。



イヴ・モンタンジェームズ・ガーナーもレースシーンを撮る時にはある程度スピードを出してレーシング・カーを運転し、それを車に取りつけたカメラが捉える、という感じの映像が折々挟まれている。また、レーシングカーの走りを疑似体験できるような、次々に迫っては忽ち背後に飛び去って行く風景の映像のただならないスピード感はプロのレーサーが操る車にカメラを取り付けて撮っているのだろう。前を走っている車に忽ち追いついて抜き去るシーンや、みるみる迫ってくるカーブを一瞬で曲がって行く臨場感はCGなどでは出せないホンモノの迫力だ。各国のGPごとに編集を工夫し、画面を分割したり、アングルに変化をつけたりと、見せ方も多彩だ。
レースシーンはこの映画の核で命。
そのレース映像ゆえに、この映画の価値もあるのだろう。


レーシングカーのコックピットに収まるJ.ガーナー

そのレースシーンと共に、ワタシをこの映画に引っ張ったのは、何といっても敏ちゃん演じる矢村モータース社長・矢村伊造である。この日本の実業家ヤムラはいわゆる本田宗一郎的人物で、あんな風に叩き上げの感じではないのだけれど、エンジンも車体も全て自前で製造した車でF1に挑み、ひたすら勝つ事を目標としている後発の日本の自動車メーカー社長という設定は、当時実際にF1に参戦していたホンダの本田宗一郎を下敷きにしていると言われている。



映画が始まって1時間ばかりのところで、サーキットに敏ちゃんが颯爽と登場する。初めて日本のチームのオーナーがサーキットに来たというので報道陣に取り巻かれる中、敏ちゃんは動作や雰囲気が堂々としている。胸を張っていて、姿勢がいい。


なんちゅう男前か

社長さんらしい貫禄もあり、大きなジェームズ・ガーナーと並ぶと、背は高くないが、押し出しの良さや風格など、ひとかどの人物らしい雰囲気がバリバリと出ている。我らが敏ちゃん。彫りの深い立派な顔だちはさすがの国際的男前ぶり。異国の映画に出ていても、そのカッコよさは些かも目減りしない。各国の報道陣の前では日本語で話すヤムラ社長。敏ちゃんの声である。早口で実にキビキビしている。日本語の台詞もこなれた言葉が使われていて、不自然な台詞でないのが良かった。レース中に事故を起して同僚を怪我させたため、所属していたチームをクビになり、TV局お抱えのレポーターになったピート(J.ガーナー)がヤムラ社長にインタビューをしようと近づくと「いや、今はインタビューには応じられない」とキッパリ断る。その非常にスパッとした言い廻しが実に爽快。社長さんはピートがレポーターなどをしていてはいかん、と思っているのである。レポーターの君とは話をしない、という意思表示なのだ。

ずっと日本語かと思われた敏ちゃん社長の台詞だが、あとで密かにピートを呼び出し、自分のチームで走らないか、と誘うシーン以降は日本人らしいカクカクとした英語(日本人相手にはもちろん日本語)で台詞を言う。が、英語台詞は残念ながら吹替え。口の動きは敏ちゃんに合わせているので、一応、敏ちゃんは英語で台詞を言っているのだが、あまり発音がよくなかったのかもしれない。結局吹き替えられてしまったようだ。が、後半のシーンでは1シーンだけ敏ちゃん本人の声だろうと思われる部分もあったので、使える部分もあったのね、と微笑ましく思った。


大きいJ.ガーナーの横でかなり小柄に見える敏ちゃんだが、カッコよさは不変だ

ヤムラ社長の出演シーンでは、彼の海外の屋敷(どことなく英国風の屋敷と庭)で、青い芝生の庭にテーブルを出してピートと簡易の野だてで茶を飲むシーンが印象深い。敏ちゃんは羽織袴姿で背筋を伸ばして座り、とにかく颯爽としている。敏ちゃんの良さの1つは、常に颯爽としているところである。そんな彼の姿をこうして海外の作品の中でみると、日本人として改めてカタルシスを感じないわけにはいかない。
ヤムラは「自分は第二次世界大戦では、戦闘機乗りだった。アメリカの飛行機を17機、撃墜した」と言い、「そういう事は隠さない方がいいと思った」と続ける。ピートはヤムラ社長に「あなたは単刀直入だから好きだ」と言う。ヤムラは「君の走りは私の経営方針と似ている。つまり単刀直入なのだ」と答える。ふほほ。なかなか良いです。


見よ、この風格と貫禄

いい顔ですね。 実にいい顔だと思う

ちなみに、ヤムラを向こうの人が発音すると大抵「ヤミュラ」になっていたのがご愛嬌だったが、ヤミュラって言われると、なんかちっぽけな怪獣の名前みたいで可笑しい。

敏ちゃんの海外作品として筆頭に上がるのは、出演シーンの多さでもキャラのインパクトでも、やはり「レッド・サン」という事になるのだろうけれど、敏ちゃんというとなんでもかんでもサムライ、というのにいささか抵抗のあるワタシは、背筋の伸びた大物実業家を演じるこの「グラン・プリ」の敏ちゃんを味わい深く、好ましく眺めた。敏ちゃんはやはりカッコイイ日本人である。ふと、日本の総理大臣が、決断力に富む有能な人で、おまけにこんなルックスだったらほんとうに鼻高々なんだけどねぇ…などとため息が出てしまったりもした。世界に出て行く日本人は、すべからく敏ちゃんのようであって欲しい。
…ムリだけど。



レースには事故がつきものであり、ドラマ部分は散漫でとってつけたようなものだし、ラストもスカーっと勝つというよりも、事故がからまっちゃうのでなんだかなぁ…という印象の幕切れなのだけど、映画全体としての出来はともかく、この映画は非常に臨場感のあるレースシーンと、クラシカルなF1カー、そして、堂々たる敏ちゃん社長の姿、これを楽しく眺める映画である。いや~、久々に敏ちゃんにハート目になってしまった。
敏ちゃん社長、素敵すぎである。

コメント

  • 2011/04/29 (Fri) 23:43

    kikiさん、
    これDVD持ってます!でも見てません!いや、見た!?
    F1レースの如く飛ばしに飛ばし、敏ちゃんだけ見た!というべしでしょう(苦笑)。
    在仏中にこのDVDが発売になったんですよ。しかも確か10ユーロくらいとお安かったし、なにより敏ちゃんが見たかったんですねえ。
    でもkikiさんご指摘のとおり長いし、F1には全くもって興味なし、出てる俳優も魅力を感じず(Yモンタンは嫌いじゃないけど、この手のハリウッド作品では見たくない)・・・というわけでかっ飛ばしたわけなのです。
    しかし敏ちゃんはかっこよかったですね。ガイジンさんたちと並んでも引けをとらない彫りの深い顔立ち。しかも男前。こんなイカす日本人がいたなんて実に誇らしい気分になっちゃいますね。
    敏ちゃんみたいな(ヤムラ氏のような)総理大臣だったらなあと思うと、いや想像にしてもそれはかなり厳しいので、こんな上司だったら仕事バリバリ頑張れるのになあ~(多分)とか夢みてしまいますね、うふふ。
    いつか気が向いたらじっくり腰を据えて全編見てみたいと思います。
    「ヤミュラ」になっちゃうんだ、あんな男前なのに、そんな愛らしい響きのお名前で呼ばれていたとは、すっ飛ばしたため全く気がつきませんでした。

  • 2011/05/01 (Sun) 10:16

    ミナリコさんはフランスでDVDを買われたのですね~。この映画でレースシーンにも興味なかったら、それはもう大飛ばしで飛ばして敏ちゃん出演シーンだけ見る事になっちゃいますわね、わかりますよ。ワタシもあのどうでもいい人間ドラマ部分は早回しで飛ばして、各国のサーキットでのレースシーンと(車の走っている映像はけっこう好きだし、爽快感もあったので)、敏ちゃんだけをハート目で眺めました。中年になって渋さが加わり、実年齢よりも年長の経営者を演じていたのだけど、いや~、やっぱり敏ちゃんはパリっとしてるわ。動作や表情がいつも堂々としてる上に態度が颯爽としててね。今更にいいですね。文句なくカッコイイです。小柄だけど貫禄があって、存在感がビッグだしね。顔まで敏ちゃんのようであるのは無理としても、外に出ていく日本人は、敏ちゃんのように堂々としているべきだと思うんですよ。でもまぁ、確かに総理大臣に敏ちゃんのような人を望むのは高望みしすぎで夢物語になっちゃいそうだけど、上司というか、企業の社長にだって敏ちゃんみたいな人はそうそう居ないですからねぇ。
    レース場でのアナウンサーの発音とかが必ず「ヤミュラ」になってましたわ。J・ガーナーはちゃんと「ミスター・ヤムラ」と呼んでましたけどね。

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