「アンノウン」 (UNKNOWN)

-俺は一体、誰なんだ?-
2011年 米/独  ジャウマ・コレット=セラ監督



ワタシにとっては、今年は封切り映画が不作の年のようで、とにかくこんなに観たい新作映画の少ない年も珍しい気がする。そんな中でも、やっと食指の動く映画が封切られたので久々に映画館に足を運んだ。それでも本編が始まる前の予告編タイムには呆れるばかりに詰まらなさそうな映画の予告がこれでもかと流されて、しばし茫然。
本編が外れたら目も当てられないと思ったが、それは大丈夫だった。
漠然と面白そうなサスペンスだなぁと思っていたところへ、昨今「MAD MEN」でお気に入りのブロンド美人、ジャニュアリー・ジョーンズも出ていると分かったので、これは行かずばなるまい、と見に行った本作。冬の寒い寒いベルリンを舞台に、一人の男が異国の地で命を狙われながら自分が何者なのかを探っていく姿を描く。主演はリーアム・ニーソン。この人は性格俳優という印象だったのだけど、昨今はアクションだのサスペンスだの、体を張った役が結構多い。学会で講演する予定の植物学者という設定はニーソンに合っている。かなり年が離れた感じの若い美人の妻にジャニュアリー・ジョーンズ。もう一人の女優、ダイアン・クルーガーとジャニュアリーの役どころも上手く割り振ったな、という感じ。無論、ダイアンの方がメインだが、ジャニュアリーも十分印象に残る。やはり「MAD MEN」のベティさんを踏まえた感じの役で、いわゆるキレイどころである。が、夫が失踪しても、慌ても騒ぎもしない謎の女でもある。



冒頭、飛行機でベルリンに着き、空港からホテルに向かう間も若い妻と仲むつまじく、顔がゆるみっぱなしのような植物学者マーティン・ハリス(ニーソン)と、若く美しい妻エリザベス(ジョーンズ)が印象的に描かれる。彼らが着いたのは雪のちらつく寒い冬のベルリンだ。このベルリンの寒そうな風景が映画によくハマっている。ところがハリス先生、タクシーに乗り込む際に大事なアタッシェケースをカートからタクシーに積み忘れられたのに気づかず、ホテルに着いてからケースが無い事に気付き、タクシーで空港にとって帰す途中で事故に遭い、車ごと川に落ちてしまう。一足先にホテルに入ってチェックインを済ませた妻は彼がどこに行ってしまったのか知らない。タクシーから連絡をしようにもハリスの携帯は不通になっていたのだった。


可愛い妻とベルリンに着いたハリスだったが…

ハリスは4日も昏睡状態に陥ったのち目覚め、病院を出て宿泊するはずだったホテルに行って妻に会うのだが、彼女は彼を「知らない」と言う。自分の名を名乗る男は他に居て、妻は平然とその男を夫だと言うのだ。そんな馬鹿な…。それじゃ一体自分は誰なのか、自分の代わりに妻にくっついている見知らぬ男は誰なのか…。警備員に追い立てられてホテルを出たハリスは、何者かに尾行され、命を狙われている事に気付く。彼は一体、何に巻き込まれてしまったのだろうか…。

というわけで、そのへんは観てのお楽しみ。封切り間もないし、サスペンスなので今回はなるべくネタバレなしで。

感想を言ってしまうと、展開に無駄がなく、割によく出来たサスペンスだった。カーチェイスもなかなか迫力があり、スピード感があってスリリングだった。(ベンツのタクシーを何台もデコデコにしてしまうのであららら~…という感じもするのだけど)


予期せぬ事から事故に遭い、病院で昏睡から醒めてみると、現実は奇妙に歪んでおり、自分が認識していた事が果たして事実だったのかどうか確信が持てなくなってしまうハリス。パスポートもなく異国の地を彷徨いながら、あまつさえ何者かに命を狙われる始末。彷徨するハリスの背後に映るのは冬のベルリンである。見るからに寒い。失意と焦燥に追い討ちをかける鉛色の空。途方に暮れる寒さ。しかも、会えば分ると思っていた妻は彼を「知らない」と言うのだ…。何がどうしたというのか?何かおかしい。何かが間違っている。間違っているのは俺なのか、それとも周囲なのか…。
怪我をしたり、毒を盛られそうになったりしながら、そのつど辛くも窮地を脱して逃げ出すハリス。身分を証明するものもなく、頼る者もない異国で、彼はどうやって自分を証明するのか…。脇にアラブの王子なども絡んできたりして、うわ、またそっち系?などとも思うが、なかなかスリリングな展開で途中まではかなり面白かった。ただ、彼が何者か分かってからは幾分失速する気配もあるけれど、暫くぶりに映画館に見に行って損はなかった。ただ、全ての発端であるタクシー乗り場での忘れ物だが、肝心のカバンを忘れるなんて事がそもそもヤキが廻っているのでは?と思わない事はない。そんな大事なカバンならずっと手に持っているべきでしょう。 そこだけが瑕瑾だ。


ブルーノ・ガンツ(左)とリーアム・ニーソン

ドイツ側のキャストが結構豪華で、今やドイツの名優代表という感じになっているブルーノ・ガンツが旧東ドイツの秘密警察出身の探偵という役どころで登場。味が出ていた。この他、「善き人のためのソナタ」で反体制の劇作家を演じたセバスチャン・コッホがノーベル賞受賞の植物学者を演じ、「ヒトラーの贋札」のカール・マルコビクスが事故後のハリス(ニーソン)の主治医役で数シーン現れる。そして、ボスニアから密入国してベルリンでタクシーの運転手をしているジーナにダイアン・クルーガーである。ワタシはダイアン・クルーガーをこれまであまり綺麗だと思った事がなく、この人が出て来ると、「またこの女優か…。ドイツ絡みの映画だと必ず出てくるなぁ」という印象しかなかったのだけど、今回は初めて彼女をちょっと良いな、と思った。



我の強そうな四角い顔をした女優、というイメージだったのだけど、今回はあまり四角い輪郭が目立たなかった気がするし、かなりほっそりと痩せていて、免許もないのにタクシー・ドライバーをやり、場末の食堂でウェイトレスをやりながら懸命に金を貯めている、一人で必死に生きている女の役がなかなか合っていた。ハリスはこのジーナのタクシーに乗っている時に事故に遭い、車ごと川に落ちて彼女に助けられて一命をとりとめるのだ。



アメリカ側の出演者はリーアム・ニーソン、ジャニュアリーちゃんの他に、フランク・ランジェラエイダン・クインが顔を見せる。フランク・ランジェラはいかにもな役で出番は多くないが印象に残る儲け役。こういう役は十八番という感じだ。かたやエイダン・クインは暫く見ない間にちょっと太り、凄く平凡な中年のオヤジという感じになっていて、「何となくエイダン・クインみたいだけど、こんなんだったっけなぁ…」とすぐには分らない有様。「レジェンド・オブ・フォール」や「月下の恋」の頃はちょっと良いな、と思っていたのだけど、う~む、歳月無残系だったか…残念。


ジャニュアリーの右の太目のオッサンがエイダン・クイン …やれやれ

ご贔屓のジャニュアリー・ジョーンズも役としては大きくないが、ダイアン・クルーガーとのキャラの住み分けがきっちりとできていて、どちらもキャラが立っていた。ジャニュアリーはただラブリーなだけではなく、謎を持った女の役もなかなかハマる、という事をアピールできたような感じだ。彼女が演じる「妻」エリザベスを、ハリスはかなり好きだったのだろうね、だからアイデンティティの混乱も起こってしまったのだろうねぇ、などと思いつつ、深い胸ぐりの黒いシックなイブニングドレスに眩くブロンドが映えるジャニュアリーの姿を眺めた。



ベルリンで災難に遭うと、身も心も非常に寒いのだった…

ラストが些か軽い印象になってしまったのは幾らか残念だけれど、暫くぶりに新作映画を面白く見た。観終って振り返ると、何よりも冬のベルリンの寒そうな風景が強く印象に残った。ドイツは北欧のすぐ下なのだ。やはりとても寒いのである。

コメント

  • 2011/12/12 (Mon) 13:16

    DVDで見ました!似たような設定の映画は数多あるとはいえ、これはなかなか面白かったです。途中、植物学者が何でこんなに運転がうまいんだろう?と思ったら、なるほどなるほど。
    メインキャストがそれぞれ役に合っていたのはもちろん、親切な看護師さんとかジーナの友達のビコとか、訳も分からず巻き添えを食ってしまう人達が本当に気の毒に思えたので、それだけ脇の役者さん達も上手いってことなんでしょうね。

    最後、「これで何をしても自由だ」というパスポートはやっぱり偽名なわけで、それって本当に自由なのか…凄腕の割に繊細そうなハリスの今後が少々心配ではあります。

    しかしまぁ、この舞台がカリフォルニアだったら全然違う話になりそうで、やっぱり“背景”って大事なんですね(笑)

  • 2011/12/13 (Tue) 00:29

    xiangさん、ご覧になりましたか。けっこう面白かったですよね、これ。記憶喪失のスパイといえばジェイソン・ボーンだ、という人もいるでしょうが、ワタシはボーン・シリーズなど全く想起することもなく、これはこれで楽しみました。ベルリン・ロケも効いてたし。ほんっとに寒そうですよね。ドイツはやっぱり寒いのね~としみじみ思いましたわ。ヨーロッパの主要な国には東欧やらアフリカやらアラブから密入国して、ギリギリの無茶な状況で出稼ぎしてる人が多いんだろうなぁ、と改めて思ったリね。そんな人々を演じる脇の人も上手かったですよね。実際にもああいう人は一杯いそうな…。
    オッサン、ずっと偽名で生きていくんでしょうかね。もう本当の自分には戻れないのかもだけど、それにしても、筋がね入りの割りには、あんな大事なものをタクシーに乗せ忘れるなんて根本的にヤキが廻ってるとしか思われないんざますが…。(笑)

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