「レッド・バロン」 (DER ROTE BARON)

-いかにクラシカルでも騎士道精神があっても…-
2008年 独 ニコライ・ミュラーション監督



なんとなくよさげな雰囲気が漂っていたので観賞。
丸の内ルーブルで映画を観るのはかなり久々だ。
第一次世界大戦の独空軍のエース「レッド・バロン」については、漠然とそういう人がいた、という事だけは知っていた。「赤い飛行機に乗った男爵」ということで伊達なイメージが脳裏にあったが、映画でも長いマフラーやスカーフを粋に巻いて空を飛ぶ金髪の若者がそれらしく演じていて、クラシカルな戦闘機や戦争の模様、そして騎士道精神がまだ命脈を保っていた時代の欧州の若きパイロットたちの姿を眺めてきた。雰囲気としては「炎のランナー」を戦争映画にした感じ、とでもいおうか。
冒険と飛行機に憧れた貴族のお坊ちゃんが、長じて腕利きの戦闘機乗りになる。冒頭、飛行機の爆音を聞きつけるや、鹿撃ちの銃を放り出して、飛行機の姿を観ようと森の中を馬に乗って駆ける少年の姿が描かれる。少年は大人になり、空軍の英雄としてもてはやされるようになる。

クラシカルな20世紀初頭の時代を再現した映像は良いのに、台詞が英語なのはちょっとガックリした。ドイツ映画なのに何故英語?ワタシは英語圏の国の話じゃないのに、台詞が英語だとかなりガックリしてしまうタイプ。ドイツ映画なんだからドイツ語にすればいいのに。英語で「イエス、サー」なんて言われると、どうも感じが出ない。英語というのはポピュラーなだけに何か軽くなってしまうというか、ひとしなみになってしまうというか、個性がそがれてしまうというか、ちょっと雰囲気が平板になってしまうのだ。英語圏の映画ならそれで構わないのだけど、北欧やドイツやイタリアの映画なのに台詞が英語だと、何かガックリしませんか?ワタシはガックリするタイプである。

それを除くと、まず第一次世界大戦時代の複葉機のシンプルな美しさが目に快く、その飛行機が飛び立って、縦横に空を駆けるシーンに爽快感と臨場感がある。風をびゅうびゅうと受けて飛びつつ、敵の攻撃を交わし、くるりと旋回して、今度は自分が攻撃する側に廻り、パパパパン!と機関銃を撃つ。戦闘シーンも、昨今のジェット戦闘機のキーンとするようなスピードではないので余計に臨場感があり、パイロット目線で、眼下にも頭上にも敵味方入り乱れて飛行機が飛んでいる中を身を捻るように角度をつけながら、編隊の中に切り込んで行く映像は、とても臨場感がある。また、皮の飛行帽をすっぽりと被り、その上からゴーグルをかけたクラシカルなパイロットの姿もサマになっている。飛びながら背後を眺めるキっとした視線が凛々しい。


クラシカルな飛行機によるリアルな空中戦のシーンは必見

レッド・バロンことマンフレート・フォン・リヒトホーフェンは、騎士道精神を重んじ、スポーツマンシップで空中戦を闘っていた人であるので、冒頭、敵ながらアッパレ、と思うパイロットの葬儀に仲間と飛行機で現れ、超低空飛行をして敵の柩の中に花束を投げ入れていく粋なシーンはそんな彼のありようを象徴している。

しかし、いかにクラシカルであろうと、騎士道精神の名残があろうと、戦争はやはり戦争なのだ。当初は無邪気に、競技でもやっているように敵を撃ち落とし、その機体のマークなどを切り取って、狩猟の成果を壁に並べるハンターのように壁に飾って喜んでいたバロンだったが、自分が従事していることは、大義などあるかないか定かでもない欧州の身内同士の内輪揉めのような戦争で無意味な血を流しあっているだけなのだ、と気づく。そんな戦争で英雄に祭り上げられ、軍の戦意高揚に利用されるバロン。しかし、英雄である彼の姿に憧れ、鼓舞されて戦地へ赴き、死んでいく若者がどれだけいることか…。オリンピックに参加するように撃墜という種目のチャンピオンとして意気揚々だった彼に、それは競技ではなく戦争で、人が確実に死ぬのだ、という事実を気づかせたのは、野戦病院の看護婦ケイトだった。そして、空中戦は競技でもスポーツでもない証拠に、彼と共に死線を潜り抜けてきた友は、一人、また一人と大空に散っていくのである。


レッド・バロンと仲間たち

というわけで、このケイトを演じる女優の、かなり頑丈なアゴや、いつもややヘッドアップしたような雰囲気にどことなく見覚えがあるなぁ…と思っていたら、この女優はレナ・へディといって、Mr.Gの「300」でシワ妃を演じていた女優だった。男顔度が一段とUPしたなぁ、という感じだったのだが、本作でも登場するたびに「美人だ」「美人だ」と言われる役で、毎回、そうかしらん、アゴが頑丈すぎるわ…と首を捻りつつ眺めるハメになった。


シワ妃であったか…

第一次世界大戦の細かい戦局の流れを殆ど知らずに見たのだけど、当初は互角に渡り合っていたものの、段々戦局が不利になり、ドイツ側が追い込まれていく様子も雰囲気で伝わってくる。その合間に、バロンは戦闘中に頭を撃たれて入院し、頭の傷を治療してもらいつつ意中の看護婦(今ふうに言うと看護士か)といい感じになっていき、束の間デートしたり、などの微笑ましい場面もある。
そんな淡い恋模様も織り込みつつ、ついに配色濃厚になってきたドイツ側が痛々しい総攻撃をかけるまでを、けして派手な演出なしに、淡々と描いている。こういうハリウッド映画とは異なる欧州の映画の抑えたフィーリングが、ワタシはけっこう好きである。

バロンと何度か空中であいまみえる好敵手の連合国側のカナダ人パイロット、ロイ・ブラウン役でジョセフ・ファインズが幾度か登場する。ある時二人はふいに何もない原っぱで遭遇する。戦闘中にそれ以上闘えない状態になって中立地帯にそれぞれ不時着するのだ。何もない草っぱらを二人は一時、戦争を棚上げして暫く一緒に歩く。こんな身内の揉め事みたいな戦争が早く終わればいい、と二人とも思っているのだ。ロイ・ブラウンは銃を持っていてもバロンに発砲したりはしない。二人は互いに微かに友情を抱き、握手をしてそれぞれの陣営に分かれていく。どことなくのんびりして昔らしくていいなぁ、と思った。ジョセフ・ファインズ、何かどんどんショーン・コネリーに似てくるような気がするのだけど、気のせいだろうか。



レッド・バロンことリヒトホーフェンを演じるマティアス・シュヴァイクホファーは、金髪・碧眼でいかにもドイツの若者という雰囲気だが、ゴツイ系ではなく、細身で品がよく、戦闘機に乗っている時は目に気合が入っている。
軍帽をやや斜めに被り、グレーのゆったりしたセーターにあのドイツ軍のたっつけ袴みたいなズボンを履き、皮のブーツを履いて、ちょっと猫背気味にタバコを吸いながら歩く姿など、なかなか伊達で良かったとおもう。他の映画で観たらどうか分らないが、レッド・バロンにはピッタリだった気がする。映画の末尾に実物の写真が出てくるが、ホンモノのバロンは二枚目だがややゴツイ印象。マティアス・シュヴァイクホファーは坊ちゃんぽさと伊達な軍人の雰囲気が混ざっていて、実物より線が柔らかい感じである。

お話としては、レッド・バロンと呼ばれた撃墜王の短い生涯を淡々と描いたもので、話の展開も、さもありなんという感じではあるのだけど、1910年代のクラシカルな雰囲気や、クラシカルな戦闘機を眺めつつ、しかし、いかに暢気そうでクラシカルでも間違いなく戦争は戦争なのであって、無益な血が流れ、理不尽な戦争に駆り出されて負傷したり戦死したりと、一生を台無しにしてしまう兵士の悲惨さは今も昔も全く変わりはない、という事はきちんと伝わってくる。若き撃墜王は「神のごとき存在」であるため、万一死んで士気を下げる事にならぬよう、途中で地上勤務に変更になるのだが、彼は崇められて英雄として命を永らえるよりも、戦闘機乗りとして仲間とともに闘い、死ぬ道を選ぶ。それが「英雄」になってしまった自分の責任であると。


この時代の飛行機が魅力的である

敵も味方も、むき出しの憎悪だの暴力だのはなく、互いに戦闘不可能な状態になって不時着したら、握手を交わして他愛もない会話を交わす、というようなパイロットたちのありようは、戦争をしているというよりは、やはりオリンピックのような競技会に参加している選手たちのような雰囲気である。時代色という事やそういう青年たちの姿に、どことなく「炎のランナー」に近い空気感が漂っている気がした。
戦争はあまたの血が流される悲惨な事だという訴えかけは忘れず、一方で古きよき騎士道精神は、敵であり友である者の墓に捧げられる花束に集約されている。

それにしても皮のジャケットに長いニットのマフラーを巻いて複葉機に乗るなんて、昔のパイロットは粋である。パラシュート1つ身につけているわけではない。撃墜されれば、ほぼそれっきりである。飛行機には風防もない。パイロットは操縦席に剥き出しで乗って目一杯風を受けて空を飛ぶ。命知らずである。けれど、飛行機で空を飛ぶ、という事の快感や怖さが一番ストレートに分るのも、こういう飛行機に乗った時かもしれない。
鳥のように空を飛ぶ、という感覚に一番近い飛行機のように見えた。

レッド・バロンは生涯に80機を撃墜し、25歳の若さで散った。あぁ、騎士道精神を持つ男前の伊達な青年が、若い身空で命を散らすとは何と勿体ないことか…。
その事ひとつをとってみても、戦争は無益で虚しい消耗だ。

淡い交情を結んだ看護婦に操縦席から投げたバロンの最後の頬笑みが、印象深く瞼に残った。

コメント

  • 2011/06/05 (Sun) 12:58

    kikiさんこんにちは。私もこの作品、観てきました。良い作品でしたね。
    ただkikiさんと同様に「何故ドイツ語じゃないんだ・・・」と思いましたけど。てっきりドイツ語だと思いこんで観賞したので、主人公から英語が飛び出した時はガックリきました。出演している俳優はドイツ人なのに、何故英語・・・。
    それにしてもこの時代の飛行機のカラフルさには驚きです。許されてたんですねえ、こんなの。日本ではあり得なさそうですが。
    主演のマティアス・フュヴァイクホーファーはかなり私好みなんですが、彼の出演作は日本公開されてるものは少なそうで残念です。ドイツ映画、もっと日本で公開されないかしら・・・。

  • 2011/06/05 (Sun) 19:08

    mayumiさん。これ、良かったですね。戦争だからやはり血は流れて悲惨には違いないんだけど、のどかで悠揚迫らないところが20世紀初頭だなぁ、と。そして、そうなんですよね。ドイツ映画なのに英語の台詞なんて本当に奇妙。非常にガックリきますね。気を利かせたつもりなんだろうけど余計なお世話というか。世界配給するためには英語でないと、なんて英語圏以外の国が思ってしまうのが情けない。堂々と自分の国の言葉でそのまま世界市場に通用させればいいのに。そして英語圏の連中ももっと謙虚になってせっせと字幕を読みなさい、と思います。なんでもかんでも英語なんて興がそがれるものね。でも、それ以外はいい映画でしたね。飛行機を始めとして美術が良かったし、バロンを演じるマティアス・シュバイクホーファーも良かったです。粋なお坊ちゃんという感じで役に合ってました。ほんと、ドイツ映画や他の欧州の映画がもうちょっと色々入ってくるといいですよね。

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