「愛情の決算」

-忍耐と情熱の間-
1956年 東宝 佐分利信監督



この映画の存在を知った十数年前から一度観たいものだと思っていたけれど、未ソフト化の上、TVなどでも未放映の作品で、とにかく名画座系にでもかからなければ観る事のできない作品であり、しかもなかなか上映もされない作品だったのだけど、去年、今年と古えの俳優、女優の特集上映の中に混ざってくるようになった。前回、銀座シネパトスの小林桂樹特集での上映には都合が合わずに見逃したが、今回、池袋は新文芸坐の上映(原節子特集)にはなんとか間に合って観賞。シネパトスも新文芸坐も、ミナリコさんが上映の情報をくださった。ミナリコさん、ありがとう!おかげさまで遂に観ましたわよ。
いやー、男盛りの敏ちゃんこと三船敏郎のステキングだった事は言うまでもないが、原節ちゃんもツヤツヤとして綺麗だったし、映画としてもキメ細かく登場人物の心理を描いていて、悪くなかった。不慣れな池袋まで行った甲斐は確かにあった。
東京の北エリアの豊島区、北区というのはワタシのテリトリー外の1つで、今日まで殆ど行った事がない。池袋も通算で5回ぐらいしか降りた事がない。地理も不案内で全く分らない。けれども滅多に観られない映画がそこで上映されているとなれば行くしかない。この機会を逃すと次はいつになるか分らないものね。行きますよ、池袋だってどこだって。
知らぬ他国のように不案内な池袋に緊張しつつ地下鉄の改札を出て地下通路を延々と歩き、東口から外に出た。

幸い、新文芸坐は東口から程近かったのでどうにか迷わず到着。ほっと一息。入れ替え制ではないそうで、1回チケットを買うと何回でもそのまま座って映画が観られるという昨今は珍しくなったシステム。特集上映で観たい映画が1日に沢山かかる場合には嬉しいシステムだ。でも、ワタシは今回は「愛情の決算」だけ見せていただければ十分なので、1本だけ観て失礼した。場所柄か、神保町シアターよりもシルバー世代率が高いようだ。

物語はフィリピンの奥地で終戦を迎えた一小隊の男たちの戦後の十年を、二人の男と一人の女を軸に描いた作品。原作は今日出海の「この十年」。
ジャングルの中で、日本が降伏した事を米軍のビラで知った兵士たちは、これで内地に帰れると思う者と日本が負けた事に憤る者-楢崎(佐分利信)に分かれ、反応は様々だ。彼らは内地に戻り、否応なしに戦後が始まるが、彼らの中で唯一、病のために日本に戻る前に亡くなってしまった田口(内田良平)の未亡人の元へ生き残りの男たちが訪ねて来る。田口のささやかな法要のためだ。画家だった田口の未亡人・勝子に原節子。田口と勝子は大恋愛の末に結婚した夫婦だった。学徒動員で召集されていた敏ちゃん演じる大平は学生に戻っている。撮影当時三十半ばの敏ちゃんなので大学生には見えにくかったが、まだ青年らしさはふんだんに残っていて、「やぁ」なんて爽やかな笑顔で手を上げられると、幼い息子を抱え、バラックだらけの東京でこの先どうやって生きていこうかと途方に暮れる原節子の未亡人でなくても、つい満面の笑みで微笑み返してしまうというものである。


満面の笑み 写真は「青春の気流」より

この時期の敏ちゃんは「男ありて」「妻の心」あたりと同時期で、だから三十半ばの男盛りで、男前盛りでもある。とにかく量の多い黒髪がツヤツヤして、濃い眉と、キリっとした口元、愛嬌のある優しい目のハンサムマンで、広い肩幅で着こなす背広姿のサマになっていること、少し肩をゆするようにして大股で悠々と歩く様子など、実にりゅうとした男ぶりである。ワタシは映画館の暗闇の中でひそかに目を細めた。


写真は「妻の心」より

この戦友仲間には、小林桂樹、田中春男、千葉一郎、堺左千夫、そして佐分利信が居る。亡き戦友を偲ぶ為の集まりとはいえ、未だにゲートルに軍帽の軍人姿で現れる楢崎は戦中の価値観をなかなか棄てられず、戦後という時代に馴染めず、ボヤーっとしている。いわゆる戦争ボケ状態である。極めて融通が効かず、面白味もない男なのに、何故かカストリ雑誌の泡沫出版社などに務めている。佐分利信、融通の効かない鈍牛のような男はお手の物。頑固でムッツリして詰まらなそうな雰囲気がよく出ている。この集まりの帰りに、敏ちゃん演じる大平と、小林桂樹演じる武内が「死んだ田口と奥さんは恋愛結婚らしい」という話をし、「情熱家だったんだなぁ、あの奥さんもそんな感じがするよ」などと敏ちゃんが言う。武内は「楢崎さんあたりとくっつけるのがいいかもしれないぞ」と言い、彼らの後押しもあって、融通の効かない楢崎と美貌の未亡人勝子は縁付くことになる。この時点では大学生の大平にとって勝子は年上の子持ちの戦友の未亡人というだけの存在である。

が、楢崎と勝子は性格が合わない。勝子が折角生けた床の間の花を、仕事から帰った楢崎は乱暴に取り除けて、代わりに穴のあいた鉄冑を置く。勝子はゲンナリしつつも花を庭に捨て、深いため息をつく。自分の戦争体験と、その戦争に負けたという事をずっと引き摺っている楢崎には、花を楽しむゆとりがない。床の間に鉄冑を飾り、それでなくてもモッサリと座り込んで碁を打つしか楽しみのない男なのだ。日常生活に楽しみを見出さない楢崎と画家と情熱で結ばれていた勝子がそり合う筈がない。息子と生きるため、生活と将来の安定のために他の事には目を瞑って結婚してみても、性格が合わないという事は会話の接点もないということである。人はそうそう日常、慢性的に我慢して生きて行く事はできない。


性格が合わない勝子と楢崎

一方、大学を出た大平(敏ちゃん)は新聞社に入り、記者になる。闇商売にあれこれ手を出していた武内(小林桂樹)は商才を発揮して、ひとかどの実業家になる。その他、楢崎の家に家族で居候をしていた吉野はパチンコ屋を開き、警官だった木原(田中春夫)は散々闇商売に手を出した挙句に結局、警官に戻る。コッテ牛楢崎(佐分利信)は足に怪我をしてカストリ雑誌を首になり、生計のために勝子(原)が働きに出ることになる。大平の口ききで銀座の映画館内の売店に職を得る勝子。上映されている映画はジャン・コクトーの「悲恋」。ジャン・マレーのポスターが映る。敏ちゃんは仕事帰りに映画を観がてら勝子の売店でピーナツや飴を買い、これは息子さんにお土産にしてくれ、と言ってさらりとした笑顔を見せ、中へ入っていく。原節子の勝子は世にも嬉しそうな顔でその姿を見送る。

働き出した勝子はメキメキ垢抜けて美しくなっていき、間もなく銀座の宝石店に勤めを変える。本作での原節子は、ワタシがこれまでに観た中では一番ほっそりと痩せていて、女盛りの艶があり、真珠のイヤリングが似合ってしっとりと美しかった。勤め帰りに二人が待ち合わせて銀座でお茶を飲み、地下鉄に乗ると、日本では戦後に封切られたのだろうガルボの最後の映画「奥様は顔が二つ」の中吊り広告が映る。ジャン・マレーとガルボの映画の広告をわざわざ映しているのは佐分利信の遊び心で、敏ちゃんは日本のジャン・マレーで、節ちゃんは日本のガルボだよ、そうだろ?とウインクしている佐分利信の顔が見えるような気がした。ワタシ的には敏ちゃんはジャン・マレーよりいい男だけど、節ちゃんは生涯独身だった点で和製ガルボとも言えなくもない。個性は違うけれど。



この作品での敏ちゃんと節ちゃんは実に釣合いの取れた美男美女のカップルで、他の映画で観るよりも敏ちゃんの横で原節子がとても嬉しそうに見えたのは気のせいだろうか、どうだろうか。彼女が「うふふ」と笑いながら、敏ちゃんの腕に腕をからませるシーンなど観ていてこっちもニヤニヤしてしまった。照れ屋の敏ちゃんも、彼なりに年上の人妻を恋する男を誠実に温かく演じていて、とても良かった。敏ちゃんは現代劇で知性と分別のある普通の男を演じている時が格別に素敵なのであって、けして黒澤のサムライだけの俳優ではないのである。ワタシ的には他の監督と組んだ時の、現代劇のステキな敏ちゃんの方がポイントが高い。もっとこういう現代劇に出ていて欲しかった。
一方、情緒的、情熱的な表現を、その表情と大きな眼でしっとりと表現するのは原節子の役目。「聖処女」でいなければならない小津作品での彼女とは事変わり、品のいい色気と、何かトリガーがあれば何もかも捨てて情熱の赴くままに走っていくであろう女の、懸命に情熱を抑えている様子、また抑えながらも炎の端を折々閃かせる様子がよく出ていた。とにかく他の映画では観た事のない艶っぽい原節子がふんだんに眺められる。この人は本来、情熱の人なのだと思う。



ともあれ、この時期の三船敏郎と原節子は日本一きらきらしい大人の美男美女カップルに違いなく、ワタシは勝手に敏ちゃんと節ちゃんを日本映画史上No.1の美男美女カップルと認定した。2位は佐田啓二と岸恵子、3位に高倉健と藤純子あたりかな。ふふふ。この美男美女の敏ちゃんと節ちゃんが並んで銀座を歩いたり、喫茶「田園」で差し向かいで珈琲を飲んだり、ナイトクラブで踊ったり、果てはホテルの一室に二人で居たりするのだけど、とにかく絵になるし、お似合いなので観ていて大層、目に快かった。釣合いのとれたカップルというのはいいものである。それでなくても昔の銀座が映る映画は大好物なのだが、ステンカラーのコートを着た敏ちゃんが昭和30年の銀座の裏通りを歩く姿を見られるなんて、それだけでもワタシにとってこの作品はお宝ショットの宝庫である。ソフト化もしてほしいが、日本映画専門chでの放映に期待したい。せひ、よろしくお願いしますわよ。

映画としては、ところどころに入る心理描写の演出が繊細で、殊に原節子演じる妻の心理がキメ細かく表現されていたと思う。彼女なりに努力はしているものの、夫のどこに耐えられないのか、どうして彼女が夫を愛せないのか、がとてもよく分る。一方で、原節子の連れ子の息子が当初は「うちのおじさん」などと言い、楢崎と距離があったのを、ある事をキッカケに楢崎に親愛の情を抱き、「お父さん」と呼ぶようになる場面も、じっくりと丁寧に描いていた。そして、不器用で融通の効かない頑固な楢崎はそれなりに妻を愛しているのだが、自分の殻から出ず、ねちっこい嫉妬をするくせに、陰湿に内側に抑え込む様子などもよく伝わってくる。(表面は何事もない顔をしながら水の出たホースを妻に投げつけるシーンにその性質が集約されている)こんな根の暗い、面白くない男と一緒に居たら、男前でフィーリングの合う相手が他にいれば、どうしてもそっちに行ってしまうでしょうよ、と思わざるを得ない。また敏ちゃんがステキ過ぎるもの。最高にステキングだもの。これじゃどうしたってモッサリした牛みたいな面白味のない夫は毛疎くなってしまうわね、ムリもないわよ、と節ちゃんの妻にシンパシーを感じたワタクシ。


いやもう、本当にいい男です (写真は「妻の心」より)

個人的には「妻の心」より「愛情の決算」の方が敏ちゃんはより好ましい雰囲気である。登場シーンも多いし、一度別れを決意した勝子と武内の事務所で顔を合わせてしまった時の何ともいえない表情や、勝子の顔を下から覗き込んだりするお茶目な表情など、ファンには堪えられないショットが惜しげもなく盛り込まれている。ワタシの大好きな背広姿をふんだんに見せてくれた事もあり、満足度は200%である。それにしても、両手をポケットに突っ込んで立っているだけだというのに、敏ちゃんの背広姿のなんとカッコイイ事か…。おまけにテーブルの下から指人形をはめた手を出して王様と王妃様の人形のキスシーンを演じ、節ちゃんの勝子を楽しませるシーンなんぞもあったりして、いやもう、ほんと、敏ちゃんファンには堪らぬ1本である。

「妻の心」では敏ちゃんに女房の心を奪われかける夫を演じていた小林桂樹は、本作では戦後のプチ成功者で、ひと財産を築いて鼻の下にちょび髭を蓄え、愛人に飲食店を経営させ、ノンシャランな顔で女遊びをしていたかと思えば、闇市を彷徨っていた利発な少女を引き取り大学へ行かせた挙句に光源氏気取りでその娘を嫁にしようと思ったりする男を、ややドライなタッチで演じていて面白かった。さすがに小林桂樹。茫洋とした表情ながらヤリ手の男もさりげなく上手い。小林桂樹が結婚したいと思う娘の役に八千草薫。最高にキュートである。だって八千草薫だもの。おまけに、まだプチプチに若いもの。闇市をうろつく少女時代も八千草薫がぼさぼさの小僧のようなかつらを被って演じているのもご愛嬌。この八千草薫の利発なアプレ娘は、一目会った時から敏ちゃん演じるインテリの大平に恋をしてしまう。敏ちゃん、モテモテである。まぁ、ムリもない。

楢崎の再就職とともに仕事を辞めた勝子は暫く大平と会わなくなるが、結局、偶然の再会などで焼けぼっくいに火が点いてしまう。息子の事もあり、夫に言おうとすると状況が変わったりして離婚を切り出せずに来た勝子だが、大平に海外支局への転勤の話が起ってきて、いよいよ覚悟を固める…。というわけで、同じ戦争を潜り抜けても世代や性格により、その戦争から受けた影響には個人差があり、激しく価値観や貨幣価値が変化した戦後という時代に適合して栄える者、着実に歩む者、ただ流されて行く者、不適合で流れに飲まれてしまう者など、フィリピンのジャングルで生死の境を分かち合った小隊の仲間にも、それぞれの戦後の10年が流れ、そして原節子演じる戦争未亡人は、ただ生き延びるためだけの再婚から、本当に人生を生きるための結婚へと、パートナーを変え、人生をシフトしていく。


勝子は遂に夫に三行半をつきつける(写真は「めし」より)

公開当時はそんなに評価されなかったのかもしれないし、知る人ぞ知る作品ではあろうけれども、佐分利信は監督としてそれなりの腕前を持っていたのだな、と今更に思うし、ただのメロドラマなどではなく、戦後10年の日本と日本人の変化をそれなりに捉えていると思う。もっと深い掘り下げを期待していた人には物足りないかもしれないが、敏ちゃんと節ちゃんが恋愛する、ということだけで本作を観たワタシなどは、思いがけずちゃんとした映画で非常に得をした気分になった。今後、再評価されていく作品のような気もする。

また、昔の映画を観る事には昔の東京を観る楽しみもあるのだが、今回は銀座以外に、佐分利信演じる楢崎の家が三軒茶屋にあるという設定なので、昭和30年当時の三軒茶屋の駅や住宅地の様子も垣間見られて興味深かった。


「東京の恋人」 1952 東宝 千葉泰樹監督

尚、敏ちゃんと節ちゃんの共演作ではもう1本気になっている作品がある。それは千葉泰樹監督の「東京の恋人」(1952)で、軽快な青春スケッチ風の作品らしいが、スチールを観る限り敏ちゃんも節ちゃんもとても楽しそうなので、チャンスが来たら是非観たい。放映か上映される機会を気長に待って、すかさず観ようと思っている。

コメント

  • 2011/05/29 (Sun) 17:01

    kikiさん、ご覧になったのですね!!レビューを読んでわたしも俄然見たくてたまらなくなりました!「妻の心」でもたいそうステキングな敏ちゃんが拝めるというのに、それ以上にスーパーステキング敏ちゃんが見れるとは!!いいな、いいな、kikiさんいいな(笑)。
    ほんとに30代の敏ちゃんは本当に男盛りの魅力満載で、黒澤作品のサムライ敏ちゃんも好きですが、kikiさんの言うように背広をりゅうと着こなす現代人敏ちゃんも新鮮でほんとにファンにはたまりませんねえ。「妻の心」で目からウロコだったので、そんな敏ちゃんをもっともっと見たかったですね。本作、お茶目なシーン満載の作品のようですね、想像するだけで目がハートの乙女になってしまいます(笑)。
    敏ちゃんがジャン・マレー、原節子がガルボかぁ。佐分利信って粋な演出してたんですね。見た目はほんともっさり牛て感じなのに。
    ジャン・マレーと敏ちゃんを対比させるのってなんだかピン!ときました。ジャン・マレーって写真でしか見たことないけど、彫刻のような顔立ちと豊かな髪、筋肉質そうな体格などなど、相通じるものがあるなあと。そりゃあ敏ちゃんのほうがかっこいいですけどねん(笑)!
    きらきらしいニッポン美男美女カップル第二位の佐田啓二・岸恵子が見れる作品はなんでしょう?「君の名は」しか思いつかず・・。最近テレビで岸恵子を見て、若い頃の作品(「黒い十人の女」をみました)を見るととっても素敵な女優さんだったんだなあ(過去形になるのが淋しい)と思いました。生きざまもカッコよくて。女優さんの代表作って若い頃の作品ばかりですけども、それでは淋しすぎる気がしまして、年を重ねてからのその人に合った作品も撮ってほしいもんだと思います。それじゃ観客が入らないんでしょうけどね、やるせないですね。
    kikiさんは東京の方だけども、やっぱり不案内な街もあるのですね(当たり前ですかね?)。地方に住む者としては東京の人は東京の街(23区)に関してはおまかせあれ!って感じなのかと錯覚しがち(わたしだけ?)なんですけど、そうでもないのですね(笑)。わたしも自分の住む街と職場付近しかよく知らないので、同じことか、と妙に納得。
    日本映画専門chさまにどうか本作を放送してほしいものです。切に切にお願いしきりです。

  • 2011/05/29 (Sun) 21:34

    ミナリコさん。観ましたよ~おかげさまで。当日は突発的に残業になる可能性もあって行かれるかどうかヒヤヒヤものだったんですが、なんとか大丈夫でした。ふぅ~。その日しか上映しないですからね。逃したらまたいつになるか分らないし1チャンスしかないですからねぇ。ドキドキでした。良かった。
    敏ちゃん、ステキでしたわ。まさにスーパー・ステキング。慎みがあって温かみがあって、爽やかで、誠実で、穏やかで、パリっとしてて、という感じの現代劇の青年を演じると、本当に良いですよね。いつもに輪をかけて一段と良いです。今回は丸顔のデコじゃなく原節ちゃんが相手役で、背景も銀座が多かったので余計に文句なしって感じでした。原節子が喫茶店でお茶を飲んでいると、待ち合わせた敏ちゃんが来て、「とりあえずここは出よう」と言って、立ち上がりざまスっと伝票を持って行くようなどうでもいいシーンも、印象に残っちゃったりして。観ている間ずっとハート目になりっぱなしでしたわ。佐分利信は、敏ちゃんが素晴らしい二枚目である事をよく知っていた人だったんだな、と思いますね。で、ジャン・マレー。実は日本で和製ジャン・マレーと呼ばれていたのは「また逢う日まで」の岡田英次なんですが、敏ちゃんも現代劇に出ている時はそれらしい雰囲気がありますよね。原節子は引退後は徹底して世間と隔絶して隠棲しているありようなど、日本のガルボとマスコミに言われてますわね。佐分利信が二人をそう思っていたのかどうかハッキリとは分らないけど、多分そういうメッセージかな、とワタシは感じました。これはソフト化もして欲しいけど、まずは日本映画専門chで放映して欲しいですね。未ソフト化の作品もよく放映するので期待したいです。
    佐田啓二と岸恵子はやはり「君の名は」による2位です。映画としてはユルいけど、日本映画史上に残る名コンビなので一応ね(笑)岸恵子などはいい感じに年を重ねていると思うけれども、日本には成熟した大人のための市場というのが無いですからね。俳優や女優も初老とか老人になってからも主役でそれを活かした映画が作られ、ちゃんと評価もされる、というような大人文化になって欲しいもんなんですが…。その点ではフランスは大人文化ですよね。日本も文化的にはフランスみたいになって欲しいんだけど。今のカトリーヌ・ドヌーヴぐらい岩下志麻にも出番があって欲しいです。勿体ない限り。日本は文化的な面ではヨーロッパに近くあるべきだし、その方が国に合ってるのだけど、第二次大戦後のアメリカ追従が未だに消えず、なかなか欧州の大人文化の方にシフトしていかないで困ったもんです。ガキにおもねる文化なんていい加減廃れていいと思うんだけどね…。今後どんどん高齢化社会になるんだし。
    で、東京もなんだかんだ言って広い上に繁華街もあれこれとあるので、住んでいるエリアによって日頃よく行く繁華街はそれぞれ異なるんですよ。ワタシにとって池袋って全く縁も用もないところだし、行動半径の外なんですわ。ガチャガチャしてるターミナル駅周辺がキライなので渋谷だってあまり行かないし、新宿も殆ど行かないので、その先の池袋となるともう完全にテリトリー外なんです(笑)ちなみに東京生まれの東京っ子ほど、自分の生活圏以外のところには疎いものなんですわ。他府県から大学入学や就職を機に出てきた人の方が、やたらにあちこち詳しいです(笑)

  • 2012/06/05 (Tue) 02:34
    原 節子よ永久に

    この映画をわたしはリアルタイムで見ているのですよ。
     この時分、名のある俳優が、監督するのが流行ってた時で、大概、原 節子を使いたがりました。
    山村 聡も「激怒」と言う作品で彼女を使うことになってましたが、政治的な事もあって、この作品は製作されませんでした。
     東宝は何故、この作品をDVD化しないのでしょう。この作品のみならず、「最後の脱走」「風ふたたび」など、何処を探してもありませんでした。
     わたしは、原 節子ものだったら、どんな愚作でもみたいのです。彼女の出演作で愚作を探すのも難しいですが。
     だって原 節子はその佇まいそのものが、才能だった、稀有な女優であったのだから。
     彼女は、例えば、エリザベス・テイラーやデボラ・カーと並んでも、決して引けはとらなかった、と思う。
     「野生」「時の貞操」「七色の花」ああ言ってたらキリがない。
     原 節子というと、いつも小津作品でにっこり微笑んでいるばかりではつまらない。そう思いませんか?

  • 2012/06/05 (Tue) 22:21

    橋本英一さん 初めまして。
    リアルタイムでこの映画をご覧になっているんですね。私の両親と同じぐらいの世代でいらっしゃるのかもしれませんね。そういえば山村聡も監督をしてましたね。田中絹代も何本か撮った事があるし、俳優監督の中では佐分利信はかなり上質な監督だったのではないかと思います。「愛情の決算」はキャストも良かったけれど、映画としても非常にきちんとした出来栄えで、思いがけぬ拾い物をしたような得な気分になりました。
    これは佳作という感じの作品ですが、原節子ものの駄作といえば「東京の恋人」はかなりそんな感じの作品でした。あれもソフト化されていませんね。確かに原節子というと小津作品で妙にきれいごとな笑顔を浮かべた抑えた姿よりも、もっと別な映画を観たいと思いますし、三船敏郎にしても黒澤作品の彼ばかりが良いわけじゃありませんね。そういう意味でも、これはいつもの二人の違う側面を見られたというだけでも貴重な作品だと思います。ソフト化も希望しますが、日本映画専門chでの放映もお願いしたいと思います。

  • 2012/11/17 (Sat) 04:03
    原 節子について

     この作品は、kikiさんが想像なさるとおり、封切り時には、100点満点は貰えませんでした。
     最後が弱い、というのです。息子を棄てて大平(三船)のもとに行ってしまうのか、また、楢崎(佐分利)のもとに帰るのか。
     妻に愛想を付かされて、出て行かれた後の楢崎の顔が、何故かほっとしたっ表情に演じていましたね。あれが、楢崎の性格であり、また、本心でもあったのでしょう。
     監督んお佐分利 信はこう言っています。
    「あれから、勝子さんは、どんな行動をとるかわたしにも解らない。どうしても、あそこまでしか描けなかった」
     又、当時は人妻の不倫を描いた作品は珍しかったのです。原 節子と三船敏郎は同い年ですが、役の設定は敏ちゃんは二歳年下、佐分利監督は、「甘い二枚目を使うといやらしくなる。そこで、無骨な感じの三船君を起用することにした」と。
    わたしは、現在74歳で、「愛情の決算」を観たのは高校2年位のときだったと記憶して居ります。
     東宝は何故、この作品をDVDで売り出さないのでしょうね。
     小津作品のニッコリ笑った原 節子も好いが、他の監督はそれぞれの見方で彼女の美しさを描こうとしていますね。
     黒澤 明監督の「白痴」はご覧になりましたか?
     この映画で、この世のものと思えない美しい原 節子を観る事が出来ますよ。そして、この映画の原 節子は恐いですよ。

     原 節子は、女優としてのスケールが日本映画の範疇からはみだしていた為に、自分流に使いこなして成功したのは、小津監督だけだと言われています。でもそれは、彼女の魅力と女優としての実力の一部分だけにしか過ぎません。
     実際彼女は、17歳の時出演した「新しき土」のドイツからの招待を受けての帰路、ハリウッドに立ち寄り、当時の名プロジュウサーのガブリエル・パスカル氏から、「わしの元で2年間辛抱なさい。そしたら責任持ってハリウッドのスタアにしてあげるから」という強い勧誘を蹴って逃げ帰った経緯があるのです。
     もし、そうなっていたら、ゲイリー・クーパーやグレゴリー・ペックやタロン・パワーと共演した映画を観る事ができたかも知れません。
     そうすれば、「東京物語」なる傑作は無かったことにもなるのですが。

  • 2012/11/17 (Sat) 21:31

    橋本英一さん こんばんは。
    ラストが弱いというのは確かにね。でもハッキリと描かずに観客の各々の感覚に委ねるという事でいいんじゃないかと思います。ワタシはやはり大平の元へ行っただろうと思っています。息子はもう義父に気持ちが馴染んでしまって、母の恋愛を容認しないだろうし、これまでは息子の事を思って意に染まない結婚も辛抱してきたわけなので、息子もある程度育った今は、自分のために人生を生きようと思うのではないかと。
    佐分利信は監督としてもなかなかのものですよね。ワタシの父は佐分利信と原節子が共演した「誘惑」という映画が好きでした。佐分利が窓枠越しに、窓の外にいる原節子をグーっと抱き上げるんだよ、良いんだよ、と言ってました(笑)

    「白痴」はもちろん観ています。製品版のVHSも持っています。まだ、けっこう単価の高い頃に買いました。やはりエキゾティックな背景と、原節子のナターシャ、敏ちゃんのロゴージンというのが観てみたくて。でも、これはやはり映画としては失敗の部類に入ると思うし、どうも観ていて黒澤の空回りがけうとくなって、イマイチだなぁと思ったので、何も感想は書いていません。でも、確かにこの映画での原節子は日本人離れがしていて、黒いマントがよく似合ってましたね。和製ガルボっぽい雰囲気が一番でていた映画かもしれません。また、昔の北海道は札幌でも小樽でも函館でも、異国情緒が横溢していて、どこかの植民地みたいな街並みだったようなので、ロケで見られるそういう昔の町が、これまたエキゾティックで良かったかもしれませんね。
    原節子がハリウッドのプロデューサーから誘いを受けていたんですか。ふ~ん。それは知りませんでした。でも、たとえ誘いを受けてハリウッドに行って、幾つか映画に出たとしても、真珠湾攻撃で日本人の彼女は仕事がしづらくなったでしょうし、大正生まれの原節子が英語のセリフをきちんとこなせたとも思えません。原節子のスケールは日本の枠には収まらなかったかもしれませんが、ハリウッドというのにも、しっくりとこなかったんじゃないかな、という気がします。今となってはもう、憶測の域を出ませんが。
    ともあれ、狭い日本の枠には収まらない人であることは確かですね。ハリウッド映画よりもヨーロッパ映画の方がやはり似合ったのではなかろうか、と思われます。なんとなくで、根拠はないですが。ともあれ、今年92歳(森光子も同じ年だったんですね)、鎌倉で静かな余生を送っておられると思いますが、原節子と李香蘭は長生きですね。(笑)

  • 2012/11/18 (Sun) 03:25
    またしても、原 節子 (少しひつこいかな?)

    kikiさん、貴女の映画に対する造詣の深さには敬意を払わずには居られません。
     わたしなどは、もうお爺さんですが、まだ、ミーハー気質が抜けなくて。(苦笑)
     それに、親切で丁寧なコメントを下さって、感謝致して居ります。
     
     昭和20~30年代の映画批評家は、邦画に対して非常に点が辛かったのです。
     やはり、敗戦のコンプレックスから抜け出す事が出来なかったのでしょうか。
     「羅生門」でも封切り当時は、ミソカスに叩かれたのですよ。力作ではあるが失敗作だって、、。
    「愛情の決算」は今封切られたら、佳作と折り紙が付いたのではないかと思うのですよ。
      
     原 節子は、東宝で、相手役に丁度好い、三船敏郎や池部 良との共演が少なすぎると何かで読んだ事があります。
     松竹の上原 謙、佐野周二、佐分利 信の3大スタアとの共演が多いのですが、彼らが小父さんになってからの共演ですので、ちょっと勿体無い気も致します。
     「誘惑」はわたしも見ていますよ。
    あれは、「安城家の舞踏会」の成功を受けて製作されたもので、ラストシーンで、佐分利 信が彼女を窓の外から、室内へ抱きかかえて引っ張り込むところでエンドマークが出ました。貴方のお父様もなかなか洒落た方だったのですね。

     三船敏郎は、魅力的な俳優ですが、黒澤映画で、無精ひげの印象が強すぎますね。
     もっと好いオトコの役をやってもらいたかったですね。
     原 節子は、ハリウッドに行く前に、フランス映画界にも訪問して、ジャン・ルイ・バローや同い年のミッシェル・モルガンなどにも会っています。
     監督のルネ・クレールに大層気に入られ、「原さんとなら、一本撮りたい」と言って脚本まで出来ていたのですが、ギャラが相手役のフランスの男優の半分であったのが、付き添いで同行していた、国粋主義者の彼女の義兄にあたる熊谷久虎監督の逆鱗に触れて、断らされているのです。
    原 節子は、ハリウッドで、スペンサー・トレイシーや、ルイーズ・ライナー、タイロン・パワー、ケイリー・グラントなどと会い、マレーネ・ディートリッヒとジョセフ・フォン・スタンバーグ監督と会食をしています。ある監督は、「こっちの女優より綺麗だ」と言ったそうです。
     ガブリエル・パスカル氏は舞台に立っていたヴィヴィアン・リイを映画界に引き入れ、バレリーナ志望のデボラ・カーを映画界に引っ張った人です。
     当時は英米を股に掛けた大プロジューサーで、もし彼女がハリウッドに残ったら、太平洋戦争があり、彼女は、早川雪舟と同じ扱いで、収容所へは入らず、監視付きの軟禁状態になったと思われます。
     終戦の年はまだ26歳ですから、充分活躍の機会はあったと思うのですが、貴女が言われる通り、彼女がハリウッドの水に合ったかどうかは疑問ですね。

     戦後、東和映画の川喜多かしこ女史がヨーロッパの映画祭の審査員を頼まれ渡欧した際、引退していた、ガブリエル・パスカル氏に再会したのだそうです。
    かしこ女史が「貴方がご執心だったSetsuko Hara
    は、今では日本を代表する、しかも特別待遇の大女優に成長しましたよ」と報告すると「そうじゃろう、わしの眼には狂いはないのだから」と大層喜んで自らの先見の明を誇っていたそうです。

     kikiさん、わたしはオトコだから、原 節子のことばかり書いて申し訳ありません。次回はもっと三船敏郎さんのことを書きますからね、お許し下さいな。

     「白痴」は日本映画として観たらいけません。あくまでも、札幌はサンクト・ペテルスブルクとして、人物も日本の俳優が演じてるから、日本名が付いていますが、あくまで、ドフトエフスキーの小説の映画化として観なくては駄目です。
     唯、4時間25分の長尺を2時間46分と、カットが多過ぎて、唐突な感じを受けるところがありましたね。四国のどこかで、完全版があるのだそうです。
    熊井 啓監督が確かめてきているのです。
     犯罪が絡んでますが、時効を過ぎているので、いつかはDVDで発売されるといいなあと思っているのです。完全版を観ると、評価は変わるかも知れませんよ。それに三船さんのラゴージンは素敵だったとは思われませんか?(笑)
     kikiさん、ご機嫌よう。

  • 2012/11/18 (Sun) 14:29

    橋本英一さん こんにちは。
    本当に原 節子がお好きでいらっしゃるんですね。(笑)

    原 節子は確かに、東宝の硬軟の男前俳優である、池部 良、三船敏郎との共演が少ないですね。池部 良については、池部の方が年上なのにずっと若造に見えちゃって(「青い山脈」では先生と生徒だったし)、恋愛映画はムリだったのかも。池部 良の万年青年ぶりが災いしましたね。敏ちゃんとはもっと共演作があっても良かったと思うんですが、とにかく昭和30年代の三船敏郎は八面六臂で色々な監督に請われて出ずっぱりに出ていたので、あまり機会が無かったのかもしれませんね。成瀬巳喜男のメガホンで、敏ちゃんと節ちゃん主演のしっとりした映画があると素晴らしかったかも…と思ったりしますが。ワタシ的には、敏ちゃんの代表作の1本である「無法松の一生」の未亡人役がなぜ、原 節子でなかったのか、というのが疑問であり、残念だったなと思います。
    原 節子がルネ・クレールの映画に出ていたらどうだったのかな、というのは興味深いですね。でも、確かに彼女の義兄の久虎の影響は、かなり強かったようなので、当時は原 節子本人の考えなど、殆どないようなものだったのかもしれませんね。

    「白痴」は確かに、もっと長尺だったのを半分近くに切られてしまったので、余計に散漫な印象になってしまったのだとは思いますが、4時間以上あったとして、見る気になるかどうかは、ちょっと疑問です(笑) 不勉強なことに、ドストエフスキーの原作もちゃんと読んでいないので小説がどう映画に置き換わったのか、というのも比較できないですしね。でも、完全版で見れば、きっと印象が違うのだろうな、とは思います。そして確かに三船敏郎のロゴージンは素敵でしたね。彼の住んでいるフシギな雰囲気の家も含めて、インパクトがあったと思います。

  • 2016/09/13 (Tue) 08:55
    昨日、やっと見ることができました

    これは大変な傑作だと思いました。昨日神保町シアターで初めて見ることができました。

    ともかく当時の東京の情景がふんだんに出てくるだけでも感動しました。
    当時としては、かなり珍しくロケーションの多い映画だったと思います。

    あらためて、三船敏郎の演技の上手さに感心しました。

    私が見た彼の映画で、一番三船の実像に近いのは、失敗作ですが彼が唯一監督した『50万人の遺産』の神戸の小さな鉛筆会社のケチな係長ですが。
    彼は、本当にまじめな人で、毎朝、誰よりも先に三船プロダクションに来て、事務所の掃除をしていたそうですから。

  • 2016/09/14 (Wed) 22:52
    Re: 昨日、やっと見ることができました

    さすらい日乗さん こんばんは。
    いま神保町シアターで「愛情の決算」やってるんですね。原節子特集ですか。
    あまり世間の評価は高くないけれども、これ、とてもいい映画ですよね。佐分利信監督作品としても、上出来の部類じゃないかと思います。三船敏郎も原節子も双方、とてもいいです。

    『50万人の遺産』は未見ですが、なんとなく想像はつきます。そうですね。彼は三船プロに誰より早くきて、お掃除おじさんしてたというのは有名ですね。社長なのに(笑)綺麗好きで掃除が好きだったらしいですね。

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する