「塔の上のラプンツェル」 (TANGLED)

-Her dazzling golden hair-
2010年 米 ネイサン・グレノ監督



近年のディズニー・アニメの中では傑作であると呼び声高かった本作。アニメはどうも映画館に行く気にならぬし、3Dは割高で癪に障るので見送ったが、これは映画館で観た方が一段と映像の美しさが際立ったかもしれない。(しまったな…)このほど、ビデオオンデマンドのラインナップに入ってきたので観賞してみた。昨今のアニメーションは3D時代に突入し、セル画ではなく全面的にCGアニメになっているようなので、キャラクターも立体的で、本作のヒロインもバービー人形のようであるが、CG時代の賜物で、手描きアニメの時代では表現不可能だったであろう、ヒロインの長い長い黄金色の髪の質感と艶がどのシーンでも見事に表現されており、金色の髪の陰翳と艶というものにディズニーの「眠れる森の美女」の絵本で幼稚園時代に目覚めたワタシとしては、実に再び、ディズニー本舗により、黄金の髪の眩い質感の表現というものに魅せられたのだった。
子供の頃に読んだかどうか、タイトルだけしか覚えていなかった「髪長姫」だが、ラプンツェルというのはヒロインの名であるとともに、元々のグリム兄弟が蒐集した民話では魔法の植物の名でもある。映画では魔法の力を持つ黄金の花は百合のような形状をしているが、原作では妊婦が食べると良いとされている桔梗科の植物とされている。何故、妊婦が好む植物などが登場するかというと、オリジナルの民話では「妊娠」という事が物語の筋に大きく絡まってくるからで、ヒロインが生まれたのも妊娠に力のある魔法の植物のお陰なら、その後魔女に閉じ込められたヒロインが、塔を発見して昇ってきた王子と肉体関係に陥り、頻繁に逢瀬を重ねた結果、妊娠するという流れがあるからでもあるだろう。民話、説話などを蒐集して発表されたグリム童話集は、オリジナルのままでは性的な表現などにクレームがついたために何度も改定される事になる。この「ラプンツェル」も性的な要素を省いた形に改変された。大体、童話というものはオリジナルはかなりエログロ系の要素の濃いものだと思うが「髪長姫」も例外ではなかったということだろう。改定されたマイルド版の「ラプンツェル」に更にディズニー・フィルターをかけて万人向けにし、コミカルな要素も取り入れたのが「塔の上のラプンツェル」である。映画は当初、童話のタイトルのまま「Rapunzel」で行く予定だったが、あまり馴染みがないために「TANGLED」に変更になったらしい。でも、日本人からすると「絡まる」などというタイトルよりも「ラプンツェル」にした方がずっとスッキリしてるのにねぇ、と思ったりもする。で、邦題は「塔の上のラプンツェル」。ヒロインの状態そのままであるが、これは上手い邦題の部類に入るかもしれない。ちなみにアメリカ版のポスターは内容と少し雰囲気を変えて主人公たちが何か胸にイチモツあるような表情をしていて怪しげだ。日本版は順当なデザインで内容とも合っているが捻りはない。このへんが感覚の違いで面白い。



とにもかくにも、それがポイントだから力が入っているのだろうが、ヒロインの髪の質感表現が本当に見事だ。この髪の長さときたら平安時代のおすべらかしなど子供だましにしか思えないほどに長い長い髪なのだが(長い上にしかも金色)、ヒロインが動くたびに揺れる様子や、表層の髪がさらさらと束の上を滑る感じなど、実に見事である。金髪特有の美しい陰翳なども痒いところに手が届くように表現されている。また、歌うと特殊な力を発揮し、さらに尋常ならざる光を発する黄金の髪の印象的な発光の様子なども遺憾なく表現されていた。金髪フェチを唸らせる見事な表現力。さすがデズ本舗。伊達にファンタジー長編アニメを50本も制作してきたわけではない。


見事な艶と質感を表現



また、オリジナルでは定番の王子様という設定であった筈の、塔を発見して昇ってくる男性は、本作ではお尋ね者の孤児の盗賊になっている。この二枚目の盗賊フリン・ライダーのいでたちと身体能力が筋肉王子のジェイクと被る、というxiangさんのレコメンドを受けていたので、登場を注目して見た。あはは。確かに。高い塔に杭のようなものを打ち込みつつ登って行く様子や、盗賊らしい身の軽さ、城の城壁からヤマカシして屋根に飛び移ったりする様子など、筋肉王子を彷彿とさせる。


盗賊フリン


筋肉王子ジェイク

ただ、顔はジェイクとは似ていない。エイドリアン・ブロディとパトリック・デンプシーを足して2で割ったような顔だと思ったが、暫くみているうちに一番似ているのは金城武かもしれないと思った。彼は機敏で快活でいかにも身体能力が高そうだが、ヒーローとして活躍するよりも、ヒロインや馬などに助けられている事が多いという印象。昔と違ってヒロインは強くなり、ある程度自分の力で苦難を脱する事ができる。男性は精神的にヒロインを檻(塔)の中から救い出す役割を担った存在なのである。剣を振るって魔物から救い出すのではなく、精神面でヒロインをサポートするのだ。女性が主役のお伽話のヒーローや王子様というのはある程度、図式化した面白味のない正統的なキャラが特徴だが、今回はヒロインの相手役の男性を王子にしなかった結果、フリンにはコミカルな面が与えられ、二枚目で愛嬌のあるキャラが生み出された。女がコロリと参る筈の「とっておきの顔」をして、それが外れてガックリするあたりの表情のつけかたに笑わせてもらった。アゴに不精髭を生やしているあたりなども今風である。


顔のモデルはパトリック・デンプシーか? 金城武にも似ている気がした




このフリンに限らず、コミカルな要素が上手く機能して美しい映像とあいまってデズ本舗ならではの世界観を繰り広げている。キャラクター・デザインも背景画もストーリー展開も、コメディ要素の組み込み方も、これまでより一段進化した老舗の底力、新しい時代に脱皮して新生を迎えるパワーを感じた。


このパントマイマーの登場なども意表をついて面白い

今回、目覚しかったのは動物キャラの面白さで、ヒロインにくっついているカメレオンは従来よくあるパターンを抜け出てはいないと思ったが、王国の軍隊の馬である白馬のマキシマスのキャラが秀逸で、登場のたびに笑わせてもらった。マキシマス面白い。最高。
上に乗せている軍人よりも筋がね入りの軍人気質のマキシマス。なんだかドイツ国防軍の少佐とか、そういうものを想起させるキャラクターだ。マキシマスを見ていて、なんとなく「エロイカより愛をこめて」のエーベルバッハ少佐を思い出してしまったのはワタシだけだろうか。任務に忠実で、曲がった事が大嫌い。有能で誇り高く、意志強固で、追うと決めたものは地の果てまでも追う。自他に厳しいマキシマス。このマキシマスって名前がまたナイス。これはやはり、あの「グラディエーター」から貰ってきた名前なんでしょね。性格が如実に分かる表情の付けかたもお見事で、マキシマスの表情を見ているだけでもかなり笑える。この何者にも懐柔されず、任務一筋、頑固一徹なマキシマスもヒロインのラプンツェルにはあっという間に打ち解ける。やはり可愛い女の子には甘いと見えるが、一緒にくっついているフリンにはなまなかな事では気を許さない。俺を追うのは24時間猶予してくれ、戻ってくるからそこの桟橋で待っていてくれ、とフリンに言われ、果物を投げて寄越す彼に、キっとした疑いの目を向ける。「盗んだものじゃないよ」と言われて漸くムシャムシャ食べるシーンや、約束通りに桟橋を動かずにずっと微動だにせずそこに待っている様子など、マキシマスのキャラが非常に立っていた。こういう動物キャラはこれまでに登場しなかったのではあるまいか。斬新だった。


イヨ!マキシマス!!


いやもう、とにかく、最高です

また、赤ん坊のうちに娘を魔女に浚われた王と王妃が毎年、王女の誕生日に燈篭を空に放つシーンは本作のハイライトだろう。今年も娘は戻ってこなかった。もう帰ってこないかもしれない…王は絶望のあまり無言で涙する。王の頬に伝う涙を指先で拭う王妃。この時の王の表情などもなかなかGood。 よろず、男は弱く、女は強い。
また、王と王妃が夜空に放ったランタンを合図に、市民が一斉に夜空にランタンを放っていくシーンは非常に美しく、ここは是非にも劇場で観るべきだったと、ちっと後悔した。まぁ、大画面TVでもかなり美しいですけれどね…。


王様の嘆きは深い




花の魔法の力がその髪に宿った事を知り、ラプンツェルを浚って行く黒髪の魔女はジプシー的で、シェールを想起させるキャラデザイン。何もせずにいるとあっという間にお婆さんになってしまうので、ラプンツェルの髪に触っては、その魔力で若さを取り戻そうと躍起なあたり、何か若返りのボトックスやお直しに必死の中年ハリウッド女優たちのあれこれを思い浮かべたりもする。見苦しくなってもそのままで平然としているのもどうかと思うが、異様なまでの若さにしがみつくのも醜悪だと、子供にそれとなく示すのにも効果があるかもしれない。




また派手なブロンドに対して、ブルネットは地味であるが、ブロンドばかりが華でもないというメッセージもこめられている気がする。ヒロインの髪は切るとみるみる色が変わって地味なブルネットになり、神通力もなくなるが、盗賊フリンは「俺はブルネットが好みなんだ」と言う。
フリンの本名がユージーンだというのも気に入った。男性名のユージーンはワタシの好みの名前なので。

色々ありつつ、最後は勿論お約束の They lived happily ever after で幕となるのだが、お伽話には付き物の森の描写も一段と美しさを増し、脇キャラの隅々まで遊び心と笑いのセンスが光り、老舗デズ本舗50本目の長編アニメ記念作品として、その名に恥じない仕事ぶりを見せていただいたという印象だった。


森はお伽話のお約束だが、やはりお見事だ


芝生の1本1本まで瑞々しい生命力を放ってみえる鮮明な自然描写

伝統を重んじつつも常に新しいチャレンジを怠らず、センスを磨き続けるデズ本舗の姿勢には、改めて敬意を抱いたkikiでござるのでした。

コメント

  • 2011/08/02 (Tue) 16:57

    kikiさん:
    ご覧になったんですね!そう、この作品は本当に映画館で見て欲しかったですよ~。私は2Dで見たのですが、それでも十分に美しかった。ラプンツェルが塔から下りて、生まれて初めて自分の足で草原を踏みしめた時の感触や、長い長い長い金髪の手触りまでが、画面からこちらへ伝わってくるようでした。
    それに、これまでの作品に比べ、人物の表情がまた一段と細やかになっているような気がしましたね。ラストで、姫が見つかったことを王に知らせる家来の表情とか、しゃべらないのに性格まで丸わかり(笑)のマキシマスとか。前回の「プリンセスと魔法のキス」はイマイチでしたが、今回は本当にディズニーの楽しさ、美しさを堪能できました。
    ちなみに単純明快ヒーロー(というより、少々頼りないボディガード程度?)のフリンですが、私はなぜか顔までジェイクに似て見えてしまってました(ファンの妄想?)。ほんの少し長めの顔立ちとか無精髭のせいかしらん。でも、金城武と言われれば…あぁ!なるほど、です(笑)

  • 2011/08/04 (Thu) 10:10

    xiangさん。
    ラプンツェルは、色々と楽しめるアニメだったし、自称金髪評論家のワタシとしては、文句のつけようのない金髪の表現力に目を細めました。自然描写も綺麗だったし、キャラの造り方なども、たゆまず努力しているなぁと感心しましたね。フリンの顔はジェイクよりも金城 武寄りだとは思うんですが(笑)、あの動きはやはりデズ本舗が筋肉王子を作り、その応用をアニメキャラにも反映させた、という事なんだろうと思いますわ。これは特に長編アニメ50本目という事の記念作品だから気合が入ってたんでしょうけどね。ピクサーやドリームワークスなどと鎬を削って今後も頑張って欲しいと思います。老舗だからって努力なしには続けていかれないですものね。
    で、ジェイク関連で朗報ですぞよ。「Source Code」は今年の10月後半に封切りになるようです!邦題は「ミッション:8ミニッツ」なんて事になってますが(原題のままでいいのにねぇ…)、ともあれあと2ヵ月半ほどの我慢で日本でも観られるようです。ふ~、良かった。期待して待ちましょう。

  • 2011/08/05 (Fri) 12:55

    おーー!!「Source Code」が来るんですね!
    最近、TSUTAYAでも「MOON」がオール貸出中になっていたりして、D・ジョーンズ監督の知名度も上がってきているようです。ぜひ、その流れでジェイクの作品がどんどん見られるといいですねぇ。
    楽しみ楽しみ♪(でも日本版ポスターはちょっと怖い(笑))

  • 2011/08/05 (Fri) 23:21

    なんだかんだ言って、2ヶ月ぐらいあっという間ですからね。
    きっとすぐに秋になって、封切りの時期が来ますわね。ふほほ。
    確かにポスター怖いのだけど、撮影用に作られたジェイクの等身大の
    上半身だけの人形もやたらリアルに出来ているだけに凄く怖いです。
    どうしてそういう姿になってしまうのかも含めて、早く観たいですわ。

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