「危険なささやき」(POUR LA PEAU D'UN FLIC)

-意外な掘り出し物-
1981年 仏 アラン・ドロン監督



このところ、NHK BSではわりに頻繁にドロン出演作品を放映しているが、これもその中の1本。ブレイク前のアンヌ・パリローが共演している事もあって興味が湧き、留守録しておいたのは正解だった。ドロンはパリで私立探偵をしている元刑事。いかにもな設定ではあるが、いい具合に肩の力が抜けていて、しかも思う存分カッコいい40代半ばのドロンを堪能できる。彼の秘書役がアンヌ・パリロー。キュートでコケティッシュ。良い感じである。ワタシは80年代以降のドロン作品は殆ど見ていないし、知らないので、本作も全く知らなかったのだけど、拾い物で得をした気分になった。
NHK BSでしょっちゅう放映するドロン物に「ビッグ・ガン」(1972)がある。ファンの多い作品のようなのでワタシも一応観てみたが、イタリアン・マフィアの話なのでイタリアとの合作ゆえ、ドロンの台詞も吹替えでイタリア語になっている上に、妻と子を殺された男が一人で組織に立ち向かう、なんてあまりにも型通りのベタな話をあまりにも型通りにやっていて、申し訳ないけれどもワタシ的には面白くもなんともなかった。あまりにもベタ、というのが大枠の感想で、HDDからもすぐに消してしまった。

で、本作はあまり期待しないで観てみたら、些かBな感じはあるものの意外に楽しめた。私立探偵物が好きだという事もあるかもしれない。本作はドロン本人が製作、脚本、監督、主演を兼ねて八面六臂。さらりとカッコいいがカッコつけすぎてもいないドロンの私立探偵っぷりが良かった。さすが、自分のいいところはご本人が一番よく知っている。人妻のくせに彼に惚れている若い秘書役のアンヌ・パリローも正解の起用で、二人のコンビネーションが微笑ましい程よかった。アンヌ・パリローはメガネをかけた秘書姿から、バスローブ姿、Yシャツ1枚で朝食の支度をする姿に、敵に掴まってのオールヌード姿など、とにかく女優として美味しいと思える姿を数々披露する機会に恵まれ、存分に魅力を発揮している。


いい具合に肩の力が抜けているドロン


キュートなアンヌ・パリロー


パリローは「ニキータ」でのショートヘアのイメージが強いのだけど、本作ではセミロングで前髪もあり、なんだか女子大生みたいな雰囲気の秘書ながら、世話女房的で、その上案外肝が座っていてタフであるという性格付けなども良かったと思う。また、彼女は映画マニアという設定で、深夜映画でジョージ・キューカーの映画を見ていて吹替え版にガックリするシーンなどもある。映画ファンは洋の東西を問わず、吹替えが嫌いなのだ(笑)
パリローはドロンが本作に抜擢した事で成功の糸口を掴んだというわけでもあろうか。本作のアンヌ・パリローは、ドロンの為なら何でもするわ、というような雰囲気が溢れているように感じる。ウットリとドロンを見つめるシーンなどは、あながち演技だけではないのかもしれない。そんな二人のラブシーンも一応あるが、さらっと済ませているのも○。そういうシーンはクダクダ描けばいいってもんじゃないので、匂わせる程度でさっとシーンが転換するぐらいが程が良い。

製作当時、ドロンは45歳か6歳で、男盛りの真っ盛り。横鬢に少しだけ白いものが混ざり始めてもいるが、それも味わいで、真っ黒に近いダークヘアにブルーアイズ、こんがりと焼けた肌で、まだまだ120%のアラン・ドロンぶりである。肩幅が広く、がっしりしているが贅肉はなく、途中シャツレス姿で銃創の手当てをするシーンもあるが、お腹も引き締まって適度に大胸筋、腹筋もあり、さすがアラン・ドロン。天下の二枚目は中年太りなど無縁であるな、と目を細めた。


伊達に何年も二枚目街道をひた走ってきたわけではない 45歳のボディを見よ

ジャケットにジーンズにスニーカーという姿でカワサキのバイクに跨ったドロンがパリの街を走るシーンなども嬉しくなってしまうが、本作のドロンは根っこにユーモアがあり、妙にハードボイルド過ぎたり深刻だったり暗かったりしないのが最も良いところかもしれない。


カワサキのバイクでパリを走るドロン

ジーンズはそこそこ似合っているが、このスニーカーはちとダサい

ドロン演じる探偵シュカスは、ある日、失踪した盲目の娘を探して欲しいという婦人の依頼を受けるが、その後、刑事がやってきて、金だけ貰って捜索はするな、という謎の忠告をする。後日、シュカスと待ち合わせた依頼人の夫人が広場で狙撃されて死に、罪を被せられたシュカスは否応なしに事件に巻き込まれていくが…というわけで、原作のある作品らしいが、監督ドロンは無難にテンポよく映画を転がしていく。銃撃戦にカーチェイスとお約束のアクションシーンも勿論入ってくる。カーチェイスは2台の車の車線変更が目にも止まらず、息もつかせないめまぐるしさで、おおー!という感じだった。ハリウッド映画のカーチェイスのドカンドカンしたド派手さとはまた別の不思議な滑らかさとスマートさがあって、さすがおフランス、と妙なところで感心した。また、冒頭にスローモーションで射撃場でコルトの早撃ちを披露するドロンの姿なども、なかなかクールでバッチリと決まっている。



そういうカッチョ良いシーンばかりではなく、ラストは負傷し、顔面も包帯だらけで片目だけを出した姿を披露するなど、適度なトホホ感を盛り込んでいるのも悪くない。探偵稼業は割に合わない危険な仕事なのだ。でも包帯から片目だけ出していても、その片目におおいに物を言わせる事が出来るのも、ドロンならではである。そのへんの演出上の計算もドロン監督、ちゃんと想定済みなのだ。


あはは 一つ目小僧になってもドロンはドロン 腐っても鯛である

脇では、シュカス(ドロン)の影のパートナーとして、彼をバックアップする元警視役で登場するミシェル・オークレールもいい味を出している。また、シュカスを事件に巻き込んだ刑事コッチオリ役のダニエル・セカルディもヌボーっとしたユーモアがあって、憎めないキャラが面白かった。





BGMに使われているブルースも当初は耳について違和感があったが、あまりに繰り返し流れるので映画を観て行くうちにまぁいいか、という気分になってきた。アラン・ドロンはああいう曲が好きなのかな。ふふふ。

*****
アラン・ドロンが日本で絶大な人気を誇っていたのは70年代末までだろうか。80年代に入るとその絶大な人気にもそろそろ翳りが出始める。日本でのドロン作品の封切り本数も減って、80年代は日本未公開作品が多くなる。本作は81年なので、まだ70年代のドロンのままのルックスであり、70年代の余勢を駆って日本公開もされているが、ワタシは本作の存在を知らなかった。80年代に作られた12作品中、日本で封切られたのは3本だけである。それまで1958年の「お嬢さん、お手やわらかに!」以降ドロン出演作品で日本未公開など1本も無かった事を考えると、愕然とするような凋落ぶりではある。80年代はもっとも日本人のドロン離れが顕著だったディケイドかもしれない。



90年代に入ると、ドロンが映画に出演する本数が減ったせいもあるが、一応全て日本公開されている。が、90年代は俳優を引退宣言するなどして、実業家ドロンとしての印象を強くしたディケイドでもあった。21世紀に入って俳優業に復帰したアラン・ドロンはTVドラマを中心に活動を続けている。今年76歳になるが、がっしりとした骨格の堂々たる体つきは到底老人のものではなく、禿げずに綺麗に白髪になった髪もふさふさとして、ドロンは爺さんになってもドロンだなぁ、と思う一方、やっぱりさすがのドロンも爺さんになってきちゃったなぁ、という感じもしなくはない。でも、彼らしく枯れてきているな、という印象ではある。


アラン・ドロンといえども、老いる事からは逃れられないが…

昨今、日本で再び静かにドロン再評価の動きが起こってきているような気がする。昨年は巷のミニシアターでドロン特集が組まれたし、NHK BSでも盛んに彼の作品を放映し、CSの映画チャンネルでも彼の特集を組んだりしている。そのいずれでも、なかなか「サムライ」が放映されないのは残念な事だけれども、こういう動きはワタシ的には大歓迎である。


「サムライ」を是非ともよろしく!

アラン・ドロンはやっぱり良い。理屈ぬきに良い。タダモノではない。時の流れに埋もれてしまうようなシロモノではないのだ。繰り返しTV放映される事で新たなファンも増えていく事だろうし、昔からのファンもドロンの良さを再認識するだろう。本物は廃れない。
時がどれだけ流れても輝きは消えない。真の大スターの魅力は時空を超越できるのだ。

今回のような掘り出し物の放映は実に有難いと思うけれども、この勢いで是非「サムライ」放映もお願いしたい、と切に願う次第である。

コメント

  • 2011/08/08 (Mon) 01:28

    kikiさん、こんばんは。
    確かに最近よくやってますねえ。ドロン特集。
    でもこの作品、録画し忘れました。しまった!
    探偵役というのもなんか珍しいですねえ。刑事か殺し屋が多いイメージがあるので。
    ・・・で、包帯ぐるぐる巻きのドロンの写真に笑ってしまいました。いやあ、これはアリなんでしょうか。ドロン、よくこれ許したなあ。
    それにしてもやっぱりドロンは素敵。彼ほどの美形って、そうそういないですよねえ~。

  • 2011/08/08 (Mon) 22:06

    mayumiさん。
    ドロン作品の放映はけっこう頻繁ですよね。もういい加減「ビッグガン」とか「シシリアン」は結構です、と言いたくなるほどに(笑)
    で、これはサクっと観られるし、案外面白かったですよ。全体の雰囲気が悪くない映画でした。一つ目小僧姿のドロンは、本人が好き好んで趣向としてやってるんじゃないかと。だってこれ本人の監督作品ですからね。許したも許さないも、率先してやってるのでは?ふふふ。若い頃から40代までのドロンは良いですよね。理屈ぬき。殊に20代の時の綺麗さは半端じゃないし、30代、40代といい具合に年を取っていったと思います。

  • 2011/08/08 (Mon) 23:48
    はじめまして。

    はじめまして。私アラン・ドロンさんのブログをかれこれ6年ほど続けておりますチェイサーと申します。
    「危険なささやき」についてのレビュー記事、楽しく読ませていただきました。
    私もドロンさんの作品となると同じような映画ばかり繰り返し放映されることに不満がありましたが、最近のNHK-BSの特集には好感を持っています。
    ドロンさんの再評価が湧き上がることを願っています。

  • 2011/08/09 (Tue) 00:27

    チェイサーさん 初めまして。
    コメントありがとうございます。ドロン氏の大ファンでいらっしゃるんですね。ワタシは子供の頃に家族と70年代のドロン作品を劇場で何本か観ています。同じ頃、映画雑誌の付録のカレンダーのドロン写真に母と叔母がきゃ~!と喜んでいたのも印象深いです。ダーバンやマツダのCMなども、記憶の底に懐かしく残っています。80年代は日本人が「ドロン的なもの」からかなり離れてしまった時期だったのでしょうが、昨今、またゆり戻しがひそかに起きてきているような気がします。だってやっぱり良いですものね。

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