ALAIN DELON の 「D'URBAN」

-大人には、還ってこない春がある-



"D'URBAN c'est L'elegance de l'homme moderne."
懐かしい響きである。アラン・ドロンが低めの渋い声でシメるこの超有名なキャッチは、「懐かしいCM」について思うときに漠然と脳裏に甦ってくるのだけど、もう一度このCMのあれこれを見る事は多分できないだろうと思っていた。このCMが流れていた当時ワタシは子供だったので、これが淀長さんの「日曜洋画劇場」枠のみで流されていたCMだという事など全く知らなかった。そういえば「D'URBAN」のCMには漠然と日曜の夜の記憶がまつわっているような気もしていた。思えば、淀長さんの洋画劇場の提供スポット枠でだけ流れていたなんて、本当にこのCMとアラン・ドロンらしいシチュエーションだったのだなぁと今更に思った。というわけで久々のCMネタはアラン・ドロン繋がりで 「D'URBAN」。
それまでたまに思いだしてyoutubeで探してみても、粗い画像のあまり記憶にないものが一篇だけUPされているのがみつかったりする程度で、う~む、という感じだったのだけど、「D'URBAN」のCMがシリーズで何篇も纏めてUPされているのを、こちらのサイトで知る事ができ、丁寧に編集されたそのシリーズをしみじみと観賞した。(CM動画をyoutubeにUPしてくださったTriSeeds1122さん、URLをご紹介くださったチェイサーさんに感謝します)



覚えていないもの、見た事がないもの、よく覚えているものなど、新鮮だったり懐かしかったりしつつ、71年から81年まで10年にわたるシリーズのセレクト集を観ていると、記憶にないものが大半なのに、なぜか懐かしいという気持ちで一杯になった。それは自分が幸せな子供時代を過ごした70年代という時代への郷愁なのか、改めて見たアラン・ドロンの様々な姿や表情、「D'URBAN」CMシリーズのクォリティの高さや、その丁寧で贅沢な作りに感心したからなのか、自分でも分らない。それらが全て一緒になったからなのかもしれない。またアラン・ドロンはワタシにとって、ほぼ親の世代にあたり、「D'URBAN」CMでドロンが着て登場するスーツやジャケットのシルエットなどに、オシャレだった父が70年代に着ていた服をあれこれと思い出すからかもしれない。



「D'URBAN」CMの中で、ワタシがハッキリと覚えていたのは中期のミレーユ・ダルクと一緒に出ている一篇だけで、あとは見た事があるような気もするし、初めて見るような気もするものが多かったけれど、それゆえに新鮮な気分で眺めることができた。


ミレーユ・ダルクと

「大人の男」のための服、という事で、常に「大人」という言葉がナレーションに入ってくるのだが、初期CMを見ていると、30代半ばのドロンはまだまだ若くて青年の尻尾をぶらさげているように見える。また、第1回目のCMはレナウンが大人の男性のためのブランドとして 「D'URBAN」を立ち上げ、これから発売を開始する、という告知であるのも、へぇ~という感じだった。


第1回目のCM まだ凄く若い

黒いタートルネックで黒馬と オトナというよりまだ青年の雰囲気だ

それにしても、今改めて見てみると随分お金をかけて作られていたのだな、と感心する。毎回、あるストーリー(というよりもシチュエーション)が設定されており、それに沿ってあちこちでロケ撮影をしている。 「D'URBAN」を着たドロンがシチュエーションに沿った表情をし、遺跡や墓地や海辺を一人で歩いたりする。時には少女と一緒だったり、犬や馬がお供していたりする。CMのムードは大抵の場合、ぎらぎらとした青春の時期が去り、大人と言われる世代に入った男が、責任も増したと同時に相応のゆとりも手にしつつ、折々過去に通り過ぎてきた人や事柄を反芻する、という味わいのもので、城達也のナレーションに、小林 亜星の音楽がハマっている。「雰囲気CM」の元祖かもしれない。


少年たちと海辺でサッカーをする ボールを蹴った後のポーズが決まっている

製作は電通と三船プロというわけで、70年代は三船プロダクションの絶頂期にも当る。多伎に渡って後に残る仕事をしていたプロダクションであったのだな、と思う。同じ頃にオンエアされていたチャールズ・ブロンソンの「MANDOM」なども記憶に懐かしいが、あれも製作は三船プロが絡んでいたのだろうか。しかし、西部の荒野で転げまわったりしていたブロンソンのCMは、それが持ち味でもあろうけれどもかなり荒削りな雰囲気だった。が、 「D'URBAN」は短編映画のようでもあり、映像詩のようでもあり、今観てもなかなかのクオリティであると思う。逆に今、海外の大物俳優を使ってこのような質の高いCMを長年にわたって作れるかどうかとなると、甚だ心許ないのではなかろうか。CMは時代と共にある。ドロンの 「D'URBAN」シリーズは、この時代の日本だから実現できたプロジェクトなのかもしれない。


どこかの遺跡を歩く

モロッコとおぼしき町を行く

クリエイターも乗っていただろうし、ドロン自身も乗りに乗って、この仕事を楽しんでいたのだなぁという空気が窺える。現在、ドロン特集を組んでいる映画チャンネルのサイトに、このCMについて塩野七生が語った文章が引用されている。曰く、「アラン・ドロンは私の好きな俳優ではない。男としても、好きなタイプには入らない。(……)それなのに、このコマーシャル・フィルムのアラン・ドロンはよかった。彼が主演したどんな映画よりも、素敵だった。ヨーロッパが、漂っていたのである。フランスではない、『ヨーロッパ』を、彼は体現していた」と。
実に ドロンの「D'URBAN」CMの良さは、ヨーロッパのムードが流れていた、という事だったかもしれない。CMは短い中に、過ぎ去った青春の光と影(その記憶の反映はまだ近くにあり、けして遠く遠く去ったわけではないというのがポイント)や、人生の哀感、束の間の喜びなどが、全編にヨーロッパの匂いを滲ませつつ、アラン・ドロンという存在を通して表現されていたというのがミソなのだろう。このドロンの 「D'URBAN」に次ぐ欧州的雰囲気CMはマルチェロ・マストロヤンニの「バルカン」シリーズではなかろうか。


ヨーロッパの匂い



旅の途中で知らぬ初老の男と言葉を交わす

70年代のTV番組やCMは懐かしい。それはワタシの子供時代であり、それらの番組やCMの背後には常に家族でそれらを楽しんだ記憶がまつわっているので、なおの事、記憶の中の特別な場所にしまわれているせいかもしれない。ワタシにとってアラン・ドロンは好きな俳優ではあるが、格別に大ファンというわけではない。けれども、子供の頃に家族で楽しんだ彼の映画やCMは、やはり忘れがたく懐かしいし、 「D'URBAN」というと、中学1年の時の同級生に父親が 「D'URBAN」の社員だという子がいて、その子の近くに行くと、みな必ず一度は「ダーバン、セレレガンス・ドロム…」と言わずにいられなかった事なども、なんだかふいに思い出した。

コメント

  • 2011/08/14 (Sun) 23:11

    kikiさん、こんにちは、ご無沙汰でした。
    D'URBANが日本のブランドであったこと、アラン・ドロンがそのCMに出演していたこと、まるで知りませんでした。が、サイトでCM見てみました!時代性はもちろん感じるけれども今見ても全然観賞に耐えるものですよね。フランスというよりヨーロッパの匂いを感じますね。我々が憧れるヨーロッパの異国の香り。
    わたしもアラン・ドロンのすごいファンというわけではないけれど、最近ちょこちょこと作品が放送されていて、時間があるときに録画したものを見ています。わたしにとって、出演作を見たい俳優の一人だろうと思います。今はほとんど映画には出ず、テレビドラマで活躍とのこと。ちょいと淋しいけれど、それでも過去の人とならずに現役でがんばっているというのは嬉しいことですね。
    ちょっと脱線しますが、わたしの今のアイドル(?!)田宮二郎とアラン・ドロンって同級生なんですよ。生きてればこれくらいの年齢なのかと感慨深いです。生きてればどんなふうに活躍していたのかふと想像してみたりしますがそれも虚しく・・・(笑)。
    まだまだまだまだアラン・ドロンには頑張ってもらって我々に元気な姿を見せてほしいものです。

  • 2011/08/15 (Mon) 23:05

    ミナリコさん おひさしぶり。
    「D'URBAN」のCMにドロンが出ていた事は、ワタシの世代より若いと知らない人が多いでしょうね。ワタシも動画を見ていて何となく思い出したのはミレーユ・ダルクの出ていたCMだけで、初期のものは全く知らなかったし、殆どのCMを初めて見る、という感じでしたが、映像よりも何よりも、ドロンがラストでシメるキャッチだけが耳の底に残っていたんだな、と気づきましたわ。(笑) 今観ても悪くないですよね。演出過多という感じもしないし、キザ過ぎて吹き出す、という感じもないし、程ほどに詩情と憂いが漂っていて、ナレーションもうるさくないし、悪くないなと思いました。
    TVもいいけど、アラン・ドロンは体も健康そうだし、さすがに老けたけどまだまだ老人て感じじゃないですしね。是非もう一花咲かせて貰いましょう。

    そうか。田宮二郎とドロンは同じ年なんですね?ふぅん、知らなかったです。そして、二郎はまだミナリコさんのアイドルの座をキープしているわけですね(笑) そうねぇ、今、田宮二郎が生きてたらどうだったのかなぁ。うまく想像ができませんわ。どういうお爺さんになってたんだろうかしら。…わからぬわ。でも田宮二郎はクリストファー・プラマーと顔が似ている、という印象があるので、ああいう感じのお爺さんになってたかもしれませんわね。

  • 2011/08/16 (Tue) 03:15
    D'URBAN

    kiki様、私のブログ記事をご紹介くださり、ありがとうございました。ダーバンのCMでドロンさんという存在を初めて知ることになった私ですので、このCMの自分への影響は計り知れないものがあります。当時の映画雑誌では毎年このCM撮影の裏話が特集されており、CMだからといって決して手を抜かないドロンさんの誠実な仕事ぶりを知って、さらにファンになっていきました。関連記事をアップしましたのでリンクいたします。

  • 2011/08/16 (Tue) 07:22

    チェイサーさん 勝手に記事にリンクを貼らせていただいたのに恐縮です。この前、貴サイトをお訪ねした時にこの動画の記事を発見し、一連のCMを見て大変に懐かしい気持ちに浸りました。時々思いだしては探してみたりしていたのだけど 「D'URBAN」はもう見られないと思っていたので嬉しゅうございました。そうですか。当時の映画雑誌には撮影裏話が掲載されていたんですね。確かにスタッフもドロン氏も一切の手抜きをしていないな、丁寧に作っているな、という気配を色濃く感じます。誰にとっても遣り甲斐のある、楽しい仕事だったんでしょうね。よき時代だったのだなと思います。チェイサーさんのようにCMからドロン氏のファンになったという男性も多かったのでしょうね。ドロン氏は日本において、女性ばかりでなく男性にも絶大な人気があったというのが特徴的ですね。

  • 2011/09/03 (Sat) 09:32

    こんにちは!やっとゆっくりアラン・ドロン氏を拝見する事が出来ました。忘れていたけれど(?)私はアラン・ドロンが好きだったのでした。無条件に好きな俳優さんがいなくて寂しいわ!と思っていましたがドロン氏がいました。もっとも現在進行形ではないけれど。(ボンドのダニエルは無敵に大好きですがボンド限定だし)
    そして見たい、もう一度見たいと思っていたダーバンのドロンも見られて幸せです。ありがとうございます。
    「大人、大人」のダーバンですが、今見るとドロン、若い!リアルタイムで見ていた子供の頃は「大人~」って思ってみていましたが、若いじゃないですか!そして、綺麗!! でもしっかり大人の雰囲気を漂わせているのは流石です。
    これほどまでにタキシードの似合う俳優さんっているでしょうか?エレガントなのにワイルド。そして耳元で囁かれたら気絶してしまうであろう、あの素敵なお声。素敵過ぎます。
    でもこんなにステキングなドロン氏ですが。、塩野七生さん曰く「ダーバンのアラン・ドロンはとても素敵だが、食事のシーンだけはいただけない」とか。勿論マナーも周囲に対する気配りも完璧なのだが、漂う雰囲気がどうも・・・」なのだと書かれていらっしゃいました。後年どんなに努力しても生い立ちって変えられないのでしょうか?少し悲しくなりました。
    それにしてもおじいさんになってもアラン・ドロンでいるのは凄いとおもいます。もうときめきはしないけれど・・・

  • 2011/09/04 (Sun) 22:45

    Rikoさん。 不在だったので、ちょっと返信遅くなりました。
    おお~。Rikoさんは無条件にドロンがお好きだったのですね。現在進行形ではないにしても。ふほほ。そして、そうですか。もう一度 「D'URBAN」CMを観たいと思っておられましたか。懐かしいですよね~ドロンの 「D'URBAN」。幾つか覚えていたの、ありました?ワタシは、自分で思っていた程はっきりと覚えていたCMは殆どなかったのだけど(初期のは全く見てないし)、でも全体の雰囲気とか、シメのキャッチとかとても懐かしくてふぅ~んと眺めてしまいましたわ。
    ドロン、タキシード似合いますよね。肩幅があるからサマになってますね。そして、そうそう。塩野七生の文章は、けして全面的に褒めたニュアンスのものじゃないんですよね。全体的にはドロン好きでない自分も感心するほどヨーロッパの雰囲気をよく出していた 「D'URBAN」のCMだけど、正式な晩餐のシーンが出てくる一篇だけはいただけない、というテーマなんですね。そういえば確かに、教わった通りに忠実にマナーを守っているけど自分の型になってない、自分独自のスタイルというものが醸しだせていない、という気配はしますね。塩野七生は若い時からイタリアに渡って、自分が日本人だったせいもあってそういう部分にとくに敏感なのかもしれないけれども、よく見ているな、とは思いました。(ただ、彼女の自称「山の手のお嬢さん育ち」ぶりっこにはちょっと苦笑してしまうけれど…それもちょっとしたコンプレックスの顕れか、と深読みしてみたり(笑))
    ただ、ドロン氏の魅力は翳のある、どこか卑しい過去を引き摺りつつ、それを払拭しようと生きてきた、という部分にあるのだろうと思うので、彼としては上品である必要はないと思うんですわね。でも、上品でもないだろうけど、下品というわけでもない、というのがドロンじゃないかな、と思います。

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する