「SHERLOCK」(シャーロック)

-21世紀でも、ロンドンに霧がなくても-
2010 英 BBC



シャーロック・ホームズを21世紀に活躍させたらどうなるか。このテの試みは外すと痛いが、これは大正解だった。よく練られた脚本とエッジの効いたキャラクターたち。時代背景は現代で、エピソードもオリジナル。取り囲む状況や小道具が21世紀のものでも、シャーロック・ホームズは長身痩躯で傲慢でエキセントリック。紙背に徹する観察眼と推理力を駆使し、趣味で事件を解決する。設定や背景を変えても、変えてはならない本質はきっちりと押えているのが快かった。
シャーロック・ホームズ物といえば、真打ちは1980年代に制作されたグラナダTV、ジェレミー・ブレット主演のシリーズだろう。原作に忠実に作られたこのシリーズは、クラシカルなムードとジェレミー・ブレットのハマリ役ぶりもあって、TVシリーズなれどもホームズ物としてはやはり決定版だと思う。シャーロック・ホームズは人気があるので、従来から様々な作品が作られてきた。(「ヤング・シャーロック」なんて映画もあったっけ)演じた俳優も数多く、昨今ではルパート・エヴェレットなどもホームズを演じていたが、なんだかシックリ来なかった(鷲鼻ならいいってものではない)。しかし、最もシックリこなかったのはガイ・リッチー監督作でのロバート・ダウニー・Jrのホームズ。時代設定は19世紀末だがキャラ設定を変えたもので、チビっこで目のクリクリしたダウニーJrのホームズがOKな人もけっこう居たようだがワタシは×。時代設定を変えようとどうしようと、シャーロック・ホームズの基本イメージだけは変えてはならない気がする。というわけで、このBBC制作のドラマは21世紀に推理を働かせる若きシャーロック・ホームズを描いて秀逸だった。まずホームズを演じる俳優が長身痩躯。そしてシャープでスピーディ。21世紀でも存分にシャーロック・ホームズだった。


ガイ・リッチー監督作品 ダウニーJrのホームズとジュード・ロウのワトソン


BBC制作 「シャーロック」のホームズとワトソン

21世紀のシャーロック・ホームズは、自分のホームページを持ち、自信満々で高飛車。嫌われ者で変わり者。誰からも友達など一人もいないと思われている。警察には嫌われ放題だ。かのグラナダTVのシリーズでは、旧知の警部に請われて先生のおでまし、という感じで事件の捜査や現場の捜索に向かったホームズを現場ではさぁさぁどうぞ、という感じで迎えていた気がするが、本作ではホームズの存在を迷惑に思う警察関係者にハエのように追われたり、生意気な女刑事から毒づかれたりする。しかし、どんな無礼な態度を取られようと、涼しい顔で表情を変えないシャーロックが良い。シャーロックを演じるのはベネディクト・カンバーバッチ。ワタシはこれで初めて見たが、「つぐない」や「ブーリン家の姉妹」にも出ていたらしい。ジェレミー・ブレットのホームズ像のようにニューロティックでもないし、頭のてっぺんからつま先まで紳士のオシャレで埋まってもないけれども、ほんの何秒かでさまざまな事を見抜いてしまう鋭い観察眼と、畳みかけるような早口のセリフ回し、事件に熱中し、自分の推理を話す時のやや演劇的な身振り口ぶりなど、バッチリとシャーロック・ホームズである。兄を立てていたグラナダTVのシリーズに較べると、本作での兄マイクロフトとの関係は何やら波乱含みの様子(ただの兄弟のぶつかり合い?)、マイクロフトもつかみ所のない雰囲気で面白いキャラ設定だった。




政府機関にいる兄・マイクロフト

相棒のワトソンは、アフガニスタン帰りの軍医。戦地で負傷して除隊になり、帰ってきたが抱えたトラウマのせいで片足を引き摺っている。肉親と疎遠で翳のあるワトソンなんて面白い設定だと思ったけれども、アフガンから傷病兵として帰還し、ロンドンで部屋を探していたところでホームズと出会った、という設定は原作通りらしい。あれよというまにベーカー街221Bでシャーロックと同居する事になり、彼のペースで引っ張りまわされているうちに、トラウマもどこへやら、お馴染みのワトソン君らしいキャラになっていく。小柄で、よくみるとシワが多くてちょっと老けているワトソン君を演じるのはマーティン・フリーマン。この人もワタシは初めて見たが、「ラブ・アクチュアリー」などに出ていたらしい。ふぅん。どこに居たかしら。



シャーロックは、一見モワっとして気分的にもめり込んで暗い顔のアフガン帰りのワトソンの、どこが気に入ってルームシェアをする気になったのか。気に入らない奴、認めない奴はあっという間に自分の世界から排除してしまう気難しいシャーロックなのだから、同居させるだけでなく、仕事も手伝わせようと思った理由は、ただ単にワトソンが医者だからというだけの事でもなさそうだ。身勝手な自分のペースにブツクサ言いながらもついて来て、それなりに相棒として手腕を発揮するとあっという間に読んだのか。まぁ、読んだのだろう。読みはあやまたず、ワトソンは危機一髪のシャーロックを鮮やかに救う。
女性には1ミリも興味が無さそうなシャーロックだが、ワトソンについては「友達だ」と人に紹介したりする。ワトソンは「同僚だ」と脇から訂正する。ワトソンよりもシャーロックの方が、相手に求める気持ちが少しだけ強いのかもしれない。


ベイカー街221Bで

ホームズとワトソンには、そこはかとなくホモっぽい空気がまつわる。それはリアルなものではなく、潜在心理的な空気だ。何しろいつも一緒だし、一緒に住んじゃってもいるし。そんなわけで、実際にはホモじゃなくても他人からはそうじゃないかと思われてしまったりする。ガイ・リッチーの「シャーロック・ホームズ」でのホームズとワトソンも潜在心理的にそんな空気が何となく漂っているように感じたが、本作でも、ワトソンは他人からホームズの恋人だと思われたり、お互いにゲイじゃないかと探り合ったりする。このへんも今風の味付けである。

主役二人はワタシには初顔だったが、馴染みのある人も出ていた。レストレード警部役の俳優はオジサンなのに妙に童顔で可愛い顔をしているなぁ、と思って眺めていたが、ハタと、「ルパート・グレイヴスじゃないの!」と気がついた。なんと、ルパート・グレイヴス。暫く見ない間にオッサンになったなぁ。ビックリ。「フォーサイト家」あたりで見た時は、まだ若い頃のイメージからさほど大きく変わっていなかったのだけど、今回久々に見たら、もはやまごうかたなき立派なオジサンになっていた。白髪だし、お腹も出ちゃってるしねぇ…。でも顔は童顔のままなのね。
なんやかやと文句を言いつつも、難事件の解決にはシャーロックの助力を頼むレストレード警部。折々、助力を頼んでいないのに勝手に乗り込んでこられたりもして、部下の手前苦りきったりする。時に小癪に障ったりしつつも、シャーロックの頭脳を信頼し、頼っている。気が良さそうなのと童顔なのとでとても頼りなく見えるが一応警部である。


いつの間にやら、掛値なしのオッサンに…

エピソードはオリジナル脚本だが、原作の持つテイストやエッセンスは21世紀に舞台を移しても、全く損なわれずにきちんと提示されている。そうでなければシャーロック・ホームズ物とはいえないし、世界中のホームズ・ファンを納得させることは出来ないに違いない。時代設定や、本質に関係ない部分は幾ら変えても構わないのだ。揺るがせに出来ない本質さえ、きっちりと押えてあれば。本作はシャーロック・ホームズがホームズたりえる要素をきちんと把握し、表現している。だから鳥打帽を被ってなくても、ケープ付きのマントをまとっていなくても、パイプをふかしていなくても、本作のホームズは、まさしくシャーロック・ホームズなのである。BSプレミアムにて本日(8/24)最終第3話放映(20:00~)
お見逃しなく。



3話連続のこのドラマは本国イギリスで高い評価を受けたらしいが、今後シャーロック・ホームズ物の映画を作るなら、こちらのホームズで是非観たいと思う。ガイ・リッチーのホームズ物は続編が出来るらしいが、ワタシ的にはもういい。
ただ、ガイ・リッチーの「シャーロック・ホームズ」とこのBBCのドラマシリーズの「シャーロック」は、テーマ音楽がとても似たような雰囲気だったのが面白かった。同じ曲を使ってるんじゃない?と当初は思った程、よく似たテーマ曲だった。

コメント

  • 2011/08/29 (Mon) 08:02

    私も録画して見ましたよん。良かったですよね。現代に設定を変えてもkikiさんの仰る通りシャーロックホームズの骨格がそのままきちんと置き換えられているから見ていて楽しかったです。
    ホームズの気難しさに加えてもっと尊大でちと嫌みな感じがあって、それが現代っぽくておもしろいなと思いました。

    私もあのロバートダウニーJr.のホームズはちょっといただけないです。見始めたけどがっくり来て30分位でやめてしまったので、このシリーズは楽しめそうです。

    ワトソン役の彼は「ラブ・アクチュアリー」で映画撮影のベッドシーンのリハで体だけ代役を演じる彼をやってましたよ。
    なんかあの頃に比べてしわしわした感じです。今は「ホビット」を撮影中じゃないかな。

  • 2011/08/29 (Mon) 21:16

    Sophieさん。
    これ、3話目がいいところで切れちゃってヤキモキさせますねぇ。
    続編はあるんでしょうけど、いつ放映されるのかしらん。
    気になります。それと、これの映画化作品が観たいなぁ。
    宿敵モリアーティのキャラ設定も一捻りしてあって面白かった。
    カンバーバッチのホームズもかなりOKでした。
    お前に友達だって?とかいわれて無表情ながらちょっと寂しそうな顔を
    するあたり、キャラに微妙にキュートな翳を持たせていたのも良かったかも。

    あ~、ワトソン君は、あのラブシーンのボディダブルの人なのねん。
    ちっこくてシワシワしちゃったですね。そうそう「ホビット」の主役なんですってね。
    ホビットっぽいものね。確かに。でも確実に売り出してはいますね。ふほほ。

  • 2011/08/30 (Tue) 21:52

    はじめまして。いつもブログ楽しく拝見してます。

    私もルパート・グレイヴスの変貌ぶりにビックリしました!
    変貌、といってもクリッとした眼は変わってないのですが、白髪までまざっちゃって驚きです。
    映画『眺めのいい部屋』でお姉ちゃん役のヘレナ・ボナム=カーターとじゃれてたのがもう25年以上前なんですね・・・。
    (そう考えるとそれほど老けてないのかな?)

    シャーロック役を演じたベネディクト・カンバーバッチ、初めて見る顔だけど『つぐない』に出てたっけ?と思って調べたら、J・マカヴォイに冤罪を押し付けた御曹司役でした。
    あのときは顔まわりがブヨッとしててまるで別人です。
    痩せただけでずいぶん印象が変わるものですね。
    私も彼のシャーロックはけっこうハマり役だと思いました。

    • かわうそ #9B64OxmM
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  • 2011/08/30 (Tue) 23:03

    かわうそさん。
    いつも記事を楽しんでくださってありがとうございます。

    ルパート・グレイヴス、ちょっと驚きましたよね。あららら~!という感じで。「眺めの~」から25年と考えたらそうかな、とも思いますが、顔立ちが若い頃のまま、髪と体型がオッサンになってしまったので、アンバランスで余計に老けた印象が強いような…。童顔の人は年取ると損ですわね。少し年上のコリン・ファースやヒュー・グラントや、ルパート・エヴェレットが年齢とともに変化しつつもその変化がゆるやかなのと較べると、ルパート・グレイヴスは暫く見ない間にガーンと老けたって印象です。
    カンバーバッチ、「つぐない」に御曹司役で出てましたか。(…思い出せない)別人28号だったんですね、顔が丸かったのかしらん。機会があったら確認してみますわ。いずれにしても彼のシャーロックは良かったですね。21世紀の若者だけど、きちんとシャーロック・ホームズになっていて文句なしでした。

  • 2012/01/24 (Tue) 00:06

    初コメント、ありがとうございます。
    また来てください。

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