「ゴーストライター」 (THE GHOST WRITER)

-秘密を知っても、決してひけらかしてはならない-
2010年 仏・独・英 ロマン・ポランスキー監督



さてさて。封切りを楽しみに待っていた映画の第2弾は「ゴーストライター」。
今年の新作は、春夏は不作気味だったが、秋は観たい映画が何本か封切られるので楽しみである。秋に面白い映画が封切られるというのは嬉しい。秋は本にしろ、映画にしろ、展覧会にしろ、知的好奇心を刺激するものが充実していてほしい季節だものね。
というわけで今回はまず、ロマン・ポランスキーとユアンが組んだサスペンス「ゴーストライター」を観に有楽町へ。
ちょっと目を離すとすぐに太目になっていたりするユアンだけれど、今回は顔も体も締っていて若々しく見えた。フリーでシングルのゴーストライターという役はまさにドンピシャリ。これはユアンのための役だなぁとニヤニヤしつつ、相変わらずキュートなユアンが知ってはならない事を知っていく過程を楽しんだ。

ユアンの役名はゴースト。劇中では何かもっと普通の名前がついていたように思ったのだけれどそうではなかったらしい。彼はロンドンで有名人の自叙伝のゴーストライターを主な仕事にしているフリーのライター。エージェントから美味しい話だと言われて、英国の元首相アダム・ラング(ピアース・ブロスナン)の伝記のリライトという仕事を持ち込まれる。そもそもは別のライターが書いていたのだが、彼が泥酔して溺死してしまい、その代役を探しているというのだ。気が進まないながらも巨額の報酬につられて面接を受けたライター(ユアン)はその仕事を得るが、出版社からの帰り道にいきなり暴漢に襲われるなど前途は波乱含みである。

元首相がアメリカ東海岸にある離れ小島の別荘に籠もっていて、作業もそこで行ってほしいというので、ライターはシブシブながらアメリカに飛ぶ。飛行機や、移動の車の中でヒマさえあれば居眠りをしている様子が妙にリアル。そうだ、ユアンて演技が上手い人なのだ。とても自然に役になり切るのだ。今回は何か曖昧模糊とした状況ながらヤバイ臭いがプンプンする胡散臭い流れの中に、アレヨと言う間に飲み込まれて、および腰で当惑しながらもどうにか仕事をやっつけて早くイギリスに帰ろうと思っているライターの姿を、非常に自然に、等身大に演じていた。姿がほっそりしていたし、顔のシワもあまり目立たなかったので、今回のユアンは久々に若々しくキュートで、観客が彼の目線で物事の流れの中に一緒に分け入って行くような空気を自然に作っていた。



イギリスからアメリカに移動したというのに、その離れ小島の風景は常にどんよりと雲がたれこめ、どこかしら荒涼としている。季節は秋の終わりか冬。雨が降ったり、風が吹いたり、波は常に荒く砂浜に打ち寄せており、陰鬱で寒々しい風景である。本土からフェリーで島に渡ったライターは、元首相の海辺の別荘に行く。モダンデザインで、ハイテクな設備によろわれた別荘には、秘書とボディガード、「自叙伝」のためのスタッフ、使用人の東洋人夫婦、そして情緒不安定な元首相の夫人がいた。

おばちゃんながらむちむちプリンの元首相の秘書アメリアにキム・キャトラル。秘書と愛人を兼ねているらしい。見たまんまのキャラという感じ。出かけていた元首相は自家用ジェットで戻ってくる。飛行機からニカっとした営業用の作り笑いを浮かべて降りてくる様子が政治家っぽいピアース・ブロスナン。007リタイア後は様々な役にトライしている観があるが、どことなく後ろ暗そうな政治家、というのもけっこう似合っている。どういうわけかブロスナンが演じる演劇部出身の元首相を見ていると、元アメリカ大統領のレーガンを思いだしたり、二枚目で若くて人気はあったが、アメリカ追従の政策がちょっと気になった英国首相も思い出したりした。


お色気おばちゃんとユアン


政治家にけっこうハマっていたブロスナン

ブロスナン演じる元首相ラングは、アラブ系の一般英国市民をテロ容疑で逮捕、監禁し、拷問したカドで批難を浴び、更に戦犯疑惑まで噴出して身辺は俄かに騒がしくなっている。孤島にも騒然たる気配の迫る中、元首相にインタビューを始めるライターだったが、宿舎にあてがわれたホテルに報道陣が入った為、彼はラングの別荘の中に部屋をあてがわれる事になる。対象に接近しすぎない事をモットーにしていた彼だが、やむなくラングの別荘に移った事で、不可解な死を遂げた前任者が残した資料をみつけ、また、様々な理由からかなり情緒不安定気味のラングの妻ルースとも接近してしまう。前任者が残した写真や資料を辿るうちに、ライターは、踏み込んではならないところに足を踏み入れ、知ってはならない事を知ってしまう…。



ユアンは、ごく普通の人間が普通でない世界にうっかり足を踏み入れてしまい、怯えつつも妙なしぶとさを発揮し、危難からすんでのところで逃れたりしつつ、普通の人間ができる範囲で頑張ってみたのだが…という感じを、本当に等身大に自然に演じていた。彼は家族を持たないフリーのライター。仕事にはセンスがあるが、なかなか「本当の作家」にはなれない。でも、ハンサムでキュートなので、情緒不安定な元首相夫人に迫られたりする。元首相夫人を演じるのはオリヴィア・ウィリアムズ。ワタシは本作で初めて観たが(「17歳の肖像」にも先生役で出ていたらしいが思い出せない)、この夫人役は適任だった。痩せて知的でキリキリしていて、夫に何かと助言するプロデューサー的な妻の雰囲気がよく出ていた。



彼女に限らず、主演のユアンを筆頭に、ピアース・ブロスナンも、キム・キャトラルも、謎の大学教授エメットを演じるトム・ウィルキンソンも、弁護士役でちらちらっとしか出て来ないティモシー・ハットンさえも、全員、適役だった。今回のキャスティングは、適材適所、非常に的を得た配役であるが、それが役者の柄や持ち味なども含めた上での、全く見た目通り(見た目本位?)のキャスティングなので、ある意味とてもストレートなキャスティングといえる。

キム・キャトラルは秘書兼愛人で、ちょっとタカビーで暑苦しいが、悪巧みをするタイプには見えない、という感じでそのままだし、ブロスナンも後ろ暗い事はありそうだけれども、正真正銘の悪とか真の黒幕とか、そういう柄じゃないなぁ、と思っているとやはりその印象は裏切られない。ティモシー・ハットンなどは役の小ささ、軽さも、今の彼のありようにシンクロしている感じだったりするなどなど、捻りなしに素直に役者を使っているのが、却ってポランスキーの老練な技、という感じでもあろうか。ただ、肝心の謎はちょっとありきたりで平板な印象。そして、なぁんだ、という感じではある。その程度の事か、というような…。昨今はドラマの方が緊迫感があって迫力も凄いので、「MI:5」シリーズなどを見てしまうと、このサスペンスはちょっとユルく感じる。最近の出来のいい連続ドラマは脚本も演出も触れれば切れそうに鋭いので、なまじな映画ではそれを越す事はできないのね、と思ったリした。キャストもお話も捻りなし、という印象の映画ではある。それとは別にロケ地の風景や、何か危ない事に巻き込まれた一般人が一般人にできる範囲で頑張ってみる、という雰囲気などは、とても自然に上手くみせていたと思う。

役者の柄と役がピッタリと合っているといえば、やはりユアンが一番だ。これは本当にユアンの為の役、というか、彼を念頭においてシナリオも書かれたんだろうなぁ、と思ってしまう。死んだ前任者が使っていた車のカーナビに導かれて好奇心につられて危うきに近づいてしまうシーンなど、普通の人の冒険をサスペンスフルに描いていて、ユアンの普通の人っぷりが本当に自然だった。特別じゃない、ヒーローでもない。でも、頭は悪くない、だけどツメが甘すぎる、そういう感じがよく出ていたと思う。
しつこく方向を指示し続けるカーナビに根負けするシーンなど、いかにもユアンらしいなぁとニヤニヤしながら見守った。今回はルックスも含めて、久々にユアンらしいユアンを楽しめた作品でもあった。

コメント

  • 2014/01/18 (Sat) 00:46
    イーライ

    この映画で驚いたのは、イーライ・ウォラックが出演していたことです。
    砂浜のシーンで、少しだけでしたが・・・
    確かこの時既に94歳だったハズ。

    「荒野の七人」の山賊の親玉、「続・夕陽のガンマン」の卑劣漢、
    「ゴッドファーザーパートⅢ」のドン。
    どれも存在感のある役でした。
    私のお気に入りは「タフガイ」という映画の、律儀は殺し屋役なのですが・・・

    「ゴーストライター」の話題でなくてすみません。

  • 2014/01/19 (Sun) 00:09

    ユートーモさん
    これにイーライ・ウォラックが出てましたっけ。もうあまり細かいところを覚えてないんですが(笑)
    イーライ・ウォラックといえば、ワタシは「ゴッドファーザーパートⅢ」の味方を装った敵のドン役が印象的です。というか、殆どその役でしか観た事ないかもですわ。

  • 2014/01/19 (Sun) 00:26
    島の漁師

    kikiさん
    出てたんですよ~
    私もアレッ?もしかしてこの人は・・・って感じだったんですけど。
    島で何十年も漁師をしているけど、フェリーから落ちた死体がこの浜に
    流れ着くハズが無いという話をした老人です。

    キャリアの長い俳優さんなので、他でもご覧になっていると思いますよ。

    • ユートーモ #QyOixb7.
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    • 編集
  • 2014/01/19 (Sun) 10:48
    Re: 島の漁師

    そんなちょっとした役で出ていたということは友情出演ですかね。ふぅん。
    多分、名前は有名だし他にも観ていると思いますが、パッと思い出せないだけでしょうね。

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