「東京の恋人」

-勝鬨橋の開閉-
1952年 東宝 千葉泰樹監督



このところ何かと忙しくてブログの更新もままならなかったワタクシ。けっこう体も疲れているのだが、今日は前から行こうと決めていたので寝坊せずにどうにか起きて神保町シアターの初回上映に行って来た。神保町シアターは当日券の当日売りのみなので、確実にそこそこの場所の席を確保しようと思ったら、とにかく早めに行って早い番号のチケットを買うしかない。わざわざ行って売り切れというのは最悪なので、とかく早めが鍵なのだ。でも、みんな早く来てるんですよ…凄いね。ここは邦画クラシックスがメインのミニシアターなので、年齢層は高めだが、学生街という立地もあってか、シルバー世代オンリーというわけではない。レアな昔の日本映画ファンは各世代けっこう多いのだな、とここに来ると毎度驚かされる。今日は前から観たいと思っていた「東京の恋人」が初回にかかるというわけでワタシも頑張りました。本作も入場開始前に完売。…早く来てよかった。この作品が神保町シアターにかかるという情報をくださったのはお馴染みのミナリコさん。
いつも、レアな情報を本当にありがとう。感謝です。

千葉泰樹監督の「一年遅れの生誕百年」ということで組まれた特集企画。この監督は地味なようだけど作品作りはシュアで、笑いの盛り込みも上手いし、人情の機微もきめ細かく描く、手腕のある人だ。代表作は大ヒットしたギューちゃんの出世物語「大番」シリーズだが、前に当ブログでも書いた敏ちゃん×ベルさんの「下町」などもこの人の監督作品である。で、今回はCSでも一度も流れているのを見た事がないレア中のレアな作品「東京の恋人」。制作は昭和27(1952)年、戦後7年目で、繁華街は活気を取り戻しつつあるが、まだ人々の暮らしは貧しく、住宅地では焼け跡や瓦礫がそのままになっていたりもする時代だ。復興途上の時期なのだろう。銀座の町角には花売り娘や似顔絵描きや靴磨きの少年があちこちに居たという時代のお話だ。貧しい靴磨きの若者3人(その中の一人に小泉博が混ざっている)と似顔絵描きのユキ(原節子)は、都電に乗って勝鬨橋を越え、銀座に出て、並木通りで終日商売をし、日が暮れると都電に乗ってまた江東方面のアパートに帰って行く、という毎日を送っている。

本作では、のっけから都電に乗った原節子たちが橋の袂で足止めされ、勝鬨橋の開閉を待つ、というシーンがある。勝鬨橋の開閉は昭和45年まで行われていたというが、以降は閉じっぱなしの開かず(上がらず?)の橋になって久しい。一度この目で勝鬨橋の開閉を見てみたいと思っていたが、映画で観られるとは思わなかった。ふぅん、あそこの部分がああいう具合に分かれて持ち上がるのね~なるほど、と興味深く眺めた。もっと大きな船を通すために開閉していたのかと思ったら、案外小さな船のためにも開閉していたようで、これじゃ確かに車の交通が増えてきたら閉じっぱなしにならざるを得ないだろうなぁと思われた。


去年撮影した勝鬨橋


開閉していたポイントに近いあたり、かな


重要文化財のレトロな橋 この橋を都電も走っていたのね…

都電の中で切符を買うための小銭が崩れずに困っている男に原節子のユキが小銭を貸す。妙にこじゃれた身なりで指輪なんかはめた男前のこの男はご存知、我らが敏ちゃんこと三船敏郎である。昭和27年なので、敏ちゃんもまだ若い。小銭を借りたのが縁で、この男・黒川とユキ達は知り合いになる。ユキが似顔絵描きの場所にしている並木通りの雑居ビルの2階に事務所を構えるパチンコ玉製造会社の社長に森繁久弥。その嫉妬深い妻に清川虹子。また模造指輪を作るのが仕事の黒川(敏ちゃん)の仕事先の宝飾店の主人に十朱久雄、その妻に沢村貞子とコメディ・リリーフも充実した顔ぶれだ。というわけで、復興期の銀座の裏町を舞台に軽くてこじゃれたコメディが展開するのかと思っていたら(まぁ確かに大枠はそうなのだけど)、杉葉子演じる胸を病んだ娼婦が登場して、軽快なコメディの筈が妙にしめっぽい人情劇の色合いが出てくる。戦後の世相劇という部分で、当時は焼け出されたり家族を失ったりして、天涯孤独になった人や浮浪児になった子供などが大勢いたわけであり、そういう人々の明暗なども盛り込もうと思ったのだろうけれど、いかんせん、色合いの違うものをひとつの鉢に盛り込んだために、しめっぽい人情話の前後に森繁のいつもの調子の喜劇演技が入って来て、森繁は小才を効かせたいつものノリで飄々としているのだが、一方で瀕死の娼婦などが話に絡んでくるので、なんだか座りが悪くて浮いてしまうし、どうも構成が欲張りすぎて失敗している、という感じだった。

ホンモノとニセモノのダイヤの指輪を巡って展開する軽快な人間模様-戦後の東京で貧しくても明るく元気に生きている人々や、ちゃっかりと生きて行く人、欲深で滑稽な人々などを銀座の街角を舞台に交錯させて、ポジティブなコメディにまとめれば良かったのに、杉葉子が演じる病気の娼婦は本作には不要だったと思う。映画のトーンに一貫性もなくなるし、バランスも悪くなっている。杉葉子にも気の毒だ。タイトルバックで、制作者に熊谷久虎が名を連ねているので、ふとイヤな予感がしたのだが、それが当ってしまったようだ。熊谷久虎は原節子の姉の夫で、映画監督である。活躍期は主に戦前で、戦後は過去の人になっていたようだが、大スター・原節子を義妹に持っているので、彼女を主演に映画を企画したり、監督したりもした。が、それらの作品(「白魚」など)は出来が芳しくないという印象がある。今回は制作に入っているが、それがこの映画の一貫性の無さに影響しているのか、どうなのか…。

敏ちゃんは空襲の焼け跡に辛うじて門構えだけ残っている敷地の中に小さなバラック小屋を建ててとりあえず住んでいる、という感じの、独身の模造指輪造りである。商売上、身なりもややキザだし、ゴリっとした指輪なんかハメて、案外に金廻りは良さそうに見えるが見得を張っているだけ、という感じがある。でも、こういう役は池部良の方が適任ではあるまいか。敏ちゃんは敏ちゃんで悪くはないのだけれど、三船敏郎原節子のレアな共演作では「愛情の決算」の方がずっと見応えがあったし、掘り出しモノのお宝映画であった。「愛情の決算」での敏ちゃんは見ているだけで嬉しくなってしまう男前っぷりで、キャラクターも適役だったし、背広が似合って非常に素敵だったのだが、「東京の恋人」での敏ちゃんは当時、かなり酷使されてハードスケジュールで撮影に次ぐ撮影をこなしていたのか、目の下にクマが出来ていて、顔がやや疲れ気味。掛け持ち撮影などを続けていたのじゃなかろうかと推察するが、とにかく微かに窶れが見えて、こういうあまり任じゃない役でも、台本がジャンジャン廻ってきて、真面目な頑張り屋だから休む暇もなく一生懸命働いていたんだろうなぁ、などと遠く敏ちゃんに思いを馳せたりした。



敏ちゃんは、なんとなく惚れてしまった街角の生意気な似顔絵描きの女ユキ(原節子)に「ニセモノ作り!」などと批難されてヤケ酒を喰らいつつも(このヤケになりっぷりがまた、あまりにもオーバーな設定でちょっと不自然だ)、ユキのアパートの隣人である、死期の迫った娼婦(杉葉子)が田舎の母に出した偽りの手紙に沿って、娘の看病に出てくる母のために娼婦の夫を演じるハメになる。田舎から出てくる母は飯田蝶子だろうか。飯田蝶子的にはなんとなくまだ若めな感じでふっくらしている。でも、この田舎の母を迎えに駅に行く時も、看病中のアパートの廊下でも、靴磨きとユキたちは何かといえば笑い合ったりして、瀕死の仲間のためにあれこれ手を貸している割にはなんだかなぁ…という感じがする。とかくに脚本や設定のバランスが悪いのである。
また、原節子はワンピースを着ていると綺麗だが、ベレー帽はともかくも、ダブダブのパンツにローファーの靴、というのはあまりいただけない。彼女はお尻が大きく平板でパンツが似合わないのである。前から見ればともかくも、後ろからのショットはウエストからお尻までやたらに距離があるので、ちょっと気の毒な感じがした。

結局のところ、本作の見どころは前半と後半に二度登場する勝鬨橋の開閉シーンに尽きるのではないかと思われるが、非常にレアな作品ではあるし、一度観てみたかったので、ミニシアターで、クリアな映像で見ることができたのはラッキーだったと思う。
今回の千葉泰樹特集には他にも観たい作品があるのだけど、とにかく当日売りのみというのが辛いところで、かなり気合を入れなくてはならぬために、ワタシのような怠け者にはなかなかしんどい。ワタシは別に映画館で見ることにこだわるタイプの映画ファンではないので、日本映画専門chで放映してくれるならその方がずっと有難い。気に入った作品は録画もできるし。そんなわけで、「愛情の決算」は是非、同チャンネルに放映して貰いたい作品の筆頭である。放映されたら即、録画である。あれはいつも手元に置いておきたい。日本映画専門chさん、是非ともよろしく!

コメント

  • 2011/10/08 (Sat) 07:53

    初めて訪問します。
    私もこの映画を5日の夜に観ました。ほぼ満席でした。
    杉葉子の母親役は、飯田蝶子ではなく岡村文子です。

  • 2011/10/09 (Sun) 12:32

    タカさん。初めまして。 ご指摘をどうも。
    飯田蝶子とは違いそうだ、と思いつつ、神保町シアターHPの本作の出演者名の中に飯田蝶子の名があったので、あの母親役だろうかと思いました。飯田蝶子や河村黎吉は一体どこに出ていたのかしら…。

  • 2011/10/10 (Mon) 01:04

    kikiさん、ご覧になったのですね!
    しかしながらkikiさんレビューによるといまひとつの出来栄えだったようで・・。
    それでもコメディタッチな役柄の敏ちゃんを見れるというのはとってもレアな作品だろうと思うので一見の価値あり!という感じがしますね。でもコメディな敏ちゃんがなんだか想像がつかず、しっくりこない気がして、見たいような見たくないような・・・といった感じです(笑)。
    わたしも「愛情の決算」がとっても見たいです。きっとアイドルを眺めるかのようにまんじりともせず敏ちゃんに釘付けになることでしょう(笑)。
    日本映画専門chで「妻の心」が放送されますね。いつでもあのハニカミ敏ちゃんを見れる幸せをかみしめたいと思います。うふふ。

  • 2011/10/10 (Mon) 06:46

    私もシアターの出演者の書かれたチラシに二人の名前があって気にして観ていましたが、二人とも出演していませんでした。
    シアターの間違いだと思います。時々こういうことがあります。

  • 2011/10/11 (Tue) 00:04

    ミナリコさん 行ってきましたよ~。神保町シアターは今回も盛況でしたわ。で、確かに映画としての出来はイマイチだったのだけど、敏ちゃんそものもは悪くなかったとは思います。「野良犬」あたりの頃の、若い敏ちゃんなので原節子の言いなりって感じの役でも、さして違和感はなかったですよ。映画全体の構成がね…。もっとライトなコメディに徹すれば良かったのに、と思います。でも、滅多に観られない映画なので、綺麗な映像で観られて良かったですわ。「愛情の決算」是非、日本映画chで放映してほしいですね。そう思って待っているとそのうちふいに流れるので、常にチェックしておかないと、ですわね。

  • 2011/10/11 (Tue) 00:05

    タカさん やはり出ていなかったですよね、二人とも。
    確かに出演者の記載が間違っていたことは前にもあった気がします。
    まぁ、人間のすることですからね…。

  • 2016/04/21 (Thu) 22:01
    南国

    千葉泰樹監督の本編はタッチとしては小林桂樹主演のアツカマ氏とオヤカマ氏に近いと思った…。上原謙のオヤカマ氏というキャラが可笑しい♪普段の二枚目がこんな役柄というギャップが佳かった!東京の恋人もあの原節子が見せるコメデエンス振りが、三船敏郎と繰り広げる掛け合いが楽しいー。靴磨き三銃士の歌声も♪三船の荒城の月も。閉館間近の銀座のシネパトスでの東京縁の映画特集で見た時は名画座が無くなってしまうという悲しさも手伝って焼け跡の出て来る本編は観客の一人として大きな感慨があったー。

    • PineWood #mdX0xzVk
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  • 2016/04/24 (Sun) 19:24
    Re: 南国

    なるほど。

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