「クラシックホテル憧憬」

BS日テレ
-レトロな革トランク提げて出かけよう-



民放系のBSチャンネルには旅や紀行ものの番組が多いが、中でもレトロ好き、クラシックホテル好きのワタシにとっては堪えられない番組がある。それはBS日テレで放映中の「ホテル時間旅行 クラシックホテル憧憬」という番組。この10月の改変で水曜の夜10時から金曜の夜9時という時間帯に変更になったのは、一応昇格したという扱いなんだろうか。(ゴールデンタイムに昇格するとロクな事にならないのでひっそりと放映されている方が望ましいのだけど…)まぁ、いずれにしてもワタシは帯で録画予約をかけておいて週末に見る。印象に残ったものはDVDに落として保存し、そうでなければ消す。ホテル紹介番組は他チャンネルにもあるのだが、この番組が良いのは、対象をクラシックホテルに絞っている事。香港のペニンシュラやバンコクのオリエンタル、シンガポールのラッフルズのような超有名どころから、あまり知られていないが歴史を刻んでいるホテルまで、幅広く紹介してくれるのもいい。番組の雰囲気が全体に落ち着いているのも好ましい。

クラシックホテルは理屈ぬきにいい どこも優雅な空気が漂っているのが共通している

番組のコンセプトは、貿易商だった祖父が残した世界各地からの絵葉書に興味を持った兄と妹が、オトナになってから折々、祖父がその昔に泊まった各地のクラシック・ホテルに宿泊しにいき、祖父が絵葉書にこめて送ったさりげないメッセージを探す、というもの。兄も妹もナレーションでしか登場しない。旅番組で一番嫌なのは、どうでもいいタレントが出てきて、それが水先案内をしたり、キャーキャーとリアクションしながら飲み食いしたりする番組で、なんでこんなのの大はしゃぎを見せられなくちゃならないのか、とゲンナリした気分になってしまう。紀行番組は静かにカメラとナレーションだけで紹介していくのが一番なのだ。


こういうの、大好物

番組の枕で、地球儀に古めかしい革のトランク、そのトランク一杯に詰め込まれた、貿易商だった祖父の品々が映る。そして夥しい世界各地のホテルからの絵葉書…。兄妹はどう見積もっても兄が28から30そこそこ、妹は24から27ぐらいな設定だと思うが、彼らの祖父である貿易商のアズマ・シロハチが各地を巡っていたのは戦前のお話っぽい。だとすると孫の年が若過ぎる、という感じもするけれど、祖父の末子の子だったら、そのぐらいな年齢差にはなるだろうか。まぁ、そんなものかもしれない。
それはさておき、この前フリの部分で毎回紹介される「世界を巡った貿易商の祖父」には、ある人物のイメージが想起される。東京・日本橋の豪商の家に生まれ、大正時代に英国オックスフォード大に留学し、その後パリに移って欧州文化を楽しみ、様々な芸術家をパトロネージし、ヨーロッパ社交界で華やかな存在感を示したアッパレな日本人。そのスケールの大きさや、貴族趣味が板についた様子、豪奢に贅沢を楽しみ、惜しみなく私財を芸術や文化振興に投じた事などから、爵位もないのにバロンと呼ばれた男・薩摩治郎八である。アズマ・シロハチというのは、この薩摩治郎八のもじりであろう。薩摩治郎八のようなスケールではないにせよ、気分として、番組の旅人である兄妹の祖父はそのようなコスモポリタンな人物という設定にしたいのだな、という意図は伝わる。

この番組に気づいたのは今年の晩春なのだけど、番組が始まったのは昨年の10月らしいので、ちょうど1年経ったところだろうか。だから見逃してしまったホテルもあるのだが、それっきりにはならず、前の回が何度か放送されるのも有難いところである。(そうそう毎週放送する分を取材に行かれないからだろうけれど)
見逃したホテルには、上海の「アスターハウス ホテル」や北京の「ラッフルズ」、スリランカの「マウント ラヴィニア ホテル」などがあるので、おいおい新しい特集の合間にこれらの再放送が差し挟まれていくのを楽しみに待ちたいと思う。

ワタシがこの番組を初めて観たのは、あのハノイの「ソフィテル レジェンド メトロポール ハノイ」の特集からだった。それも再放送分だったらしいのだけど、あの優美なホテルの、西洋と東洋の様式の見事に混交した(ベトナムにおいてほど、西洋と東洋の様式が互いの個性と長所を高め合って更にハイレベルに洗練された様式を造り出している所はないだろう)客室の内部などをじっくりと堪能できて至福の気分を味わった。(またこの客室が非常に素敵なんですよ、文句なしに)ワタシは、あの蓮の生花と百合の香りに包まれたエレガントなロビーを思い出し、次にハノイに行く時は、絶対にソフィテル・メトロポールに宿泊しなければ、と心に決めた。あまりにうっとりと眺めていたので、うっかりと録画するのを忘れてしまった。再放映をひそかに待っている今日この頃である。


「ソフィテル レジェンド メトロポール ハノイ」…優雅である

長い歴史を刻むホテルには、それぞれのエピソードが刻まれている。
少し前に「モアナ サーフライダー ウェスティン リゾート&スパ」の特集をやっていた。ホノルルで、というかハワイで一番古いホテルだというのは知っていたが、あまりに観光地化してホテルの増えたハワイで、古くなったモアナホテルは客足が落ちた事もあり、1950年代に現代風に改装された。それが失敗の元でホテルは益々ジリ貧になるが、1980年代に、ホテルをあるべき姿に戻そう、というコンセプトの元に大改修が行われ、老舗ホテルはそれらしい姿を取り戻した。確かに1950年代に昔風な装飾を取り去って「いま風」に改装された当時のホテルは写真で見ても無残にシャビーだった。ガックリものである。歴史あるホテルは歴史あるたたずまいをキープしていなくてはならないのだ。モアナ・サーフライダーは古いホテルにも関らず、度重なる改装でインテリアなども創業当時のものは殆ど残っていないらしい。ある意味不幸な歴史を辿りつつ、ウェスティン傘下のホテルとして、クラシックホテルらしい佇まいを取り戻し、今日も健在であるのは、ホテルのためにも観光客のためにも幸いだと思う。


昔の姿に戻ったモアナ・サーフライダー

先週はニュージーランドの「フカ・ロッジ」を特集していた。ニュージーランドでは最高級のホテルだというが、名前も観た目もロッジである。ここはワイカト川という清流のそばの自然の中で、誰にも邪魔されずに「何もしないという贅沢」を楽しむための宿。王候貴族や、セレブやミリオネアが忙しい日常を忘れて、誰の目も気にせずノンビリと過ごすための「セレブの隠れ宿」として知る人ぞ知る宿であるらしい。渓流ぞいに広がる東京ドーム1.5倍の敷地。ニュージーランドの元首でもある英国のエリザベス女王の定宿でもあるらしい。ロッジなのに猛烈にお値段も高め。確かに静謐な水辺の自然の中で、至れり尽くせりなサービスを受けられるというのは結構だけれども、川の傍の上品ではあるけれども素朴なロッジに、正直、それだけの値段に見合う価値はあるのか、と首を傾げないでもない。(専属のバトラーと料理人が付くコテージの利用料は3泊で200万円らしい(1泊は不可)。通常のロッジは1泊15万から20万ぐらいらしいけれど、それにしてもいいお値段ではある)でも、物の値段はそれを払う人が出す価だけのものだ、という事を考えると、そんな対価を払っても、ここに泊まりに来る人が居るというからには、それだけの値打ちはあるのだろう。泊まりに来る人にとっては。




専用バトラーとコック付き3泊で200万のコテージ内部

ここは元々は釣り人の集う気軽なロッジだった。ワイカト川で大物の鱒が釣れるポイントを熟知していた地元のオヤジが1900年代初頭に始めた釣り宿で、川べりにテントの並ぶ宿だった。でも自然に親しむ隠れ宿として、大物の鱒の釣れるポイントとして、貴族や王族、有名人たちは初期の段階からこの「フカ・ロッジ」を愛好してきたのだという。1970年代に創業者が亡くなった後、1984年に「セレブの隠れ宿」というコンセプトで現オーナーが超高級路線を敷いて現在に至るわけだが、ワタシのような庶民にはそこまでの料金を払う値打ちがあるのかどうか疑問でも、常に人目に晒される、煩わしい日常を生きている忙しく財力のある人々にとっては、必要欠くべからざる宿なのかもしれない。
フカ・ロッジの特集を見ていたら、私生活をマスコミに追い回される事に昨今特に参っている様子のジェイク・ジレンホールなど、2ヶ月かそこら、この宿に逃げ込んだらリフレッシュするんじゃないかしらん、とふと思った。人気稼業だからある程度の事は仕方が無いと割り切ってはいるのだろうけど、ジョギングや、犬を散歩させに出てもカメラに狙われ、ちょっといいなと思う女の子と一緒にいると、すぐに写真付きの記事になって騒がれるジェイク。少し前の3連休に、毎日違う女友達と会っていたというだけで「ハリウッド1のウーマナイザー」と書き立てられていた。


放っておいて欲しいんだよ~ぅ

これには、かなりゲンナリしたのだろう。その後ひと月ほど、ぱったりとジェイクの消息は絶えていた。先週、暫くぶりにカメラの前に出てきたジェイクは熊ヒゲにメガネという姿だった。よほどウンザリしてどこかに籠もりっきりになってたんだろうな、と思った。もしかして「フカ・ロッジ」で休養していたんだったりしてね。(笑)


熊ヒゲにメガネ これはジェイクの「ほっといてくれサイン」なのかもしれない

まぁ、ワタシは金持ちでもないし、人目を避けたい有名人でもないし、癒しがたい疲労を抱えているわけでもないので「フカ・ロッジ」のようなところに逃げ込む必要はない。手ごろな宿泊費の自分の趣味に合うクラシックホテルに泊まって、そのホテルを隅々まで堪能したいと思う。いつか宿泊しにいく日のために、この番組であちこちのホテルを楽しく眺めているわけである。クラシックホテルには、クラシカルな革のトランクを提げていきたいものだけれど、この革のトランクって奴がけっこう実用的じゃないんでして…。
ワタシは、年代物の革のトランクを1つ持っている。昔、ロンドンの蚤の市、ポルトベロ・マーケットで見つけて買った。重い、革の、年代もののトランクである。まさに欲しかったトランクそのもので、掘り出した!とご機嫌だった。


こんな感じのトランクです

帰りには、スーツケースに入りきらないものをその革のトランクに入れてヒースロー空港でチェックインの列に並んだが、途中、取り出したいものがあってトランクを開けたら、係員が即行ですっ飛んで来て、荷物ごと脇の衝立の陰に連れていかれた。空港内でトランクなどの蓋を開けてはいけないのであった。本人がその気はなくても、そのスキに誰が何を入れてしまうか分らないからである。トランクの中身を全部出してチェックされ、また、元に戻した。年代物で革のバンドで締めるだけのトランク。荷物をくくるバンドでトランクを巻き、小さな南京錠をその留め金に掛けただけの施錠である。確かに危うい。「空港内でトランクの蓋をけして開けないように」と注意されて、唖然として待っている相棒の元に戻った。革のトランクというと、ワタシは今でもその時の事を思い出す。この革トランクは物入れとなり、現在クロゼットの奥にしまわれている。この時トランクと一緒にポルトベロ・マーケットで買った銀のシガレットケースは、旅行時の薬入れとして今も使っている。

旅は、少し恥をかいた記憶が残っている旅のほうが懐かしい。「クラシックホテル憧憬」を見ていると、また、そんな小さな恥をかきつつも、気儘に異国をほっつき歩きに行きたい気分をそそられるのである。

コメント

  • 2011/11/02 (Wed) 18:49

    私もこの番組、大好きです。時間帯が変更になったのを忘れていて数回見逃してしまったのが悔やまれますが、また観られるチャンスがあるのですね。
    騒々しい旅番組は私も苦手ですが、この番組の「妹」さんもちょっと苦手。「兄」担当だとほっとしてしまいます。
    ソフィテル・レジェンド・メトロポール・ハノイは私も見ました。良いですよね。機会があれば是非!と心に決めています。クラシックホテル好きなので。ただ水周りはどうなのでしょうか?以前日本のクラシックホテルに宿泊した時に悲しい思いをしたのでその点だけが不安なんです。

  • 2011/11/03 (Thu) 09:27

    Rikoさん。
    この番組、お好きでしたのね~。やっぱり。なんかいいですよね、これ。この番組を企画したプロデューサーとは趣味が合いそうな気がしてます。何時間でも話ができそう。(笑) で、ワタシの感じでは兄も妹も大差ない(似たくさい)語り口のような感じだけど、そうでもないですかしら。ははは。ともあれ、定期的に観るようになる前に見逃してしまったホテルがだいぶあるので、適宜、再放送が挟まって行くのも楽しみなんですわ。新規と過去分が交互に放送されていくようです。ソフィテル・メトロポールの回、ご覧になりましたのね~。ウットリでしたよね。あのベッドサイドの照明とか。本当に堪えられませぬ。水廻りはどうなのかなぁ。ベトナムは総体にインフラがまだまだ脆弱だし、時折停電もするから、水廻りも万全とは言い切れないですが、ロビー階でトイレに入った時は何も問題なかったですよ。とても綺麗だったし。客室のお風呂とかも大丈夫じゃないかしらん。

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する