「シャーロック・ホームズ:淑女殺人事件」 (SHERLOCK HOLMES AND THE CASE OF THE SILK STOCKING)

-意外な隠し味-
2004年 英 BBC



以前、一度見かけて10分もしないうちに中止し、HDDから削除してしまった本作。昨今、ホームズへのマイ・ブームが少し高まっているので一応最後まで観てみようかと、再度放映されたものを録画しておいて、他の事をしながら観るともなしに観ていたら、なんと全く予期せぬ事にブレイク前のマイケル・ファスベンダーが出ていたのだった。「早回しでとりあえず最後まで観たら削除」の筈だった本作は、ミヒャエルに免じて暫くワタシのHDD内で寿命を保つ事になった。
梗概:
1902年11月、テムズ川のほとりで若い女性の死体が発見される。発見された死体は首をストッキングで縛られていた。その衣服から被害者は娼婦と思われたが、実は若い貴婦人であった。さらに、ストッキングは喉に詰められていたことも判明した。被害者の父である公爵から依頼を受けて捜査を始めるホームズだが、やがて第二の令嬢殺人事件が起きる…。

例のジェレミー・ブレットのホームズ・シリーズの後、21世紀に入ってからBBCで単発的に、思い出したように作られているホームズ物長編の1つ(2002年の「バスカヴィル家の犬」など)だが、これはオリジナル脚本らしい。最初にこれを観たときは、ルパート・エヴェレットの白塗り仮面ぶり、というか、シャーロック・ホームズというよりは、殆どエキセントリックなフランケンシュタイン、という感じのルックスにドン引きし、さらにはイタチかハイエナに似ているイアン・ハートのワトソン君もあまりにも魅力薄なので、あっという間に観る気がなくなってしまい、早々に削除した本作。でも一応、撮影や美術、小道具は悪くなさそうな気配は覚えていたので、今回は、喰わず嫌いを避けるため、一応ざっくりと観てみようと早回し気味で流していたら…。



おや、脇に男前が出てるじゃないの。これは…どこかで見た顔だわね。誰だっけ、誰だっけな。あ、そうか、マグニートー。あなただったのね…というわけで、令嬢を殺された公爵家の使用人役で登場したマイケル・ファスベンダーを発見。ブレイク前ゆえ、ちょっと生硬い感じもあるけれども、常に無表情で何を考えているのか分らないハンサムな使用人には実にピッタリ。チョイ役ってわけでもなさそうなので、これはちゃんと観ることにしよう、と2倍速モードをやめて通常速度で観賞することに。



本作でのホームズは、まず阿片窟で忘我の境地に浸るところから始まる。結婚を控えたワトソンが221Bを出ていってしまったので、殊更に空虚な気分に襲われている、という設定であるらしい。昨今の映画版でもそうだが、ワトソンが結婚することになって同居を解消したあたりから話が始まる、というのはある種の流行りだろうか。オリジナル・ストーリーの場合は、そこからの設定にしたほうが話が作りやすいからなのだろうか。ともあれ、ルパート・エヴェレットのホームズは、これまでの誰よりもヒネくれていて厭世的で嫌味で頽廃的なホームズである。同じように傲慢で高飛車でも、現代版ホームズを演じるベネディクト・カンバーバッチには、顔も雰囲気もそこはかとなく愛嬌があってヤンチャ小僧のようで可愛いのだが、ルパート・エヴェレットには愛嬌がない。ハドソンさんに対しても思いやりがなさ過ぎる。背が高くて鷲鼻でありさえすればシャーロック・ホームズになれるかというと、そういうものではないのである。そのアロガントぶりを、どこか心地よく眺めることができないと、ただ不愉快になってしまうだけだからだ。


文句のつけようのない鷲鼻ではあるのだが…

まぁ、そんなわけでルパート・エヴェレットのホームズは違和感アリアリだったワタシだけれども、マイケル・ファスベンダーはブレイク前でも魅力アリアリだった。それまで思った事もなかったが、マイケル・ファスベンダーのどこかひやりとしつつも、とろんとした眼差しというのはアラン・ドロンに近いものがある。クールで、どこか翳があり、苦悩する男や、過去のある男、秘密を隠して生きている男などを演じると似合いそうなところも個性として近いかもしれない。


このヒヤリとしつつも、トロンとした眼差し

今回の役は、貴族の家を使用人として転々と渡り歩きつつ、その美貌で有閑マダムである貴婦人に気に入られてしれっと男妾なども務めている男で、こっそりと中年の公爵夫人の愛人をしつつも、彼のとろんとした目はマダムではなく、その若く瑞々しい令嬢達に注がれている、という役だ。彼がいかにハンサムであっても、妙齢の令嬢たちにとっては透明人間のような存在である。そこに居ても居ないのと同じ。なぜなら彼は使用人だから。壁の前に立っていて、必要な時に用を足すだけの存在なのだ。ましてや天地がひっくり返っても恋愛対象などではありえない。彼の中には満たされぬ欲求と階級の壁に対する怒りがふつふつとたぎっているのだった…。
と、これ以上は書かない事にするけれども、卑しい身分の男が冷たい欲望を無表情の下に隠している、という感じ、そして、パララックス・ビューのように、もう一人の自分がいる、という設定は、まさにネオ・ドロンともいうべきファスベンダーの魅力が生きるキャラクターで、特にファンというほどではないけれども、やはりマイケル・ファスベンダーってなかなか良い感じだな、という事を再認識したドラマだった。


立ち姿もキマっている


横顔もキレイだ

ホームズ物としても、オリジナル・ストーリーとしては、それらしい雰囲気も出ていてまずまずという感じである。ルパート・エヴェレットのホームズは、バイオリンを弾き、変装して登場するシーンもある。関りたくないと思っていたワトソンの婚約者に紹介され、精神科医である彼女が客観的で知的な論客であり、彼女から性的異常嗜好についての示唆を貰ったりするうちに、ホームズがワトソンの婚約者に一目置くようになる様子なども悪くない。が、それはそれとして、バイオリンに変装にアヘンやモルヒネに溺れるなど、ホームズ的要素をテンコモリに盛り込んでいる割には、なんかイマイチなホームズ、という地平を脱する事ができていないのが物哀しいところだ。あとはお約束の霧深いロンドンとか、国王に見せるための座興でみやびやかに踊る貴族の令嬢たちなど、なかなか絵になるシーンもあるし、マイケル・ファスベンダーが出演しているので、意外な掘り出し物になっていると思う。ルパート・エヴェレットのホームズに目をつぶれば、それなりに面白い一篇であると言えようか。



ただ、ルパート・エヴェレットのファンの方には申し訳ないけれども、本作での彼は、どこから見てもなんとなく変である。顔も白塗りが過ぎると思う。



どうしてあんなに塗っちゃったのだろう。まるでロバート・パティンソンのおじさんみたいな事になっていた。

コメント

  • 2011/11/03 (Thu) 00:41

    kikiさん ご無沙汰でしたー。

    ファスペンダーに反応して久しぶりに参上!
    X-MEN、ポスターやら画像で初めて見たときから、いい雰囲気の俳優だなって気にはなってたんだけれど、結局見逃してしまったんですよねー。そのうちDVDを待ってと思ってました。
    (そういえば、kikiさん、このファスペンダーは期待はずれみたいな感想でしたっけね)

    そんな私が一層注目するようになったのは9月のベネツィア映画祭。彼、最優秀男優賞を獲ってるんですね。その作品「Shame」の劇中の電車のシーン、あるサイトで流れていたのを見たらば・・もうぞくぞくもの、kikiさん指摘の冷たいいい男の感じ出てましたよ。詳しいストーリーは詳しくわからないけれど、女を次々と陥落させる男の話しなんですかね・・多分。
    で、もっとすごそうなのは、次回作「ア・デンジャラス・メソッド」。クローネンバーグ監督、ヴィゴ・モーテンセン共演、とまあよだれの出そうな布陣、楽しみだわぁ~♪
    有名なフロイトとユングをヴィゴとファスペンダーが演じるそうで、その間に入る女性がキーラ・ナイトレーなんですと。
    そんなわけで、まだ劇場で動いているファスペンダーを一度も見てないわたしだけれど、否が応でもこれからの作品に期待しちゃいます。

    名前、ドイツ読みだとミヒャエルなんですってね。ミヒャエルのほうが響きがきれいで良い感じかな~。
    それから、「マッドメン」のジョン・ハムに少し似てるかしらん? って思っちゃいました。ふふふん。

    • ジョディ #mYpMW8u.
    • URL
    • 編集
  • 2011/11/03 (Thu) 09:30

    ジョディさん。お久しぶりです~。
    ファスベンダーに反応しましたか。ははは。何となく気になる人ですよね、ファスベンダー。「X-MEN ファースト・ジェネレーション」では、彼に引っ張られて観に行ったというのに途中から興味がなくなってしまったんですが、今回、全く予期せず観ていたホームズ物に出てきて、しかも、とても綺麗で魅力もあったので、「ファスベンダーか、なるほどね」と認識を新たにしましたわ。で、彼の近作2本、確かにオモシロそうですね。日本ではおそらく来年の公開になるんじゃないかと思われますが、「Shame」も「A Dangerous Method」も確かに面白そうです。封切りになったら観に行かなくちゃ。ミヒャエル氏はブロンドもダークヘアも似あう顔ですが、ダークヘアでちょっと肉付きがよくなると、ジョン・ハムにも似てくるかもしれませんね。彼はドイツ人の父とアイルランド人の母の間に生まれてドイツ語も英語もOKな人なので、役の幅も広そうですわ。ミア・ワシコウスカがタイトルロールを演じている「ジェイン・エア」で相手役のロチェスターを演じているようなので、これなども観てみたいな、と思います。

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する