ドンはディックに戻るのか? 「MAD MEN」 Season 4



現在、本国ではSeason 5の撮影が進行中である「MAD MEN」。日本では先ごろ、フジ地上波深夜枠で放映されていたSeason 4が終了した。深夜枠のせいか、ころころと放送時間が変わるため番組HPで放送時間をチェックして予約録画していたのだが、最終回は、なんと予定されていた放送時間から10分以上遅れての開始になり、最終回だというのに末尾が10分ほど切れてしまった。…やれやれ。まぁ、あらすじは本国AMCのサイトでチェックして知っていたのだけど、長年住んだオシニングの家を引っ越す事になり、家の鍵をベティがドンに手渡すシーンを録画できなかったのは残念だった。
シリーズ最高傑作かどうかは分らないが、Season 4も面白かった「MAD MEN」。ワタシはフジでの放送開始に気づかなくて3話目ぐらいまで見逃してしまったのだけど(DVDででもチェックしよう)、ドンの秘密をある意味分かち合っていた、本来のドン・ドレイパー夫人だったアンナがSeason 4でこの世を去る。彼女は、その昔、戦地から戻らない夫の名を騙ってヌケヌケと生きているいかがわしい男であるドン=ディックを見つけ出し、対決しに現れたのだが、彼女の夫は戦地で事故死したこと、ディックに悪気はなかったが病院でドン・ドレイパーと間違われたこと(実際のところ、事故死したドン・ドレイパーの認識票と自分の認識票をディックは故意に取り替えたのだが)、みじめな生い立ちから決別し、別の自分になりたかったディックは、間違われた事を利用してドン・ドレイパーとして生きることにしたのであって、そこに凶悪な犯罪性などがない事が分かると、アンナは「…夫は私の妹を愛していたのよ、脚の悪くない女をね」と自嘲的な微笑を浮かべる。そして彼女は、死んだ夫との仲が既に冷えていたこともあり、必死に別の人間になって人生を生き直そうとしている若いドンを許すのだった。自分のために、そしてディックのために…。戦地から戻り、ドン・ドレイパーとして新しい人生を生き始めたばかりのディックはまだ独身の若者だったが、亡くなったドン・ドレイパーが既婚者だった為に、法律上はアンナという妻がいる事になったわけである。



ドンはカリフォルニアにアンナの為の家を買い、アンナは近所の子供にピアノを教えつつ、そこで一人暮らし、NYで働くドンがホリデーなどにたまに訪れるのを温かく迎えた。娼婦に産み落とされ、貧農の農家で育ち、本当の家族など持っていないドンにとって、アンナは唯一、家族のような存在の女性だった。年上で脚の悪い彼女は、ドンとは恋愛関係にはならなかったが、姉のように彼を包んだ。ドンは結婚するまで毎年クリスマスにアンナの家に行き、二人でプレゼントを交換して暖かく過ごした。そうこうするうち、べティと出会ったドンは彼女と結婚したいとアンナに告げる。アンナは紙の上だけの妻だが、快く離婚を承諾し、ドンの門出を祝う。



アンナはドンにとって、血縁もなければ肉体関係もないが、非常に重要な女性だった。事実を知っている彼女の前では何も取り繕う必要がなかった。Season 4で、悪性腫瘍によりアンナが世を去ったあと、ドンは彼女に買ったカリフォルニアの家の後始末に訪れる。ドンは生前の彼女との約束を守ってそこに子供達を連れて行く。壁に書かれた「DICK + ANNA '64」という文字を網膜に焼き付けようとするかのように、じっとみつめるドン。その昔、アンナが惨めなディックの罪を許し、受け入れてくれなかったら、ドン・ドレイパーの今日はなかったのだ…。




当初は互いに恋に落ちて、盛り上がって結婚したものの、なまじ何不自由ない中流家庭の娘で、美人で、高等教育も受け、完全主義であるベティのような妻を持ってしまったせいで、ドンは余計に自分の惨めな過去を封印せざるを得なくなった。家庭はくつろぐところではなく、彼は自分の内部に秘密を抱えたまま、自分の家の中だというのに心を開けず、本当の自分でいられなかった。子供を3人も作りつつも二人は結局、結婚10年前後で、ドンの浮気や身分詐称の発覚により溝は決定的になり、Season 3で離婚に至る。


どんどんビッチ度に拍車がかかるベティ

ベティは、ドンが度重なる浮気で自分を裏切っていた(この私を裏切るなんて!)と知ってから、それまでも情緒不安定気味ではあったのが、更に病的にヒステリックになる。ドンと離婚して年上の男と再婚してのちも、彼女のヒステリーは治まるどころか益々ひどくなっていく。子供に当り散らし、常に喧嘩腰でドンに高飛車に文句を言うベティ。彼女は常に眉間にシワを寄せている。常にキイキイ怒っている。ビッチ中のビッチである。自分が毛嫌いしている近所の子供が、自分の留守にサリーに会いにきたのを許したという理由で、長年通ってくれた家政婦のカーラを居丈高に首にする。ジャニュアリー・ジョーンズ、地なのか演技なのか、ベティの嫌な女っぷりが堂に入っている。このベティの我儘なヒス女っぷりには、当初鼻の下を伸ばしていた年上亭主のヘンリーも段々辟易してくる。そして、ベティのドンへのヒステリカルな反応は、ドンへの執着心によるものではないか、とひそかに疑い始めてもいる。まぁ、ベティはこのままだと、まず間違いなく2度目の離婚に至ることだろう。その後はどうなっていくだろうか。男から男へと渡り歩いて、高級娼婦にでも身を持ち崩していくだろうか。昔のモデル仲間のように…。

Season 4でクローズアップされたキャラクターに、ドンの長女サリーがいる。山のように納得できない事はありつつも、自分の言いつけを守らないとヒスを起す母の前でいい子にしつつ、心では大好きな父と共に暮らす事を望む長女サリー。Season 4になるとサリーのキャラクターもそれまでよりもずっと描き込まれているし、まだ幼いのに両親が離婚し、折々情緒不安定な母親のヒステリーの捌け口にされつつも、一緒に暮らせない父親に思いを馳せるサリーが可哀想でとても心配になってしまう。サリー役の少女キーナン・シプカはSeason 3まではコロコロと太目で冴えなかったが、Season 4からは痩せて少し背が伸び、可愛くなった。



サリーが、嫌いな母の再婚家庭に馴染まず、父恋しさのあまりに電車賃も持たずにドンのオフィスに会いに来てしまう回も印象深かった。パパと一緒に住みたい、というサリーだが、チョンガーで仕事とラブアフェアに追われる父は、どうせがまれても娘を引き取るわけにはいかない。昼間家にいて面倒を見てくれる人がいなければ、彼のような男は子供を引き取る事はムリなのだ。



娘の監督不行き届きだ、すぐに迎えに来い!と電話するドンに、子育ては仕事より楽だと思うならあなたがやって!明日迎えに行くわ、と電話を切るベティ。父のグリニッジビレッジのフラットに大喜びで一泊するサリー。翌日、ドンのオフィスで家には帰らないとゴネるサリーを持て余すドンだが、廊下を駆け出して転んだサリーを優しく抱きしめたのはドンの新しい秘書、メーガンだった…。



というわけで、伏兵メーガンがこの回あたりから段々クローズアップされてくる。若くてモデルのようなブルネット美人のメーガンだが、出過ぎず、賢く、子供好きである。毎シーズン、ドンには新しい恋人が出来るわけだが、Season 4では当初、消費者心理のアナリストである小柄なブロンドのフェイと付き合っていた。彼女は自立したしっかり者だが、子供が大の苦手である。フェイよりずっと若いメーガンが苦もなくサリーをあやすのに、フェイはサリーの相手をしてくれと言われても当惑が先に立つ。このへんのそれぞれの女たちの性格の描き分けもなかなか上手い。メーガンは控えめなようだが、フェイが仕事にかこつけてドンの部屋にしょっちゅう入り込むのを横目に見つつ、自分をアピールすべき時にはしっかりとアピールする。


ブルネットのスレンダーな美女メーガン

家政婦のカーラをベティが首にしたことで、カリフォルニアに子供達を連れていくのに、ドンはメーガンに付き添いを頼む事にする。常にビリビリキィキィしているベティと違い、メーガンは子供たちを暖かく包み、ドンを寛がせる。ランチのテーブルできょうだい喧嘩をしたサリーとボビーが飲み物をテーブルにこぼしても、メーガンは「拭けば済むことよ」と涼しい顔でテーブルを拭く。ベティだったら自分は何もせずに煙草を吸いながら眉間にシワを寄せて怒り、子供たちにテーブルを拭かせ、罰として1週間外で遊ばせない!とか叫んでいることだろう。
結局のところ、ほっとする空気、というのが家庭には必須なのであって、人はそこに帰って行くのだ、ということが如実に示唆されているシーンでもある。ホッとするような空気を作り出せる女性が、妻や母には最適である、という事が、このシーン1つとってみてもよく分る。おまけにメーガンは若くて美人。こうまで3拍子揃っている女性はなかなか居ないが、まぁドラマですからね。
でもメーガンを見ていると、コリン・ファースの奥さんなどは、ちょっとこういう感じの人じゃないかしらん、という気がする。夫を寛がせ、常に精神的に支え、大事なところでは有効な助言をきちんとする。おまけに美人で、いつも綺麗にしている。これは最高ってもんでしょうね。希少価値は高いが、そんな人はなかなか居ません。


ついに真の理解者を得た、と満面の笑みのドンだが、女遍歴は果たして止むのか?

Season 4 の最終話「トゥモローランド」では、ドンはカリフォルニア旅行に同行したメーガンに運命を感じ、フェイを振り飛ばしてメーガンとの結婚を決める。確かにメーガンなら、ドンの秘密を知ったとしてもたじろがなさそうではあるし、あっという間に子供達も彼女に懐いてしまった。将を射んと欲すればまず馬から、の喩え通りである。
ドンの電撃的婚約を知ったペギーの動揺っぷり、また、その後の赤毛のホルスタイン、ジョーンとペギーの会話なども味わい深い。ジョーンもSeason 3あたりから、ただ巨乳を突き出し、お尻を振って歩いて人の羨むような夫を釣上げようと躍起になっていた女から、結婚はしたものの役不足の亭主に苦労させられつつ、健気に頑張っている尽くし型の女に変貌し、なんとなく好感度が上がった。人間、やっぱりちょっとぐらい苦労した方がいい、という示唆かもしれない。



余談ながら、Season 4ではドン達がプレゼンする見込み客としてホンダが登場したりする。やはりどことなく微妙な日本人像ではあるのだが、ここではロジャーの態度にアメリカ側の歪みもあらわに描かれていた。我儘ロジャーが第二次世界大戦時の遺恨を日本企業に大人げなくぶつけたりしてプレゼンをオジャンにしてしまい、バートラムも日本通の割には、あまり役に立たなかったりする。60年代の話だから、日本に対するアメリカの印象も、まだまだこんなものだったのかもしれないと思ったりした。
それにしてもロジャーってのは、年ばかり無駄に取って、我儘で横柄でプライドだけ無駄に高くて何の役にも立たないオヤジである。粗大ゴミ以下。若者ピートの方がよほどオトナになって頑張っているというのに…。苦労知らずの人間が年だけ取ると、こんなにもみっともない、という示唆かもしれない。


白髪になってもオトナになれない、苦労知らずの困ったオヤジ、ロジャー

さて、次のSeason 5予想であるが、メーガンと結婚して、ドンは少なくとも家庭においてはドンから本来のディックに戻るのだろうか。もしかすると、メーガンと家庭を持ったドンは、子供たちを引き取るべく、ベティと法廷闘争を始めたりするのかもしれない。子供たちだって、ベティの家にいるよりは、メーガンと結婚したドンが引き取った方が幸せに違いない。が、これまで、いかなる時にも女出入りが絶えなかったドンが、いつまでメーガンに誠実な夫でいられるだろうか。運命の女性を得たら、ドンの行状は収まるのかどうなのか。また反対に、すっかりマイホームパパになったドンなんて「MAD MEN」的にあり得るだろうか。品行方正なドンなんて、なんだか別のお話になってしまいそうでもある。かといって、暫くしていつもの浮気癖を出したドンの行状を知って、メーガンが第2のベティになってしまってもイヤだしねぇ。まぁ、メーガンなら浮気を知ったとしても見て見ぬフリをしつつ、ちくりと釘を刺す、またはお灸を据える、という感じだろうけど(笑)

煙草会社の撤退で経営状態が危うくなったSCDP社は、まだまだ苦闘が続くのか、それとも安易に窮地を脱するのか(もうその兆しが見えている気配だけど…)などなど、来シーズンも「MAD MEN」からは目が離せそうにない。シリーズ的にはSeason 4で終わりにしてしまっても不都合が無さそうなところを、いかにムリなく新たな局面でストーリーを展開していくのか、あらたな問題を提起していくのか、マシュー・ワイナーの腕の冴えに期待したい。

コメント

  • 2011/11/05 (Sat) 01:54

    kikiさんの解説はやはり、わかりやすいですね。
    アンナはシーズン4で亡くなるんですか。私、このドラマの中で彼女が一番好きです。

    ベティはますますヒステリックになって行くのですね。写真を見て、顔つきも最初の頃とずいぶん違うのがわかりました。

    ドンがディックに戻ったら…それはすなわちこのドラマの終わりなような気がします。

    ところで、この記事のトップの写真のジョン・ハム、かっこいいですね。きれいな横顔です。

    • ようちゃん #nWouq1oY
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  • 2011/11/05 (Sat) 22:41

    そうなの。アンナは亡くなるんですわ。彼女に最後に会いに行く回と、亡くなったという知らせが来る回は見逃したんですが、アンナの登場する回はなんとなく好ましいですね。そしてベティ。最初の頃と較べると如実に顔つきが変わってきてますね。陰険になってるものね。「ドンがディックに戻った時は、このドラマが終わる時」鋭い。確かにね。そうかもしれませんわ。
    ジョン・ハム。ちょっと頭が大きいけど、なかなか端正ですよね。ある意味古臭い二枚目だけど、それがこのドラマに合ってるのね。

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