ちょっと気になる俳優

バリー・ペッパー(Barry Pepper)
-時に繊細に、時に凶暴に-



大好きというほどではないが、何だか気になる俳優っていると思う。ワタシにとっては何となく気になっている俳優の一人にバリー・ペッパーがいる。バリー・ペッパーと名を聞いただけではすぐに分らなくても、「プライベート・ライアン」で凄腕の狙撃兵を演じていた俳優、とか、「グリーンマイル」で善玉の看守の一人を演じていた俳優、と言えば、あ~、あの人ね、と思うのではなかろうか。ハンサムというのではないが特徴的な風貌で、脇や準主役で出てきて非常に目立つ、という感じの人である。
ワタシがバリー・ペッパーを初めて見たのはご他聞に漏れず「プライベート・ライアン」だった。スピ嫌いのワタシも、この映画の戦闘シーンのリアルさには脱帽し、トラウマを抱えながら少数精鋭の兵士を率いて理不尽なミッションに向かわされるミラー大尉を演じるのがトム・ハンクスでなく、もっと渋い俳優だったら良かったのに…などと思いつつ、大尉を取り巻くトム・サイズモアやバリー・ペッパーらが演じる兵士達を見ていて、子供の頃にしつこいほど放映されていた再放送の「コンバット」をふいに思い出したりした。それはGIの軍服と噛み煙草が異様に似合う、俊敏で有能でラフでタフな兵士たちである。フランス語の話せる兵士が混じっていたのも、余計に「コンバット」チックだな、と感じたのを覚えている。


「プライベート・ライアン」

そんな兵士達の中でもバリー・ペッパーは特にいい感じだった。その独特の風貌も強い印象が残った。けれども名前まではチェックせず、それきり忘れていたら、次に「グリーンマイル」でお目に懸かった。あ、この顔はあの時の狙撃兵だな、と思った。が、やはり名前はチェックせずにそのまま月日が過ぎ、今年になってエドワード・ノートンの「25時」と、トミー・リー・ジョーンズ監督・主演の「メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬」という映画をビデオ・オンデマンドで観たら、そこにバリー・ペッパーが準主役で登場して、それぞれいい仕事をしていたので、遂にあの独特な風貌にはバリー・ペッパーという名前があることを脳裏に刻んだのだった。


「グリーンマイル」

「25時」は若者相手にいい調子で麻薬の売人をやっていた男(E・ノートン)が、何者かの密告により投獄されることになり、その7年の刑期を勤める直前の娑婆での1日を描いた作品。バリー・ペッパーはノートン演じる売人の友人で、ウォール街でマネーゲームに狂奔するトレーダー役。もう一人の友達役で登場するフィリップ・シーモア・ホフマンは、ユダヤ系の資産家の家に生まれつつも、その事を引け目に感じ、地味に高校教師をしている男を演じている。バリー・ペッパーのトレーダーは、「なんてバカだ。自業自得だ」と売人のノートンを言葉では切り捨てつつも、心の奥底では友達の行く末を思って苦悩する男のありようがよく出ていた。映画「25時」については、ムショ入りしたら、寄ってたかってオカマを掘られて、悪くすれば死ぬ、と刑務所入りに心底ビビるE・ノートンの売人に「そんなに?」と首を傾げつつも、実際の刑よりもそこに付随する状況により、アメリカの刑務所は犯罪者に恐れられているのだねぇ…と妙な感慨を覚えたりした。


「25時」

もう1本の「メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬」は映画としても好きな部類の作品。バリー・ペッパーは、テキサスのメキシコとの国境付近に新たに赴任してきた国境警備隊の隊員マイク。そのブロンドの女房役でジャニュアリー・ジョーンズが出ている事もあって観てみたのだが、映画としても面白かった。マイクは、アメリカ側に密入国して、ヤギの放牧をしているメキシコ人、メルキアデス・エストラーダを誤って射殺してしまう。メルキアデスと互いに唯一の友だった老カウボーイ、ピート(トミー・リー・ジョーンズ)は、彼を射殺したのは何者かを執念で探り出す。ピートは生前のメルキアデスの「俺が死んだら故郷のヒメネスに埋葬してほしい」という願いを叶えるため、アメリカ側で適当に埋葬されていた遺体を国境警備員マイク(ペッパー)を脅して掘り起こさせ、遺体とマイクを馬に乗せてメキシコ国境を越え、ヒメネスを目指して旅立つが…というお話。


「メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬」

前半は時間軸をずらしての編集で、話が行ったり戻ったりしてちょっと分りにくいのだが、後半の馬によるロード・ムービーになってからが俄然良い。再三逃亡を企てつつも、ピートのメルキアデスに対する深い友情(死者の望みを叶える事がピート自身の救済ででもあるかのような)に最終的にほだされる国境警備員のマイクを演じるバリー・ペッパーが、主役のトミー・リーを食って光彩を放っていた。高校時代から付き合っていて結婚したマイクの妻役で登場するジャニュアリーも、ブレイク前だが既に彼女らしい個性が出ている。さびれた田舎町に埋もれるには美人過ぎてムリ、という雰囲気がよく出ている。



また、テキサス州の辺境の町でウェイトレスをしながら、馴染みの男達を常客として自分も愉しみつつ小遣いを稼いでいるツワモノの人妻レイチェルに、こういう生活力旺盛なおばちゃん役は専門職であるメリッサ・レオが扮している。いやもう、とにかく上手い。というわけで、役者は男女ともに粒が揃っているし、真っ青な空の下、荒涼としたテキサスからメキシコへの馬での旅、登場人物の心模様など、非常に印象的な映画だった。これについては近々レビューを書いてみようかと思ったリしている。

そんなこんなで、バリー・ペッパーは気になる俳優である。近作には「トゥルー・グリッド」があるようだが、ワタシはこれにはあまり食指が動かないので未見である。そのうち見るかもしれない。TVドラマの「ケネディ家の人々」にもロバート・ケネディ役で出ていたようなのだけど、このミニ・シリーズはイマイチな印象で、あまりちゃんと見ていなかったのでバリー・ペッパーがどうだったのか、よく分らない。
しかし、シュアな仕事っぷりで確実に地歩を固めている中堅俳優のバリー・ペッパー。現在撮影中の「Broken City」はラッセル・クロウ、マーク・ウォルバーグ、キャサリン・ゼタ・ジョーンズらと共演で、ビリングは4番目である。ビリングが2番目~4番目あたり、というのがバリー・ペッパーらしさを発揮できる、いいポジションなのではないかと思う。役や映画によっては主役も張れるけれども、ど真ん中よりも少し脇にいて、中心の人を折々食ってしまう、というのがバリー・ペッパーではなかろうかと思う。


サングラスがやたらに似合うバリー・ペッパー(手前はケヴィン・スペイシー)

バリー・ペッパーは1970年生まれのカナディアン。子供時代は一家で太平洋上や近隣の島で暮らしたというボヘミアン生活を送った事があるらしい。面白い。ハリウッドで俳優として順調に歩み出してからも浮ついたところはなく、高校時代から付き合ってきた彼女と結婚した、というのも、なんだかいい感じである。こういう人にはそうあって欲しい。私生活はチャラチャラせず、仕事においては、内面的に複雑な役などを演じきって、きっちりといい仕事をする。これぞベストである。

役者としては演技力も確かで、凶悪な犯人も気弱な市井の男も、同じ説得力をもって演じられるタイプである。それこそは、ワタシが思う「いい役者」の条件の最たるものだ。だからこそ、様々な監督が彼を起用するのだろう。バリー・ペッパーはスター俳優などではなく、「いい役者」である。息長く、歳月を重ねれば重ねるほど、燻し銀の味わいが出てくるタイプの俳優だと思う。


「父親たちの星条旗」

スター俳優は目立つし美味しい事もあるだろうが、演じられる役も限られるし、なまじ演技力のあるスター俳優は、自分に廻ってくる役と演じたい役とのギャップに悩む事も多いだろう。ブラッド・ピットなどはその好例だと思う。彼はアイドル的なルックスの裏に、意外に確かな演技力を持っているスター俳優だが、やはりスター・イメージゆえに野心的な役を演じるという欲は制限せざるを得なかったように見える。観客も汚れのブラピは望まなかった。そして今、なまじハンサムマンで売ってしまったために自らのスター・イメージに殉じて50歳で俳優を引退しようと決めているらしい。確かに二枚目としての賞味期限は切れ掛かっているし、それはそれで賢明な選択だと思うが、ブラピなどを見ていると好き勝手に生きているように見えつつも、スター俳優としての自分のイメージに絡め取られて、それなりに不自由な俳優人生を忍んできたのかな、という感じもする。
一方で、スター俳優から性格俳優への転身途上にあるのがレオナルド・ディカプリオだろうか。10年前ならディカプリオのE・フーバー役なんて考えられなかったと思うけれど、少し肉付きがよくなり、若い頃のほっそりした美少年の面影が消えうせて(どんどんF・シーモア・ホフマンに近づいてきているので)、役の幅が広がった観がある。何かを得たら、何かを失うのだ。何かを失ったら、別の何かを得るのである。
バリー・ペッパーは、スターのオーラなどはあまり無いかもしれないが、役者として現している可能性は広く、深いし、また年代ごとにいい仕事のできる貴重な俳優としてのありようをしっかりと固めていると思う。彼はいわゆる玄人受け、同業者受け、同性受けのする俳優のように感じる。女性からよりも男性からの支持が多いような…。女性が彼を見て、きゃ~素敵!と思う率はそう多くないかもしれないが、男性が、変な意味でなく同性として、「あいつ、いい感じだよ、シブイよね」と思うタイプであるだろう。それはそれで役者としてのある種の勲章といえなくもない。今後も大作や話題作に準主役級で出つつ折々主役を食い、小味な小品やTVドラマなどで主役を演じたりするであろうバリー・ペッパーに、ひそかに注目していきたいと思っている。

コメント

  • 2011/11/20 (Sun) 15:51

    kikiさん

    同感!です。プライペートライアン以来、私もバリーペッパーに惹かれるものがあり、でも一気にご執心ではないので静かに長く続くという感じでお気に入りです。
    何かを得たら何かを失う、何かを失ったら何かを得る。名言ですねえ。ふとジェイクはこれから何を得ていくのかしらと思いましたわ。

  • 2011/11/20 (Sun) 21:17

    ふうさんも気になっておられましたか、バリー・ペッパー。スター性はないから、わーっとファンにはならないけど、なんとなく気になるし、印象的な俳優ですよね。いい仕事してると思います。
    ジェイクも現在は過渡期にあるかな、という感じですが、彼は華のある個性派俳優という感じでやっていかれるんじゃないかな、と思います。企画と役に恵まれて、この先もどんどんいい仕事をしていって欲しいですね。ジェイクも、それこそ50前後で俳優を辞めて、監督か制作に転身しそうな気がしますね。彼がこの先、何を失って何を得ていくのか、静かに見守りましょう。

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