「ラブ&ドラッグ」 (LOVE AND OTHER DRUGS)

-たとえ生涯に何人の人間と出会うとしても…-
2010年 米 エドワード・ズウィック監督



全米では昨年の11月封切りだった本作。実に丸々1年遅れでの日本公開。それもかなりの限定公開で、東京ですらシネマート新宿1館のみでしか上映されないレアっぷりである。昨年の今ごろはこの映画を見たくて堪らなかったが、さすがに1年もたつとDVDを出してくれれば、上映(しかも新宿のみだし)なんかしなくてもいいけど、などと思い、どうしようかねぇと思ったのだが、折角1年前はあんなにも待っていた映画が観られるわけだから、DVDを待たずに一応観てみるとしようか…とシネマート新宿へ。
結果は観て大正解。これはコメディではない。れっきとしたドラマである。そして、ジェイク・ジレンホールアン・ハサウェイも互いに良いところを引き出されていて、二人の間には確かにスクリーンの中でインティメットなケミストリーが発生していた。ストーリーはある程度知っていたし、映画は想定された雰囲気を超えまいと観る前は思っていたが、どうしてどうして。観て良かった。ジェイクは「ミッション:8ミニッツ」とはまた別な面を出しつつも、やはりジェイクらしい繊細な魅力が存分にほとばしっていた。
できるだけ空いていそうな時間帯にサクっと観てしまおうと、午後から友人と約束のある休日の午前中、初回上映を観に新宿三丁目に行ったのだが、全然空いているだろうと思ったらチケットを買うのに列が出来ていた。もっとも62席しかない小さなシアターではあるのだけれど、それにしても休日にせよ初回なんてどこでも席が選び放題だろうと思っていたら、なんと立ち見か否かの瀬戸際だったりして…。予想外の展開である。どうにか席は確保できたがかなり前。それでもシアターは新しく、前の席との間はかなりゆとりがあり、スクリーンも小さいので、ある程度の距離感を保って観る事ができた。結果的に62席ながらシアターは満席だった。中には明らかにアン・ハサウェイのヌード狙いのオッサンなんかも散見されたりして…ヌード、侮りがたし。

そして、本作。確かに随所にコメディタッチの部分も見受けられるが、映画そのものは人間ドラマであってコメディではない。冒頭、電気店で軽快に客に電気製品を売り、名刺を手当たり次第に配るジェイミー(ジェイク)の様子は、ノリがよくコメディタッチのようではあるが、ジェイク演じるジェイミーがチャラ男を装っているのと同様に、映画もシリアスな実相をコメディタッチの冒頭で装っているのだな、とそのうちに分ってくる。監督はエドワード・ズウィック。ただのちゃらちゃらしたロマコメを撮るわけもない。



ジェイクは冒頭部分では、女とみれば挨拶のように口説く女蕩しの役を楽しそうに演じていて、それはそれで似合っている。そういうジェイクもファンには楽しい。彼について、いつも上目遣いのじっとりと内面的な草食男子のイメージが抜けない人も多いかもしれないが、現在のジェイキーはハリウッド・ハンクの筆頭であり、ハンサムでセクシーな独身セレブとしてホットな注目を浴びている存在なのであるから、モテ男だってもちろん違和感なく演じられるのだ。ただ、この映画が引き金になってか、昨今マスコミにウーマナイザー(女蕩し)的扱いを受ける事が増えたようなキライのあるジェイク。意欲的なチャレンジというのは何かと厄介な副産物も発生させるものである。


ウーマナイザー? ジェイキー

電気店店長の妻をこまして首になったジェイミーは、医療業界向けソフトで一山当てたおタクな弟のアドバイスにより、医薬品のセールスマンに転身する。本作は、ファイザーで「バイアグラ」のセールスマンとして全米No.1になったジェイミー・レイディの自叙伝をベースにしているので、ジェイクは途中でバイアグラのセールスマンとして目覚しい売り上げをあげるという展開になるのだが、本作はベースになったノンフィクションのシチュエーションを借りただけであって全く別物であろう。アン・ハサウェイ演じる難病の女性などは原作には登場しない。観終ると、別にバイアグラ・セールスマンの伝記を元にしなくても良かったんじゃないの?とは思うが、病院相手の薬品会社のセールスマンのえげつない営業合戦はつとに有名ではあるし、ソフトな内幕物の雰囲気もあって、薬を売ろうとあの手この手で懸命に頑張るジェイクを見ているのもそれなりに楽しい一コマではある。



アン・ハサウェイは演技力は確かなので、若くしてパーキンソン病を発症し、じわじわと体が動かなくなっていく恐怖に一人で耐えながら、必死に片意地を張り、自分が傷つきたくないのと、相手を苦しめたくないのとで、深入りする恋愛関係には陥らないようにと、心にバリケードを張っている女性の役を上手く演じていた。そのエキセントリックささえも痛々しいような感じがよく出ていた。ジェイクとアンの掛け合いがテンポが良く、知的で非常にいい感じであるし(アンのセリフに、相手の心理を先の先まで読んでいるようなところがあって、畳みかけるようなテンポがスリリングだ)、二人があまりに自然に演じているので、自分が空気になって若い恋人たちの部屋にいるような気分になる。映画を観ているというよりも、そういうカップルの日常を彼らを取り巻く空気になって見ている、というような気分になった。



ジェイク演じるジェイミーは、医者の息子で医学部中退。多動性何とか、という症候群のために落ち着きがなく勉強に集中できないので医者になる道を断念した。オヤジの期待を裏切った不肖の息子である彼は、それまで誰とも真剣に向き合った事がなく、誰も愛した事がなかった。彼がなぜ、チャラ男を装って甲斐もない浮名を流して生きてきたのか、そのへんのところがやや説明不足ではあるが、チャラ男は結局プリテンドであった、というのはジェイクが演じているのでさもありなん、という感じ。そうでなくてはジェイクが演じる意味もないだろう。その彼からチャラ男の仮面を引っ剥がしたのは、難病持ちで、気まぐれで、エキセントリックなマギー(アン・ハサウェイ)だった、というわけなのであるが、それまで言葉の駆け引きや、一瞬のスキをついて女性たちの心を掴み、彼女たちとベッドを共にしてきたジェイミーが、面と向かって、これからどうやって口説いていこうか、というあたりで「いいわよ、寝ましょう」と突如、直球ど真ん中に投げ込んでくるマギーにコロリと参ってしまう。勘がよく、度胸がよく、美人でユニークなマギーは彼がこれまでに出会った事のない種類の女だった。しかし、彼女は不治の難病を抱え、今はどうにか普通に生活していても、そのうちには寝たきりになってしまうさだめを生きている女でもあったのだった…。



前宣伝通り、二人はラブシーンが多いし、確かに大いに脱いでもいるが、露骨なシーンは殆ど無い。行為の前と後が魅力的に描かれている、という演出である。それにしても二人が最初に関係するシーンでは、そのあまりの欲望の噴出っぷりに、肉食獣は激しいなぁ…と思わないではないけれど、映画を観て行くうちに、アン演じるマギーのあけっぴろげな性欲は、刹那的に生きている彼女にとって、今日も元気に、人並みに生きている、という事を確認するための儀式であるようにも見えてくる。
結局のところ、二人は内面的な奥深いところで結びついたのであって、体の関係は、最終的には重要なファクターではない。そこは映画の宣伝の為に、そっち方面だけがイメージ的に強調されてしまっているが、男女の結びつきも肉体関係だけが全てではないので、あまりそういうシーンを盛り込まなくてもいいのになぁ、と思ったのは「ラスト・コーション」以来だろうか。(でも勿論「ラスト・コーション」のような露骨なシーンは1つもない)とはいえ、ラブシーンはロマンティックに撮られているし、二人とも綺麗に締った体をしているので、脱げるうちにどんどん脱いでおくのも悪くないだろう。にしても、バイアグラだのジェイミーの放縦な性生活だのは、余計な装飾だな、という気がする。そのへんの、とりあえず観客を映画館に誘導するための餌、が無ければ、確かに、そこいらにゴマンとある、ただのラブストーリーになってしまうのかもしれないけれど…。

おそらくはマギーが本心をさらけ出して、人恋しさを全開にして擦り寄ったら、ジェイミーの興味はあっという間に引いたのかもしれないが、何しろ、本当は心細いに違いないのに、「こうして二人でご飯を食べて、そのうち同棲するようになって、なんて、そういう関係は御免なの」なんて距離をおこうとされると、男としては、いやが上にも近づきたくなってしまうわけである。
おそらく、マギーは早い段階でジェイミーに惚れてしまったので、一生懸命に深入りしないように防波堤を作っていたわけだが、ジェイミーの方に本当の気持ちが芽生えたのは、パーキンソン病の患者が行く末どうなってしまうのかを知って暗澹とした、その後からなのかもしれない。
いずれはオムツを当てて寝たきりになり、表情も乏しくなり、頭もボケてしまうかもしれないと分っていて、医学の発達や思いがけない発見に一縷の望みを託しつつ、その人と共に生きるというのは並大抵の決意ではない。ここまで極端じゃなくても、結婚というのは大なり小なり相手の人生を引き受ける事ではあるのだろうけれど…。

映画を観ていて、フィーリング的に「P.S.I love you」をちょっと思い出したりした。
脇では、ジェイク演じるジェイミーの母親役で、これが遺作になったジル・クレイバーグが1シーンだけ、顔を見せていた。ジェイクの上司役で登場するオリバー・プラットは、あまり演じ所のない役ではあったが、出ているという印象だけは残ったという感じである。


いい感じの二人ではあるが、良い友達というやつで映画の中だけのカップルのようだ

映画を観た誰しもが思う事だし、批評にも随分書かれていたようだけれど、ジェイク・ジレンホールアン・ハサウェイのスクリーン上のコンビネーションはお見事で、セリフの掛け合いの息も、感情がスパークするシーンでのエモーショナルなテンションもバッチリだった。冒頭のチャラ男仮面は中盤から剥がれ落ちて、最終的には、ジェイクはいかにも彼らしい純愛の男を結局は演じているのだけれど、彼がアンのマギーに言う「生涯に出会う人間は何千人といるかもしれない。だけど、人生を変える相手は一人だけだ」と言う台詞にはいかにも彼らしい情感が滲んでいて、実生活でも、こんなに「ハンサムで、チャーミングで、優しくて、頭もいい」ジェイクにベストマッチな「人生を変えるような女性」が現れるといいなぁ、と思いつつ映画館を後にした。

コメント

  • 2011/11/28 (Mon) 12:43

    うぬぅ、"Love and…"は、そんなところで上映が始まっていたとは。Source Codeすら見ていないのに(涙)

    以前、YouTubeにジェイクとアンがベッドで食事しているシーン(写真の場面)がアップされていたことがありました。そこでジェイクがしみじみと言う「This is....nice」がものすごく良くて、たった一言なのにジェイミーという人物のこれまでも現在も、恋する気持ちが一段深まる瞬間も全部表せるジェイクはやっぱり素晴らしいわ~と思ったのでした。この映画、画面の色というか空気感も良さそうですよね。
    最近の気分から言うとSource Codeはちょっと重たいので、これは何とか見に行きたいです~~

  • 2011/11/28 (Mon) 21:54

    kikiさん

    羨ましい限りです..福岡で1軒、12/3からの上映があるようで、そこがわが住所から一番近い、でも時間的に飛行機で日帰りできない..DVDになるのを待つしかなさそう。ミッション8と違ってネタばれでも問題なさそうな映画のようなので、kikiさんの投稿をじっくり読んでおります。

  • 2011/11/29 (Tue) 01:11

    xiangさん、そうそう。「This is....nice」というシーン、しみじみしてましたね。ウン。それと、誰にも言った事のなかった「I love you」を初めて彼女に言うシーンでバクバクして過呼吸症みたいになったのも可愛かったです。シモネタ絡みのコメディ部分がドラマから少し浮いているような気もしなくもないけれど、合間合間に笑いで包まないと、実質はけっこうヘビーな話でもあるので、やたらに重くしないためにコメディ要素を取り込んだのかな、という感じがします。それにしてもジェイクってつくづくとスィートな俳優だなぁ、と改めて思いましたわ。観終るとジンワリとしますよ。これは観たくても観られない人の方が多いだろうので、是非上映中に頑張って観に行かれてください。ただ「ミッション:8ミニッツ」の方があちこちのシネコンでやっているから状況的には見易いかもですね。この新宿のミニシアター、ほんとに小さな箱だしサービスデーは混みそうだから、通常の夜の回とかに行かないと入れないかもです。

  • 2011/11/29 (Tue) 01:15

    ふうさん。全国的にも片手でおさまるほどの映画館でしか上映しないので、かなりレアですよね。でも、こういう限定された公開の作品はDVD化も通常より早いような気がするので、来年の早い時期にはDVDで観られるんじゃないでしょうかしらん。いやもう、ジェイクはスィートです。これはこれで、とても彼らしい映画になってるな、という印象でした。DVDになったら是非!

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する