鎌倉の紫陽花とお屋敷見物

-紫陽花と旧前田家別邸-



紫陽花見物および建築探訪で久々に鎌倉を散策。
紫陽花の寺は幾つかありますが、一番の目当てだった成就院の紫陽花は
まだほとんど咲き始めのようで、見物するほどではなさそうだったので
人が多そうなのを覚悟して長谷の長谷寺で紫陽花を見物。
これもまだちょっと早かったのだけど、盛りになると20分待ちで紫陽花の道を
散策するという愚かしい事になるので、多少早くても、まだ写真撮ったりしつつ
のんびり見物できる方がいいか、と思いましたのね。


長谷寺

長谷寺は大仏で有名なところなので、年がら年中観光客が絶えませんわね。
北鎌倉の明月院は過去に何度か行っているので今回は除外し、
成就院がよさげだと思ったのだけど、まだあまり咲いていないとのことなので、
長谷寺へ。果たしてけっこう人は居りました。
人力車の客引きも多くて、京都の嵐山あたりを歩いているのと同じ感じ。

紫陽花散策コーナーは階段をつづら折に昇って、本堂の脇から、
さらに竹林とお堂の裏手の斜面に作られた紫陽花散策の階段道を登って観賞し、
巡って降りてくるという作りになっています。





ワタシは、ガクアジサイが好きなので、写真はもっぱらガクアジサイを撮るという感じ(笑)










紫陽花だけでなく、花菖蒲も咲いていた

長谷寺は、竹林とお堂がなかなか良かったです。
人が少なければもっと良かったんだけど…。




さて。今回の鎌倉散歩は、この紫陽花はついででして、
実は目当ては他にありました。
それは
この長谷寺から歩いて10分ぐらいのところにある、
鎌倉文学館(旧前田侯爵別邸)を見物することです。

前から一度行ってみようと思いつつ、いざとなるとコロリと忘れたりして
なかなか行かれなかったのだけど、今回はちょうど近くの長谷寺で
紫陽花見物というのとセットで遠くなった鎌倉行きの動機になりました。

文学館と銘打ってはいますが、別にこれという値打ちものの
文学資料があるというのではなく、鎌倉に住んでいた文士たちの写真やら、
彼らの本、鎌倉が舞台の小説の本が飾られていたりするだけで、
(もっとあったのかもしれないけど、あまりちゃんと見ませんでした。
でも大仏次郎と小林秀雄が連れ立って歩いている写真はちょっと良かった)
主眼は文学館という形にして、「旧前田別邸を敷地ごと残すこと」
の方にあるのだと思います。

ここは前田家が由比ガ浜の海に面した斜面をまるまる別荘地として所有していた所で
今に残る洋風建築は、16代目の当主、侯爵・前田利為が建てた「長楽山荘」という別邸です。

例の三島由紀夫の小説「春の雪」では、侯爵家としての松枝(まつがえ)家の格や裕福さ、その東京の本邸や鎌倉の別邸のありようなど、悉く前田侯爵家のそれをモデルに描かれているんですわね。


うっそうとした樹木の中に表門があり、その脇に入館料(300円)を払う受付がある

この前田侯爵の別邸「長楽山荘」も小説の中で「終南別業」と名を変えて
登場します。長谷寺に近く、裾が由比ガ浜に達する小高い丘の上に敷地があったので、
シャムから日本に留学に来た二人の王子たちを夏に鎌倉の別荘に招いた
松枝清顕が、王子たちと別荘の裏山を散策していると、突如、
木々の間から長谷の大仏の頭部が見え、シャムの王子たちがその場に
額づいて祈りを捧げるシーンがあります。この大仏を遥拝するシーンは
映画「春の雪」にも挿入されてましたが、鎌倉文学館でロケはできなかった
のか、建物は映画には登場しませんでした。

『青葉に包まれた迂路を登りつくしたところに、別荘の大きな石組みの門があらわれる。
王摩詰の詩の題をとって号した「終南別業」という字が門柱に刻まれている』

と「春の雪」の中で三島由紀夫が描写しているのは、別荘の名前「終南別業」以外は
全て、その描写の通りです。この一文は文学館の中にも、勿論紹介している
コーナーがありました。


敷地の中にトンネルがある


敷地内は鬱蒼たる、深い緑の森に囲まれている

『(別邸は)一万坪にあまる一つの谷をそっくり占めていた。
先代が建てた茅葺きの家は数年前に焼亡し、
現侯爵はただちにそのあとへ和洋折衷の、十二の客室のある邸を建て、
テラスから南へひらく庭全体を西洋風の庭園に改めた。』

という描写も、事実の通りに書かれてあります。が、建物の描写はモデルに使った
前田侯爵のものに忠実でも、物語や、登場する人物はなんら前田侯爵家とは
関係ありません。(どうでもいいけど、一応ね)


テラスから由比ガ浜を望む (館内は撮影禁止なんだけどこっそりとね)


旧前田侯爵別邸の玄関





なだらかな庭の芝生から別邸の全容を望む


庭の一角に大きな椰子の木があり、凄く目立っていた


椰子の横にある、相当に樹齢のありそうな古木

庭の芝生を降り尽くしたあたりに薔薇園がありました。
折りしも6月で、各種の薔薇が色とりどりに咲いていて、
紫陽花ついでに薔薇も眺められてちょっと得した気分に。




薔薇園の向こうの洋風建築 なんとなく北区の旧古河邸と似た眺めだった


珍しい色の薔薇もあれこれとあったが、薔薇はすぐに花びらが衰えるのでイノチが短い気がした



これぞ薔薇、モロに薔薇!という感じの薔薇も一枚


別荘の裏手に紫陽花が咲いていた

旧前田別邸は、内部は写真禁止なので、とりあえず部屋ごとについている
装飾的なステンドグラスなど、じっくりと眺めてきましたが、
とにかく、広い庭と植物と、遥かに眺める由比ガ浜というのは、実に素敵でした。

かなりじめついて湿度の高い日だったのだけど、樹木が多く、海からも涼しい風が
吹いてくる前田別邸にいる間は、終始、涼しい風が吹き抜けていて、
とても心地良かったです。なるほど、夏の別荘としては申し分ない快適さ。
金持ちはいい場所をみつけて建物建ててますね。

この緑深い前田別邸の、敷地の中にトンネルがあったり、あちこちに竹藪が
あったりする様子を眺めて、そういえば一般公開されてない熱海の岩崎別邸「陽和洞」
は、こういう雰囲気なのかしらね、とちらっと思ったりしました。
まぁ、「陽和洞」の方が山1つ買って敷地にしているので、もっと広いんだろうけど。
庭の大きな椰子の木など、強く南のイメージを喚起させる植物の様子も
熱海もきっとこういう感じだろう、と思ったりね。



また、薔薇園+お屋敷の光景は北区西ヶ原の古河庭園と似ています。
ワタシが北区に足を踏み入れたのは、この古河庭園の見物と、王子の三百人劇場
に古い映画のリバイバル上映を観に行った時の2回だけです。
とかく東京の北側は未踏の地です。(笑)板橋区になると一度も行った事ないかも。

そういえば、映画「それから」の代助の実家として撮影に使われた芝生の庭のある西洋館は一体、どこでロケをしたのだろうかという疑問に、鎌倉文学館ではないかと答えてくださった方がいましたが、今回、目の当たりに鎌倉文学館である旧前田別邸を観て、映画に使われた建物ではないことが分りました。
広い芝生の庭と西洋館というのは、よくある取りあわせですが、このロケにはどこのお屋敷を使ったのか、エンドタイトルにも出てこないし、いまだに謎です。

尚、旧前田別邸の敷地を入ってすぐの左側に白い漆喰の塀に囲まれたお屋敷が
ひっそりと門の向こうに建っているのが見えました。
表札には「前田」と出ていたので、前田家の現当主のお宅なのか、どうなのか。



前田家は本邸も別邸も、うまい形で現在に残す事ができた幸運な家かもしれません。
大抵はもう、一体どうしてこんな事に?とか、このへんにあった筈だけど…なんて事に
なっているのがザラ。何しろ空襲でかなりやられたし、その後は開発と老朽化で
消えていく一方なわけですから、よく、そのままの姿で残せたな、と何か感慨に近い
ものを感じました。

久々の鎌倉。あまり余計なところに行かずに、できるだけ混雑にまかれない
ように楽しむべきところを楽しんできた、という感じでした。

…それにしても、鎌倉は年中、人が出盛ってますね。
まぁ、観光地としてはお金が廻って結構なんだろうけど、
今の鎌倉は住むところじゃないな、とつくづく実感。
昔の、あまり人の来ない別荘地だった頃はさぞよかったでしょうけどね。

でも、普通の民家でも、時代のついた、素敵な和洋折衷の木造建築なんかが
建ってたりしてなかなか風情がありました。


ちょっと失礼して撮らせて貰った一般のお宅 木造でなかなか素敵な家だった

でも、住むのは不便そうだし、絶えずよそものがうろちょろする場所
なんて、さぞ落ち着かないことでしょうね。

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