「昼顔」

~奥様の危険な白日夢~
1967年 仏 ルイス・ブニュエル監督



フェチフェチシリーズ第2弾というわけでもないが、ふと思い出したので「昼顔」などひとつ。
これは言わずと知れたフランスを代表する大女優(になってしまった)カトリーヌ・ドヌーヴの代表作。最も美しい頃の1本だが、彼女は随分長らくこの頃の容姿を保っていた。およそ90年代の初め位まではあまり印象は変らなかったと思うのだが、さすがに90年代も終わり頃になると顔のイメージはさして変らないものの、体がドッカリとしてきて今や堂々たるマダム体型になった。
ワタシはドヌーヴもけして太らない人だと思っていたので、50代後半でついにドッカリとしてきたドヌーヴをみて、美食とワインの国ではやはり更年期以降もスタイルを保ちつづけることは不可能だったのかな、と思った。ワタシが密かに日本のドヌーヴと思っている岩下志麻女史は、若い頃からずっと体重が変っていないようにお見受けする。さすが姐さん。気構えが違う。どっかりマダム体型になっても第1線で活躍しているドヌーヴはさすがであるが、ワタシとしてはずっとホッソリしたイメージのままでおばさんになって欲しかったなぁと思わないでもない。まぁ、そのドッカリしてもオバハンになっても主役を張れるところがおフランスなのであって、何がなんでも若くて細くなければ、というアメリカや日本のような小娘至上主義ではない文化の底力なのかもしれない。



さて「昼顔」は、ハンサムでお上品で、勤務医だけどお医者さんであるという結構な旦那を持ちながら、自らのうちなる衝動に突き動かされて売春をしないではいられない若妻のお話である。もう、とにかくおフランス的隠微な世界観に満ち満ちているのだけど、それをドヌーヴがあの無機的な容姿で演じるので生々しさが消え、観念的なものさえ立ち上って来たりする。ドヌーヴ演じるセヴリーヌは、少女の頃に既に自らの内側の危うい衝動に気づかされている。それを封印したまま結婚をするのだが、冷感症であることを理由に優しい夫は拒みつつも、主婦売春をしているという知人の噂を聞くや、どうしても衝動を抑えきれず、ついにもぐりの売春宿の扉を叩いてしまう。そこで昼だけ体を売るので「昼顔」という源氏名を貰うのである。セヴリーヌはMである。夫を裏切りつつも、夫に罰されたいと願うアンビバレンツな心境にうっとりと酔っている。罰されたいので裏切っているのかもしれない。常に彼女の夢の中で夫は彼女をサディスティックにいたぶるのだが、鞭打たれたり、銃で撃たれたりしながら、彼女は満足そうに恍惚として目を閉じる。世間に知られない秘密の生活を持つことで、彼女は傍目には明るくなり、二重生活は支障なく続く筈だったが、知人に嗅ぎつけられ、また店の常連の若いヤクザが彼女に執着するあまりに家に押しかけてくるなどして、彼女の二重生活は破綻する。そして、若いヤクザは嫉妬のあまり、罪もないセヴリーヌの夫を銃撃する。一命は取りとめるが夫は下半身不随の上、失明するという大災難に見まわれる。ナンタルチヤ。車椅子に座り、サングラスをかけ、生ける屍のようになった夫の傍で、セヴリーヌはもう外出もせず、刺繍などしながら甲斐甲斐しく(見ようによっては嬉々として)夫の世話を焼く。冒頭とラストで枯れ葉の馬車道を、シャンシャンと鈴の音を響かせて行く二頭立ての馬車が登場する。冒頭では夫とセヴリーヌが幸せそうに寄り添っている。ラストでは、馬車は空で御者以外誰も乗っていない…。



ドヌーヴはこのあたりではまだ物凄い大根女優っぷりである。殆ど無表情で、ルックスのみで押しとおすという感じなのだけど、それでも堂々と乗りきってしまうところが、後年大女優になる片鱗であろうか。彼女に売春宿の存在を教える知人役のミッシェル・ピッコリは実生活でも関係があったし、若いヤクザを演じるピエール・クレマンティともちょっとの間、付合いがあったらしい。さもありなん。夫役のジャン・ソレルとも何かあったら、もう総ナメのようなものであるがそれはどうかわからない。…脱線。
もぐりの売春宿で、セヴリーヌが見聞し体験する事の数々よりも、彼女の白日夢のような妄想シーンに、特に、監督ルイス・ブニュエルのビョーキな感性が横溢している。主婦売春など今日珍しくもなんともない題材だが、妄想シーンの奇妙な美しさがこの映画を特異なものにしていると思う。

60年代ファッションも満載。ヘップバーンのジバンシーに対抗して?ドヌーヴはサンローランを愛用しているが、この時代の服なので「シャレード」のヘプバーンのファッションと、「昼顔」のドヌーヴのファッションは雰囲気がとても似ている。この時代はミニスカートにローヒールの靴で、髪はキューっと夜会巻きのようなアップにしたりしていた。ドヌーヴは量の多いその髪を何度か違う形で巻き上げ髪にして登場する。(ラストでは観音様かウルトラマンを思わせるヘアスタイル)ピン1本できゅーっと巻きあがっていた髪がピンを外すとパーっと扇のように広がりつつ下りるシーンなど金髪(でも偽物)だけに圧巻。ワタシは彼女が家の居間で着ている茶のノースリーブのシンプルなワンピースが好きで、見る度このワンピース欲しいなぁなどと思ったりしている。

話の内容そのものよりも、コートや帽子やバッグや靴など、シンプルだけどお金のかかっていそうなドヌーヴのファッションと髪型を見るために時折、見る作品。ドヌーヴって案外、顔が大きめである。

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