シャーリーとマイキーですってよ



これをシャーロック・ホームズと言われても…という印象が強くて、全く観る予定の無かったガイ・リッチーのなんちゃってホームズ物第2弾「シャーロック・ホームズ シャドウゲーム」だけれども、友人が「どうしても観たい!行こう!」というのでウ~ムと思いつつも先日、割引デーのシネコンで付き合い観賞してきたワタクシ。まぁ、一応、アイリーン・アドラーを影で操っていたモリアーティが登場し、ライヘンバッハの滝も描かれるようなので、BBC版「Sherlock」で、モリアーティとの宿命の対決を堪能した折でもあり、映画ではどういう事になっているのか観てみるのも一興か、というわけで浮世の付き合いでシアターへ。
で、どうだったかというと、1作目よりも娯楽映画としては面白くなっていたし、美術と撮影は前作もそうだったけれども、今回も素晴らしいので(こんな映画にはちょっと勿体ないような映像だった)上映中はそれなりに楽しく見たが、エンドタイトルが流れ始めた途端に映画の印象はスポーンとどこかにすっ飛んで行ってしまい、後にはキレイサッパリと何も残らなかった。まさに観ている間だけそこに存在している、という娯楽映画である。

孤独を愛する変人のシャーロックという部分だけは何となくそれらしくもあるけれども、別に全然シャーロック・ホームズでなくてもいいのでは?と思ってしまうロバート・ダウニーJrのホームズは、やはり全くホームズらしくない。今更だけれども。(笑)
ジプシーの芸人みたいなホームズ。
ジプシーといえば、今回はジプシーの占い女の役でノオミ・ラパスが出ているという事でも話題になっていたっけ。確かにジプシー役はよく合っていたし、可もなく不可もなく演じていたけれども、別にノオミ・ラパスでなくてもいいような気もした。



著名な大学教授であり、犯罪王でもあるモリアーティを演じるのは、「MAD MEN」での英国人管理職・プライス役でもお馴染みのジャレッド・ハリス。それなりにハマっていたと思う。



2作目の「シャドウゲーム」にはモリアーティ以外にもお馴染みの人物が初登場する。それはホームズの兄、マイクロフトである。「シャドウゲーム」でマイクロフトを演じるのは「オスカー・ワイルド」(1997年)でタイトル・ロールを演じたスティーヴン・フライ。とにかく肉付きのいい大男で、いかにも変人ぽいし、そういう部分は原作のマイクロフトに近いかなとも思うのだけど、何せスティーヴン・フライが演じているので本作のマイクロフトはどことなくホの気が漂っている。
新婚旅行中の列車の窓からホームズが湖か河に叩き落としたワトソンの嫁を掬いあげて暫し匿うシーンで、自分の別荘の中とはいえ昼日中から真っ裸のマイクロフトは、相手が女性であっても誰かが居るというのは嬉しい事だ、というような事を言う(本質的には女性は歓迎しない、というニュアンスが漂っていた気配)。マイクロフトって何となくホな感じのキャラがはまるのかもしれない。スティーヴン・フライとジュード・ロウは、もしかして「オスカー・ワイルド」以来の共演だろうか。ともあれ、今回の二人はもちろん手も握らない間柄である。(笑)



そしてちょっと笑ったのは、ガイ・リッチー版ではマイクロフトとシャーロックの兄弟は、それぞれ「マイキー」と「シャーリー」と呼び交わしているという部分。ワタシは思わずBBC版のベネディクト・カンバーバッチとマーク・ゲイティス演じるホームズ兄弟が「マイキー」、「シャーリー」と呼び合っているシーンを想像してしまい、う~、プルプル、と頭を振った。


「大丈夫か?シャーリー」 「構わないでくれ、マイキー」 なんてね(笑)

21世紀でもきっちりとシャーロック・ホームズであるBBCの「Sherlock」と、なぜにどうしてこれがシャーロック・ホームズ?と首を傾げてしまうお笑い武闘派のガイ・リッチーの「シャーロック・ホームズ」で、唯一共通しているのは、シャーロックとワトソンの間のブロマンスをそこはかとなく描いているところであるが、ガイ・リッチー版の方は、ベクトルが一方的にシャーロックからワトソンに向っている。ワトソンをジュード・ロウが演じているという事もあるのだろうが、ホームズは、常につれないワトソンを一生懸命に追いかけている、という雰囲気である。ワトソンの方はシコメの深情けに些か辟易気味の男、という気分でもあろうか(笑)
結婚により221Bを出ていくだけでなく、別の場所で開業するので、もう、これまでのように自分の助手として行動を共にはしてくれなくなるであろうワトソンと離れなければならないのが寂しくて仕方が無い、という雰囲気がロバート・ダウニーJrのホームズからヒシヒシと出ていた。



BBCの「Sherlock」におけるブロマンスは双方から互いにベクトルが向いている。シャーロックの方は、最初から割に無条件にワトソン君を気に入ったような感じだけれども、ワトソン君の方は、その特異な能力は認めても、当初は一体何なんだ、この男は!これでも人間なのか?という感じでもあったシャーロックについて段々に理解し、いつしか自分でも意識しないような自然な愛情をもって、手の掛かる「アスペルガーの天才児」的なシャーロックに接するようになっている、という感じがする。



軍医であるから、ある程度の事には動じず、毎度検死にも立ち合ってくれるし、ある程度ワガママを言っても、癇癪を起しても、辛抱強く相手をしてくれるし、常識人としての振舞いや、世間一般の慣習について教えてもくれるし、とっぴな言動をたしなめてもくれる。ワトソン君はシャーロックにとって、友達で、同居人で、仕事の相棒で、唯一の話し相手で、更には社会学のコーチでもあるという、かけがえのない貴重な存在である。



ワトソン君にとってシャーロックはというと、往々にして頭に来る言動はあるにせよ、卓越した能力の持ち主であり、なんだかんだいって可愛いところもあるし、割にちゃんとした家に育っていそうだし、仲が悪いようでも互いに依存しあっている社会的に確固とした地位のある年の離れた兄もいる。シャーロックと兄とは、まるきり没交渉のワトソンと姉のように関係が断絶などはしていないわけである。また、シャーロックの傍にいれば何かと事が起きて退屈もしない。戦地から負傷して戻ってきて、一人で何もないガランとした部屋(安宿?)で寝起きしていたワトソンは、一見シャーロックよりもまっとうな人のようだけれども、実はシャーロックよりもずっと殺伐とした背景を持った、孤独な人間だったのかもしれない。

***
「シャドウゲーム」では、ホームズのルックスとおちゃらけたキャラ以外は、一応のところ原作のムードを活かそうとしているので(例の「都合がよければただちに来い、都合が悪くてもとにかく来い(Come at once, if convenient. If inconvenient, come anyway.)」というホームズの有名なセリフも出てきていた)、スイスのモリアーティの別荘のテラスでチェスの勝負をしていたモリアーティとシャーロックが、しまいに取っ組み合いを始め、揉み合ってテラスから滝壺に落ちる、という展開になっている。この滝の上の屋敷の、屋外のテラスでのチェス、というのは絵的になかなか良かった。寒いので毛皮の肩掛けを羽織ってチェスをする、というのは、何だかいかにも欧州的で貴族的だな、という感じがする。なんでわざわざ震え上がる程寒いのに外でチェスよ?などと野暮な事を言ってはならないのである。
BBC「Sherlock」でのライヘンバッハの滝はどうかというと、これまでに散々記事に書いたごとく「滝」そのものは登場しない。

…というわけで、一応観るだけは観た「シャドウゲーム」。19世紀末を再現した画面。どこまでが実写でどこからがVFXか繋ぎ目の分らない映像は見事。美術と撮影はとにかくいい仕事をしている(ハンス・ジマーの音楽も)。そういう部分では贅沢な画面造りをしているし、映画そのものも娯楽に徹しているので見ている間だけはそれなりに楽しめる。でも、エンドロールが出始めると、ハテ、一体何を観ていたんだったかしらん、と思ってしまうほどに何も残らない。それはもう、いっそ潔いと言ってもいいほどに、その印象はたちどころに雲散霧消してしまうのである。そしてやはり、どうしてこれを「シャーロック・ホームズ」と銘打つ必要があるのかしらん?と首を捻ってしまうのである。(笑)

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コメント

  • 2012/03/26 (Mon) 11:24

    こんにちは。ダウニーのホームズ、一作目は映画館で見ましたが、エンタメとして楽しめたものの、やはり見終わると見事に全然後に残らない感じでした(笑)。今回のはスティーブン・フライの原作に近い外見のマイクロフトと、「アイリーン、モリアーティ、滝」という、BBC版と対を張ったのか?と思われるようなエピなのでちょっと気になっています。誰かの付き合いなら見ても良いかな?ジュードとスティーブンは「オスカー・ワイルド」以来ですよね?神々しいほどに美しかったジュード・・・頭髪に時の流れを感じます。ベネ君とマーティンはSherlock続投して行ってほしいですが、あまり間隔を置くと白人俳優の常で急激に外見が変貌していくのではないかと心配です。先週のミス・マープル「殺人は容易だ」にベネ君出てました。元刑事役でちょっとシャーロックみたいで、白っぽい夏服が似合って素敵でした。最後までキスせずに済んだので満足しました(笑)。昨日見たMI5にはアンダーソンが出てました!

  • 2012/03/26 (Mon) 23:05

    rosarindさん
    「シャドウゲーム」は、何かついでがあるとか、世間の付き合いとか、そういうのがなければ別に観に行く必要は皆無でございますわ。ワタシも友にせがまれて浮世の付き合いで引っ張られて行ったので、そうでなければ行きませんでした(笑)まぁ、観てる間はそれなりには面白いんですけどね。終わるとシュワーっと脳裏から消えちゃうの。で、やっぱりスティーヴン・フライとジュードは「オスカー・ワイルド」以来でしょうね。ジュードの頭髪ってもっとイっちゃっているように思ってたけど意外にキープしてませんか?ちなみにワタシはジュードのワトソンは割に良いなと思ってます。ダウニーJrはホームズじゃないけれど。そして、バッチ君とマーティン。あまり老けないうちに次のシリーズ撮らないとですね。殊にマーティンの老化がかなり加速度的に早まっている気配が…。シリーズ1の時は、もうちょっと若い雰囲気だったのに、シリーズ2ではどっと老けた感じ。白髪も増えてねぇ(笑) バッチ君、ミス・マープル物に出てたんですね。チェック漏れですわ。ワタシ、ミス・マープル物はちと苦手なのでノーチェックなんですが、そうか、バッチ君が出てたりするのね…侮れないな。MI-5にアンダーソンが出てたのはワタシも観ましたよ。あの人、顔がスラブ系っぽいし、特徴的だから割にすぐ分りますね。地味だけど案外、人に覚えられる顔なんですね。

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