MI-5 [ Spooks] シーズン 9

-裏切りのテムズハウス-



さてさて。唐突に放送が始まった観のあるシーズン9。ロスの爆死で、後任のチームリーダーにはロシア帰りの後ろ暗い男・ルーカスが昇進しているが、登場した時からなにやら胡散臭いこの男、さらに背後に暗い過去を背負っている事が判明してきた。なにやらもう黒々している。一体何なんだ、こいつは。そして民間から売り込んできた女スパイ、ベスも裏がありそうな気配紛々。シーズン8は鉄の女ロス以外に若い美人のジョーがいたが、シーズン9は太目のベスにおばさんルースと美人度は激しく低迷(不美人度増大というべきか)。アダム、ジョー、ロスの死で無常感に苛まれつつ、二重三重に胡散臭い部下を抱え、気に食わない新内相との軋轢が深まる一方の、古狸ハリーの明日はどっちだ!?

シーズン8で殉職したジョー

新キャラのベス 白くてまん丸 MI-5的に美人度急降下

シーズン9は、やはりロスの葬式で幕を開ける。鄙びた教会での参列者6人の簡素過ぎる葬式にハリーは無常感を禁じえない。仕事がら付き物だとはいえ、こう立て続けに部下の葬式に出てばかりいたら、たとえハリーのようなツワモノのスパイであっても、虚無感に襲われる事は避けがたい。出家したくなったとしても不思議はない。だが、ロスにとってはある意味、あそこで殉職を遂げた事は本望だったのだろう。アダムの死で、彼女の内部でも何かが永久に死んだのだ。彼女は死に場所を探していた。そして、若い内相と共に粉微塵になって消える道を選んだ。爆死による殉職。参列者6人の葬式。だが、彼女にとってはそんな事はどうでも良かった筈だ。ハタ目にはどう見えようと、彼女は憂き世のシガラミからもアダムを失った喪失感からも永久に解放されたのである。





しかし、信頼していたロスを失ったハリーは救いのない虚しさに捉われてしまう。仕事の相棒として常にルースの助けを求めているハリーだが、人生のパートナーになって欲しい気持ちもずっと前から抱いている。そして今、無常感に苛まれた彼はルースにプロポーズし、もたれかかろうとする(国のために死んだのに葬式の参列者が6人なんて、こんな死に方は寂しすぎるじゃないか)。しかし、タイミングが悪い、今となってはもう遅い、と賢女ルースに冷静に一蹴される。ルースは、現実から逃避したいという弱気が丸見えのハリーにやんわりと喝を入れるのである。



何シーズンだか忘れたけれども、初めてルースを見た時に、幾ら美人度の低い女優を使う事で定評のあるBBCとはいえ、あまりといえばあまりにも華のないおばちゃん過ぎやしないか、と呆れたワタシだったのだが、ルースは心情的に常に穏やかで、冷静で、非常に頭が良く、仕事が早く、有能な情報部員なのである。演じるニコラ・ウォーカーもそういう雰囲気をよく出している。賢く、控えめというのは、洋の東西を問わず女性としての美徳と認識される特質だと思うが、まさにルースもそういうキャラクターゆえに、当初は、これは一体どうした事?クローズアップに耐えないわ、と思ったルースが、段々と素敵な女性に見えてきたりもするから不思議である。


最初に見た時は、うわ、こりゃUPがキツい、と思ったルースだが…

ハリーが、彼女なしに生きていく事ができないと思ってしまうのも、何となく頷ける。まさに"Brainy is the new sexy"のひとつの見本かもしれない。ルースは、とにかく聡明なのである。ルースの調査で、ハリーとは相性の良かった前々内相が、やはりナイチンゲールの一味だった事が分かり、ハリーは自ら黒い革の手袋をはめて、元内相に引導を渡しに行く。元内相は内心その正義感を羨む程に好意を持っていたハリーが自分の死神になるとは、よもや予想もしなかっただろうが…。


別れの杯

苦悩にまみれつつも、裏切り者は始末する

ロスと共に爆死した若い前内相はハリーを慕って認められたがっていたが、ハリーは彼を認めず、若い内相はハリーの信頼を得ようと、罠と知りつつホテルに行って爆死したとも言える。ハリーとコンビネーションの良かったその前任の元内相は、結局ナイチンゲール側の人間だった。誰が味方で誰が敵なのか…。つくづくと神経が磨耗する世界である。そして、若い内相が爆死したあとの現内相とは、ハリーは全く相容れない。不協和音は高まって行くばかりである。全方位的に嫌気がさして辞表を用意するハリーだが、賢女ルースに喝を入れられて踏みとどまる。ルースは、自分達にはもう普通の人生を送るなどという選択肢は残されていないのだ、とハリーに言う。MI-5の中でなら、お互いにウソをつかずに生きていかれる、と。今更、リタイアして、結婚して、何事もなかったようにヌクヌクと一般市民の平凡な幸せを享受しようなどと考えてはいけないし、できないのだというルースの考えは非常によく分るし、見事な諦念と自制だと思う。



ルースはかくのごとく、賢い男前の女である。ハリーは昔から、とにかくこの賢いルースが好きでたまらず、職場でも気持ちが抑えられずに寸暇を惜しんで彼女に接近し、「片時も離れていられないみたいね、あの二人は」とロスに呆れられたりした事もあった。まぁ、スパイなどという、周囲の誰を信じていいのか分らないような仕事をしていると、何かしら心の拠り所がなければ到底しんどい日々を切り抜けていく事はできなかろう。ハリーが癒しと慰めをルースに求めるのもムリはない。MI-5では、メインの捜査員たちの恋愛模様のみならず、ハリーとルースのおじ・おばの恋愛についても手抜きをせずに、めまぐるしい事件の合間に描いていて、およそ恋愛など似つかわしくないようなおじ・おばの揺れる感情も「けして遠い日の花火ではない」というスタンスなのが、なかなかオトナなドラマであると思う。

そして、アダムが死に、ロスが死に、遂にチームリーダーになった真っ黒な過去を持つ男、ルーカス。演じるリチャード・アーミテージの根暗な、深刻げな、ねっそりした暗~い顔つきが役にピッタリと合っているが、ワタシは出てきた時から、このルーカスという男が生理的にいけすかないのだけど、シーズン9に入って益々嫌いになってしまった。暗い顔にふさわしく、後ろ暗い秘密を過去にテンコモリに背負っていそうなこの男。シーズン9ではルーカスという名もウソであった事が判明する。




ウソで固めた人生の象徴のような革のケース

昔の彼を知る男が現れ、その「過去」が詰まったケースをルーカスに渡す。肉付きの良かった自分の昔の写真とともに、昔の女の写真も出てきて、ロシアから戻って随分たつのに、その間すっかり忘れて思い出しもしなかったその女にふと里心を出し、強引に接触して、自分の部屋に誘い込み、関係を再燃させてしまう。人に言えない仕事に就いていて、過去も現在も知られたくない事がテンコモリのくせに、自分のプライベートな部屋に何年もほったらかしておいた昔の女を連れ込むとはどういう神経か。しかも、彼女は恋人もいて、カタギでまっとうな暮らしをしている一般市民なのである。そんな彼女を強引に自分のややこしい人生に再び関らせたのは、ストレスフルな日常を一時忘れる為の方便に過ぎない癖に、「私たちは一体なに?」と問う女に、「運命的な関係だ」などとヌケヌケと言う。つくづくとイヤな野郎である。



彼女は普通の女性なのである。何年も前に自分の都合で彼女の前から消えておいて、その後、イギリスに戻ってからも写真を見るまで思い出しもしなかったくせに、急に懐かしくなったのかどうか知らないが、何事もなかったようにいけしゃあしゃあと現れてネチョネチョ口説いて拠りを戻してしまうなんて、全くもうチッチッチ!である。三重底ぐらいな後ろ暗い過去をぶら下げている真っ暗なスパイのくせに、一般市民の女性に接触していい筈がなかろう。しかも、どこで何を知られて厄介な立場に立たせてしまうかしれないのに、自分の部屋に連れ込むなんてエゴにも程がある。彼女はそっとしておくべきで、ホテルとか外で時折会うだけだってよろしくないと思うわけだが、部屋に連れてくるという事は生活に部分的に入り込ませる事である。危険が及ぶ可能性が格段に増えるのだ。ワタシはMI-5を見ていて、いつもその点がフシギだったのだけど、ルーカスだけでなく、情報部員達は、けっこうプライベートな部屋に恋人を連れてくる。いつまでウソがつき通せるわけでもないのに、一般人の恋人を連れてくるのである。何でそういう事を平気でするかねぇ、面倒臭い事になるのが目に見えているじゃないの、と思う。ましてや秘密とウソだらけのクセに、いっぱしに擬似恋愛しようなんて、ルーカスはまるで相手の都合を考えない、自分本位のハタ迷惑な根暗顔の刺青野郎である。こいつの過去について、どんなロクでもない事が明らかになっても驚く事はなかろうと思われるが、一体こいつは何を隠しているのか。この先、何をするつもりなのか。



全8話で、放映も後半にさしかかってきたシーズン9。
真っ暗な男ルーカスのおぞましい秘密とその帰結はどうなるのか。
ハリーはそのダメージから立ち直れるのか。



メインのキャラにさっぱり好感もシンパシーも持てないシーズン9ではあるけれども、残りのエピソードも折々チェックしていこうと思う。

コメント

  • 2012/04/09 (Mon) 09:47

    ロス姐さんが好きだったし(若い内相かわいそうでした)、あのルーカスが大嫌いなので見る気が失せたシーズン9ですが、一応どう収束するかは興味あるのでこうしてレヴューで内容知る事ができてありがたいです。このあともよろしくお願いします!後味よくないドラマですが、日本やアメリカのドラマにないシビアな展開がすごいですよね。このドラマや現代ホームズのマイクロフト兄さんからスパイものににわかに興味が湧き最近ジョン・ル・カレの小説を読み「裏切りのサーカス」公開が待ちきれず(こちらでは東京より1ヶ月以上公開が遅いのです)アマゾンUKで注文してしまいました。

  • 2012/04/09 (Mon) 22:22

    rosarindさん
    ロス姐さんがお好きでしたのね。そしてルーカスが大嫌いであると。ふふふ、同じですね。ほんといけ好かないわ、あの陰気な顔。
    まぁ、あとシーズン9についてレビューを書くとしたら最終回まで見たあとでの感想という感じになると思いますが、いや~、なんだかもう。ウソと秘密と裏義理三昧で、見ていて些か疲れますわね、これは。
    ジョン・ル・カレを読み始められたんですね。けっこう読みにくくないですか?語り口が持って廻っているというか何というか。ワタシは「ティンカー、テイラー~」はまだしも「スクールボーイ閣下」は途中で何度も投げ出しそうになりました。しんどかったですわ。で、もうル・カレはいいや、という感じになってますが、「ティンカー、テイラー~」映画は楽しみです。随分先だと思っていたけど、あともうちょっと待てば封切りですわ。そうか、東京より1ヶ月以上遅いとは苛々しますね。で、UKから取り寄せすることにしちゃった、と。取り寄せも、やりだすと色々気軽に取り寄せるようになりますわね。ふほほ。

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