kiki的上海エトランゼ その2

-上海的建物探訪-



今回の旅の目的は、上海のレトロ建築探訪にあったので、2日目は終日雨で(上海は雨が多い)動き廻るには煩わしい天候ではあったものの、旧フランス租界などの街並みや、前から気になっていた建物などを見物して廻る事にした。まずはホテルの8Fのレストランでバイキングの朝食。パンにソーセージやハム、サラダ、ヨーグルトなどのありがちなメニューの他に、粥や飲茶系の惣菜や、このホテルは日本からの宿泊客が多いのか、味噌汁も用意されていた(味噌汁はあまり美味しくない)。農薬がどうとか色々聞いていたのでどんなもんだろうか、と思っていたが、上海は野菜と果物が意外にも新鮮で美味しかった。
(※とりあえず行ってきたので、豫園の写真も追加しました)

ホテルのレストランで朝食のバイキング

到着日は空港で両替せず、街に着いたらしようなどと思っていたら、大渋滞に巻き込まれてホテル到着が遅れたため、銀行も閉まってしまい、換金できなかったので、翌朝、銀行が開くと同時にホテル近くの銀行へ行ってTCを中国元に換金した。何かに中国には円建てのTCを持っていくのがいい、と書いてあったのでそうしたのだが、円の現金を持って行った方が換金しやすくて便利だったかもしれない。TCの方が万一の場合に保証があるので安心だが、ホテルでもすぐに換金できるという点では現金の方がリーズナブルではある。ただ、こちらの銀行は窓口も午後3時で閉まるという事はなく、土曜もやっているし、それぞれの銀行で営業時間はまちまちらしい。ちなみにホテル近くの銀行は午後5時まで営業していた。

無事に両替を済ませると、まずはホテル近くの地下鉄駅から1回乗り換えて陝西南路という駅で降り、少し歩いて衡山馬勒別墅飯店(ヘンシャンマーラービェシュウファンディエン)に向った。この界隈は旧フランス租界。通りの両側はプラタナスの並木道で租界時代の古い建物がかなり残っている。かつて個人住宅だったものを集合住宅として何世帯もが入って住んでいる形式がいまだに続いているようだ。通りに面して小さな店舗兼住宅が並ぶエリアも多い。上手く改装して時流に乗っている店舗の続く通りもあれば、営業してるのか休業しているのか分らない店舗の上に人だけは住んでいる気配のある、いわゆるシャッター商店街のような通りもある。旧フランス租界の目抜き通り淮海路(ホァイハイルー)の並木は、戦前はパリ直輸入のアカシアの並木だったそうだが、現在はプラタナスの葉がしげって、小雨模様の街にしっとりとした風情を与えていた。旧フランス租界はどこか落ち着いた空気が漂っているのが他のエリアと異なる持ち味である。この界隈には旧錦江倶楽部で現在は日本資本のホテル、花園飯店となっている建物もあるのだが、そちらは今回は見物にはいかなかった。何はともあれ、衡山馬勒別墅飯店を見なくては、という事で雨にも負けずワタシ達は並木道をそぞろ歩いた。


プラタナスが生い茂る旧フランス租界の舗道

かつては誰かの屋敷だったのが、今は集合住宅となっているらしい建物

衡山馬勒別墅飯店をなぜにそんなに見たいかというと、外見が独特であり、建った由来もいかにも上海的で面白いからである。その昔、上海競馬場で大儲けをしたモーラーというイギリス人貿易商(おそらくはユダヤ系イギリス人であろう)が、その金で娘の夢に出てきたとおりの建物を建てた、というのがこの衡山馬勒別墅飯店ことモーラーヴィラである。いかにも戦前の上海的な逸話であり、建物である。戦後長らく「上海市青年連合会」の建物として使われてきたが、2001年に衡山(集団)会社という観光会社の管理下に入り、外見はそのままに内部を改装して、2002年にホテルとして開業した。建物は北欧ノルウェイの様式で、施主のモーラーが溺愛した末娘の、「アンデルセンの童話に描かれたようなお城が欲しい」という願いを聞いて、その物語の記述通りの建物を建築士に建てさせた、というシロモノである。とんがり屋根や複雑な構造など、いろんな様式の混交のような感じで、北欧の様式とは思わなかったが、とにかく夢に出てきたお伽の家、という雰囲気は濃厚に漂っている。


衡山馬勒別墅飯店を取り囲む長い塀

門の向こうにファサードが見えた

どこの様式とも知れない夢の中の家、という感じだが一応ノルウェイの様式らしい


建物は延々と巡らされた塀の中に建っていた。門柱のついた門を入ると、石畳が敷かれ、玄関がある。遠慮なく入ってロビーの写真を撮らせて貰った。宿泊客ではないので入れる範囲が限られている。裏手に廻ると芝生の庭があり、庭から建物の全景を眺められる筈だったが、その夜、宴会でも開かれるのか、芝生の庭いっぱいにテントが張られ、人々が何事か準備していた。結婚式か、何かのパーティが予定されているのであろう。ともかくその白い大きなテントが邪魔で庭からの写真が撮れなかったのは、ちと残念だった。ここにティールームがあるという事だったので探してみると、建物に面して芝生を挟んで塀に沿って後付けで建てられたようなティールームが確かにあった。が、なにぶん後付けなので外見も内装もあまり趣味がよろしくなく、衡山馬勒別墅飯店のムードとは異なるチープさが漂っていたので、そこでお茶をしようと思っていたが取りやめた。が、衡山馬勒別墅飯店は確かに素敵な建築物で、由来も姿もいかにも上海らしくていいと思った。


門脇の塀にはめ込まれた屋敷の全容の写真 昔の写真らしいのが良い


衡山馬勒別墅飯店の玄関ホール


寄せ木細工の床を見よ


かつては富裕な貿易商の住宅だったらしい佇まいが残っている



上海市青年連合会本部だった時代なら敷地の中に入る事もできなかっただろうので、ホテルになった今はロビーまでなら入って写真も撮れるし、見物にはいい時代になったのかもしれない。見たいと思っていた建物を見られたので満足した。

そこからちょいとタクシーに乗って、今度は路地裏商店街の「田子坊」へ。田子坊は、かつての上海市民の古い集合住宅を利用した商店街で、路地裏にこまこまと色んな店が並んでいる。チープな雑貨や土産物屋が多いが、画廊や、イタリアン・レストランやバー、カフェも目立つ。なにぶん雨だったので、ゆったりとそぞろ歩くという感じでもなかったが一渡り裏路地を歩いて、見ようと思った店は覗いてみた。ついでに書くと、上海のタクシーも割に安い。車の屋根に看板の載っているタクシーなら国営なので安心らしい。看板の載っていないものは白タクなので要注意。まぁそれはどこの国でも同様である。


路地裏商店街「田子坊」


田子坊をサクっと見たのち、少し買い物でもしようかね、という事で「新天地」へ。ここもかつての租界の住宅を店舗に改装した飲食店や小売店が並ぶ地域。建物の殆どは20世紀初頭に建てられた石庫門と呼ばれる煉瓦造りの建物で、どっしりしていて雰囲気がいい。昔の煉瓦造りの建物や倉庫を改装した店舗は日本の港町にもあるが、やはり残っている建物の数が上海とは違う。レトロ建築を楽しみつつ、ショッピングも出来るし、食事もできる。上海で買い物をするなら新天地がベストかもしれない。


古い住宅がレストランやカフェ、雑貨などの店舗として再利用されている



新天地にはもちろん新しいショッピングビルもある

土産物を買ったり、あちこち見て歩いて足も疲れたし、お腹も空いたので、夕飯前にちょっと軽食を、というわけで、すぐ目についた「鼎泰豊(ディンタイフォン)」に入った。「鼎泰豊」は台湾のレストランだし、日本でも食べられるし、小籠包なら、上海では南翔饅頭店で食べるのが筋じゃないのぉ?という気もしたけれども、とにかく疲れていたし、「鼎泰豊」は新天地のショッピングモールの2階にあり、通りに面した窓辺の席がいかにも心地良さそうで、しかも待たずに入れそうだったので、青島啤酒(チンタオピーチュウ:チンタオビール)で小籠包だ!と「鼎泰豊」に腰を落ちつけた。入って見渡すと広い店内には白人観光客が半数を占め、4~5人で来て様々な小籠包を注文し、いろんな味のものを分け合って食べて喜んでいた。ワタシ達も「鼎泰豊」の小籠包は初だったので、殊更においしく食べた。軽やかな青島啤酒とも非常に合う。「鼎泰豊」は元が台湾なので、店員の態度は日本の普通の飲食店と変わらなかった。


フカヒレ入りの小籠包が殊更に美味しかった

上海でも浦東や新天地などに新しく出来たショッピングモールや、その中のレストランなどでは、さすがの中国人も笑顔0円で仕事をしていた。上海は中国の表玄関で昔から外国人の観光客も多い土地なので、再開発や発展とともにそういう資本主義的なサービスの姿勢なども根付いていくのであろう。しかし、南京東路の裏通りのチェーン店らしい蘇州麺の店に入った時には、いかにもな中国的対応で、これが噂にきく物やサービスを挟んで客と店とは対等だ、というあれか、と思った。店に客が入ってきてもいらっしゃいませもヘタクレもない。レジの不細工なおばはんはフン、という顔で一言も発しなかった。店の奥で揃いのオレンジのポロシャツを着た店員の娘たちはピャアピャアと声高に私語しあっている。ワタシ達も委細構わず勝手に空いた席に座った。蘇州麺はあっさりとした味付けのスープに細麺。のせるトッピングをあれこれ選べる。麺とスープのあっさり加減は東京ラーメンを想起させるが、もっとアッサリしている。


蘇州麺の店で食べたカニ肉入りのあんかけをかけて食べるラーメン とてもアッサリしていた

料金は注文後に前払いなので、食べたらさっさと出る。ありがとうございましたもヘタクレもない。こちらも料金は払っているので、店員など無視してとっとと出る。ツリ銭を投げ出されはしなかったが、噂通りに愛想が無いねぇと思った。しかし、それはそれで中国らしいと言えなくもない。世界中どこでも同じような資本主義的笑顔やサービスが蔓延したら、土地や社会システムによる民族性の違いなどなくなって、どこでも一緒で特色が無くなってしまうだろう。その夜は浦東の巨大なショッピングモール内のレストランで飲食をしたが、店員の態度は笑顔0円で感じが良く、日本で食事をしているのと何ら変わらなかった。楽ではあるが、あまりどこも同じような感じになってしまっても詰らないな、と微かに感じた。しかし、この先ますます、上海は資本主義的サービスが主流になっていくのだろうと思われる。中国の表玄関という意識が強いせいもあろうが、数年前に万博が開催されたあたりで、かなり強力に美化運動が計られたのだと思う。街の通りは掃除が行き届いてゴミひとつ落ちていなかったし、ところ嫌わず痰を吐き散らかすと聞いていた中国人だが、おそらく罰金になるのであろう。上海では痰を道端に吐き散らかしている人など見かけなかった。どうしても痰を出したい人は、道端のゴミ箱の中にぺっ!と吐いていた。それを見て、やはり道に吐くと罰金になるのだな、と思い、ふふふと笑ってしまった。罰金でも取られなければ、おとなしく痰を吐かずに我慢したり、道に紙くずやゴミをぽいぽい捨てずにいられるような人々じゃなさそうだものね。

一応、上海に来たので豫園商場にも寄ってみた。ここは明、清時代からの名所である中国式庭園と、それを取り囲む土産物屋と飲食店で構成されている観光地で、湖心亭という茶館が有名。でも、庭園を取り巻く土産物屋の店舗もかなり立派で、全ての建物は端の反りくり返った屋根を持ち、全体に統一が取れていて、堂々としている。日本の観光地の土産物屋ってそういえばもっとみすぼらしいな…とふと思った。とにかく中国は建物が立派なのだ。上海は地震が滅多にないので、多少杜撰な建築でもおそろしいほどの高層ビルを建ててどうにか無事だし、古い建物がよく残っているのも地震がないという事も大きいのだろう。


とにかく土産物屋の建物が立派なのだ



南翔饅頭店 豫園のは本店だろうけれども、とにかく混むらしいので入らなかった


湖心亭

湖心亭に続く回廊がこれまたいかにもシノワなテイストで良い


扉の透かし彫りや、軒の透かし彫りなど、いかにもな意匠が良い こういう扉の透かし彫りのデザインは好み


庭園内はこんな感じ


屋根の上にも物語がある 細い槍など仕事が細かい 中国人はこういう事は実にマメにやる民族だ


庭園を囲む塀の甍は龍の鱗に見立てられ、塀の先頭の甍には龍の頭がかっと口をあけて天を睨んでいる


周辺の土産物街も昔からの建物なのだろう どれも非常に立派で統一がとれている


胡弓などの伝統楽器を売る店の前でデモンストレーションの演奏をする人 胡弓の音色は独特だ


ワタシが豫園で買ったのはオールド上海の写真入りトランプと、戦前の美人画広告のトランプ
真ん中の緑の缶はコンビニで売っているノド飴 缶のデザインも飴の味もなかなかGoodだった

豫園界隈では、昔からある茶館に寄って中国茶を喫するつもりだったのだけど、土産物を買ったりして手荷物が増え、短い旅であれこれと巡りたいところが多いので、まぁ、中国茶はいいか、という事になってしまった。バッタもんを掴まされるから豫園界隈での買い物は要注意だ、と聞かされていたが、それも土産物屋に拠るのだろう。中国茶はお店で買わない方がいいらしい。最初の一煎だけしか色が出ず、すぐに出がらしになってしまうお茶ばかり売っている、と現地ガイドさんが初日に教えてくれた。が、この人も中国東北部の出身で上海に出稼ぎに来ている田舎者なので、さほどアテにはならない。彼はノルマがあるのか、インセンティヴが美味しいのか、やたらに雑技団の切符と遊覧船の切符を売りつけようと躍起になっていたが、ワタシ達はどちらも買わなかった。中国にもこじゃれた雑貨屋はあったが、雑貨だったらセンスといい、リーズナブルな価格といい、ベトナムがやはり一番なので、上海でわざわざ微妙に高くて、しかも飛び抜けてハイセンスなわけでもない雑貨を買う気にはならなかった。


バンドから垂直に延びる通りのひとつ、福州路にある「スージョウ・コプラーズ」の雑貨

結局、ワタシはこの豫園界隈でチープだけれども面白いものを自分用にあれこれと買った。殊に、トランプは旅行に行った先々で、気になる絵柄のものがあると買う習慣になっているので、今回のオールド上海トランプに、美人画広告トランプはかなり気に入った。豫園の土産物屋のおばちゃん達は、みな気さくである程度の値下げ交渉は折込済みで価格をつけているらしく、ちょっとした値下げならすぐに応じてくれる。また、上海にはファミリーマートが「全家」という屋号で出店していて、あちこちの通りにある。入ると「いらっしゃいませ、こんにちは」に相当するらしい中国語でバイトのオネエちゃんがにこやかに迎えてくれる。殆ど日本と同じようなものが多いが、さきほどのノド飴みたいな商品もある。ミネラルウォーターやチョコレートを買ったが、こちらのコンビニではビニールの袋に商品を入れてくれないので要注意。何か袋を持っていくか、ちょっとした物なら入れられるようなバッグを提げていかないと買い物をしたあとが不便である。ワタシは2日目に雨に降られて上海の「全家」で折りたたみ傘を買った。日本で昨今主流の軽量の傘よりも造りがしっかりしているので、多少の雨風にも壊れなさそうである。これから梅雨が来るので大いに使おうと思っている。

…と、あれこれ書いているうちに長くなったので、この続きはまた次回。

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