「スノーホワイト」 (SNOW WHITE AND THE HUNTSMAN)

-Mirror, Mirror, on the Wall-
2012年 米 ルパート・サンダーズ監督



今週はあれこれと予定が入って全然ブログを書いているヒマがなかったのだけど、記事をUPしてもしなくても沢山のご来訪をいただいているようでございます。過去記事もたんまりあるので読むものには事欠かないかもしれませぬね。(笑)
さて。実は恐ろしいアンデルセン童話だのグリム童話だのを新解釈で実写映画化するというのは少し前からの流行りであるが、これまで1本も観た事はなかった。だが、これはトレーラーを観た時からキャスティングに強力に引っ張られたので「行かなければ!」と思っていた。そして、観て来た。ただの美人女優では終わりたくない女、シャーリーズ・セロンの腹の据え方を謹んで受け止め、また、憂わしい目元の細身のヒロイン、クリステン・スチュワートのやや白痴美的ではあるが、咲き始めた青い花のような姿を観賞し、好みじゃないのに案外いい味を醸し出していたクリス・ヘムズワースの野性味を楽しんで来た。随分、色々な映画やアニメからのエッセンスが散りばめられた作品でもあった。ワタシはどういうわけか本作のクリス・へムズワースに黒澤映画における敏ちゃんの野性味(椿三十郎とか、羅生門の野盗に近いもの)を感じた。妖精の森のシーンでは宮崎駿テイストもしっかと入っていた。
いやー、それにしても"あがく美人女優"シャーリーズ・セロン。今回も腹の座ったあがきっぷりを見せてくれた。終始、氷のように美しい姿でいて、最後にどっと老けるのかと思いきや、少女だったスノーホワイトが成長してからは、その存在が放つ生命力に負けて途中途中で「老い」が彼女を襲ってくるので、割に中老けメイクでいるシーンも多かった。このセロン演じるラヴェンナ女王の美と若さへの執着という部分は、16世紀にハンガリーに実在した血の伯爵夫人エルゼベート・バートリが想起される。夫の死後、未亡人となったバートリは、中年になり美貌の衰えに恐怖を感じ始め、若い娘の血が自分の若さと美しさを持続させるという妄想に執りつかれる。居城が人里離れた場所にあるのを幸い、領地の村娘を奉公人として雇っては惨殺し、その血を桶に満たして自らの身を浸した。やがて百姓娘では飽きたらなくなり、貴族の娘を誘拐してきて殺すようになると彼女の犯罪は覆いようもなくなり、捕らえられ、裁判にかけられた夫人は自らの城の塔に生涯幽閉される事となった。



若い処女の血が、美容や回春に神秘的な効果を表すものであるという伝説は古くからあったらしいが、金と暇と権力とサディスティックな性格が揃ってしまうと、それを実行に移してしまうわけである。事実はおとぎ話より奇なり、で、ラヴェンナ女王はエルゼベート・バートリほど見境いなく残虐ではない印象だったが、若い村娘を捕まえてきてその生気を吸い取り、自分の若さを維持する、というシーンに、バートリ的な雰囲気が出ていた。ラヴェンナ女王は処女の血で満たした風呂には入らなかったが、石膏のような白い液を満たした風呂に全裸で浸かるというシーンは出てくる。この白い風呂の中からアラバスターの彫刻のように立ち上がってくるラヴェンナ女王=シャーリーズ・セロンは美しかった。



このラヴェンナ女王役がシャーリーズ・セロンなのでこの映画を観に行ったといっても過言ではない。ニコール・キッドマンだったら食指が動かなかったと思う。ただ、ラヴェンナ女王も元は被害者的な女性だったというお涙頂戴的な過去は別に要らないような気もした。それは一応、スター女優シャーリーズ・セロンが悪役を演じる事のエクスキュースのようなものでもあったろうけれども、邪悪な女王にも同情すべき点はある、などという中途半端なお涙頂戴をやめて、徹頭徹尾自分の若さと美しさだけに執着するEvilな女、という事でも良かったんじゃないかしらん、と感じた。男に恨みを抱くあまりに、まだ幼い姫だからという事でか、王国の正統な後継者である白雪姫を塔に幽閉するだけで生かしておいたというのも、魔女ラヴェンナとしてはツメが甘すぎやしないかと思う。こういう女が、少女だからといって相手を生かしておく筈はないのだ。その事についてもっともらしい理由づけもなかったので、このへんは脚本のユルさである。しかし、思いきった老けメイクで徹底的に自らの「美人女優」っぷりを粉砕してみせたシャーリーズ・セロンの潔さには男前なものを感じた。彼女は透徹した目で "Beauty's only skin deep" という事を見定めている人のような気がする。そんなものにこだわっていたって、生き物である以上、それはいつか枯れて衰えて消え去るものだとハッキリと悟っている人なのだろう。だからこの役を演じたのだろうが、そこには今の自分がまだまだ若く美しいからこそ、この役を演じてインパクトがあるのだという正確な認識がある。彼女自身の若さと美しさが誰の目にも衰え出してから演じたのでは、シャレにもならないし、意外性もないのである。
ラヴェンナ女王に近親相姦的な愛を捧げ、献身的に尽くす弟を演じていた俳優も、微妙な気持ち悪さと情けなさが混在していて適役だったと思う。

対するスノー・ホワイトはクリステン・スチュワート。これも今が旬の女優で、この映画は何といっても女王と姫を演じる二人の女優のキャスティングが肝である。クリステン・スチュワートは子役出身の女優だが、少女時代よりも今の方が確実に美貌は花開いたなという観がある。「パニック・ルーム」という映画にジョディ・フォスターの娘役で出ていたのを、ついこの前ビデオ・オンデマンドでちらっと観たけれども、確かにクリステン・スチュワートではあるが、さほど美少女という雰囲気でもなかった。大人になってから良くなる方が息が長いので得である。



クリステンは美しい目元に憂いがあり、肌が綺麗で、ダークヘアがよく似合い、体も細身で均整が取れていて、独特の雰囲気のある若手の美人女優だが、1つ難点があるとすると、ビーバーのような大きな前歯である。この大きな前歯を出して口をぽかんと開けている表情が多いので、妙に白痴美的に見えてしまう時もある。だが、彼女のほっそりとした中性的な体つきや、持ち味としてのボーイッシュな佇まいは、今回の「闘う白雪姫」というコンセプトによく合っていた。ワタシは彼女の姿を見ていて、「隠し砦の三悪人」の雪姫をふと思い出した。


闘う姫御前

と、黒澤映画に繋げたところで、クリス・へムズワースである。ワタシはどうも、彼の鼻孔の形が苦手で「マイティ・ソー」のトレーラーで彼を観た時に、うわ、なんだこれは…と思ったのだけど、この人は動くと魅力があるらしく、今回は髪をダークヘアに戻して無精ひげをザラザラと生やし、妻を亡くしてからヤケクソの酒びたりになっている狩人を野性味を漂わせて演じていて、なかなか良かった。彼の表情のつけ方や、ぶっきらぼうだけど根は良い奴である、というキャラのありようなどには敏ちゃんを彷彿させるものがちらっと漂っていて、「姫を守ってお家の再興」みたいな部分では真壁六郎太のようでもあり、はぐれ者で無頼で野性的な感じは「羅生門」の多襄丸のようでもあり、折々ちょこっと椿三十郎的な気配も漂ったりするようなしないような、で、案外、クリス・へムズワースって踏めるんじゃない?という印象だった。クリス・へムズワースはオーストラリア出身の俳優で三人兄弟の真ん中。兄も弟も俳優で、弟のリアム・へムズワースはクリスとソックリでどっちがどっち?と思ってしまう感じである。ソーはともかく、この人も今後の活躍に注目、であろう。



白雪姫といえば、7人の小人だが、本作でも小人は登場する。小人の長老に久々のボブ・ホスキンス爺が登場して目を細めた。特殊効果で小人に見せているのに、小人を演じるのは実際にも小柄な俳優が多い、というのは面白いが、ボブ爺の他にはトビー・ジョーンズも小人役で登場していた。



その他、バランス的に、ぺらっとした二枚目も一人出しておこうか、という感じで侯爵の息子ウィリアムが姫の幼馴染として登場。演じるのはサム・クラフリンという俳優で、いかにも英国俳優、という感じの人である。今回はクリス・へムズワースの引き立て役みたいな事でいささか気の毒な薄っぺらい二枚目だったが、役によってはいい味を出せるかもしれない、貴公子系のハンサムマンだった。でも、ちょっと存在感が薄いな…(笑)



グロい黒の森を抜け、小人の森に辿り着いた白雪姫と狩人、および白雪姫の幼馴染のウィリアムは、小人たちとともに妖精の森に足を踏み入れる。この妖精の森がモロに宮崎ワールド。「もののけ姫」の世界である。どうも、そのシーンに画面が切り替わった途端に、ししがみ様の森に近いニオイを感じるわね…と思っていたら、ししがみ様(白鹿)もモロにそのままの雰囲気で現れた。パクリというよりオマージュだと思う事にするが、角の立派な白い鹿が森の中の水のほとりに姿を現すなんて、ちょっとそのまますぎやしないの?と思わないでもなかった。鹿が脚を踏み出したら足元に一瞬にして草花が芽生え、脚を移動させたら一瞬にして枯れる、というとこまでやるんじゃないでしょうね、と懸念したがそこまではやらなかった。





もののけ姫において、「ししがみ様は生命そのもの」であるのだが、「スノーホワイト」では白雪姫自身が生命そのものである存在という事になっていたので、生命の象徴としての描写は不要だったからだろうかねぇ、などと推察してみた。そこまでやったらモロにパクリだしね。また、石組みの城や、その城に搦め手から忍び込んで城門を開けさせるシーンなどは、「プリンス・オブ・ペルシャ」が脳裏に浮かんで来た。筋立てはシンプルなおとぎ話なので、観る側も、様々な映画の登場人物やエッセンスを投入しやすかったのかもしれない。



映画の出来としては、ほどほどの出来の娯楽映画ではあったが、観ていた間はそれなりに楽しめた。それにしても、シャーリーズ・セロン、潔いばかりの老けメイクだったなぁ。それはそれとして、悪女は美女に限る、とあらためて深く頷いたkikiでございました。

コメント

  • 2012/06/16 (Sat) 14:00

    Kikiさん、コメントはお久しぶりでございます。うちの娘がクリステン・スチュワートのファンで、「スノーホワイト」を見に行きたいと前々から言っており、私はシャリーズ・セロンにはさして興味はなかったのですが、クリス・ヘムズワースが出ていたので、これは見なければならぬ!といそいそと劇場へ。
    なんだか途中から宮崎(私も「ししがみ様」が出てきたよ・・・と思いました。大抵の人は思いますよね。)チックだし、途中からは7人の小人だけれどもそれがだんだん「ロード・オブ・ザ・リング」チックにも見えてくるし、おもしろかったです。
    頑張ってるなあ感のあるシャリーズ・セロンは良かったですねえ。老けも美しいのもどんと来い!的な演技。若さと魔力に取り憑かれた感が上手く演技に出ていましたね。
    クリス・ヘムズワースが敏ちゃんねえ。全然気がつかなかったけれどそう言われてみればそうですね。私は「マイティ・ソー」でクリスのファンになったのですが(私も最初は猿っぽいあの顔がどうも、と思っていたのですが、役柄にピタっとはまっていてすごく良かったです)、今回は俺様的なところがない、やけのやんぱちでも心は優しいハンツマンをいい感じに演じてましたねえ。良かったわ。今回も。なので「アベンジャーズ」も楽しみにしているんですよ。
    弟のリアムは最近マイリー・サイラスと婚約したんですよね。若いのに。
    7人の小人は、いつもよく出てくる小人の人たちかと思いきや、ホビットばりのCGで豪華陣が揃っていてそれも良かったですねえ。なかなか楽しかったです。

  • 2012/06/16 (Sat) 23:36

    Sophieさん、お久しぶり。 もう観たざますか。早いですね。 って、ワタシも観たんだけど(笑) ワタシはレイトショーだったけど、あなたは昼間観たわけかしらん。お嬢まと。(笑)クリステン・スチュワートは、彼氏ともどもティーンに大人気なのねん。彼氏はともかく彼女の方はルックス的にもなかなか良いと思いますわ。シャーリーズ・セロンは好きでも嫌いでもない女優だけど、とにかく、ただの、ありきたりな美人女優で終わるなんて耐えられない!って感じがヒシヒシと伝わってくるので、どっち方面に進んで行くのか作品選び、役選びにちょっと興味があるのよね。
    ししがみ様、やっぱり皆そう思いますわね。あんなにモロにパクリでいいの~?という感じではありましたが、この監督はスノーホワイト自身にももののけ姫のイメージを重ねてたりしてるのかもですね。そして、クリス・へムズワースに敏ちゃんを見たのは多分ワタシだけでしょう。でも今回のヘムズワースは野性味があったので雰囲気的にちょっと近いものがあったのよ。だからかどうか、あの手の顔は全然好みじゃないんだけれど今回はちょっといいな、という感じでしたわ。「マイティ・ソー」もビデオ・オンデマンドでちらっと斜め見したけど、あれはワタシはどうもイマイチだったわ。(笑) なんだってこんなのをケネス・ブラナーが撮ったんだろう???という感じだったのだけど、北欧神話がベースだからやってみようかなぁ、と思っちゃったのかしらん。「アベンジャーズ」も公開初日にいそいそと観に行っちゃうのかしらん。ふほほ、あなたったら。ワタシはあれは行かないかもだけど。
    さりげにバリューのある役者が揃っていて、それなりに楽しめる映画でしたね。ホビットといえば、ホビットの公開もかなり先だと思ってたら、あと半年ぐらいになってきたのね。早いわね~。あっという間。

  • 2012/06/24 (Sun) 11:45

    kikiさん、お久しぶりです。
    「スノーホワイト」、先週観に行く予定だったのに、前々日くらいから続く胃痛が収まらず、観に行くのを断念したのでした。
    もうその日を逃したら当分、映画を見に行く余裕がないので、劇場での鑑賞はあきらめました。
    こちらのkikiさんのレビューを読ませていただき、見たつもりになれたので良しとします。
    ありがとうございました。

    • ようちゃん #-
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  • 2012/06/24 (Sun) 21:20

    ようちゃん。
    お久しぶり。胃痛でしたの?もう大丈夫ですかしら。
    まぁ、確かに映画の性質からしてファンタジーなので劇場で観た方がいいんだろうけど、さほど大画面ばえする画面というわけでもなかった気もするので、DVDになってからでも自宅のTVで十分楽しめると思いますよ。3ヶ月もすればDVDが出るでしょうし。ワタシのレビューがどの程度参考になるかは分りませんが、ししがみ様の森についてはDVDになってからでもじっくり宮崎アニメと見比べてみて下さい。(笑)

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