「もののけ姫」

-神秘の森 シシ神の森-
1997年 日本 東宝/スタジオ・ジブリ 宮崎 駿 監督



長らく忘れていたのだけれど、この前、「スノーホワイト」を観ていてふいに思い出したのでかなり久々にDVDで観賞。久々に観て、その印象深い自然描写と、神秘的な金色のシシ神のアルカイックスマイルに改めて魅力を感じた。ワタシは宮崎作品というと、ごく初期の「ルパン三世 カリオストロの城」が無条件に好きなのだが、今回見直して、やはり「もののけ姫」は確かに宮崎アニメの最高到達点であるなぁ、と今更に思った。

文明による自然破壊への批判をこめつつ、自然と人類の共存という事をテーマに宮崎 駿が最初に作ったのが「風の谷のナウシカ」。同じテーマを、13年後に、おそらく室町時代あたりの日本に設定を移して、再度、詩情豊かに訴えたのが「もののけ姫」である。
これで内なるメッセージのイメージ化を集大成してしまったのか、以降の宮崎アニメはワタシには何となく蛇足のように思われて仕方がない。この後の「千と千尋の神隠し」はやたらにファンの多い作品で、あれこれと賞を獲っているようではあるけれども、ワタシの印象はグロい、の一言。あの女郎屋のような赤い柱の銭湯の描写からして、どうしても好きになれない作品(本当に、どこがいいのか全然分らない。でもこれは悪くないというワタシの友人もいる)。多分、好みの問題なのだろう。ともあれ、それ以降はあまり宮崎アニメは見ていない。(それ以前もそんなに観ていたわけでもないのだけど)宮崎アニメが良かったのはやはり1990年代まで、という事になるのではないかと思う。

宮崎アニメのキャラクターデザインで些か引っ掛かるのは、主人公は常に少年少女であることだ。本作でもアシタカは、設定としては18歳ぐらいの若者なのかもしれないが、どう見ても15歳ぐらいにしか見えない。ルックスが子供過ぎる気がする。顔の造りに加えて、もののけ姫・サンとあまり背丈が変わらないというのも、いかにも少年ぽい印象である。サンは16歳ぐらいに見えるけれども、アシタカがもう少し青年らしくても良いんじゃないかというのが昔からの感想だ。


少年じゃなく、青年にしないのは何故なのか?

それはさておき、やはり、この作品の生命は、冒頭に山々の峰から立ち上る靄の描写に顕かなように、山や森の自然描写である。殊にも流れる雲、風にそよぐ草原、大気の気配、通り雨、そして深い森の神秘と静寂を、実に詩的かつ美的に表現している。この頃のアニメーションには、まだ殆どコンピューター・グラフィックスが導入されていなかったのではないかと思うのだけれど、手仕事主体であることが、このアニメーションのきめ細かい動きや表現にもなんらか作用しているのかもしれない。森の中を透けた体を光らせてゆるやかに飛ぶ昆虫には、ナウシカから引き継がれたテイストを感じる。


東山魁夷の絵のような冒頭の山々

そして、シシ神の森。
命を与え、また奪う、生命をつかさどるシシ神という存在が、この作品のキーであり、魅惑の源泉である。その他、一面的でない登場人物のキャラクター設定なども重要なポイントであろうか。この作品を特別なものにしているのは、一方的に善なるもの、一方的に悪であるものなど出て来ないというところである。どちらにも立場があり、言い分があり、それぞれの立場に立てば、それが自然のなりゆきなのだという描き方である。自然を破壊するタタラ場の女主人エボシ御前は、自然の側から見れば破壊者にしかならないが、一方で彼女が願っているのは貧しい人、病んだ人も役割を持って豊かに生きて行かれる人間社会を実現することである。捨てられた子供や、人の近づかない業病の人間を見捨てない彼女は、しかし心のうちに夜叉を抱えた女でもある。



もののけ姫・サンは赤子のうちに親に捨てられて山犬に育てられた娘であり、人と山犬の間であがきつつも、自分は人間でしかありえないのに、人間を憎む娘である。そして、アシタカは自然と人間との間に立って、共存を願い、和解と調停の道を模索する者である。


最後まで人間を赦す気にはなれないサン

シシ神も命をつかさどるものではあるが、救い主ではない。時と場合にとっては死神にもなるし、全てを破壊しつくすシバ神のような荒ぶる神にもなる。生と死を内包する存在である。クライマックスなどは、このシシ神の性質がフルに発揮されたシーンで、怒れるシシ神により、見渡す限り草木の枯れた赤茶けた山や野原が、一転してあっという間に緑が生い育って滴る緑の森になるラストは、本作の真骨頂である。シシ神といえば、ワタシは最初にこの作品を観た時から、しんと静まり返った森の水辺の中ノ島に、一足ごとに草花を咲かせ、また萎れさせつつ姿を現したシシ神がアシタカの傷を癒すシーンが、非常に強いインパクトで記憶に残っている。シシ神の古代の面のような神秘的な表情も味わい深い。


神秘の森 シシ神の森


命を与え、また奪う 神秘的なシシ神 秀逸なキャラクター・デザインだ


また、このシシ神が夜になるとディダラボッチになるというのも面白い設定だ。何度か観ている作品なので、今回は英語版の音声で聞いたり、日本語で聞きつつ英語の字幕を出したりして観てみたが、なかなか上手い訳がなされていて、随分と大変だったと思うけれど、英語版台本は出来がいいのではないかと思った。ちなみに、シシ神はThe Deer God、ディダラボッチはThe Night Walker、エボシさまはLady Eboshiとなっていた。声の出演も、ほぼ日本語版と声のイメージの違わない人が当てており(まぁ、ちょっとクレア・デインズのサンはイマイチな気もしたけれども…)、違和感がなかった。日本語版でも森繁久弥や森光子、美輪明宏、田中裕子、小林薫、西村雅彦など錚々たる顔ぶれがキャスティングされているのはご存知の通りだが、英語版でも、ジコ坊にビリー・ボブ・ソーントン、エボシさまにミニー・ドライヴァー、モロ役でジリアン・アンダーソンなどがいい仕事をしていた。
森繁久弥はイノシシの長老・乙事主と、アシタカの村の長老と二役を兼ねていたのだねぇと、今更に、それこそ長老になっても味わいのある仕事をしていたのだな、と感慨深い。森繁や森光子のセリフはさすがに芝居をしつつも明快なカツゼツだったが、山犬のモロを演じた美輪明宏の声は、役のイメージには合っていたけれども、くぐもった震え声で些か聞き取りにくかった。

***
一朝一夕には答えの出ない問題にムリヤリに答えを出さず、何が解決したわけでもないが、昨日とは少し違う明日に向ってそれぞれが進んで行く、というラストも、建前的なキレイ事を排除したありようが好ましい。



しかし、今更ながらにこの作品の、風景に大気の存在を感じさせる表現力と演出、流れゆく雲の描写などは、それだけでも一見の価値があると思う。そして、何といっても、シシ神様のアルカイック・スマイルと、シシ神の森の神韻とした深い神秘性の表現は、何度見ても素晴らしいと思う。

コメント

  • 2015/11/10 (Tue) 10:52
    リンク・バナーについて

    kiki さんこんにちは.
    昨日はコメントありがとうございました、早速ボクのブログに Kiki さんのブログリンク・バナーを作らせていただきました.

    若干ブログ・イメージとは違うかもしれませんが、お許しください.

    ちなみにボクも カリオストロ が最高だと思っています、映画の楽しさが凝縮されていて、おまけにスピード感もとても気持ちいいですよね.

    • la_belle_epoque #-
    • URL
    • 編集
  • 2015/11/10 (Tue) 22:53

    la_belle_epoqueさん
    リンクバナーをわざわざ作成していただいてありがとうございます。
    (ところで、あれは何が描かれてあるのでしょうか?(笑))

    やはり、「カリオストロ」は良いですよね。最初にあれを映画館で見た時の楽しかったこと、笑った事はいまだに強く印象に残っています。「緑の背広のルパンを久々に見た喜び」というのもかなり強かったんだと思いますが(笑)

  • 2015/11/10 (Tue) 23:20
    あれは.........

    kiki さんこんにちは。

    あのシルエットは、kiki と jiji ……… 魔女の宅急便です。

    ちなみにぼくの好きな映画監督は フランク・キャプラ です。
    まったく関係ありませんでしたね(笑)

    • la_belle_epoque #-
    • URL
    • 編集
  • 2015/11/12 (Thu) 22:10

    la_belle_epoqueさん こんばんは。

    魔女の宅急便でしたか。なるほど。
    何はともあれ、ありがとうございました。

    フランク・キャプラがお好きなんですね。ソフィスティケーテッド・コメディで粋なユーモアを得意とした監督ですよね。ワタシは色々と好きな監督はいるんですが、誰か一人、というのは難しいですわ。絞れませんわ(笑)

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