ロンドン五輪開会式と女王陛下の007

-そして、オリンピックに思うこと-



毎度の事ながら、始まるまではいつ開会式なのかも意識になかったのだけど、ロンドン五輪が開幕した。北京五輪からもう4年が経っていたのね。本当に瞬きする間に時が過ぎ去っていきますねぇ…。4年なんて本当にあっという間。北京五輪が開催された2008年の夏もなんだか猛烈に暑かったのをぼんやりと覚えているけれど、今年の夏も暑い夏になりそうな…。そういえば梅雨ってもうあけたのかしらん。 …いつのまに?
確か開会式にはボンドのショートムービーが流れるんだったっけね…というわけで、BSの開会式を一応、留守録しておいたのでざっくりと見てみた。自国の文化や歴史を様々なパフォーマンスで紹介しつつ、未来への希望をこめて締めくくるというのが最近の五輪開会式の演出の潮流で、北京五輪で映画監督のチャン・イーモウを演出に起用して成功したのを踏まえたのか、英国は今やアカデミー賞監督になったダニー・ボイルに演出を任せた。冒頭の映像部分などは、おだやかな自然が息づく郊外からロンドンの中心部に向けてどんどんと迫っていくカメラワークなど、なかなか良かったと思うのだけど、会場内での、産業革命前と産業革命時代、それ以降の英国を表現する部分は、なんだかもう大人数で仕掛けもゴタゴタと大仕掛け過ぎ、全体にゴチャゴチャし過ぎていて、狙いは分るけどねぇ、う~む…という感じがした。



産業革命の幕開け時代の象徴的な人物に扮して(だと思うけれど)ケネス・ブラナーが登場したが、声高にテンペストの一節を朗読しただけで、あとは次の場面までの結構長い間を葉巻を咥えて満面の笑みを浮かべつつ、あちこちと歩き回って折々ポーズしているだけで、手持ち無沙汰だったのではなかろうか、と気になった。



自国の歴史と文化、民族性を効果的に、印象的にプレゼンするのは、実に難しいものだと思う。ロンドン五輪の開会式も、きっとそれなりには良かったのだろうとは思うのだけど、映像を使った部分以外は、ワタシはただ、ふーんという感じで平板に眺めていた。最近の五輪の中では、やはり北京五輪の開会式は白眉だったかもしれない。昔はそうでもなかったけれども、ここ10年程はワタシも中国に対してサッパリいい印象がなくなっているので、北京五輪も随分冷ややかに眺めていたのだけど、そんなマイナスも極まった気分で見ていても、あの、自国の長い歴史や文化を見事なパフォーマンスで紹介したパートには、見ていて唸った。癪だと思っても感心せざるを得なかった。ある時は整然として美しく、ある時は大勢で一糸乱れず強力に、ハっとするようなストライキングな演出もありつつ、最新技術と東洋的な様式美を柔軟に使って、自国の歴史と文化を非常に洗練された形で見せる事に成功していた。癪だなぁとは思ったが、素晴らしかった事は否めない。でも、今回のロンドン五輪の開会式には、そういう「おぉ…」という強い感銘は受けなかった。

ただ、それを見るために録画したので、短い映像ではあったものの、「女王陛下の007」という感じのダニエル・ボンドの映像はそれらしくて良かったと思う。バッキンガム宮殿に、五輪のメイン・スタジアムまで女王をエスコートするために向うボンド。ダニエルは「ドラゴン・タトゥの女」の時より、髪を更に短く刈り込み、がっしりと筋肉をつけて、少し体が重そうな感じになっているが、ややヘッドアップ気味に宮殿の中を自信に満ちた足取りで歩いて行く。



そして、彼が案内された部屋で背を向けて執務中なのは、誰あろう女王サマご本人である。15年前なら女王自身がムービーに登場することはなく、女優が女王を演じた(しかも顔は映らず後ろ姿や遠景のみで)かもしれないが、今や、英国王室は国民に向けて開かれた王室をアピールすることに非常に熱心なので、女王自らダニエル・ボンドを振り返って声をかける、という小芝居をやってのける。落ち着いてにこやかで申し分ない。が、考えてみたら王室の毎日は公務と式典で日々これ小芝居のようなものだから特に違和感はないのだろう。昨今ではかつてのダイアナに代わって、女王自らが王室のアイドルになっている観がある。




女王サマに付き従って、やや緊張の面持ちで宮殿内を歩く しかしまぁ、出世したもんである

今年は女王の在位60年目。ダイヤモンド・ジュビリーというそうだが、御年86歳になって、女王らしい威厳が最高潮に増している観のあるエリザベス女王ゆえ、今がもっとも女王としてダイヤモンドが似合う時期に入ったのかもしれない。昔読んだ有吉佐和子の小説「悪女について」の中で、「あまり宝石の似合う女王さんじゃないかもしれないね」と宝石職人がエリザベス女王について言う部分を覚えている。ダイアナ騒動の頃は60代から70代だったのだろうけれど、あの頃よりも今の方が女王らしい雰囲気が一段と増している気がする。まぁ、60年も女王をやっているんだから、似合うも似合わないもない、というか、立場が人間を作って行く、という事の典型かもしれないが、今はどんな宝冠を被っても、その装飾過多な夥しい宝石や、宝冠の重さに、あらゆる意味で負けないだろうな、という感じがする。


この時は少し気難しげな表情だったが、威厳が一段と備わった観もある


大英帝国の至宝 帝国王冠 2kgもあるらしい

ダニエル・ボンドは女王のお供でバッキンガム宮殿の庭から、ヘリに乗ってビッグ・ベンだのロンドン・アイ(観覧車)だの、タワー・ブリッジだのといったロンドン名所の上や間を飛びながらスタジアム上空まで行き、そこで女王に次いでパラシュート降下する、というシチュエーション。ダニエルはフィルムでしか登場しないので、ここで終了である。ヘリから飛び降りて女王はスタジアムに到着いたしました、という設定で、女王がスタジアムにご来臨となる演出である。ダニエルが実際にヘリからスタジアムにパラシュートで降りてくればもっと受けたと思うけれども、スケジュールの関係か何かわからないが、当日会場には来られなかったようだ。しかし、ちょうどボンドを演じている時にロンドンで五輪が開催されて、こういう形で登場することができるというのも、ダニエル・クレイグの運の強さかな、と思う。


女王サマの愛犬たちが見送る コーギー犬って賢そうでころころしてて可愛い

それを微笑みつつ見下ろすボンド


タワーブリッジにあしらわれた五輪のマーク 絵になってますね

ついでながら、ローワン・アトキンソンの「なんちゃって炎のランナー」にも笑った。あはは。

***
他国で開催していれば無責任に見たい時に見て自国を応援できるし、ついでに異国の風景も楽しめる。だからよそでやっている限りは別にいいようなものなのだけど、ロンドン五輪はどういう収支になるのか分らないが、今のような形でのオリンピックは、もうそう長くは続かないのではないかという気がする。とかくに五輪開催にはお金がかかる。開催地の負担は増大するばかり。夜を日に継いだ突貫工事で施設を作り、熱に浮かされたように大騒ぎをして、いざお祭り騒ぎの開催期間が過ぎてみると、残るのは巨大な債務のみ。施設の再活用も計画通りにはいかず、開催地の市民は延々と税金でツケを払わされる、という苦役が待っているだけ、という感じがする。中国のように国全体がイケイケで上り調子であり(それも、そう長くはないであろうけれど)、更に景気をつけるためにどうしても五輪を開催したい、後の事は国家的にどうにかする、という国の都市は名乗りをあげて開催すればいいと思うが、他の大抵の国では、開催することのメリットをデメリットの方が遥かに上回るような気がする。だから、ワタシ的には東京五輪などもっての他で、東京都民として絶対に実現してほしくない。20世紀中に上り調子の時に一度は開催したんだからもうそれでいいのだ。今さら東京で開催する必要はない。開催地に選ばれない事をひたすらに祈る。(だから名乗りをあげるなと言うのに、全くもう!)
起源を尊重して、アテネで毎回やればいい、という声も以前はあったけれども、2004年のアテネ五輪の収支は赤で、アテネ市民はいまだに延々とそのツケを払わされているらしい。たださえ経済危機のギリシャで、これ以上の五輪開催などありえまい。20世紀の間に発達し、爛熟して商業主義に走り、膨れ上がりすぎた近代五輪。そのままの形で続けるのは年々歳々、困難になっていくに違いない。21世紀に入った事だし、五輪の開催も運営も、新しい道、新しい方式が模索されていくんじゃないかという気がする。だって、このままじゃ、もうそう長くは続けて行かれない気がするものね。

コメント

  • 2012/07/30 (Mon) 00:25

    kikiさん、こんばんは。
    kikiさんも開会式のお目当ては女王とダニエルのコラボでしたか。
    女王直々のご指名でダニエルの出演となったそうですが、ダニエル・ボンドを世界中にPRして外貨獲得に一役買うという目論見も女王にはあったんでしょうか、なんてね。
    007シリーズ以外にも、ビートルズ、ハリー・ポッター、Mr.ビーンなど、イギリスの外貨を末永く稼いでくれそうなアイコンが次々に登場しましたね。ショーではイギリスの歴史を演劇形式で表現していましたが、やはりシェイクスピアを生んだ国ということをアピールする意味もあるんでしょうね。
    でも、そういったイギリスゆかりのものを知らない人や興味のない人にとっては、もしかしたら退屈なショーだったかもしれませんね。

    • ようちゃん #-
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  • 2012/07/30 (Mon) 14:58

    お久しぶりです〜。私も開会式、ダニー・ボイル演出という事で期待して録画、ざっと見ました。でも007&女王となんちゃって炎のランナー以外は今ひとつでしたね。kikiさんおっしゃるようにごちゃごちゃしすぎっ。女王陛下は遅い時間でお疲れだったのか、表情が乏しく無感動な感じで、退屈してましたね。さすがに80代後半のお年寄りの感じでしたが、大丈夫なのかしらんと心配してしまいました。最後は閉会式のようでした。私も、近年はチャン・イーモウの北京五輪の開会式が面白かったと思います。あの国の人海戦術の技術存分に使って「HERO」とか「王妃の紋章」みたいでした。昔レスリー・チャンがイーモウは「自国の恥を映画にして外国の評価を得てる男、と思ってた」と言ってましたが、変わったもんだ、と感心しつつ見てました。

  • 2012/07/30 (Mon) 22:03

    ようちゃん こんばんは。
    やっぱり、このボンドのショートムービーは見逃すわけにはいかぬでしょう。ワタシ的に、あの開会式はその部分だけはOKでした。ダニエルは女王の指名を受けたんですね。いい時期にボンドを演じる回り合わせになって、実に運の強い男ですね(笑)
    「イギリスゆかりのものを知らない人や興味のない人」ではないと思うけれども、映像の部分を除いては、ワタシはあの開会式は微妙な出来だったような気がします。スタジアム内でゴテゴテやっている部分はどうもねぇ…。まぁ、聖火が金属の花に移されるシーンなどはまずまずかな、という感じではあったけれど、ワタシは映画は好きだけど演劇というのがどうもあまり好きじゃないので、あの産業革命あたりの演出はあまりにも演劇的にすぎた、という感じです。それはそれとして、知人などは、英国の歴史といったって、あまたの植民地をこさえたことや、アイルランドとの長い諍いなどにはほっかむりをしているし、なんだかねぇ、と言ってました。確かにその通り。でも開会式でそういう部分を出してもね、とは思いますが。
    ビートルズといえば、マッカートニーが下膨れのお婆ちゃんみたいな顔になってて、あらまぁ…と思いました。

  • 2012/07/30 (Mon) 22:33

    rosarindさん、お久しぶり~。
    やはり録画しておいてざっくりとご覧になりました?まぁ、一応ボンドもちらっと出るというし、ダニー・ボイルの演出だし、確認しとかなきゃね、という感じではありますよね。開会式での女王は何やらおむづかりのご様子で、不機嫌そうな厳しい表情でしたね。体調が悪かったのか、疲れていたのか。在位中には、これ以上、五輪を開催することは無いんだからもっとニカニカしてればいいのにね。やはり達者なようでも86歳だし、開会式に臨席するのはちょっとしんどかったのかもしれませんね。もしかして、あのゴタゴタしたパフォーマンスが気に入らなかったのかも(笑)あれはどうもねぇ、頑張ってたけど何か散漫な印象でしたね。
    やっぱりrosarindさんも北京の開会式は印象に残ってますか?あれ、予想外に出来が良かったですよね。同じような事を日本でやったとしても、あんなに見事には出来まい、と思うと余計に癪だったけど、確かに大したもんだったと思います。4年経ってもいまだに覚えているものね。ワタシはチャン・イーモウの映画って観た事ないんですが、もしかして、あの開会式が彼の最高傑作だったのでは?と思ったりしてます。だから彼の映画はもう観なくてもいいかも、なんて(笑)

  • 2012/07/30 (Mon) 22:53

    「イギリスゆかりの~興味のない人」っていうのはもちろんkikiさんのことではありませんよ。むしろkikiさんのほうが私なんかよりずっとイギリスについて詳しいでしょうし、より深い興味をお持ちだと思います。

    実はうちの生徒たち(公立の中学生40人くらい)の多くが007やMr.ビーンすら知らないし、ましてや産業革命なんて。それはその子たちの家庭も影響でしょうから、こんな田舎では特に、イギリスの歴史を演劇形式で見せられても退屈した人たちが多かっただろうというわけです。

    ちなみに私もボンドとMr.ビーンのところ以外は1回目は「ほ~ぉ」って感じで観ましたが、それで十分。2回以上見るつもりはないですね。

    • ようちゃん #-
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  • 2012/07/30 (Mon) 23:12

    ようちゃん。
    大掛かりで、大人数でやっていたにも関らず、何か雑駁で散漫な印象のパフォーマンスでしたね。もっと上手く作れば、英国に興味がない人や、特に知っている事のない人でもぐわっと引きこむ事ができたんじゃないかと思うけれど、そんなパワーはありませんでした。ダニー・ボイル、ユアンと組んでいた頃は好きだったんですけどね。「トレスポ」や「シャロウ・グレイヴ」のあたりは観ていて感覚的にピッタリ来てたのだけど、「スラムドッグ・ミリオネア」でさようなら、ダニー・ボイル、と思いました。正直あの映画、何が良いのか全然分りませんの。そういう噛み合わない感じを、今回の開会式にも感じましたねぇ。またいつか、ダニー・ボイルを良いとおもえる時がくるのかどうか…(笑)

  • 2012/08/02 (Thu) 23:29

    開会式、わたしも見ました~!
    ダニー・ボイル演出とのことで、なにか面白いもん見れるかも、くらいな気持ちで。
    ダニエルが出るなんて全く知らず、ボンド・ダニエルを見たときには「やっぱり録画しといてよかった~」と小躍りしちゃいました。
    髪、かなり短くなってましたね。個人的には「ドラゴンタトゥー」のときの風貌がお気に入りです。
    ボンド次回作、たしか今年の暮れに公開なんですよね?「ドラゴンタトゥー」もよかったけど、やっぱりボンドを演じるダニエルが一番しっくりはまってファン熱もピュ~っと上がる気がします。待ち遠しいですね。

    (二匹のコーギーたちが愛らしすぎでした!!!)

  • 2012/08/03 (Fri) 08:04


    おお~。ミナリコさんも録画してご覧になりましたのねん。しかも、ダニエル・ボンドが出ると知らずに観ていて、ああいう形で出てきたら、思いがけないボーナスを貰ったような気分になりますわねぇ。嬉しさ倍増ですねぇミナリコさんたら。うふふ。
    ダニエルはかなり短く髪を刈り込んでましたね。ちょっと筋肉つけすぎで体が重そうにも見えたのだけど、やはりボンドを演じている時のダニエル・クレイグはカッチョいいと思います。「スカイフォール」も面白そうだし楽しみです。
    女王サマのコーギー犬、かわゆかったですね。ペットは2匹以上居たんじゃないかと思ったけど、いまは2匹なのかな。

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