「HOMELAND」 Season 1

-彼は、何を胸に秘めて還って来たのか?-
2011年 米 Showtime



Season2が現在USで放映中のようだが、今年のゴールデングローブ賞のTVドラマ部門で、作品も最優秀ドラマ賞を獲り、クレア・デインズが主演女優賞を獲ったので「ふぅん」と思っていたが、FOX CRIMEで「HOMELAND」Season1の放映が始まると、出演者は地味ながら、その緊迫感と展開の読めない脚本の出来の良さ、演技、演出のレベルの高さであっという間に引き込まれた。クレア・デインズは本作のCIAアナリスト役のオファーを受けた時に、少し前にオーディションを受けていたイーストウッド監督作「J.エドガー」の秘書役も受かったが、「HOMELAND」を選んだ。デインズが断った秘書役は似たような感じの女優ナオミ・ワッツに流れたが、結果的にピリっとしないぬるい映画だった「J.エドガー」を断ったのは大正解だったようだ。7年の契約で長丁場になり、外したら大損だったかもしれないが、「HOMELAND」を選んだデインズは女優の勘でキャリアのかかった博打に勝った。それにしても「HOMELAND」は出演者が7年縛りの大作であるらしい。先々どういう展開になるんだろう。非常に興味深い。

イラク赴任中に行方不明になり、死亡が推定されていたニコラス・ブロディ軍曹(ダミアン・ルイス)は、アルカイダに8年も囚われていたのち、突如として救出され、故国アメリカに帰還する。それは一兵士の帰還ではなく、8年もの長きにわたる拷問・尋問に屈しなかった「英雄の帰還」と位置づけられ、彼は国民的なヒーローに祀り上げられる(長い間、捕虜になっていたのが救出されて還ってきたというだけでどうして「英雄」になるのか、そもそもワタシにはよく分らないのだけど…)。だが、長い苦難の果てに救助され、故国に帰ったブロディを待っていたのは、自分の友人と不倫していた妻、国を離れた時には赤ん坊だった息子、そして母に批判的な娘という家族、世間とマスコミの好奇心、そして、人知れず自分に疑いの目を向けるCIAアナリスト、キャリーの極秘監視だった。


8年もの拘束の果てに生還したブロディだが…

ブロディ軍曹を演じる赤毛のダミアン・ルイスは「バンド・オブ・ブラザース」で有能なアメリカ将校を演じていたイギリス人俳優である。ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーの出身だけに演技力は申し分ない。また、ルックスも、善良そうにも見えるし、小悪党を演じればそのようにも見える。凄みを出そうと思えば出せる。悪人も善人も演じられる。ブロディは被害者でもあり、加害者でもあるかもしれないという複雑なパーソナリティの男である。まさに、ダミアン・ルイスに打ってつけの役と言える。



そんなブロディ軍曹が発見され、帰還すると知った時から疑惑の目を向けるCIAアナリストのキャリーには入魂の演技力を示したクレア・デインズ。ワタシはクレア・デインズといえば、「ロミオ&ジュリエット」のジュリエット、もしくは「レイン・メーカー」のDVに悩む若い人妻役しか印象になかった。いずれも儚げで素朴な若い女性、という役どころで、何がどうという感じでもなかったのだが、クレア・デインズも9歳からアクターズ・スタジオで演技を学んでいるツワモノなのである。もちろんタダモノではない。そんな彼女にとって、このアナリスト役キャリーは女優として不足のない役であるだろう。非常に有能なアナリストでありつつも双極性障害を患い、薬に頼りつつの日常ながら、その鋭い神経は常に事の真相に肉薄するのだ。監視するだけでは飽き足らず、真相解明の為に直接、接触したブロディに本気で惚れてしまい苦しむという、女としての側面も過不足なく描かれている。キャリーが何故ブロディに疑いの目を向けたかというと、対テロ工作のアナリストである彼女はアラブ勤務の時に、「アメリカ人捕虜がアルカイダに転向した」という情報を得ていたのである。キャリーの野性の勘は、そのアメリカ人捕虜こそブロディだ、と告げていた。キャリーは上司ソールに掛け合い、期限付きでブロディの家の各部屋に隠しカメラをしかけ、自宅のモニターで監視を始める…。殺風景な部屋で、夜も寝ずに他人の生活をじっと監視する女…。仕事とはいえ、何と言うおぞましさ。


他人の生活を盗み視る女

それまでは、素朴で可憐で地味、というイメージしかなかったクレア・デインズだが、髪をブロンドに染めて登場した本作では、むき出しの神経がぴりぴりと常に蠕動しているような、鋭さと異常さが紙一重で同居しているような危うい女、キャリーをなりきり演技で表現している。前半では、優秀かもしれないが、ヒステリックで思いこみが激しすぎるという、その異常性がクローズアップされる感じなのだが(目つきがどうにも普通じゃない)、後半になるとキャリーの女としての心情や、大学生の時に発症したという双極性障害に悩まされる様子、そういう厄介な病気であるという事が災いして、その天性の勘は常に真相にヒットしているのだが、病的な言動が周囲にそれを世迷言としか思わせないという部分が描かれる。真実は彼女にだけ分かっているが、それが誰にも伝わらない、理解されないという辛さ、もどかしさ。また、Season1の大詰めで、躁鬱症状が激しく出て興奮状態になるシーンの真に迫った演技はまさに入魂の一言で、双極性障害を抱えた人を身内に持つ、というのは薬が切れるとこういう状態になる人を絶えず見守り、辛抱強く薬を飲ませ、いつ何をしでかすか分らない病人から目を離さず、突飛な行動に走ったら止めなくてはならない、という事なんだなぁ、と病気の妹の面倒をみるキャリーの姉の姿に同情したりもする。頭の中に色々な事実が浮かび上がり、洪水のような情報を整理しなくては、と興奮状態になるキャリー。緑だの紫だのと意味不明な事を半狂乱で口走る彼女を、周囲はただ引き気味に眺めるだけだ。クレア・デインズのビョーキ演技のリアルさには唸った。迫真の演技とは、こういう演技の事を言うのだろう。



このキャリーの唯一の理解者である上司のソール(マンディ・パティンキン )はユダヤ系で、インド人の愛妻(またもインド人である)との関係が冷えて人知れず悩んでいた。家を留守に仕事ばかりの夫に愛想をつかした妻はソールの懇願を振り切ってインドに戻ってしまう。「孤独が嫌いだ」というソールは妻に去られて結局一人になり、深夜のオフィスで無味乾燥な夕食を摂る。パンにピーナツバターを塗っただけの夕食だが、バターナイフもないので、机の引き出しから定規を出して代用するシーンはしみじみと侘しい。



また、極秘監視を中止せざるを得なくなったあとも、疑惑が拭えずブロディに接触し、何度か偶然を装って会ううちにいつしかミイラ取りがミイラになり、ブロディに本気になってしまうキャリーだが、妻との関係を修復し、家庭を大事に守り、いまや政界に打って出ようかというブロディは、自分が監視されていた事実を知った事もあって、キャリーに冷ややかに別れを告げる。それでもブロディを諦めきれないキャリーは、ブロディに「今から行く」と電話を貰うと、いそいそと着替え、化粧をするが、ブロディはこっぴどく彼女を裏切る。いざとなると非常に計算高く、酷薄にもなるブロディ。一度は、「妻にはできない話も君になら出来る」などと嬉しがらせを言い、容易な事では男に惚れない女・キャリーを本気にさせておきながら、彼はけしてキャリーを受け入れないのである。魂の部分で触れ合えた、と思った男だったのに、その男は全く自分を愛さない正体不明な男なのだ。それでも、キャリーはブロディと一緒のときに味わった束の間の幸福感と一体感が忘れられない。キャリーに対するブロディは、まさに、嬉しがらせて、泣かせて、消えた、という罪な男である。キャリーの方でもテロリストの疑いをかけ、違法監視を行っていた事実があるので、お互い様ではあるのだけれど…。ともあれ、帰還した当初は、妻との営みも異常な形でしか行えなかったブロディだが、いつしか百戦錬磨のCIAアナリストを手玉に取るまでになっている、この本性はどこにあるのか分らない不可解な男の謎めいた雰囲気が緻密な脚本でよく現されている。誠実そうに見え、家族を愛する男でありつつも、ウソ発見器などはいともたやすく欺いてみせる太々しさも持っているブロディ。



帰還したニック・ブロディは、囚われの身から自由になっても、なかなかトラウマから解放されず、寝ては悪夢にうなされ、隣人を呼んだパーティでも、突発的な凶暴性を閃かせたりする。また、家庭における8年もの空白が当初はなかなか埋められず、家族の中でも浮きがちであったのが、世間の英雄視と、本人が故国の日常に馴染んできた事もあり、段々に家族にとってかけがえのない存在になる。夫が死んだと聞かされて、夫の友人と浮気をしていた美人の妻ジェシカは、夫の帰還後はなんとか関係を修復しようと一応の努力をする。生まれてすぐから父が不在のまま育ってきた息子クリスも段々に父に馴染み、母の浮気に気づいていた母嫌いの娘ディナは、父親には親密な感情を持っている。このあまり可愛げがなく、ルックス的にも可愛くない娘ディナの存在もなかなか効いている。娘はパパっ子で、ブロディの事はとても好きなのである。父親とは分かり合えると思っている。美人だが母親の事はアホだとバカにしている。娘はキャリーに負けず劣らず、鋭い勘の持ち主である。ブロディは内と外から、非常に勘のいい女に挟まれているわけである。この事はのちのちのストーリーにもあれこれと作用していきそうである。


父と娘

「英雄」として帰還したブロディが、24時間キャリーに自宅を監視されつつも特にこれという動きは見せず、しかし、カメラがついていなかったガレージでは、「アッラーフ・アクバル」とアラーの神に祈りを捧げたりする。8年の間にイスラム教に改宗していたのである。そもそも、彼は何故一人だけ助かったのか?彼はアルカイダの手先になったのか、否か。彼を捉え、拷問したテロ組織の首領アブ・ナジールとの奇妙な関係性の実体はどのようなものなのか?
捕虜になっている間に、仲間を死ぬほど殴らせられたりする様子は「ある愛の風景」などを想起させる。
回が進んで行くにつれ、少しずつ濃い霧の向うが透けて見えるように、幾つかのファクターが提示されるのだが、それらはまた新たな謎の一部分であったりして、Season1が終わったところでは、まだ何もハッキリした事は分らない。大いなる物語の発端が描かれたに過ぎないという感じではあるが、発端編というのは非常に重要であり、「HOMELAND」の発端編は実によく出来ていたと思う。結局のところ、ブロディはアブ・ナジールと水面下で繋がっており、やはりというか遂にというか、キャリーが危ぶんでいたような行為に走ろうともするのだが、その理由はアルカイダにマインド・コントロールされたから、というのではなさそうだ。ブロディに言わせれば、自分は愛国者で裏切り者ではないという。



「アラブのテロ工作に対峙する」という構図を通して描こうとしているのは、アメリカという国の闇であり、罪であるのではなかろうか。アラブやイスラム教よりも厄介なのは、アメリカという国の表と裏の乖離ではないか、と思ったリもする。「自由の国」の表看板の裏に流れる汚濁の川の黒さと深さ…。帰還して、日常に馴染み、家族との関係を再構築し、鼻のきくキャリーを遠ざけたブロディは、Season2では政界に進出していくことになるのだろう。アメリカという国の中枢にどんどん入り込んでいくのであろうブロディが本当に狙っている事は何なのか。また、ブロディに対する違法監視と、病歴を隠した事でCIAを追われたキャリーは、今後どうやって真相に迫っていくのか…。ブロディとキャリーの関係にも、まだ幾つかの波乱や紆余曲折がありそうである。

中盤から終盤にかけてどんどんと盛り上がったSeason1であるが、序盤の方で、キャリーが情報源として使っていたサウジの皇太子の愛人であるリンという女性が、アブ・ナジール絡みの情報を提供しようとするがCIAのヒモ付きになった事がバレて無残に殺されるエピソードなども印象深い。本人としては恐怖を堪えて国のためにと出来る範囲でスパイ活動をしたものの、情報は無意味で、彼女は無残に殺された上に、CIAからも娼婦が一人死んだだけだ、と軽く片付けられてしまう。が、キャリーには、情報源を守れなかった悔いが強く残る。

誠実そうな人間が嘘をつき、嘘で固めたような人生にも一片の真実がある。どんな国家にも表と裏があるように、どんな人間にも表と裏がある。21世紀に入って、世界はますます複雑怪奇であり、そんな世界に生きる人間もまた複雑怪奇である。そして、そんな人間にも、ひとかけらの純情があり、信じたい何かがある。守りたい何かがある。そして、万人に共通の正義などは存在せず、正義の定義は各々の信条により異なる…そんな事を描きたいドラマなのかな、と思った。まだ日本版DVD、BDは出ていないけれども、そのうちには出てくると思うので、機会があれば是非ご覧になっていただきたい作品。



それにしても、アメリカにしてもイギリスにしてもTVドラマのクオリティの高さには全く感心する。もちろん欧米だって全てのドラマの質が高いわけではないけれども、質の高いものが多い事は間違いない。ここ数年、地上波を観ていないのでさだかな事は言えないが、日本のTVドラマは観るに値しないものばかりのような気がする。NHKのものは言うに及ばず、かつては民放のドラマだって、かなりクオリティの高いものは沢山作られていた。昨今では、どうにもこうにも観るに耐えない、またはさっぱり観る気になれないものばかりという気配がする。そして、やたらに増えたチャンネルの穴を埋めるのは、低価格で買えるのだろう韓国ドラマばかりである。いかに穴埋めに適しているとはいえ、これにはもういい加減にウンザリする。観ていないけどそういう状況にウンザリするのだ。ワタシは国産ドラマに興味のないタチではない。昔はそれなりにドラマも観ていたが、今はあまりにも興味をひかれないので観る気がしないのである。一方で、海外ドラマの中には本当に質の高いものがあれこれとある。この差はどうして生まれたのか。ドラマだけの事ではなく、昔はもう少しちゃんとしていた筈なのに、日本はいつからこんなに多方面でダメになってしまったのか…。そんな事までつい考えさせられたりもした。

コメント

  • 2012/09/07 (Fri) 21:35

    はじめまして よろしくお願いいたします
    「ホームランド」おもしろかったです。
    私はドリームキャッチャーという映画でダミアン・ルイスを初めて
    知り、それ以来、彼の出るドラマは観るようにしています。
    とても味のある役者(という言葉にぴったり)さんですよね。クレア
    デイーンズも好きな女優さんなので、期待して観ましたが、
    とても良かったです。
    それにしても、本当に、日本のドラマはいつからダメになったのか・・
    観てみたいと思わせてくれるドラマは全くといっていいほど、
    ありませんね・・。
    又、読ませていただきます。(^^)

  • 2012/09/07 (Fri) 22:29

    soyoguさん 初めまして。
    ダミアン・ルイスは映画にも出てはいますが、圧倒的にTVドラマの方が多い人ですよね。ワタシが彼を初めて見たのは「フォーサイト家」というイギリスのドラマでした。嫌な奴だけどちょっと気の毒な男を演じていたと思いますが、色々なタイプの人間を自然に演じられる上手い俳優ですね。「HOMELAND」のクレア・デインズには驚きました。現在、USで放映されているところなので、日本で観られるのは来年かなとは思いますが、「HOMELAND」はよく出来ているので、Season2も楽しみですね。そして、日本のドラマはダメになる一方って感じで、困ったもんです。
    ともあれ、また、いつでも遊びにきてください。

  • 2012/09/13 (Thu) 00:27
    はじめまして^^

    ダミアン・ルイスは打ち切りになった「ライフ」で好きになりました。「HOMELAND」もそれで見てるようなところがありますw
    欧米ドラマは人物描写がうまいですよね。ストーリーはそれほどじゃなくても、人物が好きで見ちゃう時が結構あります。(私にとってのグレイズ・アナトミーはまさにそれだったりして)
    日本ドラマ、なんか韓ドラに似てきた気がします。だるい展開とぬるい脚本とおおげさな演出が気持ち悪くて見る気がほんとに失せます。(だから見てませんが^^)
    なにより役者がねぇ。アイドル俳優(女優)ばっかりで、お遊戯会かと。。。。
    AKBで浮かれたい業界には、危機感がないのかもしれませんね。
    また来ます^^

    • からんだっしゅ #-
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    • 編集
  • 2012/09/14 (Fri) 00:35

    からんだっしゅさん
    ダミアン・ルイスのファンでいらっしゃるんですね。欧米のドラマは人物描写が確かに上手いですよね。でもそればかりでなく、やはり、良い作品はストーリーテリングもたくみだと思います。当たり前だけど(笑)
    ハングルのドラマは元々は日本の大映ドラマの昼メロのパクリですよね。それが逆輸入されて日本のおばさんたちがはまっちゃったと。でも、日本からの援助と日本のまねっこで経済成長してきながら、ひたすら国民に日本を憎む事のみを教えているような国のドラマをウットリしながら眺めている手合いがいるというだけでも、舌打ち100万回でも足りない程忌々しい感じです。おまけに浅薄なドラマ作りまで似て来ているときた日には…。最近の日本のドラマは脚本重視じゃなく、人気のあるタレントを押さえて、彼らに都合のいいようなストーリーで話を作っていくので尚さらにダメになっていっているようですね。韓流ブームなんて噴飯ものを世の中に流行らせた奴は誰なのか。また、そんなものを受け入れる土壌があるというのも実に困ったもんです。世も末。

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