「シャンハイ」(Shanhai)

-我々のような男には、二度目の恋が危険なのだ-
2010年 米 ミカエル・ハフストローム監督



「上海」というタイトルは気になるものの、出演者の顔ぶれに殆ど引っ張られなかったので、ワタシ的にはスルー系の作品と位置づけていたのだが、戦前の上海の空気はそれなりに出ているらしいという話を聞いたので、一応、観てみる事にした。1941年といえば、日本とアメリカが遂に戦争を始めた年である。開戦前夜の上海でうごめく男と女。はてさて、いかがなことになっているやら。

戦前の上海モノ、というのは意外に面白い作品の作れないジャンルである。あまりにも面白い題材なので、作ろうと思えば幾らでも面白いものができそうだが、題材に足を取られるのか大抵はあまり面白くない。開戦前夜の上海を舞台にした作品といえばジェームズ・アイヴォリーの「上海の伯爵夫人」という映画もあった。何となくぬるい出来のメロドラマだったが、そういえばそんな映画もあったな、とこの作品を観ていて思い出したりした。あっちには真田広之が特務機関の男で出ていたっけ。こっちには渡辺謙が情報部将校役で登場する。



主役の新聞記者を装うアメリカ人諜報員にウラナリきゅうり顔のジョン・キューザックが扮していて、なんだか地味で中途半端なキャスティングだなぁという感じであったが、相変わらず目元に愛嬌があってキュートではあり、普通の男が頑張っている、という感じで親近感が持てる、というところはあったかもしれない。いかにも凄腕そうじゃないところが逆にいいのか、どうなのか…。ジョン・キューザックの上司でデヴィッド・モースが出ていた。キューザックといい、モースといい、ヌボーっと大きな男ばかりである。渡辺謙もチョウ・ユンファも東洋人としてはかなり大きな方だけれども、キューザックがかなり背が高いので、謙もユンファも、あまり大きく見えなかった。



チョウ・ユンファは上海裏社会のボス、秘密結社・三合会の首領の役で登場。元々そうなのか、最近そういう感じになってきたのか分らないが、顔の肉付きがよく、何かモロに中国人的な顔つきになってきたなぁ、と思った。わりに声も高めで、常にふにゃふにゃと笑っている印象が強く、あまり凄みは無かったが、それなりには見せ場も拵えて貰っていた。



その妻を演じるコン・リーは、いつ、どの作品で見てもあまりルックスの変わらない人である。極論すると90年代初頭の「菊豆」や「紅夢」で目立ちはじめた頃と殆ど変わっていないなぁ、と妙に感心してしまう。つまり、いくらか洗練され、成熟はしているのだが衰えていないのだ。ワタシは彼女の四角い我の強そうな顔があまり好きではないのだが、その衰えなさ加減はなかなか大したものだと思う。コン・リーはある程度身長もあり、プロポーションがいいのも身上か。本作でも、上海という街、およびチャイナドレスが彼女によく似合っていた。映画の序盤で、カジノから出て裏通りに入っていくシーンでチャイナドレスから伸びた綺麗な脚が映る。ディートリッヒの脚ほど微妙なカーヴのなまめかしい脚線美ではないが、引き締まった綺麗な脚で、ハイヒールがよく似合っていた。こういうのが、男を踏んづけてひぃひぃ言わせる女の脚というやつかしらん、と思ったリしてね。


衰えないコン・リー


ジョン・キューザック演じるソームズは、旧友コナーが上海で秘密結社のボスの動向を探るうちに殺されたため、その死の真相を探るべく上海に記者を装って赴任する。租界という名の治外法権地帯に、各国の人間がそれぞれの目的でひしめきあっていた上海。ガーデンブリッジを渡ったチャーペイ地区はいわゆる日本租界と呼ばれるエリアで、そこは禁区と呼ばれ、大陸で勢力を拡張しつつある日本軍部は上海でも我がもの顔に振舞い、欧米はそんな日本を静観している状態だった。上海の秘密結社の首領ランティン(チョウ・ユンファ)も、日本軍部に協力していた。テンティンの身辺を探るうちに、ソームズはランティンの妻アンナ、および、日本軍の情報将校である田中(渡辺謙)とも面識が出来る。何か秘密のあるらしいアンナに心惹かれるソームズだが、死んだ旧友コナーの身辺には、阿片中毒のスミコという日本女性(菊地凛子)が関っていた…。



というわけで、段々にキナ臭くなる情勢の中、男と女は各々自分の目的の為にうごめきつつも、惹かれ合い、また憎みあったりもする。ドイツ人技師の妻として上海にやってきた女レニと、ソームズとのちょっとしたラブアフェアもある。レニを演じるのはフランカ・ポテンテ。地味で落ち着いている。実際にはコン・リーより10歳近く若いはずなのだが、同年代ぐらいに見える。役割的にも刺身のツマのような役で、ちょっと可哀想な気もした。コン・リーは、やはりヒロインとして華も貫禄も十分というところだろうが、フランカ・ポテンテの地味な刺身のツマっぷりに較べたら、出番は少ないし、ジャンキーで常に朦朧としてばかりだが、菊池凛子の方が全然おいしい役ではあった。どこがいいのか皆目分らないが、彼女に本気で惚れた男が二人はいた、という設定なのである。


ドイツ人技師の妻役のフランカ・ポテンテ コン・リー演じるアンナのアリバイ工作に使われたりする

友の死を探るうちに、秘密結社のボスの妻アンナが日本に対してレジスタンス活動をしている事を知るソームズ。何事も見逃さず、容赦しない田中大佐は、このところ上海のあちこちで起こっている日本人へのテロ活動にアンナが絡んでいると睨んでいる。
というわけで、渡辺謙。滑らかな英語で余裕綽綽。役どころとしては憎まれ役なのだが、それなりに味わいのある役を演じてもいる。少しオッサンにはなったけれども、顔に余分な肉がなく引き締まっているので、雰囲気が似ているように思っていたチョウ・ユンファとはあまり似ていない事が、本作を見て分った。まぁ、贔屓目じゃなしに渡辺謙の方が良いですね。面構えや眼差しに鋭さがあって。中でも、ソームズと酒を飲みながら最初の結婚に破れた後の「二度目の恋」について語るシーンはなかなか良かった。そうですか。田中大佐。冷静でコワモテだが、かなりのロマンティストでいらしたのね。でもその相手があの女、というのはちっとシャビーすぎやしないこと?とも思ったのだけれど。…まぁいいか。恋は思案のほか、だものね。


我々のようなロマンティストには、二度目の恋が危険なのだ


映画としては、そう大した出来ではなかったけれども、「戦前の上海」が想起させる様々なファクターやイメージをよく表現していたな、と思う。監督のミカエル・ハフストロームは北欧スウェーデンの人で、「すべてはその朝始まった」などの作品がある。



本作で一番良かったのは、やはり多少のロケもしたのだろうが、セットやCGで戦前の上海を割にちゃんと再現していた事だろうか。戦前の上海といえば決まってよく写真に登場する永安公司と東亜飯店も、やっぱり登場していた。個人的には、この5月に上海を旅行した時には殆ど嗅ぎ取る事ができなかった戦前の上海のニオイを、この映画はそれなりに醸し出していて、登場人物の背後に映る建物や風景、バーや、カジノやホテルやランティンの屋敷の内装、港や駅の人でごった返した様子など、いかにもレトロチックな味わいが出ていて美術と撮影は楽しめた。






映画の初めも終わりも、主人公の上海に対するモノローグが入るのだが、そこまでの思い入れが映画には出せていなかったかな、という気もする。戦前の上海はあらゆる事がミクストされたカオスのような都市だったが、国と国のはざま、人種のぶつかり合い、せめぎ合い、または時代の流れの中で翻弄された、このいくつもの顔をもつ街に、妙に似合うのはメロドラマだったりするのかな、と思ったりした。
それはそれとして、洋の東西を問わず、その名を呟くだけで、何となく不思議な感慨や、実際にはその時代を知りもしないのに奇妙にノスタルジックな気分、エキゾティックな気分を誘う上海という街は、幻影都市として街のありよう自体が映画作家にイマジネーションを与え続けるのであろう。たとえ実体は、魔都の面影などいまやどこにも無い、ただの極東の都市に過ぎなくても…。



それにしても、戦前の上海、そして秘密結社、日本軍、およびその組織化の特務機関、そして時代に翻弄される男と女を描いた作品の中で(そういう映画を全部観たわけではないけれど)、やはり一番見応えがあったのは「ラスト・コーション」だったなぁ、と今更に思う。あの映画に登場する上海は、南京路界隈がまるまるセットで再現されていたのだと思うけれど、市電まで動かして実に大掛かりで、しかもよく出来ていたし、何といっても登場人物がまた、戦前の上海ならではの設定で、あの露骨な性描写はもっと控えても良かったとは思うけれども、ワタシ的には、今のところ「ラスト・コーション」がオールド上海映画のNo.1である。


「ラスト・コーション」

でもこの「シャンハイ」は、上海という街の空気感みたいなものはよく出ていた。オールド上海好きの方は、半額デーにDVDで観賞しても損はないだろうと思う。

コメント

  • 2012/09/20 (Thu) 18:06

    この映画、観に行きましたよ。
    主役のジョン・キューザックに全く魅力を感じず、今一つ入り込めなかった記憶が‥。

    あと、技師の妻に嫌悪感を覚えた記憶も‥。日本人が嫌いなのねと思いました。

    コン・リーって私もあまり好きな顔でもないけどなんか懐かしいと思っていましたが、こちらの写真を見て気づきました。
    山口百恵に似てますね。百恵ちゃんは結構好きだったけど、コン・リーは苦手です。顔が四角すぎるのと色気がありすぎるからでしょうか。

    • ようちゃん #-
    • URL
    • 編集
  • 2012/09/21 (Fri) 00:19

    これを劇場に観に行ったんですか。ちょっと物好きという感じも(笑)
    ワタシとしては一人も好きな俳優は出ていないし、ストーリーも別にどうでもいい映画なのだけど、もっぱら上海の雰囲気や、画面に映った街の感じを眺めるために観てみました。雰囲気はよく出ていたと思います。
    コン・リーは「中国の百恵ちゃん」と日本では昔呼ばれていたんじゃなかったかな。出てきたての頃に。雰囲気は違うけど目元が似てるのかもですね。

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する