「ボーン・レガシー」(THE BOURNE LEGACY)

-受け継いだレガシーはめまぐるしいカット割のみ-
2012年 米 トニー・ギルロイ監督



ポール・グリーングラスとマット・ディモンがシリーズを去ったあとで、そのボーン三部作の脚本を手がけたトニー・ギルロイが脚本のみならずメガホンも取り、主演に新たにジェレミー・レナーを迎えて制作されたボーン・シリーズの続編。ジェレミー・レナーも割に好きだし、何しろボーン三部作は面白かったので、これはどういう事になっているのか興味があった。というわけで、封切り当日にレイトショーにて観賞。

ぶっちゃけてしまうと、ストーリー自体はボーン三部作のような面白味はない。「ボーン・レガシー」は説明不足でよく分らない部分もあるし、どこかストーリー運びが雑である。が、例のカット割の多い、猛烈なスピードで話が進んでいくという手法は、前三部作を踏襲しているので、もう、とにかくボンボンと話が進んでいってしまうのだ。最も説明不足だったのは、今回の追跡者であるエドワード・ノートン演じるリック・バイヤーの立場や、所属している組織についてで、CIAでもなさそうだし、この男は一体何よ?というのが見ている間中、付きまとった(「国家調査研究所」という所に所属していると後で分った。なにそれ?聞いた事もない)。まぁ、ワタシの物分りが悪いだけなのだろうけど、非常に分りにくい。おまけにハイエナのようにしぶとく、やたらに執拗にターゲットを追い、強硬な手段で何がどうでも関係者抹殺作戦を遂げようとするリック・バイヤーは性格付けが一本調子だ。キャラの設定が浅く面白味に欠ける。ボーン三部作での、猛禽類のような鋭い女パメラ・ランディと男性幹部たちとの対立のように、複雑な人間関係や絡み合う思惑などが殆ど無く、エドワード・ノートンの演じた役は、薄っぺらで何の陰翳もなかった。追う側のキャラの味付けが薄く、魅力がない。ノートンも演じていて面白くなかったに違いない。



それはそれとして、適宜、「アルティメイタム」の時と同じルックスで、ジョーン・アレンのパメラも出てくれば、デヴィッド・ストラザーンのノア・ヴォーゼンも出てくるし、スコット・グレンのエズラ・クレイマーも出てくる。前に撮っておいたフィルムを使ったの?と思うぐらいに、皆、2007年の「アルティメイタム」の時そのままの姿だったので、そのへんの違和感は無かったが、肝心のお話がどうもねぇ…。

ボーンの三作目、「ボーン・アルティメイタム」と同時進行的に、その裏側で起きていたもうひとつの国家的陰謀を描いたスパイ・アクションという本作は、いきなりアラスカの冷たい滝壺に潜っているアーロン(ジェレミー・レナー)の凍りつきそうなショットから映画がスタート。
ジェレミー・レナー。どこまでスタントマンを使わずに頑張ったのかは定かでないが、とにかく非常に体を張って動いている。スタントを使わずに自分で動いているとハッキリ分る部分だけでも、体の切れがいいこと、走るのが速い事、運動神経のいい事は分る。いまどきの俳優は本当に大変だ。体を鍛え、ちょっとしたスポーツ選手なみの身体能力を持っていて、ある程度のアクションはこなせる事が普通になってしまった。ジェレミー・レナーもヤマカシのように、家の壁面を僅かなとっかかりを捉えてひょいひょいと登っていくシーンがあり、実に身が軽い。なんとなく顔と鼻の肉付きをよくしたダニエル・クレイグ、または鋭い線を丸めた感じのダニエル・クレイグという感じのジェレミー・レナー。男前というのではないが、好ましい雰囲気の俳優ではある。



そのジェレミー・レナーはとても頑張っていた。猛烈に体を動かしていた。アクションも満載だった。でも、映画そのものはボーン三部作には、やはり及ばない。ストーリーに緻密さがない。大雑把で説明不足であるし、三部作を貫いていた「俺は一体、何者なんだ!?」という軸になる謎(またはテーマ)もない。ボーンの存在が世間に知られる事で機密だったトレッドストーン作戦が世に曝され、全てが灰燼に帰す事を懼れた連中が、準備中、進行中の作戦を全て白紙に戻す事に決め、関係者を葬り始める。なんだか乱暴な筋書きである。その掃討作戦が、アラスカの山の中で一人、厳しい自然や寒気や狼と闘いながら、いつ死んでもフシギはないような訓練をしていた極秘作戦要員の工作員アーロンにも及ぶ。何故か知らないが、誰かが自分を消そうとしている事を知り、彼の必死の闘いが始まる…というものなのだが、筋立てが安易でお粗末なので、全編ただの追いかけっこである。それもボーン三部作で前に見たようなシーンを場所を変えて焼きなおしているだけで、新鮮味がない。


既視感のあるアクション満載

たとえば、「アルティメイタム」では、タンジールの迷宮のような街での暗殺者とボーンの死闘がスリリングに繰り広げられたが、今回は舞台をフィリピンのマニラに場所を移しただけで、全く同じようなチェイスを繰り広げているのである。主人公に絡む女性が主人公と同時並行的に迷路のような街を必死に逃げているというシチュエーションまで同じで、「アルティメイタム」ではジュリア・スタイルズ演じるCIAの諜報員ニッキーがボ-ンと共に、本作では生化学博士でCIAの依頼で薬物を投与した工作員の身体状況をチェックしていた科学者マルタ(レイチェル・ワイズ)が、アーロンと共に迷路を逃げ回るわけである。



また、迷路のような異国の町をバイクでチェイスするのもデジャビュー感が拭えない。めまぐるしいカット割や、ワールドワイドなロケなど、三部作のテイストだけは踏襲しているが、それらしくなぞってみただけ、という感じである。三部作の脚本家が脚本を手がけても、結局なんだかなぁ…という出来にしかならないというのは、ちと予想外だった。アーロン抹殺のため、工作員を「感情のない殺人マシーン」に仕立てた、次なる計画のための要員がフィリピンで登場するのだが、東洋人であるこの工作員は異様に不死身で、異様にしつこいが、何度アーロンにかわされても、どんな傷を負ってもターゲットを追いかける様子が、怖いというより歯車の哀しみに近い「ものの憐れ」を感じさせる有様で、暗殺者キャラもインパクトが薄かった。

とまぁ、ジェレミー・レナーだけは頑張っていたけれども、なんだかあまり頑張り甲斐のない作品で気の毒な気もした。制作サイドが続編を作りたい気満々な気配は感じたが、う~む。どうかなこれは…。今回は追っ手から逃げおおせたけど、結局見つかって、また追われる事になる、という筋書きで延々と追いかけっこが続くわけだろうか。多分そうなのだろう。

ただ、大型のリモコン飛行機のような無人の小型飛行機(ちょっとしたものを運んだり輸送にも使えるが、ミサイルを装備していて攻撃もできる)は、あんなちゃっちい飛行機で、凄い威力なのね…と、いう感じではあったし、アラスカで野性の狼にアーロン(ジェレミー・レナー)が囲まれるシーンでは、狼の顔に獰猛な怒気というか、殺気が浮かんでいるのが、なかなかリアルだった。

***
余談だが、ある程度期待して観に行った映画が、ひどくつまらなかったわけでもなく、さほど面白いわけでもなく、中途半端な出来だった場合、感想を書こうか流そうか、ちょっと悩む。凄くつまらなければ怒りが湧くので怒りを書く気になるし、面白ければ勿論書きたい事は沢山ある。さして面白くもなく、凄くヒドイ映画でもないが、どうもねぇ…という感じしかしない場合は、感想を書かなければいいのである。だから、見たけれど書いていない映画も実はけっこうある。これも「あまり面白くなかった」という事を書いてもしょうがないので流そうかと思ったが、折角封切り日に友と期待して見に行ったので、その事に免じて、一応書いてみた。最後に一言付け加えると「ボーン」というのにつられずに、全く別物として割り切って観れば、追っかけアクションものとして単純に楽しめる、かもしれない。

…あー、このところ、期待した映画がそれほどでもなかった、という事が多い気がする。ああ、面白かった!とワクワクしながら観てきた映画について語りたいものだと思う。

コメント

  • 2012/10/03 (Wed) 21:41

    kikiさん、こんにちは。

    ロシアでは一足早くひと月ほど前に公開された「ボーン・レガシー」、私も前3部作が好きだったので早速見てきました。当地の外国映画はみなロシア語吹替えなので細かい台詞はよくわからなかったのですが、日本語で見ても、やはり、イマイチだったわけですね。

    ジェイソン・ボーンが自分は何者か?という苦悩を抱え、アイデンティティを追求するところが、強すぎるエージェントのアクションものにとどまらない内面も描いていて魅力だったのですが、本作は残念ながら平板な感じが否めず、前シリーズでお馴染のテーマが流れた時は、あら、これで終わりなのね、って感じでした。必殺マシーンらしいアジア人の殺し屋も結局、終始怯えた表情だけが印象に残ったヒロインに蹴られて終わりだったし。続編制作決定みたいなニュースを見ましたが、超人的能力を維持する薬?の問題が解決したら、あとはCIAからひたすら逃げるストーリーなのでしょうか。何かもう一工夫欲しい気がします。
    でも確かにジェレミー・レナーはなかなかでしたね。ルックスは地味ですがアクションは格好良く、雰囲気として誠実な感じに見えるのがいいなと思いました。ボーンの続編を標榜するから比べられてしまうけど、これは関係ないものとして見れば・・・う〜ん、映画館に足を運ぶほどでもないかな(笑)

  • 2012/10/04 (Thu) 07:34

    annaさん こんにちは。
    ロシアって映画の公開や海外ドラマの放映が日本より全然早いんですね。へぇ~。って日本が遅すぎるんだと思うけれど(笑) これ、ひと月前にご覧になったんですね?公開は早いけど全部ロシア語吹替えになるっていうのが面白いですね。お国柄ですかしらん。まぁ、何語で聞いてもストーリーはイマイチですわ。あのブルーとグリーンの薬っていうのもねぇ…。東洋人の暗殺者も更に別の強烈な薬漬けでああいうことになってるんだろうし(しかも最後は女のひと蹴りでご臨終って…ねぇ。確かにとほほです)、かといって、そういった「消耗品の悲哀」というところにも掘り下げが進まないし…。なんだかねぇ。
    全体に平板で単純で、ただもう、アクションのみって感じでしたね。しかもそれが既視感のあるものばかり、という事で、やはりなかなか続編というのは難しいものですわね。このシリーズで続編が作られても、もう観ませんわ。次回、劇的に捻りが入って面白くなるという可能性も低そうですし。
    ただ、ジェレミー・レナーは良い俳優ですよね。ハンサムじゃないけど、なんとなく魅力があります。「ハート・ロッカー」以来、売れっ子になっちゃって、2年ぐらい休みなしに働いてきたので、ちょっと休養する、という記事を少し前に読みましたが、今後の活躍が楽しみな俳優の一人です。

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