都心の異空間 ~和朗フラット~

-港区麻布台3丁目の奇跡-



漠然とそういう建物が残っている事は知っていた。昭和11年前後に、港区は飯倉片町の静かな住宅街に建てられた五棟の集合住宅「和朗フラット」。戦災で最初の1番館は焼失し、現在は1号館、2号館、4号館の3棟が残り、それぞれ別の所有管理の元、築後70年以上という長い長い歳月を経ていながらも、現在もなお、建築当初のころと同じく、賃貸の集合住宅として現役であるという、地震の国、地上げの国、古い建物をすぐに壊す国・日本においては、現存していることが奇跡のような建造物である。

外苑東通りから芝方向をみると、かなりの大きさで東京タワーが見える飯倉片町の交差点から、麻布十番方向に向かう大通りを一本裏側に入ると、そこは静かな麻布台の住宅地である。一本外側は大通りの上に首都高も走っているが、一筋奥に入るとその喧騒は届かない。
都心の真っ只中、港区麻布台の静かな住宅街に、その昭和レトロな賃貸住宅たちは、ひっそりと穏やかに建っていた。


「和朗フラット」1号館




屋根のついたアーチをくぐると、各戸の窓が連なっている



1930年代に建てられた木造の洋風集合住宅である「和朗フラット」。素晴らしいのは、今でも現役の集合賃貸住宅であるということで、各戸にはもちろん居住者が居て、生活をされているのである。港区麻布台の閑静な住宅地という立地と築70年超というレトロな建造物の取りあわせ、しかも現役の賃貸住宅であるというところが、この「和朗フラット」の素晴らしさであろう。安易に建て替えられたり壊されたりせずに、戦災で一棟焼失した以外は今日まで残っている理由は、1にも2にも魅力的な建築物だから、という事に尽きると思うけれど、周辺の静かな環境にベストマッチな佇まいと、そこはかとない昭和モダンなテイストが織り成す空間は、幾多の時代の変遷を潜りぬけ、戦災、自然災害を乗り越え、この地価の高い東京で地上げにも遭わず、建った時そのままの姿で賃貸住宅として今もなお機能しているという事を思うとき、何やら、日常の中の穏やかな奇跡を見るような気さえする。

施主であり、「和朗フラット」全棟の設計もした上田文三郎さんという人はプロの建築家ではなかったらしいのだけれど、趣味で楽しんで設計をされたとか。趣味で設計した建物が70年以上ののちまで残って、いまだに人々が憩う住いであり続けているということは本当に素敵な事だと思う。欧州の都市なら築100年程度の集合住宅はザラにあるかもしれないけれど、建物が長持ちしない東京の都心部において、1930年代に建てられた「和朗フラット」が3棟も現存しているというのは、実にamazingな事ではあるまいか。


「和朗フラット」2号館


窓が素敵じゃございませんか





そして、さらなる素敵建築 「和朗フラット」4号館










確かに古いので、しょっちゅう手入れは必要かもしれないけれど…


築70年超の集合住宅が港区麻布台にあって、いまだに現役だなんて、都会のメルヘンである

3棟のうちの1棟を管理運営している不動産屋さんのホームページを見てみたら、一部屋は大体30平米から40平米で1Kまたは1DK。賃料は13~14万円台のようだ。フローリングにエアコン、ウォシュレットまで装備してあって、築70年超としてはなかなかのものだと思う。住人がみんなでマナーを守って、住空間を大事にして生活していれば、古くてもそれなりに快適に暮らせそうな気配である。まぁ、こういうフラットを借りたいというような人は、レトロ建築が大好きで、静かに心楽しく趣味的生活を送りたい人であろうので、マナー違反をする困った人は居なさそうな気がする。

いやぁ、それにしても、よくぞこの東京で今日までご無事で…と思わないわけにはいかない。
いろいろな意味で、奇跡のような3棟の集合住宅である。


コメント

  • 2012/11/01 (Thu) 02:44

    kikiさん、ここの近くに来られたんですね。
    わたくし、実はこの近くに住んでおります。
    そして、このフラットは仕事でたまに訪れます。
    いつも身近にあるけど、この記事を読むまで建物の背景や歴史はまったく知りませんでした。

    kikiさんが述べられてるように、実に雰囲気のある、和む佇まいです。
    この近くにある昔、三島由紀夫や黒澤明、加賀まりこがたむろっていた伝説の店キャンティがあります。今はオーナーも変わっちゃったけど。

  • 2012/11/01 (Thu) 22:38

    sanctuaryさん。
    この近くにお住いなんですね。いいところにお住いですね。(笑)ワタシは職場がこの近辺なんです。最近、歩いて行かれる場所にある事が分かったので、昼休みにランチついでに見に行きました。よく今日まで無事に残ったなぁ、と感心しましたねぇ。永井荷風の旧居(偏奇館)があった旧麻布市兵衛町界隈は地形も変わるほどの再開発が行われて昔の面影はないそうですが、その近くである麻布台に70年以上前の建物がそのまま残って、しかも賃貸住宅として現役だなんて、この東京で実に驚くべき事だなぁと。そうそう、あの「キャンティ」の近くですね。比較的近くに「ニコラス」もあります。こちらもオーナーは変っていますが、店は残っています(最初の店とは場所が変わったけど)。戦後「ニコラス」が開店した頃の、アメリカ大使館以外何もなかったような六本木を見てみたかったなぁ、とも思います。

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