MI-5 [Spooks] シーズン10

-そして、ハリーの物語-
2011年 英 BBC



シーズン8でロスが死に、続くシーズン9はあまりにドス黒く話が澱んで、裏切りに次ぐ裏切り、嘘に次ぐ嘘のつるべ打ちで、なりゆきで見たもののかなりゲンナリしてしまった。メイン・キャラのルーカス(リチャード・アーミティジ)がどうも好きになれなかったせいもあるが、行き着くところまで行き着いてしまったような、落ちるところまで落ちてしまったような、もうどこにも行けないような閉塞感のあったシーズン9の後を受けて、長く続いた本作の締めくくりとなるシーズン10は、どんなに遣り切れない空気に満ちているかと思いきや、ファイナルとなるこのシーズンは、また新たな面白味を発揮していた。
MI-5(Spooks)最終シーズン10のメイン・キャラは、満を持してハリー・ピアース(ピーター・ファース)だった。大トリ、というやつである。10年近く続いた長いシリーズに最初からずっと出続けたキャラクターはハリー・ピアースだけだ。長きにわたったシリーズの幕を引くのにふさわしい人物である。



シリーズ9はあまりに後味が悪かったので、ハリーの立場がどうして悪くなったのか暫く思い出せなかったが、そういえば愛するルースを救うために、機密ファイル「オルバニー」を敵に渡したというような事があったのだっけ…。8週間の停職期間を経て問責にかけられたハリーは、執行猶予付きの復職を果たすがポジションは降格となり、新しいセクション・チーフには彼の停職中に代理を務めたエリン・ワッツが就く事になった。というわけで、エリン・ワッツ役で、"dominatrix" ララ・パルヴァーが登場。「A Scandal in Belgravia」の時には、ヘアスタイルや衣装、メイクなど少し年増っぽく作っていたせいもあるが、MI-5シーズン10で見ると少し若く見えるし、アイリーン・アドラーの時よりも美人に映っている。「MI-5」もシーズン9ではあまりにも美人度が低迷してしまったので、さまざまな意味で梃入れ的なキャスティングだったのだろう。ララ・パルヴァー演じるエリンは、若いのに出世して大層なキレ者のようではあるが、実はシングルマザーで幼い娘を抱え、母とも共に暮らしている。家庭に仕事の空気やストレスを持ち込まないために、娘に会うまえに玄関の鏡の前で笑顔を作るエリン。なかなか興味深い設定である。このエリンのキャラクターや、彼女のプライヴェートの描写などがどう描かれていくのかチェックしたい。


アイリーンの時より少し若く見えるララ・パルヴァー


幼い娘を抱えている、という設定がなかなか良い



やはりララ・パルヴァーは存在に華があるし、女優としてそれなりに魅力のある人だと思う。とにもかくにもシーズン9ではあまりにも美人度が低下し、地にめりこんでマイナスになってしまった事もあり、シーズン10ではララ・パルヴァーが出ているだけでもかなり持ち直した観がある。やはりキャストにはいくばくかの華やぎも必要である。おばさんと白アンパンだけではヒジョーにキビシい。

ララ・パルヴァー演じるエリンに気があるらしいチーム・メンバーのディミトリ(マックス・ブラウン)はシーズン9から出ていたのかもしれないが、あまり記憶にない。マックス・ブラウンはスター候補生という感じなんだろうねぇ、と思うが、さして魅力がない。(ワタシの好みじゃないというだけかもしれないが)シーズン10で終了でなければ、彼がメイン・キャラを勤めていたところだろうか。



ハリーの愛する知性派ルースを演じているニコラ・ウォーカーは、シーズン10ではそれまでよりも体を絞ったのか少しスマートになっていた。ハリーとルースのおじ・おばのロマンスに、ハリーの過去の恋愛がどんな影を落とすのかも、シーズン10でのチェックポイントだろう。



また、シーズン10の根底には冷戦時代という「消えぬ過去」が、ほろ苦く、切なく尾を引いているのが特徴的だ。シーズン7、8、9は、それまでの中東に変わって、ロシアがクローズアップされるようになるのだが、シーズン10では、ハリーの停職中に英露はひそかに連携しようとしている。それが冷戦時代にロシア(ソ連)で築いたハリーの人脈と再び関ってくるのである。
復職したハリーを待っていたのは、昔馴染みの引退した老スパイ、マックスからのメッセージだった。マックスは、ハリーの長年の情報提供者であるロシア外務大臣の妻”トルマリン”の身に危険が迫っている事を伝えようとしていたが、何者かに殺されてしまう。ハリーと”トルマリン”の連絡の仲介をする老スパイ、マックスのメッセージの暗号や、ハリーがそれを受け取る方法など、実に古典的なスパイ物を見ているようである。ハリーは冷戦時代の若き日にロシアで活動していた。ハリーの情報提供者である”トルマリン”は、彼が若かりし日に情熱を傾けた女性でもあった。ジャガイモのようなハリーの脳裏に流れる若き日のロマンスの追憶…。見かけとウラ腹なロマンチックおやじ、ハリーの面目躍如である。この「MI-5」のハリーのおセンチ度、ロマンチック度の高さを見るたびに、甘美なロマンスは若い美男美女だけのものではないのだな、と改めて認識したりするのである。ハリーは初老で小太りで小柄で薄毛で、どこといってパっとしたところのないジャガイモのような男ではあるが、そういう男に忘れ得ぬ甘美な過去があるという事こそは、人生の醍醐味と摩訶不思議ではないかと思ったりもする。


ハリーの若き日のロマンスの相手”トルマリン” かつての甘い果実も今は萎んでしまったような…

そう。この冷戦時代という、過去でありながら、100%過去として葬りさってしまう事のできない時代の残像がハリーを通して色濃く滲んでいるために、シーズン10はそれまでとは毛色の異なるシーズンになり、つまり、どことなくジョン・ル・カレ的なテイストをかもし出していて、だからワタシはなんとなく「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」を思い出したりしたのであろう。


とても古典的な方法で、昔の仲間からのメッセージを受け取るハリー

この先、シリーズの終焉に向って、どんな人間ドラマが展開されるのか。どんな錯綜した国家間の裏事情が現れるのか、「MI-5」では常に腹に一物あるクセモノが入れ替わりたちかわり内相としてハリーの前にたちはだかるのだが、今回の煮ても焼いても食えなさそうな内相は一体何を目論んでいるのか。


裏のありそうな内相 ハリーとは最初からウマが合わない

ララ・パルヴァーを筆頭にメンバーの顔ぶれが変化した事もあり、また、常に部下の活動を支え、その死を見送ってきたハリー・ピアースが最終シーズンでは遂に主役となって物語の中心にあり、いつもの緊迫感に加えて、ロマンティシズムや、センチメンタリズムも上手く織り交ぜつつ非情なスパイの世界を紡いで行くそのありようが、予想に反して面白かった。まだ1話目を見ただけだが、憂愁のオールドスパイ、ハリー・ピアースにはどことなくジョージ・スマイリー的な雰囲気もにじみ、ワタシが「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」の映画化で観たかったのは、こういうトーンのスパイ・ドラマだったのかもしれないな、と思った。

ハリー・ピアースと、9年間続いたこのシリーズはいかなる幕切れを迎えるのか、1話1話、楽しみに追っていこうと思う。

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